毒舌アルビノ・ラナンタータの事件簿

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

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第7章 投獄されたお姫様 

(2)龍花とゲルトルデ・シュテーデル少佐

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ラナンタータの唇が塞がれた。


「う……」


塞いだのはラルポアの手だ。

ゲルトルデがキスする直前に、ラナンタータの背後から手を差し出して、ラナンタータの口を塞いだ。

ゲルトルデはラルポアの手の甲に唇を付けて、ん……と疑問符を浮かべて瞼を開く。


「これはまた……アルビノ同士の親愛のキスを邪魔だてするご仁がいるとは……」

「どのような言い訳も必要ない。ラナンタータは私の婚約者です。濃厚接触は断る」


ラルポアの手にラナンタータの衝撃が伝わった。ゲルトルデの腕からラナンタータを奪い返す。


「そ、そうなの。私たち婚約者だから。ふふ。濃厚接触はラルポアとだけ。ふふ……」


ラナンタータの顔がにっこり微笑みかけてひくひく痙攣している様子に、カナンデラが吹き出して、場を取りなす。


「まあ皆さん、席に着いたら如何です」

「ああ、そうネ。私たちとても重要な秘密の話をするヨ。たから、こちちゃなくてあちに座ろう」


龍花が片言のドイツ語で離れたテーブルを指さす。見るからにVIP席らしい。周りに花で飾られたパーティションが然り気無く置かれている。


「どんな秘密なの」


ラナンタータが食らい付く。


「お嬢様、それを話したら秘密なくなるネ。あなたは賢くて面白い。また会うネ」

「うん、助けてもらったお礼もする。アゥフィーダーゼーエン」


ラナンタータは耳で覚えたドイツ語でさよならと言った。ドイツ語ではSが濁るらしく、消える音と濁音を聞き取ったラナンタータの耳学による片言だ。


龍花はラルポアに「トイトイトイ加油ジャーヨーボンクラ」と言い、ラルポアは複雑な思いで微笑みながら「ダンケ」と答える。


龍花と軍人たちがテーブルを離れて、パーティションの席に着くのを見届けてから、カナンデラが真似る。


「トイトイトイ・ジャーヨー・ボンクラ。ドイツ語と中国語とフランス語で頑張れって」


ラナンタータが「何を頑張る」と言う目をした。


「僕たち、いつ、婚約したっけ……」


ラルポアが素っ気なく聞く。


「えへ。あれはね、ちょっと見栄を張っただけ。トイトイトイ、加油、加油、ボンボンクラクラしたの」


ラナンタータは小さな胸を張る。


「おいおい、婚約してないのか。早急にはっきりさせよう」 


カナンデラは不機嫌な表情になって続ける。


「アントローサ皇帝はもうお前たちがそういう関係だと思って門限を無くしたんだぞ。バレたら俺様も守ってはやれない。どうなんだ。一緒になる気はあるのか」

「カナンデラのバカ。猿の脳ミソ。ちっともロマンチックじゃない。私たちは大人だよ。カナンデラが介入する問題じゃない」

「ラナンタータ、ラルポア。騙したんだな。何を考えているんだ。婚約しないで大人の関係だと。遊びか、ラルポア」

「違う」 

「何が違うんだ」

「カナンデラの単細胞オッサン。宇宙一汚れすぎだよ、アソビだなんてっ。カナンデラもシャンタンと結婚するんだよね」


カナンデラはぽかんと口を開けた。

ラルポアの手刀がラナンタータとカナンデラの間の広い空間を切る。縦に振り下ろしてはまた振り上げて何度も空間を切った。


「あ、ああ。シャンタンと結婚……するつもりだ」

「シャンタンの花嫁衣装はさぁ」

「ダメだ。こんな処でする話じゃない。ラナンタータ」


ラルポアはラナンタータを向き直らせた。


「でしょ、ラルポア。こんなところでする話じゃないんだってさ、カナンデラが悪い。しかも、私はもう子供じゃない。大人だ」


ラルポアは「大人……その言葉は嫌いだ」と呟きそうになる。






龍花のテーブルでは問題が起きていた。


複雑な表情でゲルトルデが囁く。

「では、半導体実験では結果が出せそうなのだな。それを上層部に知られたら宇宙船開発は軍事開発に変貌する。先の世界対戦で学んだことは反故にされるわけだ」


ゲルトルデの目は困惑を含みながらも好奇心を隠せない。





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