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第7章 投獄されたお姫様
(17)研究所へ
しおりを挟むツェルシュは女の髪の匂いが好きだ。シャンプーと本人の体臭の混ざりあったワインに似た香り。メナベルとは野獣のように貪りあい互いの汗が溶け合って奈落で眠り、窓に差し込む朝の一筋で目覚める。メナベルの髪の毛を撫でながらふと、行方不明のカナンデラ・ザカリーについてメナベルが言及したことを思い出す。
『ドイツにいるらしいわ。異世界に行ったのよ。あいつ、カナンデラ・ザカリー。人騒がせな刑事だった。たてた功績は大きいけどね。まあ、心配はないんじゃないの。あっ、ああ……ツェルシュ……』
『何の為にドイツに……』
『あぁ……知らないわ。警視総監の我が儘娘のお守りみたいだわ……う』
その我が儘娘とショーファーはまたしても舞台を分かたれた。ラナンタータは角の立った四角い屋根のカスタム・ベンツに乗って、ラルポアに何と言い訳しようかと考えた。
カナンデラは
『悪魔ちゃんは鎖を付けて繋いでおかなきゃならんな』
ぐらいのイヤミを言うだろうし
私も負けてはいないけど
ラルポアは……
ラルポアを
がっかりさせたくない
そう言えば
十四才で初めて
学園に登校することになって
毎日毎日
お洒落しなくてはならないと
婆やに言われて頑張ったっけ
この衣装は借り物だけど……
そんなことじゃない……
なんて言おうか……
直ぐに戻るつもりだった
実際、直ぐに戻ったよ
あの店にいなかったのは
ラルポアの方だ
何故
私を待たなかった
ラルポアは
どんな顔をするのかな
お嫁さんにしたい人が
いるんだ
結婚を考えている
彼女がいるんだ
祝福って
どんな顔をするのかな……
鼻がつんとする
目が痛い
ずっと一緒に暮らして
ずっと一緒だと思っていた
何か別のことを
考えなきゃ……
「ラナンタータ嬢には先に面白い話をしてあげましょう。我々は、カイザー・ウィルヘルム研究所とは別格なのですよ。我々の研究はこの時代を終わらせるかもしれません」
オットー・ハーンは核分裂を発見した。それによって原子力発電が可能になった一方で、核爆弾の開発が進む。
第二次世界大戦前に、その点を畏れたアインシュタインは、アメリカ大統領に原子爆弾製造を進言してドイツと対抗させようと図ったと云われる。
実際にアメリカが製造した爆弾は長崎と広島に投下されて、対抗措置として製造したものでも戦争になれば使われるという例になった。
アインシュタインはさぞかしショックを受けたことだろう。核を持つことが抑止力になるなどと、悪魔のまやかしに他ならない。
ラルポアは料理の並ぶ長いテーブルの傍に来た。パーティションの後ろに小部屋がある。小さなテーブルセットが幾つも用意されたその部屋に、ラナンタータの姿はない。急いで部屋を出る。
何処に移動した……
ラナンタータ……
ラナンタータが店を出たのは
結婚を考えている女性について
話した直ぐ後だ
言うべきではなかったのか
ラナンタータは
偽の婚約者が必要だと言った
僕は、対外的にではなく
本当に僕が必要だと
言って欲しかったのかも知れない
ああ……
僕はラナンタータに
何を言わせようとしたんだ
『お嬢様がお前を好きになっても
嫁にはもらえないよ』
其の禁忌を守り通すのは苦痛だ
僕は早く可愛い嫁さんを探して
幸せな家庭を作らなければ
禁忌を破ってしまう
ラナンタータには
言えないことがある
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