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第8章 泣き虫な王子様
(12)マニスの祈り
しおりを挟むマニスは部屋に戻ってからも落ち着かず、小さな身体で長椅子に横になったり、広い部屋のブロンズ色の絨毯を走って、窓辺から空を眺め町を見下ろす。
ジェレメール、永遠の恋人だと言ってくれた私の夫……
第二妃の立場でもいいの。
私はあなたが王位に就かなくてもいいの。
無事に戻ってくれさえしたらいいの。
ジェレメール、何処にいるの。
何故、電話すらしてくれないの……
ジェレメール・ラプソールの第二妃マニス・ラプソールは、ぺたんこの胸の前で手を合わせて神に祈った。マニスの祈りは十字を切らない。ただ敬虔な思いに充たされて膝をおり、曇り空を見つめる。
雲の切れ間から神の光が射し込む美しい光景に胸が震える。
涙が出ます。
ジェレメールのことが心配です。
ジェレメールの立場は今、とても危険なのです。
第二王位継承者として命を狙われ、死人が出ました。
ジェレメールは今、何処にいるのかわかりません。
神様……どうかジェレメールをお守りください。
ナハンネとクサカリだけでは心配です。
ハナリエルのように殺されてしまったら、探しようもない。
どうしよう……
マニスはふと、ジェレメールの第一夫人、美貌のイリアディナを思い出した。イリアディナは褐色の肌色の薄い、豊かな髪を盛り上げ滝のように垂らした目の大きな女性で、第一王子の婚約者候補だったが、ジェレメールに乗り換えたのが成功して、第一夫人に納まった。ウエストの細い豊満な肉体は歩く度に何処かが揺れてマニスのコンプレックスを刺激する。
「あの女は第一王子のことはどう思っているのかしら……顧みられないイリアディナ。顧みられないからと言って、まさか」
マニスは悲しくなった。イリアディナが第一夫人になる前から、マニスとジェレメールは恋人関係だったのに、第一夫人になれなかったのは小さく生まれたからだ。その小さな身体をジェレメールは愛してくれる。第一夫人を顧みずに。
しかし例え第一夫人が死んでも第二夫人のままだと言われているマニスに、周りが従うのは、高貴な生まれとジェレメールとは血の繋がりのない現王妃がマニスの血族から出たこと、そしてジェレメール自身の命令による。
『心の第一夫人はマニスだ。小さくても我が妃を侮るな』
マニスは涙を滲ませて長椅子で寝た。
「ジェレメール、ごめんなさい。私があんなことを言わなければ……ハナリエルが守ってくれると信じていたの……」
神様……
マニスはあなたが嫌いでした。
私をこんな身体に産み落とした責任はあなたにあると思ったからです。
とても憎みました。
でも、あなたはとても親切な神……
どんなに憎まれても私を殺さず
ジェレメールと引き合わせてくれました。
神様……
もう一度ジェレメールに
生きたジェレメールに会わせてください……
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