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第8章 泣き虫な王子様
(14)涙
しおりを挟むガラスに人影が映ったが、ラナンタータの思いがけない態度に気づくのが遅れた。ガシャンと音が鳴る。
ラルポアに腕を引かれてドアに向かう背後をラナンタータのマントに侵入者の手が伸びた。開けられたベランダからわらわらと入って来る侵入者たちの手には、ピストルも握られている。ラルポアは一番近い男を蹴り、ラナンタータを抱き上げて振り回した。侵入者の顔面にラナンタータのブーツの踵が激突する。
ラナンタータを放り投げるようにドア方向に下ろし、その勢いで男たちに回し蹴りを入れて更にぶん殴り、喉元に空手チョップをお見舞いした。三人を倒したもののその倍の人数が既に部屋の中に入り込まれた。
ラルポアは相手から奪い取ったピストルの銃底を使って鼻を狙い次々に殴り、蹴りを入れて倒して行く。
「ドアを開けちゃ駄目だ」
ラナンタータは部屋に7つあるスタンドのコードに目を着けた。
ラルポアは苦戦している。最後の二人が間合いを取ってピストルで狙い合う。
ラナンタータは倒れた男たちをせっせと縛り始めた。両手首を背中で縛り、首にぐるりと回して止める。動けば喉が絞まる。
三つ巴になってラルポアを狙っていたピストルの銃口のひとつがラナンタータに向いた途端、ラルポアの銃が二度火を吹いた。
ピストルを握った手を撃たれたらしい、だらりと垂らした手から黒い銃が滑り落ちる。
「ラルポア……」
ラナンタータは駆け寄って背中にしがみついたが、はっと驚いたように離れた。
「ラナンタータ」
ラルポアが背中を振り向く。
「待って、近寄らないで」
ラナンタータは口元に手をやった。
「ごめん、ラナンタータ」
ラルポアは踊るように拳銃で二人を殴り倒して気絶させ、スタンドごと抱かせて後ろ手に縛る。
「今ごろごめんって」
ラナンタータがもう一人を縛った。スタンド付のコードを首に回してから両手を縛った。背中にスタンドを背負った形だ。
「じゃあ、いつ言うんだよ」
二人分のコードが足りない。ラナンタータはベッドの上に畳まれているガウンの紐をラルポアに渡す。二人の男は、一方の腕を上から、もう一方は下から背中合わせに縛り上げられた。
「完了。あの硝子を……」
ラナンタータが背中に抱きついた。
「ラルポア……」
ラルポアは動揺した。嫌いだと言われたばかりだ。しかもキスした後に。初めてのショックと、ラナンタータの態度に戸惑う。
「ラナンタータ、どうしたの」
「ラルポア、私は大人にならなくてもいい。ラルポアは好きだけど、大人の関係は無理だ」
「マジか。こんなに大勢の賊の前でフラれるなんて」
「ごめんなさーい。ラルポアー。私とっても嫌だ。他の女の人に渡すのも嫌だ。あんなことを誰かとやるなんて許せない。今までのことも全部、爆弾でも落として吹き飛ばしてやりたいくらい忌々しい。誰かひとりくらい殺したい。ラルポア以外」
涙が出た。
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