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第1章 狂人の恋
(12) 不気味な独り言
しおりを挟む「お前、ふざけるなって言わんかったか。あ、イサドラに言ったのか、ふざけるなアンポンタンって。で、マヌエラ夫人には自分がされたことを幼い子供にさせたのかって責め立てたんじゃなかったっけ」
「えーと、そうだっけ」
「まあ、マヌエラ夫人に同情するしないは勝手だとしてもだな、アロムナワ子爵は次期宰相候補だとさ。けっ、俺にはわからないねネノ・ヴェルタ。児童性愛に溺れていた奴を支持する輩の気なんて知れないぜ」
「やつは裁かれていないよね」
「そうだ。児童性愛は犯罪なのにだ。被害者だったはずのゲオルグは貝になって口を噤ぐんでいるそうだ」
「ラルポアが洗面所から見つけたお香はアヘンだったんだよね。だからさ、イサドラに殺された花屋の夫婦はちゃんと悪者扱いだよね。
「ちゃんとって、お前、ちゃんと読んだか。新聞はな、児童売春の復讐を果たした大スターという扱いだ」
「仕方ないよねー。科学が進んでも人間は進化しないもんねー」
「お前な、猿だって進化しないのだから当たり前だと言うんだろ。どこに進化中の猿がいるかと」
「だってさー、人間は、世界大戦があったのにも関わらず精神的進化すらないじゃない。反省もないからさー、軍事経済が沸き立って大喜びだよね。人殺しの経済システムだよね」
「そういうことはアントローサ大公が悪い。アントローサ叔父貴が政治に関わらないのが悪い。宰相にならないのが悪い。腐っているのはこの町だけではない。国自体がいろんな意味で腐っている。この世は伏魔殿だ。伏魔殿にどっぷり浸かるかぶっ壊すか……」
カナンデラのセリフがラナンタータの背中を通り過ぎる。
色素の薄いアルビノに生まれたせいで、子供の頃から見知らぬ他人の好奇心に自尊心を傷つけられ『アルビノ狩り』の対象にされて否応なく命を狙われて来た。この世の不条理のど真ん中に生まれてきたのだ。不条理に晒され慣れているつもりでもたまに苛つく。
「お父さんはぶっ壊してくれるよ、腐りきったこんな世の中。だから、警察官になったんだよ。私も負けない。いつかこの世界を変えてみせる。夫人も偽物のイサドラダンカンも小さなサディもゲオルグも被害者にならない世の中。アロムナワ子爵も花屋夫婦も満月会Rのメンバーも生まれない世の中。誰も被害者にならず誰も加害者にならない、そんな世の中が良いよね。ほんとは誰でもそう思ってるに違いない。だって、不幸が降りかかる世の中なんて魅力ないじゃない。ね、ねラルポア」
悲しみを希望に塗り替えた色素の薄い眼に、華やぐ歓楽街の灯りが点り始めた。
後に、満月会Rの会長と目される者のベラドンナ抽出物による死亡が報じられた。自殺と他殺の両面で捜査中である。
七才のサディはアヘン治療の為に手厚い看護を受けている。
投獄されたイサドラは奇妙な譫言を呟いていた。
「総統様をこの手で、うふふ。ガーランド様は渡しません。ええ必ず私の手で。ベラドンナは、子供の頃から親しんでおります。花屋で私が……ああ、ラナンタータマ・テォマ・ボルドー」
警視庁から金一封を手にした探偵カナンデラ・ザカリーは、闇の帝王シャンタン坊やとのいけない妄想のあれこれに溺れて「あ、あ、カナンデラ、愛してる……俺様も愛してるよ、シャン。この金で……ふふふ」などと不気味な独り言を漏らしてラナンタータとラルポアの白い目に曝されて気づかない。
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