中学生溺愛王子はお化粧男子 777文字小説

36 逃避願望

心拍数が少し上がったような、でも直ぐに治まった。

あのマスクのカップルは……MM先輩だ……

彼女なんだろうな、今、高校二年生のはずだ。私服で大人に見えた。

迂闊にも、気づかなかった。

くそ……MM先輩を蹴り飛ばしてやれば良かった。

ああ……

ああ……ため息が止まらない。

気づかなかった……

気づかれなくて良かったじゃないか。
気持ち悪いやつに気づかれなくて。

相手は僕に気づいただろうか。

いや、彼女の方に意識が向いているようだった。良かった、彼女ができてて。

僕も、無闇に蹴り飛ばさなくて良かった。彼女の前で恥をかかせてやりたかったという気もしないでもないけれど、それをしてもどうせ僕の気がすむはずはない。僕が失った一年を失え。キストラウマに苦しめ。結構ストレスなんだぞ。

偶然で同じ目に遭え。

僕は善良だから、同じ犯罪の被害に遭えとは言いたくない。言いたいけど、理性が邪魔する。

ああ、疲れる。


（波流君、明日はチョコ出かけるから波流君の庭を覗くね）

チョコちゃんからラインがきた。

（うん。何時に来るの）

（三時過ぎるくらい）

草むしりのルーティング。

（少し寄れる）

（覗くだけ）

（それは寂しい。話をしよう）

（寂しい。ふふ、波流君、寂しいの）

（覗かれるのはあまりいい気分じゃないよ。僕の草むしりを覗いてどうするの）

（元気にしているんだと安心する）

元気だよ。

（僕もチョコちゃんが元気にしているのか気になるよ）

（気になる。きゃあああ。チョコはもうダメ。ふわふわしてる。雲の上みたい）

（雲の上って大袈裟だよ）

（チョコは最近まで愛されたことがなかったから、波流君パワーで幸せ）

（僕もチョコちゃんパワーで幸せだよ。家が明るくなった）

家庭内離婚が解消され離婚も防げた。僕はさっきまでのストレスが軽くなるのがわかる。逃避願望か。

（ああ、いつまでもこうしていたい。波流君大好き）

（僕も、チョコちゃん好き）