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65 裏切られた
しおりを挟むお父さんはメールを読んで「溺愛、飽きた、別れる、これからチョコレートを食べに行く」と、かいつまんで言った。
「お父さんが考えているようないかがわしいことではないから」
「嘘を吐くな。音理ちゃんを翻弄しているじゃないか。座りなさい」
僕はダイニングテーブルに座った。
「違うよ」
翻弄されているのは僕の方だよ。
「何処に行ってたんだ。音理ちゃんがお前の好きなチョコレートで、それを食べに行ったのかな、波流」
お父さんはいつものソファー。僕より視線が下だ。
「食べるって……」
「どういう意味だ」
下から見上げてくるお父さんの顔が怖い。
「別に深い意味は……ただ、会いたかっただけだよ。顔を見て直ぐに戻って来た」
「本当か」
横からお母さんが口を挟む。
「波流、お父さんに話したら。昼間の女の子のことを」
「波流。昼間の女の子とは何の話だ」
「お母さん……」
僕は母親に裏切られた哀れなボヘミアン気分で依る辺無き身の上なのか、怖い税関をパスポート無しで通ろうとして投獄されるんだ。
「昼間、草むしりしてた時に、チョコちゃんの友達が来て……えっと……マスクしてたけど、お互い……」
僕は時々マスクをせずに草むしりする。自宅の庭だし、そんなに長い時間ではないから油断とも言えないと思うのだが、折角お母さんが作ってくれた布製のマスクをしてやらないと拗ねるので、今日はちゃんとマスクをしていた。
「で、その……その子が……」
言いにくい。
お母さんを見た。
保育園の面接以来だ。
誰かに何かを聞かれて親の顔を見るなんて。
「波流にキスしたのよ」
お母さんが不快感を露にした大袈裟な声色で言った。
「何、キスだとぉ、お前、女の子とキスしたのか」
「僕からじゃないよ」
「でもやったんだろう。音理ちゃんはどうする気だ。あはぁ、だから別れるという話になったのか。キスされて……違うな。溺愛だもんな。キスに目覚めてのチョコレートか」
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