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第4章
認められた者
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「セリカさんはこの学園の七不思議というものをご存知ですか?」
赤く腫らした目と鼻を隠すように、ミトラはそう話し始めた。
「七不思議?」
「はい。この学園には実しやかに語り継がれる噂があるのです。それはその時代で多少形を変えるものの、生徒たちのなかで面白おかしく語れる学園の歴史といってもいいでしょう。
『夜中に声を出す花壇の植物』『学園の水脈を流れる光』『学園の結界を破った魅惑の少女』など、実在するのかしないのかも分からない現象が幾つもあるのです。
その中に、『その形を変えず学園に憑く亡霊』というものがあります。」
「学園に憑く亡霊・・・?」
「それは一切年を取らず学園に居続ける生徒会の代表、つまり僕のことなんです。」
「え・・・?」
「僕の成長は過去の実験の副作用により鈍化、あるいは停止してしまったようです。クロウ博士もその原因を突き止めることはできませんでした。なので、僕は一生この姿のままでしょう。」
「そ、そんな・・・」
眉を顰めるセリカの表情に、ミトラは自嘲気味に笑って見せた。
「驚かせてすいま――」
「あの変態が、博士だと・・・!」
「え・・・?」
ミトラは思わず呆けてしまう。黙って聞いていたアシェリナとジンも思わずきょとんとした。
「あいつは博士なのか?変態医師じゃないのか?」
「え、えぇ・・・。クロウ博士は医療技術の第一人者であり、高い魔法技術を要するこの学園の病院の中で、唯一の博士と認められた人物なんですよ。ねぇ、ジン先生。」
「変態だけどな。」
「し、信じられない・・・」
「確かにある部分において猟奇的な面があるのは事実だからな。信じられないのも仕方がない。まぁ、あいつが博士と呼ばれるのを嫌っているのも要因の一つだろうけどよ。」
「嫌がっている敬称で呼ぶミトラも性格悪ぃよな。」
ガハハハッと笑うアシェリナの横で、ミトラは少し拗ねたような表情をした。
「あの人とは切っても切れない縁だからね。」
「どういうことだ?」
「・・・当時、僕の人体実験を行ったのがクロウ博士なんです。」
「な、なんだって!?」
「クロウ博士は元老院の息がかかった研究員の1人でした。非人道的な研究に、多くの人が精神を蝕まれ壊れていく中で唯一残った人物なんです。僕と彼は秘密を共有し、罪を犯した共犯者となりました。本来なら、僕とクロウ博士も過去の罪人者として解任・排斥対象でしたが・・・」
「ミトラとクロウが居なかったらエレメントキューブを製造できなかったと、その件では不問とされたんだ。それに、サージュベル学園を運営するためには、ミトラは必要不可欠な存在だからな。」
「だからミトラが元老院に変わって学園のトップになるってことか。」
ミトラは不本意な表情を隠せずにいる。
「罪人の僕が、そんな大役を務めるなんてと断ったんだけど、連合から、罪を向き合うためにも任を全うするべきだと言われてね。」
「至極真っ当な意見だな。」
「学園の統括なんて荷が重いし不本意だけど、これに乗じて学園の七不思議を逆手に取ってやろうと思ったんです。」
「『その形を変えず学園に憑く亡霊』を・・・?」
「はい。僕の見た目が変わらないのであれば、この先も学生として在籍し、生徒会の会長としてずっと学園を指揮することが可能です。生徒会長の姿で、裏からも表からも学園を見渡せるポジションを得たということです。もちろん、世代交代していくメンバーには説明は必要となりますけどね。」
「でも・・・いいのか?ミトラはもう卒業できないってことだぞ。」
セリカの瞳が揺れる。ミトラはフフッと笑みをこぼした。
「確かにみんなと卒業して、新たな道に進むことを夢見たこともあります。しかし、実験に加担することを決めたあの日から、僕は普通の生徒では無くなった。それぐらい覚悟の上です。だから、普通の生徒では味わえない経験を僕なりに楽しもうと思います。」
偽りはないようだ。ミトラの笑顔にセリカはホッと胸をなでおろす。
「仕事は山積みだが、今までだって元老院の仕事は全部ミトラたちがやっていたんだ。特に何も変わらねーよ。それに、これからは俺たちだっているしな。」
「今回の元老院の解散により、サージュベル学園の組織陣営を編成し直したんです。アシェリナとジン先生は、生徒会の顧問を買って出てきてくれました。2人が居てくれるなら僕も安心です。」
「そうか。それを聞いて私も安心したよ。」
「それと、さっきのセリカさんの質問ですが・・・僕はアシェリナの2つ年下なんですよ。」
屈託なく笑うミトラの発言に、セリカは思わず2人を交互に見つめた。
「アシェリナ・・・あんた、一体何歳――」
「さて、脱線しすぎましたね。話を元に戻しましょう。」
「いや、待て、まだ――」
「セリカよ。英雄というのは少し謎めいている方がかっこよくないか?」
「いや、あんたのそんな設定に興味は――」
「諦めろセリカ。この2人は、揃うと面倒くさいんだ。」
「そ、そんなぁ・・・」
「ふふふ。さて、セリカさんの上級魔術師への過程についてお話しましょうね。」
『形を変えず学園に憑く亡霊』の年齢こそが、本当の七不思議ではないかと、セリカはしぶしぶと向き直った。
「さて。まだ一般生徒であるセリカさんが上級魔術師になるための方法ですが・・・。」
ミトラは手元にあったタブレットを操作する。セリカは思わず身構えた。世界で活躍する上級魔術師への飛び級の条件が、簡単なはずではないとすぐに理解できたからだ。
「今のお前なら意外と簡単かもしれんな。」
しかし、呟きながら頷いたのはジンだった。自分とは真逆の考えに、一瞬呆けるセリカにミトラがタブレットを差し出した。
「ここに、あなたを推薦する上級魔術師5人のサインを貰ってきてください。5人の署名が揃った資料を連合に提出して、受理されれば完了です。」
「ご、5人の上級魔術師のサイン・・・?」
差し出されたタブレットには、推薦状と5つの枠が用意されている。
「はい。一般生徒のあなたが上級魔術師になるには、あなたの実力を認めた方々の推薦人が必要となります。」
「実力を認めてもらうって・・・戦うってことか?そ、それってすごく大変なことじゃあ・・・?」
「ガハハハッ!生身で戦艦5隻と戦うようなもんだな!」
「そんなの無事で済むわけないじゃないか!」
「まぁ落ち着け。確かに魔法も技術も未熟な生徒からしたら、こんな条件は到底無理な話だ。それほどに、上級魔術師になるということは難しいことだと認識させる為でもある。」
「自分の実力で5人を屈服させなければいけねーからな。技術差はもちろんだが、上級魔術師のプライドもある。俺だったら絶対サインしねーな。」
「そ、そんな相手を5人も・・・」
「因みに魔術師が在籍中に上級魔術師へ飛び級する条件は、上級魔術師3人のサインが必要だった。俺と蛇は、それをクリアしたわけだが。」
「ジン先生とおっしょうは3人の上級魔術師と戦い、勝ったということか・・・。」
「俺は7カ月、蛇は5カ月かかったけどな。」
セリカは思わず頭を抱える。そんな悠長に時間を使っていられないはずだ。
「今さっき、簡単だと言ったのは嘘だったのですか、ジン先生!?」
「よく聞いていたか?俺はお前ならと言ったはずだ。」
「え・・・?」
「あぁ、なるほどな。」
アシェリナが納得するように頷く。そしてミトラからタブレットを受け取ると、サラサラとサインを書いたのだ。
「英雄のサインだ。光栄に思えよ、セリカ。」
「ア、アシェリナ・・・?」
「お前の実力は、一緒に戦った俺がよく理解している。まだまだ粗削りだが、素質は十分だ。複数の属性も完全に扱えるように頑張れよ。」
「あ、ありがとう、アシェリナ!」
思わぬ署名に喜ぶセリカとは裏腹に、呆れた声を出したのはミトラだった。
「好奇心が隠しきれてないよ、アシェリナ・・・。」
「はは、ばれたか?」
「え、何だ・・・?」
「そりゃあ、ワクワクするだろ?お前が上級魔術師になれば、堂々と戦いを申し込めるからな。俺は全力のお前と戦ってみてぇ!」
「えぇ・・・!?」
「はぁ、それが狙いか・・・。」
「上級魔術師は一般生徒に手が出せねーからな。四精霊のエレメントと戦うなんてなかなか無いから滾るってもんだぜ!だから、とっとと上級魔術師になっちまえ。」
「そ、そんな理由でサインを・・・!?」
「安心しろって。期待しているのは本当だ。」
訝し気にセリカはタブレットのサインを見つめる。
「でもあと4人・・・。できるだけ早くサイン枠を埋めないと・・・。」
そこにヒョイとタブレットを取り上げたのはジンだった。そして徐にサインを書くとセリカに手渡した。
「え・・・?ジン先生?」
「あぁ、セリカさん。言い忘れていましたが、ジン先生は上級魔術師への復帰を果たしたんですよ。」
「え、そうなのか!?じゃあ教師では無くなったということですか?」
「いや、教師も続ける。上級魔術師と兼任することになったんだ。」
「また、なんで・・・?」
「そりゃあ、愛する嫁が帰ってきたからだよ。」
「揶揄うな、アシェリナ。
確かに、リタを捜索する上で上級魔術師の肩書は邪魔だったんだが、リタが戻ってきた今、それを拒否する理由は無くなったからな。それに、1人でも多くの上級魔術師が必要となる今後を見据えて、誰かさんに強く推薦されてな。」
ミトラのフッと笑う気配がする。
「それに魔法が使えなくても不自由な生活をさせないように、環境を整えてやりたいんだ。」
名前を出さなくても、それがリタのことだとすぐに分かった。
リタは記憶を取り戻した時、ジンを助けようとありったけの魔法力を体に宿らせたという。融合霊魔から解放されたリタは、切れたはずの精霊との使役関係をもう1度繋ぐため、使役する精霊の真名を何度も呼び続けた。魔術師の力を全て解き放ったリタに精霊が応え、2人は何とか助かったのだが、それ以降リタの魔法力を一切消えてしまったのだ。
「それに・・・」
「それに・・・?」
「いや、何でもない。」
「何だよ、ジン。嫁に教師よりも上級魔術師の方がかっこいいとか言われたんじゃないのかよ。」
「うるさいぞ、このアホ英雄!教師には敬語を使えと昔から言っているだろう!」
「あー図星じゃん!いいねぇーまったく。また新婚に逆戻りじゃん。さぞ夜も燃えるんだろうなぁー!」
「黙らないか、こいつ!」
「やだー!ジン先生ったらいやらしー!」
「取り込み中悪いのですが、ジン先生のサインを頂いてよかったのですか?」
2人の動きがピタリと止まる。ジンは軽く咳ばらいをした。
「リタの件のお礼だと思っているのか?」
セリカはコクンと頷いた。
「・・・もちろんそれもある。」
「でもそれは私の実力を認めたということには――」
「まぁ聞け。確かにお前の実力は上級魔術師に比べれば随分と劣るだろう。しかし、入学してからのお前の成長の早さは飛び抜けている。経験を実力へと変換する力も認めざるをえない。ずば抜けた戦闘力に加えて、匣となる強靭な肉体と精神力は、あのヴァースキが育てたものだ。俺にはサインをしない理由はない。」
「ジン先生・・・」
「それを理解しているあの2人も協力してくれるだろうよ。」
「2人・・・ですか?」
「フルソラとクロウだ。あの2人もれっきとした上級魔術師だからな。」
「フルソラ先生は嬉しいのですが・・・あの変態医師か・・・。」
「見返りは求められるかもしれんが無茶なことを言わないように俺からも言っておく。とりあえず、今はお前が上級魔術師になり、精霊界への鍵の情報を敵よりも早く入手することが先決だ。」
「はい、分かりました。」
「では、残り1名ですね。どなかた、セリカさんの事情を知った適任の方はいらっしゃらないでしょうか?」
「もう1人居る。」
「誰だ?」
「ライオスだ。」
「あー。あのなんか拗らせてるっぽい兄ちゃんか。」
「あいつが簡単にサインをくれるとは思えないけどな。まぁ、話してみる価値はあるだろうよ。」
「分かりました。じゃあ早速、残り3人のサインを貰ってきます。」
「頑張ってくださいね、セリカさん。」
「はい。色々とありがとうございました。」
頭を下げたセリカは颯爽と部屋から飛び出した。
「ふふふ。セリカさんて、素直というか何というか。たまに、匣であるということ忘れてしまいそうです。」
「セリカの境遇ゆえか、たまにガキらしからぬ大人びた面を見せるよな。・・・それよりよかったのか、伝えなくて。」
アシェリナはジンを見る。眉間にシワを寄せたジンは窓に手をかけた。
「あいつの師匠、ヴァースキと連絡が途絶えているんだろ?」
「・・・。」
「伝書鳩でやり取りしてたわけじゃあるまいし、ちょっと手が離せないとかじゃねーのか。」
「連絡が途絶えただけでなく、こちらからの通信も届かなくなっている。まぁ、やつのことだから心配はしていないが・・・。セリカに知らせるのはもう少し待とう。」
「俺もあいつの師匠には興味があるんだよなー。」
「アシェリナがヴァースキさんに?」
「あぁ。」
そう言うと、アシェリナの眼光が鈍く光った。
「あいつの両親について聞きてーことがあるんだ。」
赤く腫らした目と鼻を隠すように、ミトラはそう話し始めた。
「七不思議?」
「はい。この学園には実しやかに語り継がれる噂があるのです。それはその時代で多少形を変えるものの、生徒たちのなかで面白おかしく語れる学園の歴史といってもいいでしょう。
『夜中に声を出す花壇の植物』『学園の水脈を流れる光』『学園の結界を破った魅惑の少女』など、実在するのかしないのかも分からない現象が幾つもあるのです。
その中に、『その形を変えず学園に憑く亡霊』というものがあります。」
「学園に憑く亡霊・・・?」
「それは一切年を取らず学園に居続ける生徒会の代表、つまり僕のことなんです。」
「え・・・?」
「僕の成長は過去の実験の副作用により鈍化、あるいは停止してしまったようです。クロウ博士もその原因を突き止めることはできませんでした。なので、僕は一生この姿のままでしょう。」
「そ、そんな・・・」
眉を顰めるセリカの表情に、ミトラは自嘲気味に笑って見せた。
「驚かせてすいま――」
「あの変態が、博士だと・・・!」
「え・・・?」
ミトラは思わず呆けてしまう。黙って聞いていたアシェリナとジンも思わずきょとんとした。
「あいつは博士なのか?変態医師じゃないのか?」
「え、えぇ・・・。クロウ博士は医療技術の第一人者であり、高い魔法技術を要するこの学園の病院の中で、唯一の博士と認められた人物なんですよ。ねぇ、ジン先生。」
「変態だけどな。」
「し、信じられない・・・」
「確かにある部分において猟奇的な面があるのは事実だからな。信じられないのも仕方がない。まぁ、あいつが博士と呼ばれるのを嫌っているのも要因の一つだろうけどよ。」
「嫌がっている敬称で呼ぶミトラも性格悪ぃよな。」
ガハハハッと笑うアシェリナの横で、ミトラは少し拗ねたような表情をした。
「あの人とは切っても切れない縁だからね。」
「どういうことだ?」
「・・・当時、僕の人体実験を行ったのがクロウ博士なんです。」
「な、なんだって!?」
「クロウ博士は元老院の息がかかった研究員の1人でした。非人道的な研究に、多くの人が精神を蝕まれ壊れていく中で唯一残った人物なんです。僕と彼は秘密を共有し、罪を犯した共犯者となりました。本来なら、僕とクロウ博士も過去の罪人者として解任・排斥対象でしたが・・・」
「ミトラとクロウが居なかったらエレメントキューブを製造できなかったと、その件では不問とされたんだ。それに、サージュベル学園を運営するためには、ミトラは必要不可欠な存在だからな。」
「だからミトラが元老院に変わって学園のトップになるってことか。」
ミトラは不本意な表情を隠せずにいる。
「罪人の僕が、そんな大役を務めるなんてと断ったんだけど、連合から、罪を向き合うためにも任を全うするべきだと言われてね。」
「至極真っ当な意見だな。」
「学園の統括なんて荷が重いし不本意だけど、これに乗じて学園の七不思議を逆手に取ってやろうと思ったんです。」
「『その形を変えず学園に憑く亡霊』を・・・?」
「はい。僕の見た目が変わらないのであれば、この先も学生として在籍し、生徒会の会長としてずっと学園を指揮することが可能です。生徒会長の姿で、裏からも表からも学園を見渡せるポジションを得たということです。もちろん、世代交代していくメンバーには説明は必要となりますけどね。」
「でも・・・いいのか?ミトラはもう卒業できないってことだぞ。」
セリカの瞳が揺れる。ミトラはフフッと笑みをこぼした。
「確かにみんなと卒業して、新たな道に進むことを夢見たこともあります。しかし、実験に加担することを決めたあの日から、僕は普通の生徒では無くなった。それぐらい覚悟の上です。だから、普通の生徒では味わえない経験を僕なりに楽しもうと思います。」
偽りはないようだ。ミトラの笑顔にセリカはホッと胸をなでおろす。
「仕事は山積みだが、今までだって元老院の仕事は全部ミトラたちがやっていたんだ。特に何も変わらねーよ。それに、これからは俺たちだっているしな。」
「今回の元老院の解散により、サージュベル学園の組織陣営を編成し直したんです。アシェリナとジン先生は、生徒会の顧問を買って出てきてくれました。2人が居てくれるなら僕も安心です。」
「そうか。それを聞いて私も安心したよ。」
「それと、さっきのセリカさんの質問ですが・・・僕はアシェリナの2つ年下なんですよ。」
屈託なく笑うミトラの発言に、セリカは思わず2人を交互に見つめた。
「アシェリナ・・・あんた、一体何歳――」
「さて、脱線しすぎましたね。話を元に戻しましょう。」
「いや、待て、まだ――」
「セリカよ。英雄というのは少し謎めいている方がかっこよくないか?」
「いや、あんたのそんな設定に興味は――」
「諦めろセリカ。この2人は、揃うと面倒くさいんだ。」
「そ、そんなぁ・・・」
「ふふふ。さて、セリカさんの上級魔術師への過程についてお話しましょうね。」
『形を変えず学園に憑く亡霊』の年齢こそが、本当の七不思議ではないかと、セリカはしぶしぶと向き直った。
「さて。まだ一般生徒であるセリカさんが上級魔術師になるための方法ですが・・・。」
ミトラは手元にあったタブレットを操作する。セリカは思わず身構えた。世界で活躍する上級魔術師への飛び級の条件が、簡単なはずではないとすぐに理解できたからだ。
「今のお前なら意外と簡単かもしれんな。」
しかし、呟きながら頷いたのはジンだった。自分とは真逆の考えに、一瞬呆けるセリカにミトラがタブレットを差し出した。
「ここに、あなたを推薦する上級魔術師5人のサインを貰ってきてください。5人の署名が揃った資料を連合に提出して、受理されれば完了です。」
「ご、5人の上級魔術師のサイン・・・?」
差し出されたタブレットには、推薦状と5つの枠が用意されている。
「はい。一般生徒のあなたが上級魔術師になるには、あなたの実力を認めた方々の推薦人が必要となります。」
「実力を認めてもらうって・・・戦うってことか?そ、それってすごく大変なことじゃあ・・・?」
「ガハハハッ!生身で戦艦5隻と戦うようなもんだな!」
「そんなの無事で済むわけないじゃないか!」
「まぁ落ち着け。確かに魔法も技術も未熟な生徒からしたら、こんな条件は到底無理な話だ。それほどに、上級魔術師になるということは難しいことだと認識させる為でもある。」
「自分の実力で5人を屈服させなければいけねーからな。技術差はもちろんだが、上級魔術師のプライドもある。俺だったら絶対サインしねーな。」
「そ、そんな相手を5人も・・・」
「因みに魔術師が在籍中に上級魔術師へ飛び級する条件は、上級魔術師3人のサインが必要だった。俺と蛇は、それをクリアしたわけだが。」
「ジン先生とおっしょうは3人の上級魔術師と戦い、勝ったということか・・・。」
「俺は7カ月、蛇は5カ月かかったけどな。」
セリカは思わず頭を抱える。そんな悠長に時間を使っていられないはずだ。
「今さっき、簡単だと言ったのは嘘だったのですか、ジン先生!?」
「よく聞いていたか?俺はお前ならと言ったはずだ。」
「え・・・?」
「あぁ、なるほどな。」
アシェリナが納得するように頷く。そしてミトラからタブレットを受け取ると、サラサラとサインを書いたのだ。
「英雄のサインだ。光栄に思えよ、セリカ。」
「ア、アシェリナ・・・?」
「お前の実力は、一緒に戦った俺がよく理解している。まだまだ粗削りだが、素質は十分だ。複数の属性も完全に扱えるように頑張れよ。」
「あ、ありがとう、アシェリナ!」
思わぬ署名に喜ぶセリカとは裏腹に、呆れた声を出したのはミトラだった。
「好奇心が隠しきれてないよ、アシェリナ・・・。」
「はは、ばれたか?」
「え、何だ・・・?」
「そりゃあ、ワクワクするだろ?お前が上級魔術師になれば、堂々と戦いを申し込めるからな。俺は全力のお前と戦ってみてぇ!」
「えぇ・・・!?」
「はぁ、それが狙いか・・・。」
「上級魔術師は一般生徒に手が出せねーからな。四精霊のエレメントと戦うなんてなかなか無いから滾るってもんだぜ!だから、とっとと上級魔術師になっちまえ。」
「そ、そんな理由でサインを・・・!?」
「安心しろって。期待しているのは本当だ。」
訝し気にセリカはタブレットのサインを見つめる。
「でもあと4人・・・。できるだけ早くサイン枠を埋めないと・・・。」
そこにヒョイとタブレットを取り上げたのはジンだった。そして徐にサインを書くとセリカに手渡した。
「え・・・?ジン先生?」
「あぁ、セリカさん。言い忘れていましたが、ジン先生は上級魔術師への復帰を果たしたんですよ。」
「え、そうなのか!?じゃあ教師では無くなったということですか?」
「いや、教師も続ける。上級魔術師と兼任することになったんだ。」
「また、なんで・・・?」
「そりゃあ、愛する嫁が帰ってきたからだよ。」
「揶揄うな、アシェリナ。
確かに、リタを捜索する上で上級魔術師の肩書は邪魔だったんだが、リタが戻ってきた今、それを拒否する理由は無くなったからな。それに、1人でも多くの上級魔術師が必要となる今後を見据えて、誰かさんに強く推薦されてな。」
ミトラのフッと笑う気配がする。
「それに魔法が使えなくても不自由な生活をさせないように、環境を整えてやりたいんだ。」
名前を出さなくても、それがリタのことだとすぐに分かった。
リタは記憶を取り戻した時、ジンを助けようとありったけの魔法力を体に宿らせたという。融合霊魔から解放されたリタは、切れたはずの精霊との使役関係をもう1度繋ぐため、使役する精霊の真名を何度も呼び続けた。魔術師の力を全て解き放ったリタに精霊が応え、2人は何とか助かったのだが、それ以降リタの魔法力を一切消えてしまったのだ。
「それに・・・」
「それに・・・?」
「いや、何でもない。」
「何だよ、ジン。嫁に教師よりも上級魔術師の方がかっこいいとか言われたんじゃないのかよ。」
「うるさいぞ、このアホ英雄!教師には敬語を使えと昔から言っているだろう!」
「あー図星じゃん!いいねぇーまったく。また新婚に逆戻りじゃん。さぞ夜も燃えるんだろうなぁー!」
「黙らないか、こいつ!」
「やだー!ジン先生ったらいやらしー!」
「取り込み中悪いのですが、ジン先生のサインを頂いてよかったのですか?」
2人の動きがピタリと止まる。ジンは軽く咳ばらいをした。
「リタの件のお礼だと思っているのか?」
セリカはコクンと頷いた。
「・・・もちろんそれもある。」
「でもそれは私の実力を認めたということには――」
「まぁ聞け。確かにお前の実力は上級魔術師に比べれば随分と劣るだろう。しかし、入学してからのお前の成長の早さは飛び抜けている。経験を実力へと変換する力も認めざるをえない。ずば抜けた戦闘力に加えて、匣となる強靭な肉体と精神力は、あのヴァースキが育てたものだ。俺にはサインをしない理由はない。」
「ジン先生・・・」
「それを理解しているあの2人も協力してくれるだろうよ。」
「2人・・・ですか?」
「フルソラとクロウだ。あの2人もれっきとした上級魔術師だからな。」
「フルソラ先生は嬉しいのですが・・・あの変態医師か・・・。」
「見返りは求められるかもしれんが無茶なことを言わないように俺からも言っておく。とりあえず、今はお前が上級魔術師になり、精霊界への鍵の情報を敵よりも早く入手することが先決だ。」
「はい、分かりました。」
「では、残り1名ですね。どなかた、セリカさんの事情を知った適任の方はいらっしゃらないでしょうか?」
「もう1人居る。」
「誰だ?」
「ライオスだ。」
「あー。あのなんか拗らせてるっぽい兄ちゃんか。」
「あいつが簡単にサインをくれるとは思えないけどな。まぁ、話してみる価値はあるだろうよ。」
「分かりました。じゃあ早速、残り3人のサインを貰ってきます。」
「頑張ってくださいね、セリカさん。」
「はい。色々とありがとうございました。」
頭を下げたセリカは颯爽と部屋から飛び出した。
「ふふふ。セリカさんて、素直というか何というか。たまに、匣であるということ忘れてしまいそうです。」
「セリカの境遇ゆえか、たまにガキらしからぬ大人びた面を見せるよな。・・・それよりよかったのか、伝えなくて。」
アシェリナはジンを見る。眉間にシワを寄せたジンは窓に手をかけた。
「あいつの師匠、ヴァースキと連絡が途絶えているんだろ?」
「・・・。」
「伝書鳩でやり取りしてたわけじゃあるまいし、ちょっと手が離せないとかじゃねーのか。」
「連絡が途絶えただけでなく、こちらからの通信も届かなくなっている。まぁ、やつのことだから心配はしていないが・・・。セリカに知らせるのはもう少し待とう。」
「俺もあいつの師匠には興味があるんだよなー。」
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