132 / 135
第4章1部
始まりの場所
しおりを挟む
氷漬けにした魔獣を指先で叩いてみるとコツコツと硬く鈍い音がしたのでセリカは氷剣を解き周囲を見回した。そしてヤマトの気配を探ろうとした時、異常な気配がこちらに突進してくることに気がついた。
攻撃をする時間はなかった。なぜならその無作為の攻撃はセリカを対象としたものではなくただの暴走だったからだ。木の影に身を潜めたセリカはその理由をすぐに見つけることができた。
「あの傷のせいか。きっとヤマトを相手にした時にできたものだろう。」
魔獣の体には切り裂かれた傷がある。その痛みのせいで錯乱状態になっているようだ。
体が大きい分、周りに与える影響は甚大だ。まるで巨大な竜巻が通過したかのように、魔獣が暴れた先では木々が根こそぎ折られ、葉と枝が無数に散らばり混沌とした光景が広がりつつあった。
このまま放置すれば被害が拡大するだろう。再び氷剣を手にしたセリカは暴れる魔獣の前に立ちふさがった。
「お前に恨みはないがここで眠ってもらおう。」
セリカが氷剣を地面に突き立てれば、魔獣の足元から鋭利な氷柱が無数に突き出る。体勢を崩した魔獣の隙を突き、ヒラリと背後に回ったセリカは両手で持った炎剣を振り下ろした。
体に燃え移った炎に魔獣は雄叫びを上げる。しかし、凄まじい咆哮で炎をかき消すと猛然とセリカへ向かって駆け出した。
これだけ大きいと致命的な攻撃を与えることも難しい。大きく鋭い牙を薙ぎ払い、カウンターを狙ったセリカの攻撃は着実にダメージを重ねていった。
しかし、魔獣の間合いに入り鋭利な刃を突き立てた時だ。かすかな異変にセリカは思わず飛び退いた。
(?)
僅かな違和感に眉をひそめる。そして確証を得るためにもう1度魔獣の懐に飛び込もうとしたが、やすやすと躱されてしまった。
「チッ!そう簡単にはいかないか。」
興奮状態の魔獣は手が付けられないほど暴れている。先ほど覚えた違和感を確かめるには魔獣を大人しくさせる必要がありそうだ。
セリカは深く息を吸うと地面に手をついた。そして一気に力を込めるとその中心から瞬く間に氷が広がっていった。
「まずは自由を奪う。」
地を這うように広がる氷は魔獣の足元で隆起する。そしてその大きな氷塊で魔獣の足を包みこむと、暴れる魔獣の動きを封じることに成功した。しかしそれも束の間だった。魔獣は長く湾曲した牙を激しく動かし、足元の氷を粉々に粉砕していったのだ。
「大した力だな。」
再び暴れる魔獣にもう1度氷を張りめぐらせる。そして同じように足を氷漬けにすると、今度はしなやかな氷の蔦を何本ものばし魔獣の体を締め上げていった。魔獣は頭を左右に激しく振りながら身をよじる。しかし動けば動くほど氷の蔦は体に複雑に絡みついていった。
「な、なんだよ、これ!!」
セリカが振り向くと、そこには魔獣を見上げ、目をまん丸にしているヤマトの姿があった。
「一体、どういう状況だよ・・・。」
「ヤマト、無事だったか。」
「あぁ、ギヌの葉のおかげでな。それよりどうして魔獣を生け捕りにしているんだよ?」
「確かめたいことがあってな。ちょっと大人しくしてもらおうと思ったんだ。」
(おいおい・・・このクラスの魔獣を捕獲したっていうのかよ・・・。)
ヤマトは動きが鈍くなった魔獣に近づいて氷を触ってみた。透き通る硬質な氷は触っただけでその質の良さをうかがわせた。この巨大な魔獣の抵抗にビクともしない氷の蔦には、美しく尖ったトゲも確認できた。
(なんて密度の高い精巧な魔法だ。俺と同じ水精霊なのに、全然違う魔法みたいだ。)
魔法を維持し続けるのにセリカは平然としている。聞きたいことはたくさんあるが、まずは目の前の魔獣が先だろう。
「この魔獣をどうする気なんだ?まさか懐柔するつもりか?」
「できるなら無益な殺しはしたくないと思っている。」
「それは甘い考えだ。ここの魔獣は凶暴性を抑えることができないんだ。」
「どういうことだ?」
「セリカはこの土地の状況をどう思う?」
「土地・・・?」
セリカはグルリと周囲を見回した。
「荒涼とした風景だと思う。かつての建造物は朽ち果てているし、連合周辺には人の影もなかった。」
「だろうな。ここは始まりの場所とされる制限指定区域だ。ここに近付く人なんて滅多にいない。」
「始まりの場所?」
「そうだ。まだ魔術師も魔法域も存在していなかった大昔、ここは精霊を使役して魔法が使えるようになった無法者たちで溢れかえっていた。ルールや秩序もなく、魔法を使う者を統制する機関もない。ただ自己顕示欲求を満たすために土地を焼き、人を殺め、空気を穢し続けていたんだ。まだ魔法の形も確立していなかったから、人間の非生産な魔法に精霊は疑問すら持たなかった。
文献には毎日のように不合理な暴動が起きて、無抵抗な人を魔法の練習台にしていたと記してあったよ。そこには女性も子どもも関係ないとも・・・。」
「ひどい・・・!」
「しかしある時、その深刻な状況を憂慮した人々が立ち上がったんだ。その人たちは荒れた土地を浄化し、暴れる魔獣たちの沈静化に力を注ぎ、憎しみぶつかりあう者たちの間に入り、傷をおったものたちを癒やし続けた。その結果、緑が荒野を覆い、清らかな水が大地を潤し、人々が生活できるようになるまでになったんだ。彼らは英雄と称えられ誰からも尊敬される存在となった。それが魔術師の始祖であり、連合騎士団の始まりだと言われているんだ。」
「連合騎士団?」
「連合はこの世界の中枢となる場所だ。その連合を守るために結成された特別精鋭部隊。それが連合騎士団なんだ。」
ヤマトは誇らしげに胸を張る。しかしセリカは腑に落ちなかった。
「その人たちが荒れた土地を整え、人々の生活を築く役割を果たしたのは分かったが・・・。」
セリカの言わんとすることを察したのだろう。ヤマトは表情を曇らせて視線を落とした。
「あぁ、分かっている。そんな話しが嘘と思えるほどにこの場所は荒れているだろう。」
「原因は分かっているのか?」
「ハッキリとした原因は分かっていない。けどここを調べた研究者の話では、この土地に刻まれた過去の惨劇と、人々の憎しみや悲しみが凝縮された淀んだ空気が負の感情と作用し合い、濃い瘴気に変化して災いを引き起こすと言われている。」
「そんな抽象的な・・・」
「実際に人々が生活を営みはじめても、突然の自然災害に疫病の発生、無差別な暴力行為や犯罪が次々に起こるんだ。壊れた土地を再建し、再び土地を潤してもまた同じことが繰り返される。人々の恐怖と不安は増大するばかりで、とうとう誰も近づかなくなってしまった。そして、この土地の悲鳴は常に負の感情として巻き上げられ、周囲の生物たちに影響を与えるというんだ。」
セリカは視線を上げる。そこには今もなお抵抗を続ける魔獣の姿があった。
「なるほどな。この土地に住む魔獣たちはみな負の感情に意識を乗っ取られ凶暴化するわけだ。」
「だからセリカがここで野宿しているって聞いた時は本当に驚いたよ。」
「世界の中枢といえる連合の周辺が、こんなに荒れているのにはそんな理由があったのか。」
「度重なる被害に復旧と再建を繰り返すこの場にこそ、人々の安寧の灯りが必要だろうと敢えて連合はこの場に建設されたんだ。おかげで、手練れた実力のある魔術師たちが集まり、世界の脅威は迅速に処理されはじめた。だけど・・・」
「この土地だけは今でも荒廃したままっていうことか。」
ヤマトはコクンと頷いた。
「ここに来た魔獣は否応なしに凶暴化しはじめる。だから連合はこの場所を制限指定区域としたんだ。厳重なセキュリティを敷く連合としては相乗効果を狙ったのかもしれないけどな。」
セリカは腕組をし、難しい顔で空を見上げた。夜空に光る星さえも今は侘びしく見えてくる。
「それで、セリカはこの魔獣で何を確かめようとしていたんだよ。」
「この魔獣から気になる反応があったんだ。」
「気になる反応?」
セリカは反応があった魔獣の腹に近づいた。そして飾り石を取り出し、探るようにゆっくりと動かしていく。するとある場所で飾り石の刻印が僅かに光ったのだ。
「あ・・・」
しかし頼りない光はすぐにその反応を消してしまう。再び探っていくが、飾り石は反応をしなくなった。
「何だその石は?」
「これは移転装置を探し出すためのアイテムだ。」
「移転装置って、連合に入るためのあれか?何でそんなものが必要なんだよ。近くの魔法域から飛べばいいじゃん。」
ヤマトは転送装置のことを言っているのだろう。しかしそれが使えないセリカは眉間にシワを寄せたままだ。
「なんでわざわざ移転装置なんて使うんだよ。上級魔術師だったらライセンスカードを見せればすぐに使えるぞ?」
ヤマトは首から下げたカードを取り出してセリカに見せる。そこにはまだ幼さが残るヤマトの写真と、上級魔術師を証明するための項目が記載されていた。
「私はそのカードを持っていない。」
「おいおい、ライセンスカードは常に携帯しておかなきゃいけないって言われているだろう?これがないと入れない施設とかあるんだから。」
「いや、発行すらされていない。」
「・・・まさか、セリカは上級魔術師じゃないのか・・・?」
「私はまだ魔術師でもないんだ。」
「・・・は?・・・冗談だろ?ウソをつくなよ・・・。」
「冗談じゃない。私は上級魔術師になるための連合に来たんだ。理由あって魔法域にある転送装置も使えないから、このアイテムを使って移転装置を探していたんだ。」
衝撃だった。だからしばらく声を発することができなかった。魔法力が枯渇していたとはいえ、自分を助けた女の子が魔術師《ウィザード》でもないなんて。鳥肌が立ち細かく体が震えている。それは今まで感じたことのない高揚感に満ちた身震いだった。
「すごい・・・すごいな、セリカ。」
「え?」
「久しぶりだよ、こんなワクワクした気持ち!」
その時、振動とともに轟音が響き渡った。氷の蔦を引きちぎり、足を包んでいた巨大な氷の塊を砕き飛ばすと、激昂した魔獣は激しく牙を振り回した。
「All Element 水精霊!」
ヤマトの大刀がスカイブルーに輝くと、見事な太刀捌を披露して見せる。そして大きく舞い上がると魔獣の口腔に刃を突き立てた。
「氷結咆哮!」
突き立てた刃から大量の血が迸ると、その血すらも一瞬で凍結されていく。石ころのように飛び散る氷をものともせず、ヤマトは大刀を振り回した。
「腹に用があるんだな?」
魔獣を紙のように鋭利な切りさばきで両断していく姿は軽やかなステップを踏んでいるようだった。無駄のない動きで的確に魔獣を切り刻む実力は、あのアシェリナに匹敵するかもしれない。
ヤマトの実力に唖然とするセリカの前に突然大きな肉塊が落ちてくる。歪な形だが、それは間違いなく魔獣の腹部分であり臓物と血液の香りに思わず鼻をおさえた。
「さぁ、移転装置を探そうぜ!」
返り血を拭いながら、ヤマトはニカッと無垢な笑顔を見せた。
攻撃をする時間はなかった。なぜならその無作為の攻撃はセリカを対象としたものではなくただの暴走だったからだ。木の影に身を潜めたセリカはその理由をすぐに見つけることができた。
「あの傷のせいか。きっとヤマトを相手にした時にできたものだろう。」
魔獣の体には切り裂かれた傷がある。その痛みのせいで錯乱状態になっているようだ。
体が大きい分、周りに与える影響は甚大だ。まるで巨大な竜巻が通過したかのように、魔獣が暴れた先では木々が根こそぎ折られ、葉と枝が無数に散らばり混沌とした光景が広がりつつあった。
このまま放置すれば被害が拡大するだろう。再び氷剣を手にしたセリカは暴れる魔獣の前に立ちふさがった。
「お前に恨みはないがここで眠ってもらおう。」
セリカが氷剣を地面に突き立てれば、魔獣の足元から鋭利な氷柱が無数に突き出る。体勢を崩した魔獣の隙を突き、ヒラリと背後に回ったセリカは両手で持った炎剣を振り下ろした。
体に燃え移った炎に魔獣は雄叫びを上げる。しかし、凄まじい咆哮で炎をかき消すと猛然とセリカへ向かって駆け出した。
これだけ大きいと致命的な攻撃を与えることも難しい。大きく鋭い牙を薙ぎ払い、カウンターを狙ったセリカの攻撃は着実にダメージを重ねていった。
しかし、魔獣の間合いに入り鋭利な刃を突き立てた時だ。かすかな異変にセリカは思わず飛び退いた。
(?)
僅かな違和感に眉をひそめる。そして確証を得るためにもう1度魔獣の懐に飛び込もうとしたが、やすやすと躱されてしまった。
「チッ!そう簡単にはいかないか。」
興奮状態の魔獣は手が付けられないほど暴れている。先ほど覚えた違和感を確かめるには魔獣を大人しくさせる必要がありそうだ。
セリカは深く息を吸うと地面に手をついた。そして一気に力を込めるとその中心から瞬く間に氷が広がっていった。
「まずは自由を奪う。」
地を這うように広がる氷は魔獣の足元で隆起する。そしてその大きな氷塊で魔獣の足を包みこむと、暴れる魔獣の動きを封じることに成功した。しかしそれも束の間だった。魔獣は長く湾曲した牙を激しく動かし、足元の氷を粉々に粉砕していったのだ。
「大した力だな。」
再び暴れる魔獣にもう1度氷を張りめぐらせる。そして同じように足を氷漬けにすると、今度はしなやかな氷の蔦を何本ものばし魔獣の体を締め上げていった。魔獣は頭を左右に激しく振りながら身をよじる。しかし動けば動くほど氷の蔦は体に複雑に絡みついていった。
「な、なんだよ、これ!!」
セリカが振り向くと、そこには魔獣を見上げ、目をまん丸にしているヤマトの姿があった。
「一体、どういう状況だよ・・・。」
「ヤマト、無事だったか。」
「あぁ、ギヌの葉のおかげでな。それよりどうして魔獣を生け捕りにしているんだよ?」
「確かめたいことがあってな。ちょっと大人しくしてもらおうと思ったんだ。」
(おいおい・・・このクラスの魔獣を捕獲したっていうのかよ・・・。)
ヤマトは動きが鈍くなった魔獣に近づいて氷を触ってみた。透き通る硬質な氷は触っただけでその質の良さをうかがわせた。この巨大な魔獣の抵抗にビクともしない氷の蔦には、美しく尖ったトゲも確認できた。
(なんて密度の高い精巧な魔法だ。俺と同じ水精霊なのに、全然違う魔法みたいだ。)
魔法を維持し続けるのにセリカは平然としている。聞きたいことはたくさんあるが、まずは目の前の魔獣が先だろう。
「この魔獣をどうする気なんだ?まさか懐柔するつもりか?」
「できるなら無益な殺しはしたくないと思っている。」
「それは甘い考えだ。ここの魔獣は凶暴性を抑えることができないんだ。」
「どういうことだ?」
「セリカはこの土地の状況をどう思う?」
「土地・・・?」
セリカはグルリと周囲を見回した。
「荒涼とした風景だと思う。かつての建造物は朽ち果てているし、連合周辺には人の影もなかった。」
「だろうな。ここは始まりの場所とされる制限指定区域だ。ここに近付く人なんて滅多にいない。」
「始まりの場所?」
「そうだ。まだ魔術師も魔法域も存在していなかった大昔、ここは精霊を使役して魔法が使えるようになった無法者たちで溢れかえっていた。ルールや秩序もなく、魔法を使う者を統制する機関もない。ただ自己顕示欲求を満たすために土地を焼き、人を殺め、空気を穢し続けていたんだ。まだ魔法の形も確立していなかったから、人間の非生産な魔法に精霊は疑問すら持たなかった。
文献には毎日のように不合理な暴動が起きて、無抵抗な人を魔法の練習台にしていたと記してあったよ。そこには女性も子どもも関係ないとも・・・。」
「ひどい・・・!」
「しかしある時、その深刻な状況を憂慮した人々が立ち上がったんだ。その人たちは荒れた土地を浄化し、暴れる魔獣たちの沈静化に力を注ぎ、憎しみぶつかりあう者たちの間に入り、傷をおったものたちを癒やし続けた。その結果、緑が荒野を覆い、清らかな水が大地を潤し、人々が生活できるようになるまでになったんだ。彼らは英雄と称えられ誰からも尊敬される存在となった。それが魔術師の始祖であり、連合騎士団の始まりだと言われているんだ。」
「連合騎士団?」
「連合はこの世界の中枢となる場所だ。その連合を守るために結成された特別精鋭部隊。それが連合騎士団なんだ。」
ヤマトは誇らしげに胸を張る。しかしセリカは腑に落ちなかった。
「その人たちが荒れた土地を整え、人々の生活を築く役割を果たしたのは分かったが・・・。」
セリカの言わんとすることを察したのだろう。ヤマトは表情を曇らせて視線を落とした。
「あぁ、分かっている。そんな話しが嘘と思えるほどにこの場所は荒れているだろう。」
「原因は分かっているのか?」
「ハッキリとした原因は分かっていない。けどここを調べた研究者の話では、この土地に刻まれた過去の惨劇と、人々の憎しみや悲しみが凝縮された淀んだ空気が負の感情と作用し合い、濃い瘴気に変化して災いを引き起こすと言われている。」
「そんな抽象的な・・・」
「実際に人々が生活を営みはじめても、突然の自然災害に疫病の発生、無差別な暴力行為や犯罪が次々に起こるんだ。壊れた土地を再建し、再び土地を潤してもまた同じことが繰り返される。人々の恐怖と不安は増大するばかりで、とうとう誰も近づかなくなってしまった。そして、この土地の悲鳴は常に負の感情として巻き上げられ、周囲の生物たちに影響を与えるというんだ。」
セリカは視線を上げる。そこには今もなお抵抗を続ける魔獣の姿があった。
「なるほどな。この土地に住む魔獣たちはみな負の感情に意識を乗っ取られ凶暴化するわけだ。」
「だからセリカがここで野宿しているって聞いた時は本当に驚いたよ。」
「世界の中枢といえる連合の周辺が、こんなに荒れているのにはそんな理由があったのか。」
「度重なる被害に復旧と再建を繰り返すこの場にこそ、人々の安寧の灯りが必要だろうと敢えて連合はこの場に建設されたんだ。おかげで、手練れた実力のある魔術師たちが集まり、世界の脅威は迅速に処理されはじめた。だけど・・・」
「この土地だけは今でも荒廃したままっていうことか。」
ヤマトはコクンと頷いた。
「ここに来た魔獣は否応なしに凶暴化しはじめる。だから連合はこの場所を制限指定区域としたんだ。厳重なセキュリティを敷く連合としては相乗効果を狙ったのかもしれないけどな。」
セリカは腕組をし、難しい顔で空を見上げた。夜空に光る星さえも今は侘びしく見えてくる。
「それで、セリカはこの魔獣で何を確かめようとしていたんだよ。」
「この魔獣から気になる反応があったんだ。」
「気になる反応?」
セリカは反応があった魔獣の腹に近づいた。そして飾り石を取り出し、探るようにゆっくりと動かしていく。するとある場所で飾り石の刻印が僅かに光ったのだ。
「あ・・・」
しかし頼りない光はすぐにその反応を消してしまう。再び探っていくが、飾り石は反応をしなくなった。
「何だその石は?」
「これは移転装置を探し出すためのアイテムだ。」
「移転装置って、連合に入るためのあれか?何でそんなものが必要なんだよ。近くの魔法域から飛べばいいじゃん。」
ヤマトは転送装置のことを言っているのだろう。しかしそれが使えないセリカは眉間にシワを寄せたままだ。
「なんでわざわざ移転装置なんて使うんだよ。上級魔術師だったらライセンスカードを見せればすぐに使えるぞ?」
ヤマトは首から下げたカードを取り出してセリカに見せる。そこにはまだ幼さが残るヤマトの写真と、上級魔術師を証明するための項目が記載されていた。
「私はそのカードを持っていない。」
「おいおい、ライセンスカードは常に携帯しておかなきゃいけないって言われているだろう?これがないと入れない施設とかあるんだから。」
「いや、発行すらされていない。」
「・・・まさか、セリカは上級魔術師じゃないのか・・・?」
「私はまだ魔術師でもないんだ。」
「・・・は?・・・冗談だろ?ウソをつくなよ・・・。」
「冗談じゃない。私は上級魔術師になるための連合に来たんだ。理由あって魔法域にある転送装置も使えないから、このアイテムを使って移転装置を探していたんだ。」
衝撃だった。だからしばらく声を発することができなかった。魔法力が枯渇していたとはいえ、自分を助けた女の子が魔術師《ウィザード》でもないなんて。鳥肌が立ち細かく体が震えている。それは今まで感じたことのない高揚感に満ちた身震いだった。
「すごい・・・すごいな、セリカ。」
「え?」
「久しぶりだよ、こんなワクワクした気持ち!」
その時、振動とともに轟音が響き渡った。氷の蔦を引きちぎり、足を包んでいた巨大な氷の塊を砕き飛ばすと、激昂した魔獣は激しく牙を振り回した。
「All Element 水精霊!」
ヤマトの大刀がスカイブルーに輝くと、見事な太刀捌を披露して見せる。そして大きく舞い上がると魔獣の口腔に刃を突き立てた。
「氷結咆哮!」
突き立てた刃から大量の血が迸ると、その血すらも一瞬で凍結されていく。石ころのように飛び散る氷をものともせず、ヤマトは大刀を振り回した。
「腹に用があるんだな?」
魔獣を紙のように鋭利な切りさばきで両断していく姿は軽やかなステップを踏んでいるようだった。無駄のない動きで的確に魔獣を切り刻む実力は、あのアシェリナに匹敵するかもしれない。
ヤマトの実力に唖然とするセリカの前に突然大きな肉塊が落ちてくる。歪な形だが、それは間違いなく魔獣の腹部分であり臓物と血液の香りに思わず鼻をおさえた。
「さぁ、移転装置を探そうぜ!」
返り血を拭いながら、ヤマトはニカッと無垢な笑顔を見せた。
0
あなたにおすすめの小説
弁えすぎた令嬢
ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。彼女が父親を亡くしてからの爵位は、叔父(父親の弟)が管理してくれていた。
彼女には亡き父親の決めた婚約者がいたのだが、叔父の娘が彼を好きだと言う。
彼女は思った。
(今の公爵は叔父なのだから、その娘がこの家を継ぐ方が良いのではないか)と。
今後は彼らの世話にならず、一人で生きていくことにしよう。そんな気持ちで家を出たコロネだった。
小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。
【完結済】悪役令嬢の妹様
紫
ファンタジー
星守 真珠深(ほしもり ますみ)は社畜お局様街道をひた走る日本人女性。
そんな彼女が現在嵌っているのが『マジカルナイト・ミラクルドリーム』というベタな乙女ゲームに悪役令嬢として登場するアイシア・フォン・ラステリノーア公爵令嬢。
ぶっちゃけて言うと、ヒロイン、攻略対象共にどちらかと言えば嫌悪感しかない。しかし、何とかアイシアの断罪回避ルートはないものかと、探しに探してとうとう全ルート開き終えたのだが、全ては無駄な努力に終わってしまった。
やり場のない気持ちを抱え、気分転換にコンビニに行こうとしたら、気づけば悪楽令嬢アイシアの妹として転生していた。
―――アイシアお姉様は私が守る!
最推し悪役令嬢、アイシアお姉様の断罪回避転生ライフを今ここに開始する!
※長編版をご希望下さり、本当にありがとうございます<(_ _)>
既に書き終えた物な為、激しく拙いですが特に手直し他はしていません。
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
※小説家になろう様にも掲載させていただいています。
※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。
※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。
※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。
※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。
※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。
※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。
※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。
転生皇女はフライパンで生き延びる
渡里あずま
恋愛
平民の母から生まれた皇女・クララベル。
使用人として生きてきた彼女だったが、蛮族との戦に勝利した辺境伯・ウィラードに下賜されることになった。
……だが、クララベルは五歳の時に思い出していた。
自分は家族に恵まれずに死んだ日本人で、ここはウィラードを主人公にした小説の世界だと。
そして自分は、父である皇帝の差し金でウィラードの弱みを握る為に殺され、小説冒頭で死体として登場するのだと。
「大丈夫。何回も、シミュレーションしてきたわ……絶対に、生き残る。そして本当に、辺境伯に嫁ぐわよ!」
※※※
死にかけて、辛い前世と殺されることを思い出した主人公が、生き延びて幸せになろうとする話。
※重複投稿作品※
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
モブ転生とはこんなもの
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。
乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。
今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。
いったいどうしたらいいのかしら……。
現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
他サイトでも公開しています。
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる