俺と妹の悪徳が栄えまくる

笹谷爽香

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孤児院準備編

14.ノーニア教父について

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 孤児院だろうが救貧院だろうが、これを建てるためには先立つものが必要だ。これはまあなんとか捻出できるとしても次に問題となるのがこれを誰に管理させるかだ。

 俺の方で管理することもできるが、孤児院などの運営は煩雑な上、蓄積された経験が求められる。俺は、というか大抵の貴族はそのような経験を持っていないし今後持つ予定もない。
 しかしこのような救貧政策は民衆の受けがよいため、まま行われることがある。そのとき一切を取り仕切るのがウェスニア教だ。

 ウェスニア教はアインハルト王国のみならず各国に広く普及している宗教だ。ウェスニア教が貴族の援助のもと孤児院を運営することにより、ウェスニア教は教義の実践という成果を、貴族は民のために財を投じたという名誉が得られるという相互利益の関係にあるというわけだ。また、市井にとっても国家情勢に左右されない中立的なウェスニア教の看板があると頼りやすいという側面もある。

 そういうわけで俺はシャリリーゼと共にベルカエルカにある教会を訪れた。
 礼拝堂にはステンドグラス越しに陽光が差しこみ、静謐な空間を演出している。神に祈るために設けられたその世界に、ごく自然にある老人がいた。彼こそがこの教会の長、ノーニア教父だ。

「やあ、これはこれはローレンス様にシャリリーゼ様。ようこそおこしくださいました」

 白いあごひげを蓄えたノーニア教父の柔和な顔つきはまさに神に仕える者といった様子だ。

「ノーニア教父、元気そうで何よりだ」
「ありがとうございます。しかし残念ながらシャリリーゼ様は右目が思わしくないようですね」
「ご心配ありがとうございます。ですが大したことはありません。すぐに治ります」

 シャリリーゼは艶然として微笑し、右目の眼帯をつつと撫ぜた。

「して、本日は如何なる御用事で?」
「リーゼの提案でな、エルカベルカにも孤児院なり救貧院を建てようと思ってな。ウェスニア教にも協力してもらいたい」

「それはそれは」

 ノーニア教父は好々爺然に破顔した。

「素晴らしいことです。喜んで協力いたしましょう。我が教会には慈愛に満ちた敬虔な教父やシスターが幾人もおりますから。ローレンス様の頼みとあってはその中でも選りすぐりの者を派遣しましょう」
「ありがたい。後日正式にガリウスの方を来させるので詳しいことはその時に訊いてくれ。今日は伝えるだけ伝えておきたかったのだ」

 ウェスニア教の影響力を鑑みるとノーニア教父には相応の礼節を尽くさなくてはならない。そうでなくともノーニア教父とは親交があるので自然の情として誠意を見せたくなる。大多数の人間なぞ豚と変わらぬ畜生だが優れた道理のわかる者もいるのだ。

「わかりました。どうです、わざわざご足労してくださったのですから少し奥で休んでいってはどうですか。ささやかながら歓待いたします」
「それではお言葉に甘えて」

 俺達は教会の奥に行く。そこは懺悔室だ。ここは信者が日々の生活で犯した罪を懺悔して、まるで神に赦されたかのような快楽を得る場所だ。

 ノーニア教父のすることは実に洒落が利いている。懺悔室の下に設けてあるのはウェスニア教どころか、邪教認定されているデスグゴード教の祭壇なのだから。彼らが懺悔するその下には更に大きな罪があるというわけだ。

 もちろん信者は誰もそれを知らない。



 デスグゴード教は一つの体、二個の頭、三本の脚、四つの口、五つの眼、六本の腕を持つ神を崇拝している宗教だ。ウェスニア教によって邪教認定されているため、デスグゴード教を信仰している者は皆無と言ってよいくらいだ。少なくとも表立って信仰をしている人間はいない。そんなことをするにはどんな善人であっても手の平返しで迫害される覚悟が必要だ。

 もっともデスグゴード教を善人が信仰することはまずありえないだろう。何故なら、邪神の名に相応しく、デスグゴードは混沌と欲望を司る神なのだ。そして莫大な贄(にえ)を激しく求め、その対価として悪業への加護を与える。これが善神であるはずがなく、そして大衆が帰依するはずもなかった。

 地下祭壇は地上にある礼拝堂の半分くらいの大きさだった。壁際には雑多な拷問用具がかけられ、それらを使うための生贄も鎖でつながれている。

 ノーニア教父は亜麻色の髪を持つ美少年を祭壇に拘束し、いばらの鞭を振るう。それにより真白な肌に赤い裂傷が幾つも生じる。その背中が鮮血に染まった時、ノーニア教父は少年と栽尾した。

 俺はその少年のつぶらな瞳に錆びた釘を二本突き刺してやる。少年の絶叫が俺達の鼓膜を甘美に震わす。シャリリーゼも嬉々として彼の爪に針を刺しこんでいく。すぐに右手の先に五本の針が生え、ほどなくして左手も同じ運命を辿った。

 少年が苦痛に喘ぐたびよくなるのだろう、ノーニア教父の息が荒くなっていく。シャリリーゼがノーニア教父の老体も鞭打ってやると、しばらくして彼は埒を明けた。

「これが邪神への儀式ってやつですか」
「何をつまらない冗談を。ローレンス君、神などいないよ」

 ノーニア教父は神に仕える身でありながらその存在を否定する。

「では、この残虐な行いはなんだって? もちろん私の趣味、愉しみだよ! それ以外の意味はない」
「そうであるならば」

 シャリリーゼが言う。

「貴方は神の存在を騙り、民衆を欺罔することによって生計を立てているということですね」

「相違ない、と言いたいところだがそれだと若干の誤解を招きそうであるため補足しておこう。神は存在するとも。愚昧な民衆の頭蓋にね。そもそも人は何故神を信じ、祈るのか。それは不安だからだ。無力だからだ。個々の存在を己の手で支えられない人間がその支えとして神という存在を求めるのだよ。幼子が人形を手放さないように民衆は神に縋りつくのだ。絶対的存在に己を預けることは実に快いことだ。そうは思わんかね? 私は日常に倦んだ民衆にとっておきの娯楽を提供しているだけさ」

「しかしノーニア教父、個人とはそれだけで一つの存在です。愚かな迷信や慣習にも理知の光が差しこみ、民衆もいつか自分達が崇めているものが張りぼての偶像だと気づくでしょう。宗教とは極一部の者がその他大勢から搾取するために用いられる極めて巧妙な方策であることに。そうなれば貴方は滑稽な道化として躍り出ることになるのですよ。貴方ほどの人物がそれでよいのでしょうか」

「なんと! 君は本当に人類の英知を信頼しているのだね!」

 シャリリーゼの指摘に、ノーニア教父は実に愉快そうに大笑いした。

「なるほど、確かに人類と他を分かつのは理性なのかもしれない。だが人間は人類である前に畜生であるのだよ。本能に従い、感情で動く畜生だ。これを抑制し操作するのが理性なのだが、果たしてこの心もとない手綱が如何程に丈夫なものであろうか。民衆の持つ手綱は弱く千切れやすい。真っ当に理性を行使すればわかることも本能と感情の任せてその片鱗すら理解できないだろうさ。張りぼての中味がないことなどわかるまい」

「そうだとしても」

 俺は言う。

「僕は本能と感情を悪とするつもりはありませんね。人間が動物である以上これらを持つことは自然なことですから」
「もっと言うならば果たして我々の考える理性が真実理性であるのかも疑うべきだと私は思うよ。まあ、このお話はまたいつかにしようじゃないか。お愉しみの途中だ」

「そうでしたね、それならば私にさせてください」

 跪いたシャリリーゼが口をもってノーニア教父に奉仕し、もう一度いたせるようにする。ノーニア教父は奉仕するシャリリーゼの頭蓋をしかと掴み、その喉奥まで突き刺した。えずく。しかしシャリリーゼは涙目になりながらも淫靡な音を立ててしゃぶり続ける。

 ノーニア教父はその健気とも言ってよい奉仕に昂りを抑えきれず、情動のまま腰を振りたくった。幾度となく乱暴に喉奥を突かれたシャリリーゼはとうとう耐え切れず、咥えたまま胃の中味をぶちまけた。苦しそうに咳きこむ。だがそれでもノーニア教父は抽送を止めない。行き場をなくした吐瀉物がシャリリーゼの鼻から溢れ、その美貌を汚していった。

 俺はたまらなくなってシャリリーゼの腰を浮かし、玉門に挿入した。シャリリーゼの悲鳴とも嬌声ともつかぬくぐもった声が漏れる。

 それがまた刺激となったのか、ノーニア教父は吐瀉物で温くなったシャリリーゼの口内に吐精する。

「ちゃんと飲むんだ、リーゼ」

 俺が命じると、シャリリーゼは口内に残る己の吐瀉物と精子を懸命に飲みこみ、ノーニア教父のものを掃除していく。シャリリーゼが離した時にはノーニア教父のものはすっかり綺麗になっていた。

「教父、まだですよ」
 俺は隷属魔法をもって少年にノーニア教父の若気を貫かせる。ノーニア教父は当然被虐も嗜んでいるので喜んで少年を味わった。そうして俺がシャリリーゼで埒を明けた頃、少年も吐精したのだった。

「ご苦労」

 ノーニア教父は息も絶え絶えな少年の胸に短剣を突き立てた。



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