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第1章 蒼月の侍

三話 第十二軍団長の落胆

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「死ぬ前に、奇襲という大それた事を仕出かした、貴様の目的でも聞かせて貰おうか?」


アルマは鞘から大剣を抜きつつ、蒼髪の男に問い掛ける。


勿論、どんな返答でも殺る事に変わりは無い。どんな理由が有るにせよ、部下を一名殺されているという事実。その報いは死を以って、贖わなければならない。


「奇襲?  虫相手にそんな大それた事する理由が無いな。噂の当主直属部隊とやらを殺ったとかいう奴の事を、聞いてみたかっただけだ。まあ、ここまで大袈裟になってしまった以上、面倒だが駆除するしかないな……」


蒼髪の男は怯む事も無く平然と言い放つが、それに対しアルマは、頭に血が昇っていくのを実感していく。


“こいつ、我々の事を虫……だと? しかもこいつは自分の置かれた状況も垣間見ず、まるで我々に興味が無いとでも言わん態度ーー”


“許せん!!”


アルマは今すぐにでも斬り掛かりたい衝動を抑え、腕に装着したサーモの測定ボタンを押す。


部下の手前、取り乱すといった失態は見せられない。此処は冷静な判断を。


瞬時に蒼髪の男の、侍レベルが数値化される。


サーモの液晶画面に表示された侍レベルを見て、アルマは思わず噴き出しそうになるのを堪える。


「フッ……侍レベル、たったの二十一だと?  やけに自信有りげだから、どれ程の者かと思いきや……」


アルマはその数値に笑うというよりは、むしろ落胆していた。


本当の強者で在れば、尋常の勝負として申し分ない。だが一般兵卒以下の者等、闘う価値も無い。


結論ーー


“やはりこいつは只の、身の程知らずの馬鹿だ”


「アルマ様が闘う迄もありません。この様な者、我々で充分です」


軍団員が我も我もと、アルマに戦闘の意思表示を告げる。


「好きにするがいい……」


アルマは完全に、蒼髪の男への興味を失っていた。


“狂座第十二軍団長アルマーー侍レベル96”


レベルカテゴリーという枠内に於いては、トップクラスの実力者で在る事に間違い無い。


侍レベル21との対比は、象と鼠の闘い位の差がある。最早それは勝負として成立せず、只の虐殺にしかならない。


「そんな玩具に頼りきってるようでは、十二軍団とやらも長くないな。まあ、すぐに終わる事になるがな」


蒼髪の男は、この期に及んでまだ不敵な態度を崩さない。


「どうやら死への恐怖で狂ったみたいだぜ」


「ハハハハハッ、馬鹿かこいつは」


誰もが蒼髪の男を、身の程知らずと罵る。


アルマのみならず、軍団員の誰もがこの蒼髪の男より強い。


そう、あくまで表面的なレベルカテゴリーという“通常枠内”に於いては。
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