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第5章 阿鼻叫喚~ 辺獄空間の死闘
二話 水
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※水はその存在自体が奇跡とも云える魔法の液体だ。あらゆる命の源であり、液体から固体・気体と容易にその姿を変える。
故に水は万能。
超水圧で形成されたウォーターカッターの切れ味は、金剛石(ダイヤモンド)をも分断する。
***********
“――どうして……こんな事に?”
アミは目の前の現実に、ただただ呆ける様に座り込んでいた。
昨日までは一時的とはいえ、平穏だった日常の筈が今、目の前にある光景は“地獄”そのもの。
強烈な迄に漂う血の臭いに、耳が痛くなる程に飛び交う悲鳴。
「……ミ、――アミ!? しっかりしてください!」
肩を揺らしながら訴えるユキの声に、アミは漸く現実に引き戻された。
「ユキ……」
彼女の瞳は、思わず泣き出しそうになる程の悲壮感に満ちていた。
しかし、今はそんな感傷に浸っている場合では無い。
「聴こえますか!? アナタは今すぐミオと生き残った者達を先導して、この場から逃げるんです!」
それが今取るべき最優先事項。
しかし恐怖に依るものか、ショックに依るものなのか? アミは身体を思う様に動かせない。
「逃げる? 何処へ?」
そんな彼の提案を嘲笑うかの様に、シグレがユキの背後へ、ゆっくりと歩み寄りながら囁いていた。
「シグレ、貴様……」
ユキはシグレの方を振り返り、見据える。その瞳に宿るものは、明らかに怒りの灯火であった。
「人間臭いな、今のお前の目。何時からそんな目をするようになった?」
シグレはユキの背後に座り込む、アミとミオに目を向ける。
「成る程な、お前が飼い猫に成り下がった理由。まあ、どうでもいいか。どっちにしろお前を含め、一匹残らず駆除する事にしたからな」
シグレが口角を吊り上げながら笑みを浮かべ、左指を“パチン”と鳴らす。
『ーーっ!?』
その直後、辺りの空気が一変する。
“――くっ……苦しい!”
“なっ……何これ? い……息が……”
アミとミオのみならず、生き残った誰もが異変を感じ、もがき苦しみだす。
「ぐっ……ぐるじぃぃぃ!」
「だっ……だずげでぐでぇぇぇぇ!」
まるで水の中に居る様な感覚。辺りが深い霧に覆われ、まともに声を出す事さえ困難な程の。
「此処等一帯、全ての湿度を高濃度に引き上げた。常人では極度の酸欠で、動く事さえままなるまい」
淡々と状況を説明するシグレ。これではこの場から、逃げる事さえ困難となった。
「ククク、せっかくの甘美なる惨殺が支配する辺獄空間。悲鳴と絶叫を上げる観客が居ないと味気無いしな」
そう愉快そうに彼は嗤う。
「アンタは何時だってそう、自分以外の者など虫けら同然としか思っちゃいない」
ユキはこの高濃度の霧の中、苦も無く立ち上がり、シグレをきつく見据え呟いていた。
故に水は万能。
超水圧で形成されたウォーターカッターの切れ味は、金剛石(ダイヤモンド)をも分断する。
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“――どうして……こんな事に?”
アミは目の前の現実に、ただただ呆ける様に座り込んでいた。
昨日までは一時的とはいえ、平穏だった日常の筈が今、目の前にある光景は“地獄”そのもの。
強烈な迄に漂う血の臭いに、耳が痛くなる程に飛び交う悲鳴。
「……ミ、――アミ!? しっかりしてください!」
肩を揺らしながら訴えるユキの声に、アミは漸く現実に引き戻された。
「ユキ……」
彼女の瞳は、思わず泣き出しそうになる程の悲壮感に満ちていた。
しかし、今はそんな感傷に浸っている場合では無い。
「聴こえますか!? アナタは今すぐミオと生き残った者達を先導して、この場から逃げるんです!」
それが今取るべき最優先事項。
しかし恐怖に依るものか、ショックに依るものなのか? アミは身体を思う様に動かせない。
「逃げる? 何処へ?」
そんな彼の提案を嘲笑うかの様に、シグレがユキの背後へ、ゆっくりと歩み寄りながら囁いていた。
「シグレ、貴様……」
ユキはシグレの方を振り返り、見据える。その瞳に宿るものは、明らかに怒りの灯火であった。
「人間臭いな、今のお前の目。何時からそんな目をするようになった?」
シグレはユキの背後に座り込む、アミとミオに目を向ける。
「成る程な、お前が飼い猫に成り下がった理由。まあ、どうでもいいか。どっちにしろお前を含め、一匹残らず駆除する事にしたからな」
シグレが口角を吊り上げながら笑みを浮かべ、左指を“パチン”と鳴らす。
『ーーっ!?』
その直後、辺りの空気が一変する。
“――くっ……苦しい!”
“なっ……何これ? い……息が……”
アミとミオのみならず、生き残った誰もが異変を感じ、もがき苦しみだす。
「ぐっ……ぐるじぃぃぃ!」
「だっ……だずげでぐでぇぇぇぇ!」
まるで水の中に居る様な感覚。辺りが深い霧に覆われ、まともに声を出す事さえ困難な程の。
「此処等一帯、全ての湿度を高濃度に引き上げた。常人では極度の酸欠で、動く事さえままなるまい」
淡々と状況を説明するシグレ。これではこの場から、逃げる事さえ困難となった。
「ククク、せっかくの甘美なる惨殺が支配する辺獄空間。悲鳴と絶叫を上げる観客が居ないと味気無いしな」
そう愉快そうに彼は嗤う。
「アンタは何時だってそう、自分以外の者など虫けら同然としか思っちゃいない」
ユキはこの高濃度の霧の中、苦も無く立ち上がり、シグレをきつく見据え呟いていた。
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