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第6章 特異点

二話 死神が生まれた日

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――――血痕のシグレ――――


特異能ーー“獄水”を持つ特異点が一人。


今は存在しない、とある小さな村でその生を受ける。


村人からはその風変わりな姿で異端視されたが、シグレは両親から愛情を一身に受けて育った事で、命を重んじ自然を愛す、純粋な迄に心優しい少年だった。


干ばつ続きで農作物が採れぬ危機的状況にも、シグレはその天候をも揺るがす特異能で恵みの雨を降らせ、幾度となく窮地を救っていた。


全ては村の為、人の為、家族の為。


だが、その高過ぎる能力。そして本来この世に存在してはならない特異点としての事実は、人々に恐怖の念を抱かせるには充分だった。


シグレが九つの時。


村人はシグレを、いずれ訪れる脅威として抹殺を企てた。


草木も眠る丑三つ刻。


村人に両親もろとも捕らえられ、縄で縛りあげて目隠しされた後に、農具による集団暴行を受ける。両親はそのまま絶命したがシグレは昏倒して尚、まだ意識は残っていた。


そしてそのまま、生まれた家に両親の亡骸もろとも火を放たれる。


厄は禍根から絶つ為に。


両親を虫けらの様に殺され、自身を焦がす紅蓮の焔の中、シグレはその時より既に人で在る事を捨てたのかもしれない。


『俺が……何をした? 許さない! お前達全員殺してやる!!』


命を命とも思わぬ無機質な死神。特異点ーー“血痕のシグレ”が生まれた瞬間であった。


その夜、村人二百余名は一人残らずこの世から消えた。


血の雨が降りしきる中、其処には命乞いし逃げ惑う村人を虫けらの様に、その特異能で残忍に殺し廻るシグレの姿が在ったという。
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