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第7章 終幕。そして……

三話 更なる絶望

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“――やはり直属か! まずい、今の状態では……”


ユキは躊躇する。シグレとの闘いで力を使い果たしている。余力等、残っていようも無い。


ルヅキが強いであろう事は闘わなくても、その佇まいで感じられる。仮に万全であったとしても、死闘は避けられないだろう。


「長老の仇!」


「光界玉は渡さん!」


何時の間にか刀を持った一族の戦士六名が、ルヅキの周りを取り囲み、一斉に斬り掛からんとしていた。


「やめっ! レベルの違いが分からないんですか!!」


ユキが彼等に退く様叫ぶが、もう遅い。六名は既にルヅキへ斬り掛かっていたのだから。


「愚かな……」


ルヅキは斬り掛かってくる者達に対し、左手を翳す。其処に武器らしき物は見当たらない。


“ーーっ!?”


その刹那の瞬間、六名は一瞬で無惨な肉塊へとその姿を変える。


「なっ!?」


血飛沫と共に幾多にも分離し、原形すらも残らぬ欠片だけが、弾ける様に辺りに散らばった。


「いやあぁぁぁ!!」


ミオは目を覆いたくなる程の惨劇に悲鳴を上げる。アミは声を出す事も出来ず固まっていた。


「くっ!」


“――いつ……斬った? 全く見えなかった……”


動揺するユキを余所にルヅキは散らばった肉塊に目を向ける事も無く、その冷酷な紅い瞳はユキだけを見据えていた。


ルヅキのユキを見据える、その瞳に宿るもの。それは明らかな敵意。否、憎しみにも近いものであった。


たがそれは、すぐに消える。


「……このまま此処を殲滅するのも一興だが、今は光界玉を持ち帰るのが最優先。ここは退かせて貰おう」


ルヅキはそう言い放ち、光界玉を片手に瞳を逸らす。


ユキはその一瞬の隙を見逃さなかった。


“逃がさない”


例え刺し違えても、光界玉だけは狂座の手に渡ってはならない。


何時の間にか間合い内に踏み込んだユキの居合い抜きが、ルヅキを横薙ぎに払っていた。がーー


“感触が……無い?”


確実に捉えた筈の一撃。それが残像で在る事に気付いたのは、ほんの刹那の瞬間。


ルヅキの身体は滲む様に薄れ消えていく。


「残像だと!? 一体何処へ?」


ユキは消えたルヅキを追う様に辺りを見回した。ルヅキの姿こそ完全に見えないが、何処からともなく声が聴こえてくる。


「精々絶望に浸っているがいい。そして特異点よ、お前はいずれ私が必ず殺すーー」


ルヅキの声は風に消える様に。そしてその存在、気配すらも完全にこの場から消えたのだった。


『…………』


多くの犠牲者を出し、更には光界玉まで奪われる事態に、誰もが呆ける様に立ち竦む。


それはまるで、終わらない悪夢を見ているかの様に。
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