マルチな才能を発揮していますが、顔出しはNGで!

青年とおっさんの間

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第4章

『スピードスター燃え尽きる』

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「お、おい……小畑?小畑だよな……?」
「フッフフフ……お待たせしました、ここからが本番ですよ……!」

 小畑は両手を腰の横で軽く開き、不敵な笑顔を浮かべた。

「行きなさい!『陸組睦リクーム』さん、『土戸理庵ドドリア』さん!」

 小畑は陸組りくぐみ土戸つちどを、今まで読んだこともないニックネームで呼び出し、大雑把な指示を送る。しかし、2人とも表情が変わり、まるで人が変わったように一斉にゴールに向かって突撃し始めた。

「「うおーーーーッ!!」」
「な、何だコイツら……!?」

 突然豹変した2人に戸惑いながらも、華園学園は守備ディフェンスを続ける。

「まさか……コイツらゴールへの道筋ラインを作っているのかッ!?」
「今更気付いても、もう遅い!」
「今です!オバータ様ッ!!」

 小畑に『リクーム』『ドドリア』と呼ばれた2人が、ゴールまでの道を文字通り身体を張って作り出した。

「ホーッホホホッ!よくやりましたよ、リクームさん、ドドリアさん!後は私が……!」

 小畑オバータは、目にも止まらぬスピードで、自身のディフェンスを振り切り、スリーポイントラインから片腕でボールを天に掲げた。

「何だ!?あのデタラメな構えはッ!?」
「私の力をほんの少しだけお見せしましょう……『デスボールッ!!』」

 小畑オバータの掛け声とともに放たれたボールは、天高く舞い上がり視界から消えてしまった。

「お、脅かしやがって……ただのハッタリじゃねぇか……!」

 誰かがそう口から漏らした次の瞬間、見失ったボールがリングの真上から垂直に落下し、静かにネットを揺らした。
 審判が3本の指を大きく振り下ろし、六花大附属の点数に3点が加算された。

「「「ワーーーーーッ!!!」」」

 会場が大歓声に包まれる。

「ホーッホホホホ……虫ケラ共にも、私の恐ろしさが少しは理解出来たようですね……」

 小畑は高らかに笑うと、直ぐに「さあ皆さん!戻って守備ディフェンスですよ!」と配置に戻っていった。

「お、おい真純……一体小畑はどうしちまったんだ……?」

 守備ディフェンスの配置に戻りがてら、近くを走っていた真純を捕まえて、勇志が問いかけた。

「あー……俺も詳しくは分からないんだけど、何かイケメンへの怒りがキッカケで、極稀に変身しちゃうんだと」
「しちゃうって、あれ……フ○ーザ様だよな?しかも、最終形態の……」
「あー……うん、好きなんじゃないの?たぶん……リスペクトし過ぎると、たまに魂が宿ることあるじゃん?」
「いや、ないと思う……」
「――お二人共、真面目にやらないとこの手で殺してしまいますよ!?」

 守備ディフェンスを片手間に、お喋りをしている2人を見かねた小畑オバータが、声を上げた。

「へいッ!しっかりやりまーすッ!」
「ウッス!」

 (まさか小畑に注意されるとは……)と、勇志は少しショックを受けたが、確実に六花大附属の動きが良くなっていると感じたため、自身もプレーに集中することにした。

「フー……」

 長く息を吐き、一瞬で肺を膨らませる。その瞬間に勇志は自身が出せる最高速度に到達した。

「――デェェヤッ!!」

 その瞬間を、最終形態に至った小畑オバータが見逃すはずもなく、絶妙なパスが勇志の手元に舞い込む。
 しかし、池谷も勇志の動きを予想して即座に守備ディフェンスに着く。

「――こいつ、まだ速くなるのかッ!?」

 池谷は捉えていたはずの勇志のスピードに、徐々に自分のスピードが負けていくのを、必死で堪えている状態だった。
 そこに小畑オバータという新たな脅威が出現し、ついに……

「――しまった……!?」
「池谷が……!?」
「池谷が抜かれたッ!!」

 何処から飛んでくるか分からないパスと、勇志の背中や股下を生き物のように動き回るドリブルされるボールに翻弄され、池谷の膝が折れ、コートに手をつく形で倒れてしまった。
 そのまま、勇志は何の苦労もなくボールをゴールへと導いた。

「「「ワーーーーーッ!!!」」」

 六花大附属のスーパープレーに、またしても会場が沸き上がった。

「ねえねえ!六花大附属の15番ヤバくないッ!?」
「うん!私、池谷くんよりタイプかも~!」
「六花大附属側の応援席行かない!?」
「いくいくッ!」

 いつの間にか試合を観戦していた生徒達が、徐々に六花大附属のベンチ側の応援席に集まり始めた。

「ほんとお兄ちゃん、ライブの時とバスケをしてる時だけはカッコいいのに……」
「いつでも格好良いと、それはそれで何か嫌だけどね……」

 百合華と歩美の2人は、家の中でも学校でも、キザカッコいい勇志を想像してみたが、逆に気を遣って疲れてしまう自分の姿が容易に想像できてしまい、大きく首を振って紛らわした。

「やっぱり、今ぐらいのバランスが丁度いいと思います……」
「私は今のままが1番好……」

 危うく言いかけてしまった言葉をグッと飲み込んで、歩美が俯く。その顔は試合の熱に当てられているのか、それとも別の理由があるのか、真っ赤に染まっていた。

(今絶対好きって言い掛けたー!歩美さん、ホント可愛いーッ!)
「な、何か急に応援席周りが賑わって来たよねー!?」
「そうですねー!(顔真っ赤にして話を逸らそうとする姿も、めちゃめちゃ可愛いな……大体の事は何でも出来るのに、恋愛となるとウブなのが、また堪らん……!)」

 同性をも虜にする歩美の可愛さに、若干理性を持っていかれそうになりながら、百合華も周りを見回すようにして気を逸らす。

「本当に、急に増えて来ましたよね……何でだろ……」

 そう言いながら、応援席の声援に耳を傾けると……

「15番ー!こっち見てー!」
「カッコ良い~ッ!頑張れー!」
「え!?今、私と目が合ったんだけど!?」
「違うし~!アタシだし~!」

 まさか自分の兄を目当てに、応援席が賑わいだしたのかと、百合華は驚愕の表情を隠せなかった。
 見渡す限り、観客の視線は兄である勇志、あるいはそのプレーに注がれている。

「ちょっとお兄ちゃん、これ……何かとんでもないことにならないよね!?」
「勇志が認められて嬉しい反面、色々な女の子にキャーキャー言われて、鼻の下を伸ばしていそうで嫌な気持ちと、二律背反ってこういう事を言うのね……」
「歩美さん、心の声と表情隠せてないですよ……」
 
 さっきまで少女漫画の主人公のようにピュアな表情をしていた歩美が、次の瞬間には曇った顔になっている。恋心というのは人をどんな風にも変えてしまうのだなと、百合華は一つ大人の階段を登ったのだった。

「と、とにかく!お兄ちゃーん!頑張れーッ!!」

 そんな2人のやりとりなど知る由もなく、コートでは今も激戦が繰り広げられている。
 勇志は妹の百合華の声援が聞こえたのか、片手を上げるようにして妹の声援に応えていた。

「「「キャーッ!!!」」」
「ねえ見た!?今私に向かって……」
「違う違う!私よ!?」

 応援席では黄色い声援が飛び交っていた。

「何か盛り上がってんなー、うちの応援席……」
「そうだな、こんなに盛り上がるなんて久々だな」

 勇志と真純は、応援席の盛り上がりを呑気にそう推測していた。そもそも試合中に注意深く観察することなど出来ない。自分のこととはこれっぽっちも分からず、何か盛り上がってるな程度にしか認識できないのだ。
 しかし、この男は違った。

「フフフフ……全く人をイライラさせるのがうまい奴だ……」

 最終形態の小畑オバータである。彼は先程から自分より目立って声援を受けている勇志に、段々と腹が立ってきていた。
 そして、ついに小畑オバータは持っていたボールを片手で持ち上げ、勇志に狙いを定めた。

死球デスボール!!キェーーーッ!!」

 物凄いスピードでボールが勇志の後頭部に向かって飛んで行く。勇志は反応こそ出来たが、間に手を噛ませるのがやっとだった。

「痛っ……て~!」

 バチン!と、大きな音を立てて勇志の手に当たったボールは、そのままコートの外へと飛び出してしまった。審判のホイッスルが鳴り、相手チームのボールとなる。

「チッ……汚ねぇ花火だ……」
「いや、味方に背後から死球デスボールする奴があるかッ!?何のつもりだ!小畑!」
「まあまあ、試合中だから!ここは一旦落ち着こう勇志、な?」

 真純に宥められ、しゃーなしに勇志が剥き出していた牙をしまう。
 勇志のツッコミなど意にも止めず、小畑オバータは池谷の守備ディフェンスについてから、徐に口を開いた。
 
「おやおや、華園学園の4番さんは、いつまで地球のお猿さんの相手をしているんです?」
「え?お、お猿……?15番の事か……?」
「思ったよりずっと強いようだね……でも、私には敵わない……」
「フン……減らず口を!」

 小畑オバータが池谷を挑発し、それに乗る形で池谷が一対一ワンオンワンの形に持っていく。
 鋭いドリブルから身体を小畑オバータの背中側に挟み込み、そのまま抜き去ろうとさらに姿勢を落とす。

「――貰った!」
「キエーーーッ!!」

 しかし、小畑オバータは腕を鞭のようにしならせて、池谷の手からボールを突き上げてしまった。

「な、バカな……!?」

 何だ今の動き、腕じゃなくて、まるで尻尾を扱うような動きだった……まったく反応出来なかった……!?

 小畑オバータはそのままボールをゴールまで導き、またも不敵な笑みを浮かべた。

「フフフ……この星ごと消し去ってあげましょうかね」

 前半から六花大附属高校のペースで試合が進み、華園学園が30得点に届いた頃には、六花大附属は既に50得点を越えていた。
 そしてようやくここに来て華園学園のベンチに動きが現れようとしていた。

「一体、これはどういう事だ……!?」

 長らく席を外していた華園学園の監督、石頭が戻って来た時の第一声がそれだった。
 予選1回戦目、ハーフタイムに入る頃には試合の決着が付いてしまうだろうと予想していた石頭が見た光景は、それとは真逆。全国出場常連の自身のチームが、全く無名の高校に大差で負けている状態だった。

「誰か、誰か説明してくれないか!?」

 石頭が叫びながらベンチを見回すが、誰一人顔を上げようとしなかった。
 そこで石頭は背後に控えているマネージャーを呼び出し、状況を説明させた。

「――つまり、無名校にも関わらず、全国レベルの選手が少なくても3人はいると……」
「はい、そして中でも15番、あの選手は別格です。レベルが違い過ぎます……」

 今も尚、コートでは六花大附属の15番がボールを持った瞬間、流星が通り過ぎたようにボールがリングを通り抜けている。

「あの15番、どこかで……」

 石頭には六花大附属の15番に見覚えがあるようだった。半分程白髪に染まった頭を片手で掻き回しながら、記憶の扉を開いていく。

「確か1年程前、中学生の引き抜きの時……」

 黄金時代と言われたその時代、中でも一際名声と脚光を浴びていたのが六花大附属中学校男子バスケットボール部。そこのレギュラーメンバーとなる5人のレベルは次元が違い、中学の全国大会ですら、赤子の手を捻るようなものだった。
 高校のバスケ強豪校は、こぞって彼らを自分の学校に引き抜こうと殺到したが、それは徒労に終わった。1人は医者になるために進学し、1人は実家の跡を継ぎ、1人は海外にバスケの武者修行へ、もう1人はバンド活動で忙しいからと断られ、残り1人、最後の望みを掛けて話しかけた人物が、『入月勇志』という少年だった。
 学費免除、学生寮無償貸与と破格の条件を提示して勧誘したが、返って来た答えはノーだった。

「何故だ!?一体何が不満だというのかね!?」
「いえ、とってもありがたい話なのですが……」
「何だね、言ってみなさい!出来ることなら何でもサポートしよう!」
「いや~、お宅の学校、家から遠いので……家族と大事な人たちから離れたくないんですよ……だから、家から通学できる高校に進学します。それに……」
「はぁ……まだ何かあるのかね?」
「バスケを続けていくつもりも、そこまで無いんですよね……だから、ごめんなさい!機会があればまたよろしくお願いします!」

 それっきり彼を見かける事はなく、噂では全国大会の決勝で大怪我をして引退したということだったが……

「――まさか、こんな……敵となって再会することになるとは……」

 類稀なるバスケのセンスは今も健在で、トリッキーで予想不可能な動きは、ボールがゴールリングを抜けた瞬間に芸術へと昇華される。華園学園うちのエース池谷でも、彼の相手は務まらないだろう。

「彼が味方だったらどれだけ頼もしかったことか……」

 彼と池谷との2人で全国制覇も叶っただろうに……

「嘆いたところで始まらん!マネージャー、すまないが服部を呼んできてくれるか……?」
「服部くんを出すんですか!?」

 女子マネージャーの表情が一変に曇る。その声色には、恐怖と嫌悪感とが入り混じっていた。

「背に腹はかえられない……例え恥を晒すようなことになっても、ここで負ける訳にはいかないからな……!」
「わ、分かりました……」

 そう言って、勢いよく振り返ったマネージャーは、大きな壁のようなものにぶつかり、弾き飛ばされてしまった。

「その必要はないぜ?」
 
 見上げるとそれは壁ではなく……

「服部くん!?」

 まさしく今、探しに行こうとしていた相手、服部であった。

「おいおい、嘘だろ?随分盛り上がってると思って戻って来てみれば、ボロ負けしてんじゃねぇか」
「服部、戻ったか。早速で悪いが支度アップしてくれるか?」
「いいのかよ石頭、俺を試合に出す気ないんじゃなかったか?」

 石頭は深く目を瞑り大きく息を吐くと、服部に向き直ってからゆっくりと目を開いた。

「なり振りを構っていられない状況だ。すまん、華園学園のために試合に出てくれ」

 そう言いながら、軽く頭を下げる石頭を見て、服部は笑い声を上げた。

「ハーはっはっは……いいぜ、そこまでされたんなら気分が良い!で?誰を潰せば良い?」
「お前の相手は15番だ。だがくれぐれも?」
「それは保証できねぇな……!」

 服部はそういいながら、六花大附属の15番、入月勇志を見て薄気味悪く笑った。

 第2クォーター終了のブザーが鳴り響き、両者それぞれのベンチへと戻って行く。これから10分間の休憩ハーフタイムを挟み、後半戦になる。

「もしかして、このまま行けば俺たち、あの華園学園に勝てるんじゃないか!?なあ、勇志!?」

 上がった息を整えることも忘れ、いつの間にか通常状態に戻った小畑は、隣に座る勇志に興奮気味に話しかけた。

「……はあ……はあ……」

 しかし、勇志からの返事はなく、代わりに規則的な呼吸音だけが聞こえて来た。

「10分しかないんだ……休ませてやれ」

 勇志の代わりに話しかけて来たのは真純、彼もまた、余裕そうに見えるが呼吸の度に大きく上下する肩が、疲労感を現していることに小畑は気付いた。

「もしかして……限界が近いのか?勇志は……」

 小畑は改めて勇志を観察する。頭から垂らしたスポーツタオルの隙間から少しだけ見える顔には、疲労困憊の様子がハッキリと伺えた。

「とっくに限界だ……元からの体調不良に加えて、格上相手に第2クォーターまでフルで出場、これで平気な方がおかしい……」
「じゃあ後半は……!?勇志なしで華園あいつらに勝てんのかよ!?」

 小畑の半ば怒鳴り散らすような質問に、真純は一瞬顔を顰めてしまう。現状、ここまで点差をつけることが出来たのは、勇志の力が大きい。欲を言えば、後半戦で逆転出来ないほどの点差をつけてリードしたかったのだが、流石に全国出場常連校、そう簡単にはやらせてくれなかった。

「26点差……」

 スコアは34対60。ふと、華園学園のベンチを見ると、何人かユニフォーム姿になり、シュート練習をしている。

「ここからが正念場だな……」

 真純はそう呟くと、ゆっくりと瞼を閉じて身体をベンチに預けるようにもたれ掛けた。


 ………………

 …………

 ……


 ハーフタイムに入ると、応援席にも束の間の息抜きの時間となる。終始声を張り上げていた応援団も、黄色い声援を送り続けていた女子も、この時間は少し落ち着いて思い思いに休息をとっていた。

「歩美、男子の試合はどう!?」

 男子より一足早く試合が始まっていた六花大附属女子バスケ部は、サクッと試合に勝利した後、後片付けを済まして男子の試合の応援に駆け付けていた。

「それが私も信じられないくらいなんだけど……」と、歩美がスコア板へと目だけ向ける。そこには、六花大附属が華園学園より大差で勝っているのが点数として表されていた。
 
「お兄ちゃん、本当に凄いんですよ!皆さんが心配していた華園学園相手に、接戦どころか大差をつけて勝ってるんですから!」

 自分自身も信じられないという素振りで、百合華が時雨に前半戦のハイライトと状況を報告する。多少の脚色はあるようだが、百合華の話す勇志の大活躍を容易に想像することができて少し顔が綻ぶ。

「ちょっと心配し過ぎたかしらね……」

 私だけが彼の苦悩や弱さを知っている。だから、彼は誰よりも強いと知っていても、心の何処かで不安を感じ、恐れていた。
 時雨は、安堵しながら客席に腰を掛けたが、眼下のベンチで固まっている勇志の姿が目に入り、再び胸が締め付けられるような感覚に襲われる。

「ねえ歩美……入月くんはそのスーパープレーを試合の最初から今までずっとしていたのかしら……?」
「うん……だからちょっと心配で……」

 ただでさえ一線を退いてからの期間が長く、体力が少なくなったというのに、寝不足と乗り物酔いで体調も万全ではない状態で、スーパープレーを連発している。逆を言えば、そうしなければならない程の相手だということだ。

「勇志、運動不足なのにあんなに走り回って……絶対無理してる……」
「そうね……」

 幼馴染の歩美は入月くんの今の現状がよく見えている。しかし、この場の誰もが彼のスーパープレイにばかりに目が眩み、彼の状態や心境に気付きもしない。
「次はどんなに凄いプレーが観れるのだろう」
「もっとスーパープレーを観たい!」
 そんな期待が、願望が、無自覚な悪意となって彼にのしかかる。
 かつて、同じチームだったメンバーたちがしたように……かつて、そうだったように……

「――私が絶対に勝てないって言った理由、分かったでしょ?」
「ちょっと!西野さん、いつの間に!?」
「莉奈でいいわよ、私も歩美って呼ぶから」
「分かったわよ、莉奈」
「それで?時雨はもう理解できたでしょ?」

 いつの間にか歩美と時雨の間の一つ後ろの席に座わり、両の手で穂を杖をついて下のフロアを眺めている西野莉奈が、目線を勇志に固定したまま2人に話し掛ける。

「そう……ね……」
「今はリードしてても、後半戦はジワジワ点差を詰められて、最後は逆転されるわね」
「な、何でそんなことが分かるんですか……!?」

 淡々と敗北を宣言する莉奈に、隣の席に座っていた華がたまらず声を上げた。今にも泣き出しそうな目元にグッと力を込めて、少し顔が赤くなっている。そんな華の姿を見て、莉奈は少し慌てて言葉を繋いだ。

「ごめんごめん!嫌味のつもりじゃないの……」
「なら、ちゃんと説明しなさいよ!」

 歩美も口を尖らせながら華の援護射撃を入れる。

「まず、六花大附属高校だけど……メインとなるレギュラーメンバーが5人で、ベンチの残り人数は6人…… このベンチの中でレギュラーメンバーに引けを取らないプレイヤーはいる?」

 莉奈はこの場にいる時雨、華、歩美、百合華の顔を順に見回す。

「いいえ、いないわ……」

 少しの間を空けて、時雨がゆっくりと口を開いた。
 
「なら、六花大は今のスターティングメンバーが主戦力ってことね……」

 莉奈は「やっぱりね」と、表情で納得をすると、そのまま深刻な面持ちで話を続けた。
 
「対して、華園学園のベンチの残りは10人、しかも全員が全国大会出場レベルのプレイヤーがいつでも出れるように控えている……」
「そして、バスケのルールには交代の制限がないのよ……」

 莉奈の説明に続いて、時雨もバスケにあまり詳しくない歩美や百合華を考慮しての補足を入れた。

「じゃあ、お兄ちゃんたちは、これから体力も気力も有り余っている人たちと、残りの時間ずっと試合しないといけないってことですか……!?」

 今まで黙っていた百合華も、身を乗り出して莉奈に言い寄る。

「そうなるわね……私が華園学園の監督なら、間違いなくそうするわ……」
「でも、それって何だかズルい気がします……正々堂々と試合をしてほしいです……」

 華が疲れ果てている勇志の姿を見るに耐えかねて、目を逸らせながら意見を述べた。

「花沢さん、そういう単純な得点力やチームワークだけではなく、相手の弱点を突いて試合の流れを作るゲームメイクも立派な戦略の一つなのよ……」
「そんな……」

 ここにいる全員が、後半戦で六花大附属が追い込まれて敗北するシーンが頭をよぎり、重い空気が流れた。何か打開策はあるはずと言葉を発そうとしても、空気となって漏れ出すだけで、どうしようもない絶望感がだけがその場を支配していた。

「――それでもね……」

 ただ1人を除いて……

「私は勇志を信じてるよ……だって勇志は、いつだって私のヒーローだから……」

 それでも尚、絶対的な信頼を置いている人物……それは桐島歩美であった。
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