マルチな才能を発揮していますが、顔出しはNGで!

青年とおっさんの間

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第4章

『マウントFUJI』

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「なあ……真純……」

 ベンチに深く腰掛け、足元を見るように頭を下げていた勇志が、突然親友の名を呼んだ。

「どうした?まだ休んでていいぞ……?」

 休憩ハーフタイムの残り時間はもう少ない。ならギリギリまで体力の回復に努めてもらおうと、真純は勇志の顔の位置まで、大きい身体を出来るだけ小さくして近付く。

「ちゃんと休んでるよ……それで、後半戦の向こうの動きは……?」

 勇志の呟くような声を拾ってすぐに、真純は身体を起こして相手チーム全体を見渡した。

「ベンチ全体の動きが慌ただしい……それにいつの間にか向こうの監督が戻ってきてる」
「なら、予想通りローラー作戦で来るだろうな……」

 全力でプレーさせ、疲れたらすぐに交代させて休ませる。選手間のレベル差がない強豪校ならではの力技の作戦だ。レベル差があり過ぎて、実質的に交代を封じられた六花大附属には対抗する術がない。格ゲーで例えるなら最初から体力2割のレッドゾーンからのスタートするようなものだ。しかも、敵は交代するたびに体力が回復して出てくるのだから、もはや脅威でしかない。
 
「悪い予想が的中だな」

 真純がそう言うと、2人してフッと笑った。

「やられて1番シンドイやつだし、対策の仕様がない……俺たちに出来ることと言えば、今の点差を何とか死守すること……」
攻撃オフェンスを捨てて、守備ディフェンスに力を入れるわけな……確かに、その方がまだ勝算ありそうだな……」

 小畑は2人の会話を聞きながら、やる気をなくしたように椅子に深くもたれ掛かりながら天を仰いだ。

「――けど、それって俺たちらしくないんじゃねぇか!?」

 椅子からガバッと立ち上がった小畑が、勢いよく振り返って熱弁する。

「どしたー?急に」
「お、何か始まるのか?」

 勇志は俯いたまま素っ気なく、真純は面白そうに小畑を見る。すると、今まで黙っていた宍戸ドドリア陸組リクームが立て続けに口を開いた。

「部長、俺たちらしいって何ですか!?」
「そもそも、主戦力が助っ人の急造チームに『らしさ』とかあるんすか!?」

 「ぐぬぬ」と小畑の顔が少し歪む。

「そうだそうだ!」
「俺は何としても勝ちたいっス!」
「例えやり方が汚くても、泥臭くても勝たなきゃ意味ないんですよ!」
「そうだそうだ!」

 チームメイト全員からの総攻撃を受けながら、それでも小畑は一歩も引かずに皆と向き合った。

「その勇志と真純に頼りきりなのが『俺たちらしくない』って言ってんだよッ!?」

 部員たち全員が目を丸くする。

「この2人は我が六花大附属の正式なバスケ部員じゃねぇ!そんで、バスケ部の廃部にも関係ねぇ!」

 部員たちが我に返ったように落ち着きを取り戻し、小畑の言葉をそれぞれ自分自身で受け止める。

「この2人は、俺たちみたいに女子バスケ部のユニフォーム姿が見たい訳でもない!そんな2人に大事な試合を押し付けて、俺たちだけ甘い汁吸おうってのは何か違うんじゃねぇか!?」

 バスケ部のほぼ全員が、少し恥ずかしそうに目線を逸らした。

「この2人……まあ、主に真純がいなかったらここまで来れなかったし、感謝している!」
「確かにそうなんだけど、そこはもう少し俺もプッシュしてくれよ……」
「けど!2人の限界が近いのに、俺たちが黙って観てるわけにはいかねぇ!」

 小畑の迫真の演説に、部員たちが次々に立ち上がった。

「そうだ……!これは俺たちの聖戦だ!」
「2人だけに重荷を背負わせる訳には行きません!」「皆んな!やるぞ!」
「俺たちの部活は俺たちが守る!」

 皆、その顔にあった緊張や劣等感も消えて、それぞれ覚悟を決め、魂を奮い立たせていた。

「それでこそ、我が誇り高き六花大附属の男子バスケ部員たちだ!」

 小畑が話し終えるのとほぼ同時にハーフタイムの終了を告げるブザーが鳴り響く。

「行くぞーーーッ!!」
「「「オーーーーッ!!!」」」

 勇志と真純を除いた5人が、一斉にコートの中へと駆け入った。その姿は、まるで死地に赴く戦士のように……

「小畑のやつ……」
「あいつなりに思うところがあったんだろ……」

「最後の中体連の決勝で、勇志だけがスタートメンバーから最終クォーターまで出ていて、それをベンチからずっと観てたんだよ、あいつは……」

 熱気が最高潮に達し、今にも爆発しそうな体育館で、怪我をした足を引き摺りながらプレイする勇志を、小畑はベンチから何も出来ずに眺めていた。

「監督から指示が出なかったのもあるけど、勇志の代わりは務まらないし、チームの足を引っ張るかもしれないっていう恐怖があったんだろ……」

 もし無理に交代して、チームが負けたら?その重荷を、その責任を1人で抱えられるのか?そんなことを考えながら、どんどん自分を擦り減らし、力尽きていく勇志を見ていたに違いない。
 ただ拳を強く握り、唇を噛み締めることしか出来ない。自分自身の無力さを、ただただ実感させられる。

「『何も出来ない』って、かなりキツいと思うぜ?でもさ、結局のところ、俺たちには小畑の辛さも苦悩も分からないし、分かってやれないんだよな……」

 真純が話す言葉の一つ一つが、心に深く突き刺さるような気がした。

「そっか……だからあいつ、当時の自分と同じように思っている部員たちを鼓舞して、俺と真純をベンチに下げたんだな……」
「たぶんな……」

 あの時何も出来なかった自分を悔やんでいるんだろう。勇志はコートの中で今も指示を送っている小畑を感謝を持って見つめた。

「――お前ら気合い入れろよ!もうこれ以上、勇志を目立たせてたまるか!女子からキャッキャ言われるのはこの俺だーッ!!」
「「…………」」

 あんなに真剣に、切羽詰まった顔をして冗談を言える程、小畑は器用な人間ではない。つまり、それが「小畑良介」という人間の、紛うことなき本心だった。
 
「悪い勇志、今言ったことは忘れてくれ……」
「俺の感動を返してくれ……」

 空いた口が塞がらないまま、2人は軽率に小畑を褒めた自分達を悔やんだのだった。

「部長、入月と林田がベンチで意気消沈してますが……?」
「ほっとけほっとけ、俺に見せ場を取られて悔しがってんだよ!それより相手チーム全員メンバーチェンジしてるから、しっかり確認しとけよ!」

 華園学園は予想通り、メンバーを全員を入れ替えて後半戦に臨んで来ていた。

(それにしても、全員デカイな……同じ高校生なのかよ……!?)

 小畑が頭一つ分背の高いマークスマンに付きながら、相手チームを見回していると、突然コートの中央からドスの効いた声が聞こえてきた。

「おいおいおい!15番出てこねぇじゃねえか!?どーなってんだよ!おいッ!」

 相手チームでも一際背の高く、体格も大きい男が、六花大のエース選手不在に腹を立てている様子だった。

「こんな素人に毛が生えたような連中相手に、一体何してやれってんだよ?なあ!?」
「服部!いいから黙って位置ポジションに付け!」

 ベンチから石頭監督の怒声が響く。

「へいへい、わーったよ、うっせーな……」

 明らかにやる気のない様子で位置につく服部。しかし、その身長差と体格差だけで六花大附属の選手たちには大きなプレッシャーとなっていた。

「で、デカイ……」

 服部のマークスマンになってしまった陸組が、思わず声を漏らした。
 男子高校生の平均身長から見れば陸組の背は遥かに高い。六花大附属バスケ部では、真純と並んで1位2位を争うほどだ。しかし、それよりも服部という男の方が頭半分勝っている。そして服部が目の前に立てば、大柄な陸組でさえも、その影にすっぽりと収まってしまう程の体格差があった。

「まあそうだな……お前を潰せば、嫌でも15番が出張ってくるか……」
「な……!?」

 そして、鋭い眼光で陸組を見下ろしながら、不敵な笑みを浮かべた。

「だからって、簡単には潰れてくれるなよ?それじゃあつまらないからなァ……!」

 後半開始と同時に華園学園にボールが渡る。

 素早いパスワークから服部にボールが回ると、服部はボールを持ったまま数秒間、陸組と睨み合いになった。

(目を逸らしたら……ヤられる……!)

 陸組は、ボールに手を伸ばしたら届く距離で深く腰を落とす。

「服部!いつまで持ってんだ!こっちに回せ!」
「うるせぇ村崎!いいから黙って見てろよ!」

 そう言うと、服部は背中側を陸組に向けて、ドリブルを付きながら突進し出した。バスケのポジションで言うセンターがよく使うパワープレイで、背中で相手ディフェンスを中に押し込みながら、ゴール下のポジションを取るための技だ。

「ぐぐッ!?何てパワーだ……!?」

 服部がドリブルするたびに、簡単にゴールの方へ押しやられてしまう。そして、服部がゴール下に辿り着くと、クルリと向きを変え、そのままゴールにボールを置いてくるかのように、いとも簡単にシュートを決められてしまった。
  
 「おいおい、蚊が止まったくらいにしか感じなかったぜ?もう少し楽しませてくれよ?」
「――クソッ!」

 小畑が直ぐに崩れた守備ディフェンスを立て直し、攻撃オフェンスへと移る。

「切り替えろ陸組!点取り返してやろうぜ!」
「お、おう!」

 小畑がハーフラインを跨ぐと、そこから六花大附属のお手本通りのパス回しが始まる。難しいパスは失敗するリスクがあるし、受け取る側にも無理を強いることになってしまう。勇志や真純というポイントゲッターがいない中では、確実にパスを繋ぎ、僅かな綻びから得点へと繋げていかなければならない。

 陸組が服部を背にフリースローラインでポジションを取ると、待っていたかのようにボールが陸組へ渡る。

「――フンッ!!」

 陸組はドリブルを強く突きながら、背中で服部をゴール下へ押し込もうとするが……

「びくともしない……だと……!?」

 背中に当たっているのが人ではなく、まるでコンクリートの壁のように、硬く重く、そして冷たかった。
 ならばと、陸組は背中を基点とし、服部と身体の位置を入れ替えるようにクルリと回転し、シュートモーションを取る。
 しかし、陸組はその目にゴールを捉えることが出来なかった。映ったのはまるで悪魔のようにほくそ笑んだ服部の姿はだった。

「おい、嘘だろ?それで終わりなのか?」

 次の瞬間、「バチン!」と大きな音が鳴り響くと同時に、ボールがコートの外に大きく飛び出した。

「と、止められた……?」

 陸組がシュートしたボールを、服部が片手で叩き落としたのだ。最も簡単に……

「おいおい、まるで弱い者いじめしてるみたいで気が引けるぜ~」

 それから、流れは完全に華園学園へ傾いてしまった。シュートは防がれ、パスはカットされ、攻撃オフェンスは手も足も出ない。要の守備ディフェンスも、個々の体格差と力量差があり過ぎて、試合にもなっていなかった。
 唯一、華園学園にも負けじと劣らないスピードも、次々と選手を入れ替えてくる華園学園の戦略に絡み取られ、とっくに限界を迎えていた。

「行かないと……」

 チームメイトが苦しむ姿に、勇志が重い腰を持ち上げる。あれだけあった得点差もあっという間に逆転されてしまっていた。

「まだ回復してないだろ?」
「けど、今行かないと……!」
「――よしっと!」
 
 勇志が話すのを、真純が遮るように立ち上がる。

「今戻ってもすぐガス欠になるだろ?それなら、残り時間を走り抜けるまで回復してから戻って来いよな!」
「真純は!?」
「あの大男を止めてくる……!」

 そう言って、真純は自分の前髪をグッとかき上げた。汗で湿った髪は元に戻らず、少し隠れていた表情が露わになる。それは、静かに闘志を燃え立たせる男の表情だった。

 後半戦が始まってから六花大附属の応援席では遂に声援が途絶えた。先程まであれだけ盛り上がっていた観客も、今や固唾を飲んで見守ることしかできない。
 そんな観客の表情を、最初こそ面白おかしく見ていた服部も、ずっとその調子では張り合いがないのか、味方にパスを回しながら大きな溜息を吐いた。
 
「流石にもう飽きたな……」

 そう言いながら、手元に戻ってきたボールを突然ゴールボードに向かって放り投げた。

「血迷ったか!?」
「ボール拾え!」
 
 まるでシュートとも思えない、ただ放り投げただけの様子に勝機を見出し、六花大附属の選手がこぼれ球に集まる。

「バァ――!!」

 しかし、服部はボードに当たって跳ね返ったボールを空中でキャッチすると、空中で集まってきた六花大附属の選手を薙ぎ倒し、そのままゴールリングへ叩き込んだ。

「――ッ!?」
「ダンク……だと……!?」

 吹き飛ばされた選手達が、驚愕の表情を向ける。
 
『――バスケットカウント!ワンスロー!』

 シュートモーションに入った服部の手に、陸組が触ったと判断して、審判がファールを宣告する。しかし、実際の所は服部が意図して行ったものだ。服部は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべながら、コートに尻もちをついている陸組を見下ろした。

「飛んで火に入る夏の虫ってな……!」
「まだだ……まだやれる……!」

 そう言って味方を励ます小畑だったが、服部に落とされてから立ち上がれないメンバーがいることに気付いて、審判に合図をして試合を中断する。

「大丈夫か……!?」
「すいません部長……何か力が入らなくて……」

 どこか打ち所が悪かったのかと、一通り見回すが外傷はない。しかし、手と足の震えから、どうやら精神メンタルの限界が身体に不調をきたしているようだった。

「気にすんな!少し休んでろ……」
『メンバーチェンジ!六花大附属高校!』

 力が入らなくなってしまったチームメイトに代わり、真純がコートの真ん中から堂々と入場する。
 闘志を身に纏うその姿からは、もはや前半戦の疲れは微塵も感じられない。

「なーんだ、15番じゃねぇのか……」

 真純の14番のユニフォームを見て、あからさまに気を落とす服部。そんな服部と真純が互いにマークスマンとして守備ディフェンスに当たる。

「なあ、華園のデカイの」
「何だ?俺のことか?」

 真純が珍しく相手の選手に話し掛ける。

「それなりに上手いようだけど、いつもさっきみたいにプレーしてるのか?」
「あー……そうだなー、いつもと言えばいつもだがー、まあでも今回は遊んでやってる感じだな!だってお前ら雑魚過ぎるだろーが!」

 服部は、ニヤつく口元を隠しもせずに真純を睨みながら挑発する。

「そうか、ならやっぱり負けるわけにはいかないな……!」

 服部がフリースローを決めて試合が再び動き出す。真純は小畑からボールを受け取ると、先程、陸組がしたのと全く同様に、服部に背中を向けて身構えた。

(弱小チームめ、バカの一つ覚えじゃねぇか!)

 服部は、自分の右側を真純の背中に当てるように構えて腰を落とした。この状態からの攻撃は力押しでディフェンスをゴール下まで押し込むか、振り返りながらディフェンスを抜く必要がある。
 前者はオフェンスがディフェンスよりパワーで勝っている必要があるが、ラガーマンのような体格の服部よりパワーがある相手は、同じ世代には片指の数もいないだろう。
 そのため、ほとんどのオフェンスはテクニックで服部と勝負しなければならないが、圧倒的なパワーの前では、小賢しいテクニックなど何の意味も持たないということは、服部本人が1番熟知していた。

「確かに、デカイ口を叩くだけのパワーはあるな……」
「はあ?てめぇこそ何だ?それで力入れてるつもりなのか!?笑わせんじゃねえ!」

 服部は、より一層身体全体に力を込め、真純を押し戻してやろうと前に足を進める。しかし……

「な、何だ!?動かねぇ……!?」

 服部がどれだけ力を込めて押し出そうとしても、真純の背中はビクともしない。そればかりか、逆にフラつかせようと力を抜いても、それでも動じることなくそびえ立っている。

 「マッスルパワー……80%……!」
「――ぐぬッ……!?」

 真純が何か呟くと、身体が突然膨張し、次の瞬間には服部はエンドラインからはみ出して尻もちをついていた。

「へ……?」

 何が起こったのかさっぱりわからず、驚いて顔を上げると、真純が最も簡単にゴール下からシュートを決めている姿が目に映った。

「そ、そんな……バカな……!」

 吹き飛ばされた?いつ、どうやって?そんな疑問を抱きながらも、何事もなかったかのように立ち上がった服部は、すぐに味方の攻撃オフェンスに加わる。
 
「服部、大丈夫かよ……?」

 心配した村崎がプレー中にも関わらず服部の近くに駆け寄り、顔色を伺う。

「ちょっと躓いただけだ!いちいち心配してんじゃねぇ!」

 服部にとって格下のチームメイトから心配されるのは、この上ないほどの屈辱だった。

(許さねぇからな14番……泣いて詫びるまで擦り潰してやる……!)

 服部が真純を背にし、センターポジションを取ると、大声で怒鳴り上げる。

「パス回せ!早くしろッ!」

 服部にボールが渡り、お返しとばかりに真純を中へ押し込もうと下がるが……

(何だコイツ!?全く動かねぇ!!)

 壁……いや、そんな生優しいもんじゃない!背にしているそれは『慈しみ』そして『愛』しかし、一度牙を剥けば、それは掌を返したように『冷酷』で『残酷』な者へと変貌する。そう、それはまるで……

(山だ……この男はまるで、天災を伴った山だ……!)

 豊かな自然と恵みに満ちた大地だが、安易に踏み込んだ者を排除する恐ろしさを兼ね備えている。

(俺は今、安易に頂へと登ろうとし、道半ばで遭難した登山者……そして、この男は、全てを見下ろす山の王……『キングオブマウンテン富士山フジヤマ』)

「服部!何やってる!?早くシュート打て!」
「うるせぇ!!わかってんだよ、そんなこと!」

 シュート?打てる訳がない!山の向こうにあるゴールに向かってシュートできる人間がどこにいる!?

「クソッ……!」

 結局、真純の山の如き守備ディフェンスに恐れを成した服部は、苦し紛れに味方にパスを回すが……

「よし!カットいただき!」
「やられたッ!?」

 それを見越していた小畑にパスをカットされ、簡単に相手に得点を与えてしまった。

「「「ワーーーッ!!!」」」

 先程まで敗北ムードが支配していた六花大附属の応援席が、息を吹き返したように盛り上がりを見せる。

「いいぞーッ!真純くーん!」
「真純さーん!頑張ってくださーい!」

 歩美と百合華も、力の限り声を張り上げて声援を送る。
 六花大附属の後半戦が始まって初得点。たった2得点……しかし、そのたったワンゴールが、腐敗したムードを消し去り、再び勝利への希望を繋いだのだった。

「ぬぅアアアァァァァ――ッ!!」

 突然、希望を掻き消すような叫びが体育館全体に轟き、喜び勇んでいた会場が、一瞬で静寂に変わる。それは巨人の、地を揺るがす程の怒りだったが、キングオブマウンテンは全く動じていなかった。ただ真っ直ぐ、富士山フジヤマ巨人服部の血走った目を見据える。

「あーあ……キレちまった……ブチキレちまったよ……もうどうなっても知らねぇぞ?試合とかどーでもいい……お前を……お前をぶちのめしてヤる!」
「自分一人で試合しているような独りよがり野郎に、俺が倒せる訳がないだろう……?」
「何だと……!?」
「そのボールに染み付いた血と汗の意味を、存分に想い知るがいい!」
「テメェー……!!」
 『メンバーチェンジ!華園学園!』
 
 タイミングを見計らったように、審判が選手交代を知らせながら、ヒートアップしている2人の間に割って入る。
 その険しい表情から、これ以上続ければ退場も考慮していると容易に想像できた。

「チッ……!」

 わざとらしく大きな舌打ちをして服部は自身のポジションへ戻っていった。

「またお前と同じコートに立てたことを喜ぶべきなのかな?服部……」
「遅かったじゃねぇか、池谷……」

 後半戦の中盤、ついに華園学園のレギュラーメンバーが出揃った。
 ベンチや応援席からも、驚愕の声が上がる。まさか、地区大会の初戦から華園学園がレギュラーメンバーを出して来る、ましてやレギュラーメンバー全員など、前代未聞だったからだ。

「いよいよ、俺たちを全力で潰しに来るぞって感じだな……」

 流石の小畑も、前半戦からフル出場しているためか、疲労困憊の色が顔に出てきている。他のバスケ部員たちは、華園学園の入れ替え作戦に翻弄され、既に戦う気力は残っていなかった。

「大丈夫、心配いらないよ……」

 先程まで服部と睨み合っていたのが嘘のように、爽やかな顔に切り変わった真純が小畑を励ます。

「でもよ~、流石にこの状況じゃなぁー……」

 華園デカいのだけなら真純が食い止めてくれる。しかし、あの4番に戻られるともう止められない。正直、六花大俺たちの中で、あの4番を止められるのは、真純か勇志しかいない。

「ハア……部員たちと、勇志にデカイ口叩いた手前、『助けてくれー』何て言いづらいしなー……」

 柄にもなく弱気な小畑に、真純が再び爽やかな笑顔で肩に手を乗せる。

「だから大丈夫だって!そろそろ、あいつの堪忍袋の緒が切れる頃だから」

 真純がそう言い終わるとほぼ同時に、審判のホイッスルが再び鳴り響く。
 
『メンバーチェンジ!』
「ほらな?」
 
 試合再開の合図かと思いきや、審判が再びメンバーチェンジのコールを行う。
 そして、必然的に全員の視線がコートの中央へと注がれる。

『六花大附属高校、15番!』
「でも、まだ休憩して10分そこらだろ!?全快してないんじゃねぇか!?」
「あいつが待てないのは今に始まったことじゃないだろ?」

 『六花大のスピードスター』入月勇志の再臨をずっと待ち詫びていたかのように、体育館全体が揺れるような歓声に包まれた。

「待ちくたびれだぞーッ!」
「また奇跡を見せてくれーッ!」
 
 観客の歓声と小畑の心配を他所に、勇志はコートに入ると、チームメイトにそれぞれサムズアップをして健闘を讃えながらポジションについた。

「真純、すまん!第4クォーターまで待てなかった!」
「いいよ、そろそろ来るだろうと思ってたからさ」

 真純と話し終え、ポジションについた勇志に小畑が駆け寄り声を掛ける。

「勇志、悪い!結局巻き返されてこのザマだ……」

 68対81、得点差は13点、チームの疲労と残り時間を考えると、逆転するのは至難の業だろう。
 それでも、六花大附属のバスケ部メンバーの誰一人として、諦めているものはいない。その目に闘志の炎を絶やさず燃やし続けている。

「でも、負ける気なんて更々ないんだろ?」
「まあな!」

 一方、華園学園のレギュラーメンバーたちは、石頭監督から15番への最大級の警戒するよう指示を受けていた。

「やっとお出ましかよ15番!けどもう今はお前なんて眼中にねぇんだけどなー……」
「なら、お前に14番を止められるのか?服部」
「何やっても止めてやるよ……!」
「そうか……なら、俺は心置きなく彼と戦えるな……」

 そう言って、池谷は真っ直ぐ勇志を見据えた。
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