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3話 ビジネス

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「なんだよ源さん。ゴールドが集まってる講習でビジネスって」
「普通だったらありえない話だぜ。俺らゴールドは討伐を除けば高給取りだぜ、なんだそのビジネスってのは」

 屈強な一癖も二癖もあろう男たちが目を鋭くしながら問い詰める。さっきまで談笑していたただのおじさん達はもう居ない。まだ年月は浅くとも修羅場をくぐりぬけた猛者の目だ。

「まぁ落ち着いて聞け。俺も耳を疑ったんだがよ、新宿駅がダンジョン化しやがった」

 周りがざわつき、口々に事の重大さを認識する。 
 新宿駅といえば大阪駅を除けば1番のダンジョンと呼ばれる駅だ。出入口を間違えてしまえば大回りを強要するくせに構内も親切な案内はない。そんな人工ダンジョンが本当にダンジョンとなった。

 ゴールド調査員が各々ザワついた理由は大きく分けて二つ。一つ目は人工ダンジョンの調査が難航すること、そしてもうひとつが

「今回は生成ではなくダンジョン化だ。しかも新宿駅とかいう交通網のでけぇところだ⋯」
「源さん。そんなこたぁ分かってんだよ、いいから今回の迷宮病推定患者数⋯教えてくれよ」

 講習が始まったのが10時、今はまだ講習の触りの話をしただけで11時前だ。この時間帯なら瞬間的にかかるとしたら数百人が罹患したのは固いだろう。

「2000人強らしい⋯」

 ⋯は? 2000人だと。出勤ピークが済んでダンジョン生成の瞬間では数百人辺りだろうと踏んでいたが予想の数倍だ。

「な、なんで」

 俺はつい声に出してしまう。真宵の事もあって迷宮病に強く反応してしまう。

「オフピーク出勤の弊害だろうな⋯少なくない人数がその瞬間にいたそうだ。それに新宿駅に向かう電車も迷宮病の原因になったそうだ」
「電車⋯?」
「そこに向かう電車が満員のまま生成のタイミングでホームに向かっていたらしい。狙ってやったなら大したダンジョンだよ」
「駅のダンジョン化は今まで無かった⋯。早く動く物体なら迷宮病の判定に割り込む可能性があるのか⋯」
「今は緊急停止を外からかけて止めてある。電車のことは報道も流してねぇ、流れれば交通インフラは全てストップして日本は終わりだ」

 電車を止めれば人も貨物も止まる。全てをリモートで賄う訳にも行かず、AI化が進んだ現在でも人の手はやはり必要なものだ。
 人の手が入らなくなれば源さんの言った通り日本は壊滅的な打撃を受け、ダンジョン研究から早々に手を引くはめになる。

「つまり、ここにいるメンツで新宿のリアルダンジョンを調査しなければならないんすね」
「新宿駅がダンジョン化したなゴールド以上は確定だろう。シルバー以下にはちと荷が重い」

 シルバーを連れていくくらいなら一人の方がいい。新宿駅なんてモンスターダンジョンはそれくらいの危険度だろう。

「すまねぇ源さん俺たちゃ抜けるぜ。生きて帰ったら飲もうや」

 手を挙げて謝る者が数名。それにつられて手を挙げる者が10数名。

「俺も降りるぜ。新宿駅なんて迷宮駅がダンジョン化したんだ。攻略ルートも難易度も想像がつかねぇ」
「俺たちだって死ぬわけに行かない理由があるんだ。そのために働いているくらいだしな」
「僕も新宿駅はリスクが高すぎる。いくらビジネスでも抱えられる案件じゃない」

 口々にダンジョンに対して否定的な感情を垂れ流す。
 当たり前だ、この仕事に就くのは今すぐ金が必要で稼ぎたいやつばかりだ。理由は人それぞれだが死んでまで稼ごうとするやつは俺くらいだった。
 俺は多額の保険をかけて遺書にしたためている。俺が死んだ時に貯金と保険の全てを真宵に譲渡し、迷いが目を覚ましていない場合自動的に金額分の延命させるために使うこと。

 つまり俺は困った時には死ねば真宵だけは延命される。危険に飛び込むにはこの命は惜しいものじゃなかった。

「抜けてぇやつは抜けてくれ、元々今日は講習のみで終わるはずだったんだ。誰も責めやしねぇ」

 ガタガタと椅子を鳴らして大勢が立ち上がる。金額の話を最後にするのは命と金を天秤にかけないため。仕事内容のみでリスクに見合うかどうかを判断してもらうための常套手段だ。
 俺は座りながら今回の収入を考える。罹患者の数に立地と、最悪な条件がゴロゴロ詰まっている。
 これは高額な案件になる、そう思いながら扉が閉まるのを目を閉じて待った。

バタン

 数分経ち降りた者たちが退出し終えた。目を開くと残ったのは10人、やはり残るのは関わりのある連中ばかりだ。ネジのイカれた俺の周りには同じような欠陥品ばかりが並んでいた。
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