迷宮のすゝめ〜現実世界に生成されるリアルダンジョンで働きます〜

アヴィ丸

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5話 本格始動

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 八木とのひと騒ぎの直後ガチャリと源さんが戻ってきた。台車で防護服を持ってきて、脇にはノートパソコンを抱えている。
 本格的に新宿駅調査の算段がたち始める。

「さて勇、どこまでいった?」
「言われた通りできる所までのマッパー選びは済ませておきましたよ。八木とマプ男がやる」
「あとは?」
「できる所までなんで、あとは任せます。あ、雰囲気は良くしておきました」
「そりゃ大事だ」

 ため息混じりに源さんが指揮を取り始める。源さんは口ではこう言うが俺に時間を渡した時点でこうなることが目に見えてるはずだ。
 つまり新宿駅の難易度が高い可能性が濃厚だから雰囲気をやわらげてから作戦会議をしようと思ったのだろう。
 だが今この場に残るイカレ野郎共は金額を指定された時点で手前の命を捨てる覚悟がついている。必要以上のコミュニケーションは現場での判断を鈍らせるだけだ。

 俺たちは今から死にに行くようなものだ。マッパー2人を逃がせば今回の調査はクリア。誰が死ぬかはその時の状況次第だ。

「はぁ⋯」
「何もしてないんだから一息ついてないで会議始めるぞ。これが新宿駅の構内図だ」

 源さんがノートパソコンをいじるとプロジェクターもなしに壁にクリアに投影される。これもダンジョンの物質のおかげでできた技術だ。色を認識する物質が壁の色を認知して、そのデータを元に画像の濃淡を合わせてクリアに表示する。
 一昔前では想像できないような技術が今では生活の至る所に散りばめられている。
 ダンジョンの鉱物に可能性を見出した企業様様だ。

「利用したことがある者も多いと思う。2階には店が数件ありダンジョン化した今は開けている場所の可能性が高い。1階は駅のホームが並び地下がダンジョンと呼ばれる所以の迷路だな」

 源さんが簡単な説明をする。構内の見取り図を眺めながら調査員が各々気になる点を上げていく。

「んじゃボスがいるとしたらでかいヤツなら2階の開けた箇所、小さいヤツならB1の可能性がありますね」
「塞がっている通路を早々に確認しなければ確実に迷うなこれ」
「いや新しく生まれた通路の確認も早くしないと一気に迷い込むぞ」

 シンプルな内容の確認だが隊員たちは欠かさない。誰かがやるではなく、一人一人の意識が高くて気がつくからゴールドなのだ。
 源さんは隊員達の発言を一通り聞いたあと確認事項を続ける。

「1階の線路上にボスが湧く可能性は極めて低いが規模が規模なだけ雑魚は湧く可能性が高い。今回は高難易度のため新宿駅前でアサルトライフルを渡す。訓練で使っているものの迷宮素材版だ」
「弾もバレルも変わっちゃ当たらないでしょ源さん。まさかダンジョン内で試し撃ちする訳ないですよね」

 俺が気にしていることを後方の調査員が問いかける。それもそのはず、自衛の訓練で使う銃は軒並み地上の素材で作られた旧式だ、迷宮の素材で作られた新型なんて撃つ機会もなかった。弾を一発撃つだけでも何倍もコストがかかる迷宮素材の銃は訓練で用いる訳にはいかなかったのだ。

「試し撃ちできるほど弾を用意できていない。幸いダンジョンは新宿駅だ、通路を探せばいくらでもある。撃つのは通路にモンスター共を誘い込んで隊列を組んで撃つ。長篠みたいなもんだ」
「それなら俺らでもやれますね。最低でも牽制にでもなればラッキーだ」

 ご指名のサブリーダーとして話の落ちどころを汲む。俺が肯定した言葉を聞いて何人かほっとした様子だ。
 モンスターを殺せないがために調査員になったのに自衛のために銃を握らなければならないジレンマ。アサルトライフルの重みはナイフと拳銃、投擲物しか持ったことのない俺たちを否応なく緊張させるだろう。

(もう少し緊張解いとかないと後で死ぬな⋯)

 源さんもほっとした隊員達の様子から察したのか一言付け加える。

「俺達は調査員だ。討伐隊に仕事を引き継いで踏破されるのを待つまでが仕事だ。先陣切って死地に飛び込むお前らを俺は一生誇りに思う」

 出た。源さんの誇りに思う。ダンジョン調査員の中で長くゴールドのランクに居続ける生きる伝説。プラチナに上がる飛び抜けた業績はない変わりに、難易度の高いダンジョンも安定して情報を討伐隊に渡してきた。
 毎年開かれる講習会で講師を務める程の男だ。経歴や雰囲気はやはりゴールドの一員としては憧れのようなものを抱く者も多い。少なくとも源さんと同じ現場を体験したもので悪くいう者は誰一人としていなかった。

「さぁそれじゃあ新宿駅に向かおう、ダンジョンに入る前に新宿駅構内の見取り図を頭に入れておくことと、トランシーバーのチャンネルの確認、防護服と所持アイテムに不備が無いかそれぞれ確認しておけよ! 10分後バスに集合!」
「「「はい!」」」

 立ち上がった男達のむさ苦しい返事が響き渡る。生き残るために、この一声で覚悟を決めた。
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