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26 スルトへの治癒
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ノーマを無事救出した翌日の午後、スルトが病院から戻ってきた。
しかしまだ傷の具合は良くないため、サーシャの部屋ではなく、男娼や娼妓たちの住まう寮の方に寝床は用意された。
この時点でサーシャはまだ帰ってきておらず、スルトの希望によりアンバーらにも事後報告だったが、この時初めてスルトの状態を知ったノーマが寮に乗り込んで行った。
最初は誰の面会も受けないと突っぱねていたスルトだが、ノーマが治癒の話を持ち出すと女将が強引にスルトを説得し、ノーマを部屋へ連れて行った。
マクシムから暴行を受けたと聞いてはいたが、実際に布団で寝ているスルトを見て、ノーマは絶句した。
顔の鬱血の色は濃く、腫れは赤黒く色を変え、スルトは昨日よりもひどく痛々しい姿になっていた。口の中も腫れているのか、うまく喋ることができず、痛みで寝返りもままならない状況だった。
スルトは、ノーマの姿を目に捉えると、うまく動かせない顔で困ったようなそんな表情をした。
「……スルト。俺が治すよ。お願いだ、治癒をさせて」
ノーマが顔を近づけると、動かせる方の手でノーマの頭をぽんぽんと叩いた。
それはまるで、無事で良かったと伝えているようで、ノーマは涙が溢れた。
「お願いだ、スルト。口を開けてくれ。粘膜からのほうが治りが早いから。……もし昂ぶるようならサーシャ様を呼ぶ。でもそのときにはきっとかなりよくなってる」
スルトは首を振り、うまく動かせない口でノーマに伝える。
『特別な治癒は必要ない。でも普通の治癒なら受けるよ』
ノーマなら普通の治癒でも回復は早い。だがひどい傷の場合は、何度か治癒を施さないと治りきらない。
痛みをすぐに取り除くためにも、ノーマは口による粘膜からの治癒を行いたかったが、スルトがそれを拒絶した。
ノーマがこれまでに大人たちからいいようにされてできた心の傷に、スルトは寄り添うと決めていた。
強制的に行われる粘膜接触がいかに不快か、それは男娼であるスルトが一番よく分かっている。騙され強要され続けたノーマをスルトは弟のように感じ、守ってやると決めていた。
「スルト……ありがとう」
スルトの気持ちにノーマは心から感謝した。本当はスルトが相手なら口付けくらい厭わないが、スルトの心遣いを無碍にしたくなかった。
スルトの希望通り手から治癒を施すため、スルトの手を握り、じわじわと力を流す。
治癒によって感じる心地よさや快楽は、治癒の力によって細胞が活性化される際の体への負担を軽減させるため脳が変換しているのではないかと、何かの書物で読んだ。
うまくバランスをとり、過度なストレスを与えなければノーマの治癒も性的な昂りを抑制できるはず。
ノーマはスルトのために、これまで試みなかった力のコントロールに集中した。
しばらくしてスルトの顔から力が抜けたのを見て、傷の痛みが和らいだと判断し、ノーマは治癒を終わらせた。
治癒は傷の治りを早くする効果があるが、負担がかからないようにゆっくり時間をかけて行う。 何日かに分けて治癒を施せば、きっと痕も残らないはずだ。
「また明日来ます」
心配していた昂りもみられず、痛みが和らぎ眠気が出たのか、スルトが穏やかな顔で寝息を立てたのを見て、ノーマは安堵しスルトの部屋を出た。
△△△
その日の夕刻、サーシャが戻ってきた。
余程疲れたのか、部屋へ戻るなりドカッと横になり寝てしまった。
夜半過ぎにのそのそ起き出して、飯を食べるとそのままどこかへ行ってしまったが、すぐに戻って来ていたようだった。
翌日も朝から出て行き、また夕刻になると戻り、食事をしたらまた何処かへ行くというのをを繰り返していたが、アンバーも何も言わなかった。
三人がこの街を出立する予定は、ノーマ拉致事件で延び延びとなっていたが、スルトへの治癒のこともあって、スルトの怪我の快癒を待ち、それからとなった。
ノーマは毎日スルトの元へ通い、サーシャは一人寝に文句を言うことなく、日々過ごしていた。
しかしまだ傷の具合は良くないため、サーシャの部屋ではなく、男娼や娼妓たちの住まう寮の方に寝床は用意された。
この時点でサーシャはまだ帰ってきておらず、スルトの希望によりアンバーらにも事後報告だったが、この時初めてスルトの状態を知ったノーマが寮に乗り込んで行った。
最初は誰の面会も受けないと突っぱねていたスルトだが、ノーマが治癒の話を持ち出すと女将が強引にスルトを説得し、ノーマを部屋へ連れて行った。
マクシムから暴行を受けたと聞いてはいたが、実際に布団で寝ているスルトを見て、ノーマは絶句した。
顔の鬱血の色は濃く、腫れは赤黒く色を変え、スルトは昨日よりもひどく痛々しい姿になっていた。口の中も腫れているのか、うまく喋ることができず、痛みで寝返りもままならない状況だった。
スルトは、ノーマの姿を目に捉えると、うまく動かせない顔で困ったようなそんな表情をした。
「……スルト。俺が治すよ。お願いだ、治癒をさせて」
ノーマが顔を近づけると、動かせる方の手でノーマの頭をぽんぽんと叩いた。
それはまるで、無事で良かったと伝えているようで、ノーマは涙が溢れた。
「お願いだ、スルト。口を開けてくれ。粘膜からのほうが治りが早いから。……もし昂ぶるようならサーシャ様を呼ぶ。でもそのときにはきっとかなりよくなってる」
スルトは首を振り、うまく動かせない口でノーマに伝える。
『特別な治癒は必要ない。でも普通の治癒なら受けるよ』
ノーマなら普通の治癒でも回復は早い。だがひどい傷の場合は、何度か治癒を施さないと治りきらない。
痛みをすぐに取り除くためにも、ノーマは口による粘膜からの治癒を行いたかったが、スルトがそれを拒絶した。
ノーマがこれまでに大人たちからいいようにされてできた心の傷に、スルトは寄り添うと決めていた。
強制的に行われる粘膜接触がいかに不快か、それは男娼であるスルトが一番よく分かっている。騙され強要され続けたノーマをスルトは弟のように感じ、守ってやると決めていた。
「スルト……ありがとう」
スルトの気持ちにノーマは心から感謝した。本当はスルトが相手なら口付けくらい厭わないが、スルトの心遣いを無碍にしたくなかった。
スルトの希望通り手から治癒を施すため、スルトの手を握り、じわじわと力を流す。
治癒によって感じる心地よさや快楽は、治癒の力によって細胞が活性化される際の体への負担を軽減させるため脳が変換しているのではないかと、何かの書物で読んだ。
うまくバランスをとり、過度なストレスを与えなければノーマの治癒も性的な昂りを抑制できるはず。
ノーマはスルトのために、これまで試みなかった力のコントロールに集中した。
しばらくしてスルトの顔から力が抜けたのを見て、傷の痛みが和らいだと判断し、ノーマは治癒を終わらせた。
治癒は傷の治りを早くする効果があるが、負担がかからないようにゆっくり時間をかけて行う。 何日かに分けて治癒を施せば、きっと痕も残らないはずだ。
「また明日来ます」
心配していた昂りもみられず、痛みが和らぎ眠気が出たのか、スルトが穏やかな顔で寝息を立てたのを見て、ノーマは安堵しスルトの部屋を出た。
△△△
その日の夕刻、サーシャが戻ってきた。
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夜半過ぎにのそのそ起き出して、飯を食べるとそのままどこかへ行ってしまったが、すぐに戻って来ていたようだった。
翌日も朝から出て行き、また夕刻になると戻り、食事をしたらまた何処かへ行くというのをを繰り返していたが、アンバーも何も言わなかった。
三人がこの街を出立する予定は、ノーマ拉致事件で延び延びとなっていたが、スルトへの治癒のこともあって、スルトの怪我の快癒を待ち、それからとなった。
ノーマは毎日スルトの元へ通い、サーシャは一人寝に文句を言うことなく、日々過ごしていた。
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