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27※ サーシャとスルトの約束
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「……ねえ、お客人、毎日来なくても大丈夫だからさ」
夜半前、ここ三日ほど定刻になるとサーシャがスルトの元へ訪れていた。
スルトが戻って来た最初の日は、まだ話すこともままならないスルトとは面会謝絶だとサーシャは門前払いをくらったが、翌日はノーマの治癒の効果か、腫れも治まり食事もとれるようになってきたということで、部屋の外までならと寮の中に入ることを許された。
本来なら寮に客は入ることができないが、サーシャの無言の圧力に負けたのか、それともスルトのために行動したサーシャへの女将なりの感謝の印なのか、サーシャが何も言わなくても行けば入らせてくれた。
だがスルトはまだ顔に傷が残っているからと、部屋には入れない。
「……お客人、溜まっているなら他の人呼んでくれていいんだよ。俺の傷はまだしばらくかかるからさ」
サーシャは逗留代として、実は馴染みの相方スルトの指名料を含めた金額を支払っている。
スルトはそのことも気になっていた。もし他の子を呼ぶなら、自分の指名料をその子に譲るつもりで、女将にもそれを伝えていた。
だがサーシャはスルトが会うの拒んでも、他の者を呼んだりすることはしなかった。
それどころか毎日来てはただそこにいる。こちらから話しかければ二言三言返事をするが、それだけ。
しばらくすると帰っていく。
彼の真意をはかりかねていたスルトだが、内心ちょっとだけ嬉しいと思う気持ちもある。
今日もきっとこちらが元気だと分かれば帰っていくだろうと思っていた。
しかし今日は冒頭のセリフの後、急にサーシャが一言「入るぞ」と告げて、スルトが返事を返す間もなく勝手に部屋に入ってきてしまった。
「え?え?」
スルトが顔を見られないように慌てて布団を被る。
布団にくるまったスルトの背後にドカッと座り込むと、布団越しに頭を撫でた。
「勝手にすまぬ。スルトの顔が見たくなった」
「あ、ごめん、まだ打ち身が残ってて。こんな顔じゃあきっと萎えちゃうからさ。……それにまだ痛いんだ」
「スルト、多少の傷では我は萎えたりはせん。戦でそういう怪我は見慣れておる。それに傷があろうがなかろうが、スルトはスルトだ」
「……」
かぶった布団を押さえるスルトの手が震える。
「俺のせいで、逗留期間が長引いてるよね。もういいからさ、予定通り出立してくれていいんだよ? ノーマにもそう言ってるんだけど」
「スルト」
「俺のことは気にするなって」
「スルト」
サーシャがスルトを上から覆うように布団ごと抱きかかえると、スルトがびくりと固まった。
「スルト、お前が元気になるまでは俺はここに居る。金のことは気にするな。俺はそこまでケチくさい男じゃない」
「お客人、言葉……」
サーシャがいつもの芝居がかった口調ではなく、常人の男のような真剣な物言いでスルトに言い聞かせると、スルトが驚き顔をあげサーシャを見た。
「なんだ?」
「……そういう普通の話し方もできるんだ 」
「ははっ、まあな。……怪我ももうそこまでではないようで。安心いたした」
スルトの顔を見ると、安堵したようにサーシャはまた普段の口調に戻った。
「ちょ、ちょっと、戻ってる! 普通の! 普通の喋り方してみてくれよ」
スルトはまだ鬱血痕の残る顔を眼前に晒していることも忘れ、サーシャの言葉に興奮し、鼻息荒く懇願した。
「ふむ、話し言葉を変えるのもたまには効果がありますな。では普通の物言いであれば、今日は共寝を許してくれますかな」
「……ここ連れ込み禁止なんだよね。女将さんが通したってことはいいのかな…」
スルトが悩むそぶりを見せると、サーシャがニヤリと笑って、スルトに軽く口付ける。
「分かった。外に漏れないように静かにすればいいんだな。 声を出すなよ、スルト」
スルトの部屋からかすかな水音が漏れ聞こえ始めた。
スルトとサーシャは布団の中で互いの体をぴったりと重なり合わせ、声を漏らさぬように舌をもつれ合わせた。
スルトの体を気遣い、サーシャも今夜は挿入はせず互いのモノを擦り合わせるだけで終わらせるつもりでいたが、指はそれを惜しむかのようにスルトの後孔を弄っている。
「スルト、体は痛くないか。無理をする前に言え」
サーシャの分厚い体と布団に挟まれるとスルトは暑くて敵わない。
それでも体中に汗をかきつつ、滑った足をサーシャに巻きつける。
「ん、ん…んふぅ、大丈夫…かな。それより、お客人の話し方、結構クる、かも」
サーシャはそれを聞くと、喉で笑って耳朶を噛み「今はサーシャでいい」と囁いた。
「あ、あ、あ…サーシャ、サーシャ…」
サーシャはスルトの体を弄り、首筋から鎖骨に舌を這わせ、胸の先端を指で潰す。
「あ、ちょっと、サーシャ、声出るからッ」
胸をつまみつつ、尻を弄ってやるとスルトが抗議の声をあげた。
「残念だ」
スルトの抗議を封じるように、唇を貪り、今度はすっかり起立したお互いのモノを重ね合わせて片手で扱きあげた。
「んっ、ふぅ…!はぁ…っんん……ッ」
サーシャの剣だこのある大きな肉感の良い手とごつごつした逸物で扱かれ、スルトはあまりの気持ち良さに足先を突っ張らせて、浮かせた腰を無意識に揺らしてしまう。
「ん 、ん、ん、んッ、はぁ…ッ!」
口内ではサーシャの厚い舌が息ができぬほど暴れまわり、声が出せぬ代わりに口の端からは唾液が溢れる。
スルトの陰茎からは先ほどから激しく扱かれ続けるせいで先走りが滴り、腰を揺らすことを止めることもできず、何もかもサーシャに支配されてしまっていた。
「はっ、ああっ、イクイクイクっ!」
連続し声を上げ太腿の内側がビクビクと痙攣したかと思うと、スルトが精を放った。
「はぁ、はぁ、ご、ごめん、先に出た」
息を荒くしたまま、スルトが謝ると、サーシャがちゅうと音を立てて口を吸った。
そしてスルトの手を取り、自分のまだ固くそそり勃っている逸物を両手で包ませると「そのまま手伝ってくれ」と、スルトの手で自慰を始めた。
サーシャ自身、こんなに早く絶頂が訪れるのは珍しく、サーシャは先走りとスルトの精をたっぷり纏わせた吐精寸前の逸物をスルトの手に擦りつけた。
ハアハアと荒い息を吐きながら激しく腰を揺り動かすと、スルトの手と腹の上に大量の熱い飛沫を吐き出した。
「少し無理をさせたか?」
汗にまみれつつスルトを気遣うと、息を整えてから、自分やスルトの出したものを片付けるために起き上がった。
「サーシャ……」
「ん?なんだ」
「……やっぱりあんたはいい男だな」
「そうか。まあ皆そう言うな」
サーシャはいつものように軽口を叩く。
「俺、あんたに惚れたかも」
スルトは真面目な顔で、自分の体の汚れを拭いてくれているサーシャを見上げる。
「……ね、俺を殴った男をやっつけてくれたんだって? ノーマが言ってた。スルトのこと殴ったのはお前かって、鬼みたいに怒ってたって」
スルトはノーマから普段飄々としたサーシャが、自分のために怒りを露わにし犯人を撃退したと聞いて、心底嬉しかった。病院で怪我の状態を知り、怒のあまり壁に穴を開けたこともスルトの心を鷲掴みにするには充分だった。
これまで恋人であっても、こんなに自分を想ってくれた人などいない。
「これで惚れないわけないじゃん。……本気になる前に、俺が寝込んでる間に出て行って欲しかったよ。なのに毎日来てさ、名前も呼んでいいなんて。俺、勘違いしちゃうよ」
サーシャが汚れを拭き取る手を止め、スルトに覆いそっと被さり唇を合わせる。スルトの柔らかい唇を優しく吸い上げると、まだ痣の残る頬を手で包んだ。
「スルト、お前はいい男だ。俺もお前のことを気に入っている。俺についてくるか? だが俺は、お前一人だけを囲うことはできないし、国に帰れば子を成すことも求められる。……身勝手な話になるがそれでもいいか」
スルトは頬に添えられたサーシャの手に、自分の手を重ねる。
「俺は男娼だよ。あんたみたいな男に本妻にしろだなんて言えないよ。正式な間柄でなくてもいい、間夫でもいいよ。何かあった時にあんたの側にいれたらそれでいい。それにあんたみたいな絶倫、一人じゃあキツイよ 」
そう言って笑うスルトに、サーシャは双眸を細めた。
「間夫などと言うな。では、ここから出られるように手配しよう。あちらでお前が不自由しないよう、国にもお前の事を知らせておく」
その言葉にスルトは少し困った顔を見せた。
「……俺、実はここに借金してんだ。あとちょっとで返済できる。返済ができたら追いかけるよ」
スルトの借金は昔男に騙されて作ったもので、この娼館が肩代わりしてくれていた。
この時サーシャは、その分も含めた金額を店側に提示し身請するつもりであったが、スルトは断った。
サーシャの長逗留のお陰で返済の目処がたち、これ以上迷惑はかけられぬと全てを返し終えてから追いかけると誓った。
「俺が他にしてやれることはないか?」
「うーん、あ、あれ…………」
「なんだ?」
スルトが恥ずかしそうに頬を染め、布団で口許を隠し、ごにょごにょと何か言った。
「なんだ?」
よく聞こえなかったサーシャがスルトに耳を寄せると、スルトは口を布団から出して小さく「俺も杏の実が……」と言った。
「杏?……ああ、あれか、アンバー様がお持ちの? あれが欲しいのか? すまんが、俺は持っていないから、譲ってもらってこよう」
そう言って立ち上がろうとするので、スルトは慌てて止めた。
「あ、いや、違うんだ。サーシャ、杏が食べたい訳じゃなくて!」
「ん? 違うのか。…………ああ、すまん、察しが悪かったな。そういうことか」
スルトの言わんとすることにやっと気が付き、サーシャは自分の衣服を手繰り寄せた。
そして、どっかりと胡座をかき、普段腰に付けている革袋を開けて、中から携帯食を取り出した。
「俺はアンバー様みたいな気の利いたものは持っておらん。これはただの携帯食だがいいのか?」
そう言ってサーシャが取り出したのは、木の実を砕いて固めたものだった。
「ふふ、ノーマがあるじどのにいつも食べさせて貰っていて、ちょっといいなって思ってたんだ」
などと可愛らしいことを言うと、サーシャが食べやすそうなものを選んで指でつまみ、スルトの口に持っていく。
スルトも嬉しそうに目を細め、かわいらしく口を開けた。
指でぐいっと口に押し込んでやると、スルトが期待した顔で咀嚼を始める。が、……二度三度もぐもぐと噛み砕くと、すぐに動きが止まった。
「……なにこれ」
眉根を寄せたスルトの顔を見て、サーシャが堪らず吹き出した。
「…っく、はははは!だから言っただろう!気の利いたものは持っておらんと」
そんなにまずかったか?とスルトの口に指をいれ掻き出すと水を渡した。
そしてもう一つ、小さな容器を取り出すと、何やらねっとりとしたものを小指で掬い、スルトの口になすりつけた。
「ん? 甘い!」
「そうか。生薬と蜜を煮詰めて作った。急場で滋養が必要な時はこれを嘗める」
そう言ってもうひと掬い小指にとると、スルトの口に持っていった。
スルトは喜んで赤子のように指に吸い付き、舌を絡め舐めとった。
それを見てサーシャは自分の舌にもそれをなすりつけると、スルトの口から指を抜き、代わりに口を寄せ舌を滑り込ませた。
スルトの舌に甘い蜜とサーシャの厚い舌がねっとりと絡みつき、恍惚とした意識の中、しばらくそうして二人で蜜を分け合った。
夜半前、ここ三日ほど定刻になるとサーシャがスルトの元へ訪れていた。
スルトが戻って来た最初の日は、まだ話すこともままならないスルトとは面会謝絶だとサーシャは門前払いをくらったが、翌日はノーマの治癒の効果か、腫れも治まり食事もとれるようになってきたということで、部屋の外までならと寮の中に入ることを許された。
本来なら寮に客は入ることができないが、サーシャの無言の圧力に負けたのか、それともスルトのために行動したサーシャへの女将なりの感謝の印なのか、サーシャが何も言わなくても行けば入らせてくれた。
だがスルトはまだ顔に傷が残っているからと、部屋には入れない。
「……お客人、溜まっているなら他の人呼んでくれていいんだよ。俺の傷はまだしばらくかかるからさ」
サーシャは逗留代として、実は馴染みの相方スルトの指名料を含めた金額を支払っている。
スルトはそのことも気になっていた。もし他の子を呼ぶなら、自分の指名料をその子に譲るつもりで、女将にもそれを伝えていた。
だがサーシャはスルトが会うの拒んでも、他の者を呼んだりすることはしなかった。
それどころか毎日来てはただそこにいる。こちらから話しかければ二言三言返事をするが、それだけ。
しばらくすると帰っていく。
彼の真意をはかりかねていたスルトだが、内心ちょっとだけ嬉しいと思う気持ちもある。
今日もきっとこちらが元気だと分かれば帰っていくだろうと思っていた。
しかし今日は冒頭のセリフの後、急にサーシャが一言「入るぞ」と告げて、スルトが返事を返す間もなく勝手に部屋に入ってきてしまった。
「え?え?」
スルトが顔を見られないように慌てて布団を被る。
布団にくるまったスルトの背後にドカッと座り込むと、布団越しに頭を撫でた。
「勝手にすまぬ。スルトの顔が見たくなった」
「あ、ごめん、まだ打ち身が残ってて。こんな顔じゃあきっと萎えちゃうからさ。……それにまだ痛いんだ」
「スルト、多少の傷では我は萎えたりはせん。戦でそういう怪我は見慣れておる。それに傷があろうがなかろうが、スルトはスルトだ」
「……」
かぶった布団を押さえるスルトの手が震える。
「俺のせいで、逗留期間が長引いてるよね。もういいからさ、予定通り出立してくれていいんだよ? ノーマにもそう言ってるんだけど」
「スルト」
「俺のことは気にするなって」
「スルト」
サーシャがスルトを上から覆うように布団ごと抱きかかえると、スルトがびくりと固まった。
「スルト、お前が元気になるまでは俺はここに居る。金のことは気にするな。俺はそこまでケチくさい男じゃない」
「お客人、言葉……」
サーシャがいつもの芝居がかった口調ではなく、常人の男のような真剣な物言いでスルトに言い聞かせると、スルトが驚き顔をあげサーシャを見た。
「なんだ?」
「……そういう普通の話し方もできるんだ 」
「ははっ、まあな。……怪我ももうそこまでではないようで。安心いたした」
スルトの顔を見ると、安堵したようにサーシャはまた普段の口調に戻った。
「ちょ、ちょっと、戻ってる! 普通の! 普通の喋り方してみてくれよ」
スルトはまだ鬱血痕の残る顔を眼前に晒していることも忘れ、サーシャの言葉に興奮し、鼻息荒く懇願した。
「ふむ、話し言葉を変えるのもたまには効果がありますな。では普通の物言いであれば、今日は共寝を許してくれますかな」
「……ここ連れ込み禁止なんだよね。女将さんが通したってことはいいのかな…」
スルトが悩むそぶりを見せると、サーシャがニヤリと笑って、スルトに軽く口付ける。
「分かった。外に漏れないように静かにすればいいんだな。 声を出すなよ、スルト」
スルトの部屋からかすかな水音が漏れ聞こえ始めた。
スルトとサーシャは布団の中で互いの体をぴったりと重なり合わせ、声を漏らさぬように舌をもつれ合わせた。
スルトの体を気遣い、サーシャも今夜は挿入はせず互いのモノを擦り合わせるだけで終わらせるつもりでいたが、指はそれを惜しむかのようにスルトの後孔を弄っている。
「スルト、体は痛くないか。無理をする前に言え」
サーシャの分厚い体と布団に挟まれるとスルトは暑くて敵わない。
それでも体中に汗をかきつつ、滑った足をサーシャに巻きつける。
「ん、ん…んふぅ、大丈夫…かな。それより、お客人の話し方、結構クる、かも」
サーシャはそれを聞くと、喉で笑って耳朶を噛み「今はサーシャでいい」と囁いた。
「あ、あ、あ…サーシャ、サーシャ…」
サーシャはスルトの体を弄り、首筋から鎖骨に舌を這わせ、胸の先端を指で潰す。
「あ、ちょっと、サーシャ、声出るからッ」
胸をつまみつつ、尻を弄ってやるとスルトが抗議の声をあげた。
「残念だ」
スルトの抗議を封じるように、唇を貪り、今度はすっかり起立したお互いのモノを重ね合わせて片手で扱きあげた。
「んっ、ふぅ…!はぁ…っんん……ッ」
サーシャの剣だこのある大きな肉感の良い手とごつごつした逸物で扱かれ、スルトはあまりの気持ち良さに足先を突っ張らせて、浮かせた腰を無意識に揺らしてしまう。
「ん 、ん、ん、んッ、はぁ…ッ!」
口内ではサーシャの厚い舌が息ができぬほど暴れまわり、声が出せぬ代わりに口の端からは唾液が溢れる。
スルトの陰茎からは先ほどから激しく扱かれ続けるせいで先走りが滴り、腰を揺らすことを止めることもできず、何もかもサーシャに支配されてしまっていた。
「はっ、ああっ、イクイクイクっ!」
連続し声を上げ太腿の内側がビクビクと痙攣したかと思うと、スルトが精を放った。
「はぁ、はぁ、ご、ごめん、先に出た」
息を荒くしたまま、スルトが謝ると、サーシャがちゅうと音を立てて口を吸った。
そしてスルトの手を取り、自分のまだ固くそそり勃っている逸物を両手で包ませると「そのまま手伝ってくれ」と、スルトの手で自慰を始めた。
サーシャ自身、こんなに早く絶頂が訪れるのは珍しく、サーシャは先走りとスルトの精をたっぷり纏わせた吐精寸前の逸物をスルトの手に擦りつけた。
ハアハアと荒い息を吐きながら激しく腰を揺り動かすと、スルトの手と腹の上に大量の熱い飛沫を吐き出した。
「少し無理をさせたか?」
汗にまみれつつスルトを気遣うと、息を整えてから、自分やスルトの出したものを片付けるために起き上がった。
「サーシャ……」
「ん?なんだ」
「……やっぱりあんたはいい男だな」
「そうか。まあ皆そう言うな」
サーシャはいつものように軽口を叩く。
「俺、あんたに惚れたかも」
スルトは真面目な顔で、自分の体の汚れを拭いてくれているサーシャを見上げる。
「……ね、俺を殴った男をやっつけてくれたんだって? ノーマが言ってた。スルトのこと殴ったのはお前かって、鬼みたいに怒ってたって」
スルトはノーマから普段飄々としたサーシャが、自分のために怒りを露わにし犯人を撃退したと聞いて、心底嬉しかった。病院で怪我の状態を知り、怒のあまり壁に穴を開けたこともスルトの心を鷲掴みにするには充分だった。
これまで恋人であっても、こんなに自分を想ってくれた人などいない。
「これで惚れないわけないじゃん。……本気になる前に、俺が寝込んでる間に出て行って欲しかったよ。なのに毎日来てさ、名前も呼んでいいなんて。俺、勘違いしちゃうよ」
サーシャが汚れを拭き取る手を止め、スルトに覆いそっと被さり唇を合わせる。スルトの柔らかい唇を優しく吸い上げると、まだ痣の残る頬を手で包んだ。
「スルト、お前はいい男だ。俺もお前のことを気に入っている。俺についてくるか? だが俺は、お前一人だけを囲うことはできないし、国に帰れば子を成すことも求められる。……身勝手な話になるがそれでもいいか」
スルトは頬に添えられたサーシャの手に、自分の手を重ねる。
「俺は男娼だよ。あんたみたいな男に本妻にしろだなんて言えないよ。正式な間柄でなくてもいい、間夫でもいいよ。何かあった時にあんたの側にいれたらそれでいい。それにあんたみたいな絶倫、一人じゃあキツイよ 」
そう言って笑うスルトに、サーシャは双眸を細めた。
「間夫などと言うな。では、ここから出られるように手配しよう。あちらでお前が不自由しないよう、国にもお前の事を知らせておく」
その言葉にスルトは少し困った顔を見せた。
「……俺、実はここに借金してんだ。あとちょっとで返済できる。返済ができたら追いかけるよ」
スルトの借金は昔男に騙されて作ったもので、この娼館が肩代わりしてくれていた。
この時サーシャは、その分も含めた金額を店側に提示し身請するつもりであったが、スルトは断った。
サーシャの長逗留のお陰で返済の目処がたち、これ以上迷惑はかけられぬと全てを返し終えてから追いかけると誓った。
「俺が他にしてやれることはないか?」
「うーん、あ、あれ…………」
「なんだ?」
スルトが恥ずかしそうに頬を染め、布団で口許を隠し、ごにょごにょと何か言った。
「なんだ?」
よく聞こえなかったサーシャがスルトに耳を寄せると、スルトは口を布団から出して小さく「俺も杏の実が……」と言った。
「杏?……ああ、あれか、アンバー様がお持ちの? あれが欲しいのか? すまんが、俺は持っていないから、譲ってもらってこよう」
そう言って立ち上がろうとするので、スルトは慌てて止めた。
「あ、いや、違うんだ。サーシャ、杏が食べたい訳じゃなくて!」
「ん? 違うのか。…………ああ、すまん、察しが悪かったな。そういうことか」
スルトの言わんとすることにやっと気が付き、サーシャは自分の衣服を手繰り寄せた。
そして、どっかりと胡座をかき、普段腰に付けている革袋を開けて、中から携帯食を取り出した。
「俺はアンバー様みたいな気の利いたものは持っておらん。これはただの携帯食だがいいのか?」
そう言ってサーシャが取り出したのは、木の実を砕いて固めたものだった。
「ふふ、ノーマがあるじどのにいつも食べさせて貰っていて、ちょっといいなって思ってたんだ」
などと可愛らしいことを言うと、サーシャが食べやすそうなものを選んで指でつまみ、スルトの口に持っていく。
スルトも嬉しそうに目を細め、かわいらしく口を開けた。
指でぐいっと口に押し込んでやると、スルトが期待した顔で咀嚼を始める。が、……二度三度もぐもぐと噛み砕くと、すぐに動きが止まった。
「……なにこれ」
眉根を寄せたスルトの顔を見て、サーシャが堪らず吹き出した。
「…っく、はははは!だから言っただろう!気の利いたものは持っておらんと」
そんなにまずかったか?とスルトの口に指をいれ掻き出すと水を渡した。
そしてもう一つ、小さな容器を取り出すと、何やらねっとりとしたものを小指で掬い、スルトの口になすりつけた。
「ん? 甘い!」
「そうか。生薬と蜜を煮詰めて作った。急場で滋養が必要な時はこれを嘗める」
そう言ってもうひと掬い小指にとると、スルトの口に持っていった。
スルトは喜んで赤子のように指に吸い付き、舌を絡め舐めとった。
それを見てサーシャは自分の舌にもそれをなすりつけると、スルトの口から指を抜き、代わりに口を寄せ舌を滑り込ませた。
スルトの舌に甘い蜜とサーシャの厚い舌がねっとりと絡みつき、恍惚とした意識の中、しばらくそうして二人で蜜を分け合った。
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