神官の特別な奉仕

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スーシリアム神皇国

44 ダイジュと皇子の謁見

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「まだアンブリーテス皇子との謁見は叶わないのですか?」

 謁見申請の進捗を聞きに神殿の事務を訪れたダイジュ監督官だったが、約束の半月を過ぎたというのに皇子側から返事はないということに、珍しく苛立ちを見せた。

「いったいどういうおつもりなのか。ノーマ殿との接点を持ちたがっておられたのはあちらだと思っておりましたがね」

 数日前ノーマが城で皇子が女性と共にいる所を見てから、ノーマの訓練が滞っていた。動揺が尾を引き、なかなか調整がうまくできないのだ。
 ダイジュとしては、アンブリーテス皇子のことで不安定になるノーマをなんとかしたい。それがあるからこちらから謁見を申し込んでいるのに、なかなか受理されないことに不満を抱いていた。

 ダイジュは苛立ちに任せて、その場で今度はノーマではなく、自身の名でアンブリーテス皇子との謁見を申し込んだ。
 どうせ忙しいからと通らないだろうと高を括っていたが、なんと予想に反し、今度はすんなり通り、翌日には謁見の日程が組まれることになってしまった。

 ダイジュはあまりのスピード受理に驚いた。普通・・ならこんなにも早くに申請が通るものなのかと。

 謁見の理由が『研究について』であることや希望時間が短いこともすんなり通った理由ではあるとは思うが……。
 だがノーマの申請も希望時間が違うだけで、謁見理由は同じだ。

 これではっきりした。
 ノーマ・・・の名前が謁見の申請の妨げになっていたということが。
 すなわちノーマ名義の謁見申請が、皇子に伝わることなく受付けの官吏のほうで握りつぶされていたということだ。

「なるほどなるほど」

 ダイジュは合点がいったと顎を指で擦る。
 せっかく申請が通ったのだ。

 なかなかお会いできないアンブリーテス皇子と直接お会いする絶好の機会だ。ノーマのことも含め、しっかりお伺いさせていただこうではないか。



 △△△



 この日ダイジュは皇子宮の謁見の間に通された。はじめて入る皇子宮に多少緊張しつつも、その見事な内装にしばし見惚れた。

 許された時間はたったの15分。
 それでも愚痴を言うくらいには充分だ。

 美しい装飾を眺めつつ、これまた立派な細工の施された椅子に腰掛けしばらく待っていると、皇子が現れた。

 遠目からならいくらでも拝見したことがあったが、こう近くで見るとその姿に圧倒される。背筋の伸びた立派な体躯に波打つ黒髪、そして秀麗な顔立ちは、あまり人に関心のないダイジュでも思わず見惚れてしまう。

「アンブリーテス皇子。お初にお目にかかります。監督官のダイジュと申します。この度は貴重なお時間を私に頂き、誠に感謝致します」

 ダイジュは椅子から立ち上がり、深く腰を折った。

「アンブリーテスだ。時間は少ない。用件を聞こう」

 ダイジュはおや? と思った。
 皇子が少し不機嫌そうなのだ。基本的に王族は人前で感情を露わにすることはない。顔色を相手に気取られ、政治利用されぬようそう教育されている。それに皇子は謁見も穏やかに対応されることで有名だ。
 なんとなく気怠げに足を組み椅子に座る姿に、不敬ながらも声をかけた。

「失礼ながら、体調でもお悪いのですか」
「……何故そう思う」 
「いえ、大変失礼を申しました。申し訳ありません……」

 ピリッとした視線を投げかけられ、慌てて謝罪をした。皇子の体調が悪いのならさっさと切り上げたほうが良いだろうと思ったのだが、余計不機嫌にしてしまったようだ。

「用件を」
「はっ」

 空気が重いが仕方がない。ダイジュはノーマの話を切り出した。

「皇子、ノーマ殿との謁見の話は聞いておられますか」

 ノーマと聞き、皇子が目を見開きやや身を前に乗り出した。

「……聞いてはおらぬ」
「やはり。実はですね……」

 そう切り出したとき、皇子が手をあげ人払いをした。
 側に控えていた侍従が慌てて近づき「しかしながらお時間が……」と食い下がると、「延長だ。いいと言うまでさがれ」と言い放った。

「……宜しいのですか?」
「ああ、今は良い。それより続きを」

 ダイジュはやや戸惑いつつも話を続けた。
 ノーマの訓練のこと。ノーマが皇子のことで苦しんでいること。そして謁見を申し出たのに話が通っていなかったこと。

 それらを話し終えたとき、皇子は顔に手を当て嘆息した。

「……ノーマのことで迷惑をかけてすまない。貴殿がノーマの面倒をみてくれていたとは。いろいろと勘違いしていたようですまなかった」

 そう言うと、なんとダイジュに向かって頭を下げた。

「め、滅相もございません! ノーマ殿のことは監督官として私にも責任がございますので!」
「ノーマのことについては、この皇子宮にもあまり良く思わぬ者がいるようでな。まさか謁見申請を握りつぶしてくるとは」

 苦々しそうに呟くと、先程の態度とはうってかわり、今度は申し訳なさそうにダイジュを見る。
 その姿にダイジュは驚いた。ノーマのことで皇子がここまで気を落とすとは。

 正直な話、美しくはあるがちょっと陰気で人付き合いの苦手なノーマが、華やかで男女ともに人気のあるアンブリーテス皇子と恋仲というのは、あまり現実味がないと感じていた。彼は旅先で皇子から情けをいただいただけで、それを勘違いしているのではないかと。

 そこもはっきりさせたくて、今日はここに来たのだが……。
 蓋を開ければ、お互いきちんとそれなりに想い合っているではないか。

 これなら話は早い。

「失礼を承知でお伺いしますが、皇子はノーマ殿とどうなりたいですか」

 あけすけな質問に皇子はぐっと言葉を詰まらせたが、ダイジュが大真面目なのを知ると彼をまっすぐ見据えて答えた。

「……ダイジュ殿も知っているとは思うが、最初から俺はノーマを伴侶として囲うつもりだった。神殿になどやらず共にここで暮らしたいのが本音だ」

 その答えにダイジュもにっこりする。旅からお戻りになられたときに言われていたことは、同情からくるものではなかったのだとそうはっきり確信できた。

「なるほど。わかりました。皇子、夜にこっそりお会いできる時間などはございますか」

「……あるにはあるが」

 訝しげにダイジュを見るが、次の言葉に皇子が思わず立ち上がった。

「ノーマ殿と会いたくはございませんか?」
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