神官の特別な奉仕

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スーシリアム神皇国

閑話 コウの受難

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閑話ポーターの話に引き続き、今回もコウさん視点で、41話の後日談です。

※軽い性的な表現が入ります。

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「ちょっとセイドリックさん、あんた飲みすぎじゃないか。大丈夫か?」

 俺は定食屋で酔い潰れるセイドリックさんに遭遇し、あまりの情けない光景に見かねて声をかけた。


 この日俺は、荷運びの仕事でまた1週間ほど家を空け、久々に街へと帰ってきたところだったのだが、街はまるでお祭り騒ぎのようにひどく賑やかだった。
 確か昨日はアンブリーテス皇子の視察巡行か何かがあったというのは覚えているが、それにしてもこの騒ぎはいったい何なんだというくらい。

 とくに北通りに近づくにつれて、お祭りムードが酷くなっていくのだ。

「おばさん、街の様子がおかしいんだがこれどうしたんだ」
「あら! コウさん、今帰りかい? いや、昨日大変だったのよ!」

 道で立ち話をしていた雑貨屋のおかみさんたちに声をかけると、その場にいた者ら全員が興奮したように、今街中に広がる噂について鼻息荒く聞かせてくれた。

 どうやらその内容は『皇子の巡行がこの近くを通ったとき、サハル=ディファ様が街の青年に一目惚れをし、熱烈に愛を告げた』というものらしく、どうやら号外まで出たらしい。おばさんたちはまるで乙女のように頬を染め、「素敵よねぇ~」「本物の愛だわ」「あんなに熱烈に想われてみたいものだねぇ」とうっとりとしていた。

 熱烈……。
 何となく想像つくが、街の青年というのは、間違いなくスルトさんだろう。あれだけ焦らしだんだ。何か派手にやらかすかなーとは思っていたけど、まさか昨日とは。

 それにしても噂がどこまで本当かは分からないが、巡行中だろ? 仕事中なのにサーシャさんはすごいことするな。
 何だかおもしろいことになってるぞと、俺はにまにましながら、仕事の荷物を肩に担いだまま、いつもの定食屋に向かって歩みを速めた。

 相手がスルトさんだってことはもう知れ渡っているはずだ。絶対店でもすごい大騒ぎになっているだろう。情報通の常連から何が聞けるか楽しみでしようがない。
 俺はわくわくしながら定食屋の扉を開けた。

 そして冒頭に戻るわけなのだが。

 セイドリックさんの泥酔は、俺と一緒に飲んでて飲みすぎた、とかじゃない。俺が店に着いた頃にはもうすでにセイドリックさんは酔いつぶれて、この状態だったというわけだ。
 この情けない姿を見て、ピンときちゃったんだよな俺。

 セイドリックさん、その場にいたな、と。だって巡行も参加していた訳だし。
 それに噂で聞いた程度でここまでひどく酔い潰れるほど飲まんだろ。
 セイドリックさんは、「本人に聞くまではそんな噂は信じない!」とか言っちゃうタイプだし。絶対その告白シーンの場にいたんだろ。これ。

 しかも、サーシャさんはわざと・・・セイドリックさんの前でこれを実行した可能性ありとみた。


 以前スルトさんの話を聞いたあと、俺はどうにもこうにも居たたまれなくなって、結局スルトさんの居場所をサーシャさんに告げ口したのだが、逆に見張りを頼まれて、定食屋常連神兵リストを作らされたことがあった。

 誰がどうとかそんなに詳しくは書かなかったけど、あのサーシャさんならすぐに見当がついたんだろう。スルトさんに本気で懸想してるやつがいるって。それがセイドリックさんだってことも。

 いやーもう、広場でジュース奢って貰ったとき、スルトさんにここで告白するのか?! って勢いだったし、本当にこれどうしようかって思っちゃったもんな。

 だかしかし。

 セイドリックさんへ当てつけるためだけに、ここまでするとは思えない。

 ————案外、街でスルトさんの姿を見つけて思わずっていうのがやっぱり本当なのかもしれない。

 あのサーシャさんが? って思ったりもするが、ありえないこともない。会えるのに会えない状態が続いていたし、あの方は見た目に反して意外と執着するタイプなのかもしれんな。
 まあでもしかし、スルトさんをこれで、逃げられないように完全に囲い込んだようなものか。
 平民のスルトさんを名門名家のサーシャさんが娶るのなら、ここまで派手にした方が世論を味方につけられていいのかもしれん。

 なるほど。

 そうかそのためにセイドリックさんが犠牲に……。ひどいよなー、当て馬みたいなもんだろ。分かっててこういうことするんだもんなぁ。

 俺はチラリとセイドリックさんを見た。今たぶんすごい憐れんだ目をしていただろうと思う。

 セイドリックさんは、もう完全に酔いつぶれて、定食屋のテーブルに突っ伏している。みんなはスルトさんの話でもちきりで、誰もセイドリックさんのことを気にかけていない。

 それが何ともかわいそうに見えて、同情してつい声をかけてしまったのだ。

「オヤジさん、今日は俺が担いで送っていくから、今日の分はセイドリックさんにツケといてくださいよ」
「ああ、本当かい? コウさん、悪いねえ助かるよ。セイドリックさんのこと誰に引き取ってもらったらいいか分からなくてね。持ち帰り、サービスしとくから」

 オヤジさんが手早く持ち帰り用のおかずを用意して、セイドリックさんを背負った俺の手に渡してくれる。
 仕事柄、荷運びの得意な俺だったから、体が大きく重量のあるセイドリックさんでも何とか背中にうまく担ぐことができた。それでもしっかり支えないと、グダグダで落ちそうになるし、背負いにくいったらない。
 背負っている最中も、耳元で小さく「スーちゃんスーちゃん」と酒臭い息で呟いているのが聞こえ、俺はため息をついた。

「セイドリックさん、住んでるところはどこなんです? 神兵の詰め所に行ったらいいんですか?」

 何度聞いても要領を得ない。
 すすり泣きと繰り返す言葉はスーちゃんだけだ。

 疲れて帰ってきたのに、酔ってグデングデンの筋肉の塊セイドリックを抱え、ここから結構離れた神兵の詰め所まで歩くのはかなりキツイ。
 汗なのか涙なのか背中もじっとり濡れて湿り、気持ちが悪い。

 仕方がない。
 俺のアパートに連れて行くか……。
 俺は気持ち的にも重量的にも重い足取りで帰路についた。


「ふーーーーっ」

 酔ってほぼ意識のないセイドリックさんを寝台に放り投げ、俺はやっと一息つくことができた。
 やっぱり意識のない人間を背負うのはしんどい。異様に重いし、ぐにゃぐにゃで安定感が悪いから、ちょっと傾くとすぐに落ちそうになる。実際途中何度も落としそうになった。

 仕事終わりで、この重量を抱えて歩くのはさすがにキツイな。

「おい、セイドリックさん、水飲めるか」

 貰ってきた定食屋の持ち帰りを机に置くと、とりあえず持っていた水筒の水を差し出す。
 水道の引かれていない激安アパートの部屋に置かれた水瓶は、長期の仕事で家を空けていたせいで空っぽだ。明日は起きたらすぐに調達しに行かないと自分の飲む分がない。

「セイドリックさん? 水は飲んどいたほうがいいぞ」

 寝台に転がる大きな体をゆさゆさと揺すり、水を飲ませるため起こそうとした途端、いきなり腕を掴まれた。

「……は?」

 抵抗する間もなくそのまま引き寄せられると、分厚いセイドリックさんの胸にガッチリ抱き込まれてしまった。

「……! なっ、ちょっ、セイドリックさん!!」

 そのはずみで水筒が寝台の下に転がり、バシャンッという音とともにトクトクと水が流れ出る音がする。

(うぁーーー!!! やめろやめろ!!! 水!! 俺の水!!)

 慌てて拾い上げようと、セイドリックさんの腕からなんとか体を捻って抜け出し、寝台の上から水筒へ手を伸ばそうと試みた。しかし水筒に手が届く前に、いきなり背中に重量を感じた。

「グエッ……え、あ、嘘、おい、ちょ、コラ、待て」

 首すじに酒臭い息がかかる。背後から体を弄られ、服の上から強い力で胸を撫で擦らてしまうと、さすがの俺も貞操の危機を感じた。

 しかも尻には何か固いものが……。
 て、おいおいおい!!俺の尻にそんなもん擦りつけんな!!!

「……いっ」

 セイドリックさんの手が、いきなり俺の股間を掴みあげた。
 とはいえ、俺のはまだ準備すらできておらず、くったり下を向いたままだ。

 だが!!ちょっと待て!! マジで待て!! さすがに刺激されると勃つ!! 勃つんだってば!! やめろ!!

 背後では尻の割れ目にそって硬い棒が押し付けられたままリズミカルにゆさゆさと動き、前は前で服の上から俺の胸の先端を探ろうと指が弄り、下は下でまだ柔らかい俺のモノの感触を愉しむかのようにムニムニと揉まれて、時折上下に擦られる。

 どういう状況!?

 服の上からだからまだマシだが、いつ捲られるか気が気じゃない。こいつの腕から脱出したいが、現役兵士にのしかかられたら、さすがの俺もどうにもならん。

 もうこのまま身を任すしかないのか……。

  


「……っん………はぁっ」

 なんとか声を出さないように堪えるが、たまに漏れる自分の声がひどく情い。
 ク、クソっ助けるんじゃなかった!!
 俺はまだ飯だって食っていないのに!!

 はあはあと酒臭い息を耳に吹き込まれながら、俺はできるだけ体を縮こまらせ、与えられる快感から必死に耐えた。


 翌朝目覚めると、青ざめたセイドリックさんが茫然自失で隣に座っていた。

 そりゃあそうだろうな。
 二人とも半裸で同じ寝台に寝転がってんだから。しかもセイドリックさんは下半身出したままだし。

 俺は起き上がりながら、セイドリックさんを白い目で見た。

 あれからセイドリックさんは、俺を自慰の道具に使い、服の上から盛大にぶっかけやがったせいで、俺の服はべとべとで悲惨な状態になっていた。
 文句を言おうにも、奴は溜まっていたものをたっぷり出してスッキリしたのか、下半身もろ出し状態で寝てしまい、叩いても揺すってもまったく起きなかったのだ。

 俺だってもう疲れ切っていたし、動く気力もなかった。仕方がないので汚れたものをその場に脱ぎ捨て、そのまま寝てしまって、現在この有様だ。

 傍から見れば、部屋は青臭いにおいに包まれ、ひとつの寝台に半裸の男が2人。服は脱いだまんま丸まって放置され、まるでいかにも事後です! といわんばかりだが、そうじゃない。

 安心してほしい。俺の貞操は守られたままだ。

「……あの、コウさん。き、昨日のことを俺は覚えていないのだが…………」

 ひどく狼狽した声で、恐る恐る俺に声をかけてきた。
 何と説明すべきか。

 とりあえず昨日、定食屋からここまで担いで来たことを話し、それからセイドリックさんが俺を襲い、背中にぶっかけられたことまでを端的に伝えた。

 そう。端的に。

 2人の間にはそれ以上何もなかったですよと、はっきりと伝えるために。

 しかし俺の話を聞いたセイドリックさんは、さらに顔を白くしていた。

 まあかなりやらかしてることは間違いない。そりゃ顔面蒼白にもなる。これ、相手が俺じゃなかったら犯罪だよ。今頃お仲間の神兵さんたちに連れていかれてるとこだよ。

 いや、俺相手でも犯罪だよ!

 さてどうケジメつけてもらうべきかと、暫くじっとセイドリックさんを睨んでいると、彼が急に平身低頭しひたすら謝る作戦に出てきた。

「ほ、本当に申し訳ない!!!」

 寝台に頭を何度も擦りつけ、謝るセイドリックさん。挙げ句の果には……

「責任はとる!!」

 勘弁してくれよ! 責任ってなんだよ! 結婚とか言い出すんじゃないだろうな!?
 俺は女性が好きなんだ!! ここで金を貯めて、綺麗な女性と結婚をするという人生設計があるんだよ!!

 自己満足の謝罪なんざいらねえんだ! と俺は腹が立って、まだ半裸の状態のセイドリックさんをアパートの外に蹴り出してやった。



 そんなことがあってから、俺はあの定食屋には近づかなくなった。

 なぜなら、セイドリックさんは会うたびに気まずそうにその「責任」の話をしようとするからだ。

 俺は彼のいう責任などまったくもって望んでなどいない。にもかかわらず、彼はそうすることが最善だと思っているからタチが悪い。線の細いスルトさんが好みのタイプなら、筋肉質でがっしりした俺なんかと結婚しても辛いだけだろうが。

 もうスルトさんも店を辞めてしまったことだし、俺には定食屋に頻繁に通う理由もなくなった。もう潮時なのかもしれないな。

 あそこの味、気に入っていたんだけどなぁ。

 仕事終わりに気軽に入れる店を失うとは。恨むぞセイドリック。


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※この話の続きにあたるお話『失恋した神兵はノンケに恋をする』を現在新作で公開しています。
セイドリック視点から始まり、この話のその後を連載する予定にしています。よろしくお願いします。
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