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番外編
番外編 ノーマとアンバーの逢瀬1
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※『46収まるべきところ』の後の話になります。
————————
「あ、あのさノーマ、今日の夜、というかこれからなんだけど、ちょっと他の部屋に行って貰ってもいいかな」
同じ見習いで同室のタルがもじもじとしながら、ノーマに伺いを立てた。
「え、なんで」
ノーマはぽかんとした。
ノーマはここ最近、寄宿舎の見習いたちの住む相部屋に移り、このタルと同室になったばかりだ。
相部屋とはいってもちゃんと仕切りがあり、プライバシーは守られている。自分が出て行かないといけない理由などないはず。
「なんで俺が出て行く必要が?」
「あー、えっと……、その……」
察しの悪いノーマに、タルが相変わらずもじもじと歯切れの悪い返事を返すのを、ノーマは不思議な面持ちで見ていた。
出て行けと言われて理由もなしに出ていけるはずもない。とりあえず理由を聞かないと。
ノーマがタルの返事を待っていると、急にコンコンコンとドアがノックされ、もじもじしていたタルが驚いて飛び上がった。
「!!」
「はい! 今出ます!」
「あ、あ、ノーマ、僕が……」
タルが何か言っているのを無視して、ノーマがドアを開けると、見知らぬ背の高い男が立っていた。
「タル? あれ? 君タルじゃないね。部屋を間違えたかな」
その男はにこにこと、ノーマの顔を無遠慮に覗き込んでくる。
「……え、あの、どなたですか」
その男は逞しく体つきが立派で、どう見ても神官ではない。神官でない者が、なぜこの神官の寄宿舎にいるのか。
「ん? ここはタルの部屋じゃない?」
この男は何者か。部屋に通して大丈夫なのか。
男を見つめたまま考えあぐねていると、後ろから焦ったようなイラついた声が聞こえた。
「あー!! もう!! ノーマどいて!!」
後ろからタルがノーマを押しのけて出てくると、その男が「タル」と嬉しそうに名を呼んだ。
「ジョイス! 会いたかった!」
タルはその男に抱きつくと部屋に引き入れ、反対にノーマを強引に外に押しやり「しばらく帰ってこないでね!!」とドアを閉めてしまった。
「ははあ、なるほどなるほど、それで私の部屋に来たというわけですね」
普段であれば寝る前の各々ゆったりと過ごす時間のはずなのに、急に部屋を訪ねたノーマをダイジュは快く部屋に入れてくれた。
「今日部屋に来た男は神殿の者ではないようなのですが……」
全くもって意味がわからない。なぜ見知らぬ男が夜に神殿の寄宿舎に入ることができるのか。
「彼はきっと神兵ですよ」
「え? 神兵?」
きょとんとしているノーマに、ダイジュが苦笑する。
「鈍いですね。タル殿の恋人なんですよ、その男は。神兵の詰所は神殿内にあるでしょう? 繋がっているんですよ。ここと」
ダイジュが薬草茶を淹れると、ノーマの前に置いた。
「でも勝手に神官の寄宿舎に入るなんて」
「寄宿舎の不文律のひとつなんですよ。神殿の寄宿舎に住む者は誰でも寄宿舎内を自由に行き来できる。 そのルールが神兵の詰所にも当てはまってしまうんですよ。かなり無理矢理ですが」
ノーマは顔をしかめた。ということは今頃自分の部屋で二人はいちゃついていることだろう。
「……ずるい」
「まあ、良くないことですね」
「俺だって我慢しているのに」
「……そっちですか」
拗ねたように口を尖らせて薬草茶をすするノーマに、ダイジュは呆れた。
まあでも確かに古い礼拝堂に行かせた日から、もう結構な一カ月近くは経っている。まだ見習いのくせに部屋に堂々と恋人を呼ぶタルとは違い、皇子に会いに勝手に抜け出したりもせずきちんと真面目に生活するノーマの言い分も分からないではない。
それに外部に恋人のいる者にも示しがつかないと、常々思っていた。
この変な悪習をなんとかしたいものだと、ダイジュは拗ねるノーマを見ながら考えていた。
△△△
「アンバー様!!」
夕刻の祈りの時間の後、神殿を出ると、ノーマは約束の場所へ向かった。裏手に回り、古い礼拝堂の影で待つアンバーの姿を確認すると、ノーマはフードが脱げるのも構わず走り出した。
古い礼拝堂でお互いの気持ちを確かめあった日から、見習いという面倒なしがらみの中ノーマはようやくアンバーに会えることになった。それもこれも、またダイジュのお陰だ。
この前のタルの逢引の一件で、ダイジュに愚痴をこぼしたことで、またもやダイジュが気を利かせてくれたのだ。
——まあダイジュ的には感情に左右されやすいノーマの治癒力の安定を望んでこそ。ということなのだろうが、さすがにいつまでも会えないことに不満を漏らし、力が低迷するのは困る、というのが本音である。実際はそこまで不安定ではないが、今後会えない日が続くとそうなることは目に見えていた。
「ノーマ! 走ると危ない」
すでに足元は暗い。走り出したノーマにアンバーは思わず走り寄り、勢いで飛びつく細い体を受け止めた。
ふふふと嬉しげに自身の胸元から笑顔を見せるノーマに、アンバーの頬も緩む。ノーマの上気した頬が愛らしい。
「会いたかったです」
「俺もだ」
胸元にグリグリと頬を押し付けるノーマを、アンバーもぎゅっと抱きしめる。自分を見て走って近寄るなどこれまでなかったことだ。ノーマがこんなに素直に愛情を示してくれたことに、アンバーは感動していた。
実を言うとアンバーは、あまり日数を空けると、会えぬ不安からノーマはまたいらぬ考えに囚われて、アンバーから距離を取ろうとして、以前のようにギクシャクしてしまうのではと心配をしていた。
しかし実際それは杞憂で、ノーマはこんなにもアンバーに会いたいと願ってくれていたのだ。
愛おしさがこみ上げ、こめかみあたりに口づけると、ノーマがくすぐったそうに笑った。
「今日はどうします? また礼拝堂の中に入りますか」
ノーマはダイジュから預かってきた礼拝堂の鍵を、チャリチャリと音を立てて懐から出してアンバーに見せた。
「いや、実は良い所がある。今日はそこに行こう」
アンバーはノーマの手を取り、王宮の方角へ誘った。
ほどなくして、アンバーに手を取られ進んだ先には、立派な門を構えた広い庭が現れた。
一見すると周囲の林に溶け込み、この高い柵がなければどこからが庭で、どこからが林なのかも分からないほど、多くの木々が植えられ、また多様な植物群でもあった。
そしてよく見ると、遠くには珍しいガラス製の温室まである。
「これは、立派なお庭ですね。王宮専属の庭ですか?」
ノーマは感嘆の声をあげ、柵に顔を押し当てて中を見回した。
「ここはただの庭ではなく、植物研究のための施設を兼ね備えている。関係者であれば誰でも入れる。無論俺もだ」
「えっアンバー様、植物学者なんですか?」
「学者とまではいかぬが、一応ここの責任者のひとりだ」
驚いて目を丸くするノーマに、アンバーは何でもない顔で門の鍵を開ける。
「ここは鍵がなければ入れぬから、呼ばぬ限りは衛兵も誰も来ない」
そう言いながらノーマを導くと、ガシャンと門の鍵を閉めた。
「こっちだ」
暗い中、それでも立派に生い茂る草花にノーマが目を奪われるのを、アンバーが手を取り目的の場所へと導く。
植物に囲まれた小道を抜け、連れて行かれた先にあったのは大きな湖で、穏やかな湖面にはきれいに月が映し出されていた。
——そこはサリトールで逢瀬を重ねた、あの湖を思い出させた。
「——アンバー様、ここ……」
「なにやら懐かしいだろう?」
アンバーは、あの頃のように地面にどっかりと座り込むと、ぼうっと湖を見つめるノーマの手を引き寄せて、膝の上に座らせた。
そして顔を引き寄せるとノーマの唇に音を立てて口づけ、そしてもう一度。今度は舌をノーマの口に差し入れ、中を愛撫するかのように深く口づけた。
「……ん、ふう…………」
「……嫌ではないか」
アンバーのその問いに、ノーマは唇を離してキョトンとした。そしてすぐに破顔した。
そういえば、サリトールでのノーマは、口づけされてはすぐに怒っていた。
「ふふっ、アンバー様は意地が悪い。口付けではもう怒りません」
「……そうか。俺は意地が悪いか」
くくっと喉で笑いながら、アンバーがノーマの耳朶を甘く噛み、舌を這わすと、ノーマがふるっと震えた。しかしここは外。口付けは良いがそれ以上の行為は困る。ノーマの体を支えるアンバーの手が、次第に怪しい動きを始めたのを感じて、ノーマは慌ててアンバーの気を逸らす作戦に出た。
「ア……アンバー様、俺、杏を食べたいです」
「ああ、言うだろうと思って、持ってきている」
耳から唇を離すと、ノーマを左側の足の上に乗せ直し、右側の足の上に杏の実の入った袋を広げた。ノーマの好むふっくらとした上等な干し杏が、アンバーの膝の上に並ぶ。
「ほら」
小さいかけらを指でつまむと、ノーマの薄い唇に押し当てた。ノーマはそれを舌で絡め取るようにして、口に入れる。
唇から赤い舌がのぞき、アンバーの指をチロッと舐める様は、淫猥で、アンバーの情欲を誘う。
本人にその気はないとはいえ、見る者によっては誘われていると感じてしまうだろう。
だが、口に入った杏をもぐもぐと咀嚼する姿は反して愛らしい。
「うまいか」
目を細めこくりと頷くのを見て、食べきる前にまた1つ口に持っていく。
「ふふ、湖で杏を貰っていると、なんだかあの頃に戻ったみたいです」
次から次へ口に運ばれる杏に、ノーマは嬉しそうだ。
「まだ食べられるか」
口いっぱいに頬張り、ふるふると首を振るノーマがまた愛らしくて、もぐもぐと動く頬を指でぐにぐにとつつく。
「やめてください。食べにくいです」
「お前はかわいいな」
「もう。人で遊ばないでください」
ははっとアンバーは笑うと杏を袋にしまい、ノーマを膝の間に乗せ直した。
ーーーーーー
※現在、コウとセイドリックの話を新作として公開しています。閑話コウの受難の続きでセイドリック視点で始まります。
コウの受難の続きが気になっていた方がいればぜひ。
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「あ、あのさノーマ、今日の夜、というかこれからなんだけど、ちょっと他の部屋に行って貰ってもいいかな」
同じ見習いで同室のタルがもじもじとしながら、ノーマに伺いを立てた。
「え、なんで」
ノーマはぽかんとした。
ノーマはここ最近、寄宿舎の見習いたちの住む相部屋に移り、このタルと同室になったばかりだ。
相部屋とはいってもちゃんと仕切りがあり、プライバシーは守られている。自分が出て行かないといけない理由などないはず。
「なんで俺が出て行く必要が?」
「あー、えっと……、その……」
察しの悪いノーマに、タルが相変わらずもじもじと歯切れの悪い返事を返すのを、ノーマは不思議な面持ちで見ていた。
出て行けと言われて理由もなしに出ていけるはずもない。とりあえず理由を聞かないと。
ノーマがタルの返事を待っていると、急にコンコンコンとドアがノックされ、もじもじしていたタルが驚いて飛び上がった。
「!!」
「はい! 今出ます!」
「あ、あ、ノーマ、僕が……」
タルが何か言っているのを無視して、ノーマがドアを開けると、見知らぬ背の高い男が立っていた。
「タル? あれ? 君タルじゃないね。部屋を間違えたかな」
その男はにこにこと、ノーマの顔を無遠慮に覗き込んでくる。
「……え、あの、どなたですか」
その男は逞しく体つきが立派で、どう見ても神官ではない。神官でない者が、なぜこの神官の寄宿舎にいるのか。
「ん? ここはタルの部屋じゃない?」
この男は何者か。部屋に通して大丈夫なのか。
男を見つめたまま考えあぐねていると、後ろから焦ったようなイラついた声が聞こえた。
「あー!! もう!! ノーマどいて!!」
後ろからタルがノーマを押しのけて出てくると、その男が「タル」と嬉しそうに名を呼んだ。
「ジョイス! 会いたかった!」
タルはその男に抱きつくと部屋に引き入れ、反対にノーマを強引に外に押しやり「しばらく帰ってこないでね!!」とドアを閉めてしまった。
「ははあ、なるほどなるほど、それで私の部屋に来たというわけですね」
普段であれば寝る前の各々ゆったりと過ごす時間のはずなのに、急に部屋を訪ねたノーマをダイジュは快く部屋に入れてくれた。
「今日部屋に来た男は神殿の者ではないようなのですが……」
全くもって意味がわからない。なぜ見知らぬ男が夜に神殿の寄宿舎に入ることができるのか。
「彼はきっと神兵ですよ」
「え? 神兵?」
きょとんとしているノーマに、ダイジュが苦笑する。
「鈍いですね。タル殿の恋人なんですよ、その男は。神兵の詰所は神殿内にあるでしょう? 繋がっているんですよ。ここと」
ダイジュが薬草茶を淹れると、ノーマの前に置いた。
「でも勝手に神官の寄宿舎に入るなんて」
「寄宿舎の不文律のひとつなんですよ。神殿の寄宿舎に住む者は誰でも寄宿舎内を自由に行き来できる。 そのルールが神兵の詰所にも当てはまってしまうんですよ。かなり無理矢理ですが」
ノーマは顔をしかめた。ということは今頃自分の部屋で二人はいちゃついていることだろう。
「……ずるい」
「まあ、良くないことですね」
「俺だって我慢しているのに」
「……そっちですか」
拗ねたように口を尖らせて薬草茶をすするノーマに、ダイジュは呆れた。
まあでも確かに古い礼拝堂に行かせた日から、もう結構な一カ月近くは経っている。まだ見習いのくせに部屋に堂々と恋人を呼ぶタルとは違い、皇子に会いに勝手に抜け出したりもせずきちんと真面目に生活するノーマの言い分も分からないではない。
それに外部に恋人のいる者にも示しがつかないと、常々思っていた。
この変な悪習をなんとかしたいものだと、ダイジュは拗ねるノーマを見ながら考えていた。
△△△
「アンバー様!!」
夕刻の祈りの時間の後、神殿を出ると、ノーマは約束の場所へ向かった。裏手に回り、古い礼拝堂の影で待つアンバーの姿を確認すると、ノーマはフードが脱げるのも構わず走り出した。
古い礼拝堂でお互いの気持ちを確かめあった日から、見習いという面倒なしがらみの中ノーマはようやくアンバーに会えることになった。それもこれも、またダイジュのお陰だ。
この前のタルの逢引の一件で、ダイジュに愚痴をこぼしたことで、またもやダイジュが気を利かせてくれたのだ。
——まあダイジュ的には感情に左右されやすいノーマの治癒力の安定を望んでこそ。ということなのだろうが、さすがにいつまでも会えないことに不満を漏らし、力が低迷するのは困る、というのが本音である。実際はそこまで不安定ではないが、今後会えない日が続くとそうなることは目に見えていた。
「ノーマ! 走ると危ない」
すでに足元は暗い。走り出したノーマにアンバーは思わず走り寄り、勢いで飛びつく細い体を受け止めた。
ふふふと嬉しげに自身の胸元から笑顔を見せるノーマに、アンバーの頬も緩む。ノーマの上気した頬が愛らしい。
「会いたかったです」
「俺もだ」
胸元にグリグリと頬を押し付けるノーマを、アンバーもぎゅっと抱きしめる。自分を見て走って近寄るなどこれまでなかったことだ。ノーマがこんなに素直に愛情を示してくれたことに、アンバーは感動していた。
実を言うとアンバーは、あまり日数を空けると、会えぬ不安からノーマはまたいらぬ考えに囚われて、アンバーから距離を取ろうとして、以前のようにギクシャクしてしまうのではと心配をしていた。
しかし実際それは杞憂で、ノーマはこんなにもアンバーに会いたいと願ってくれていたのだ。
愛おしさがこみ上げ、こめかみあたりに口づけると、ノーマがくすぐったそうに笑った。
「今日はどうします? また礼拝堂の中に入りますか」
ノーマはダイジュから預かってきた礼拝堂の鍵を、チャリチャリと音を立てて懐から出してアンバーに見せた。
「いや、実は良い所がある。今日はそこに行こう」
アンバーはノーマの手を取り、王宮の方角へ誘った。
ほどなくして、アンバーに手を取られ進んだ先には、立派な門を構えた広い庭が現れた。
一見すると周囲の林に溶け込み、この高い柵がなければどこからが庭で、どこからが林なのかも分からないほど、多くの木々が植えられ、また多様な植物群でもあった。
そしてよく見ると、遠くには珍しいガラス製の温室まである。
「これは、立派なお庭ですね。王宮専属の庭ですか?」
ノーマは感嘆の声をあげ、柵に顔を押し当てて中を見回した。
「ここはただの庭ではなく、植物研究のための施設を兼ね備えている。関係者であれば誰でも入れる。無論俺もだ」
「えっアンバー様、植物学者なんですか?」
「学者とまではいかぬが、一応ここの責任者のひとりだ」
驚いて目を丸くするノーマに、アンバーは何でもない顔で門の鍵を開ける。
「ここは鍵がなければ入れぬから、呼ばぬ限りは衛兵も誰も来ない」
そう言いながらノーマを導くと、ガシャンと門の鍵を閉めた。
「こっちだ」
暗い中、それでも立派に生い茂る草花にノーマが目を奪われるのを、アンバーが手を取り目的の場所へと導く。
植物に囲まれた小道を抜け、連れて行かれた先にあったのは大きな湖で、穏やかな湖面にはきれいに月が映し出されていた。
——そこはサリトールで逢瀬を重ねた、あの湖を思い出させた。
「——アンバー様、ここ……」
「なにやら懐かしいだろう?」
アンバーは、あの頃のように地面にどっかりと座り込むと、ぼうっと湖を見つめるノーマの手を引き寄せて、膝の上に座らせた。
そして顔を引き寄せるとノーマの唇に音を立てて口づけ、そしてもう一度。今度は舌をノーマの口に差し入れ、中を愛撫するかのように深く口づけた。
「……ん、ふう…………」
「……嫌ではないか」
アンバーのその問いに、ノーマは唇を離してキョトンとした。そしてすぐに破顔した。
そういえば、サリトールでのノーマは、口づけされてはすぐに怒っていた。
「ふふっ、アンバー様は意地が悪い。口付けではもう怒りません」
「……そうか。俺は意地が悪いか」
くくっと喉で笑いながら、アンバーがノーマの耳朶を甘く噛み、舌を這わすと、ノーマがふるっと震えた。しかしここは外。口付けは良いがそれ以上の行為は困る。ノーマの体を支えるアンバーの手が、次第に怪しい動きを始めたのを感じて、ノーマは慌ててアンバーの気を逸らす作戦に出た。
「ア……アンバー様、俺、杏を食べたいです」
「ああ、言うだろうと思って、持ってきている」
耳から唇を離すと、ノーマを左側の足の上に乗せ直し、右側の足の上に杏の実の入った袋を広げた。ノーマの好むふっくらとした上等な干し杏が、アンバーの膝の上に並ぶ。
「ほら」
小さいかけらを指でつまむと、ノーマの薄い唇に押し当てた。ノーマはそれを舌で絡め取るようにして、口に入れる。
唇から赤い舌がのぞき、アンバーの指をチロッと舐める様は、淫猥で、アンバーの情欲を誘う。
本人にその気はないとはいえ、見る者によっては誘われていると感じてしまうだろう。
だが、口に入った杏をもぐもぐと咀嚼する姿は反して愛らしい。
「うまいか」
目を細めこくりと頷くのを見て、食べきる前にまた1つ口に持っていく。
「ふふ、湖で杏を貰っていると、なんだかあの頃に戻ったみたいです」
次から次へ口に運ばれる杏に、ノーマは嬉しそうだ。
「まだ食べられるか」
口いっぱいに頬張り、ふるふると首を振るノーマがまた愛らしくて、もぐもぐと動く頬を指でぐにぐにとつつく。
「やめてください。食べにくいです」
「お前はかわいいな」
「もう。人で遊ばないでください」
ははっとアンバーは笑うと杏を袋にしまい、ノーマを膝の間に乗せ直した。
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※現在、コウとセイドリックの話を新作として公開しています。閑話コウの受難の続きでセイドリック視点で始まります。
コウの受難の続きが気になっていた方がいればぜひ。
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