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番外編
番外編 スルトの迷惑な客人4
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「いってくる」
「ん、いってらっしゃい」
サーシャは仕事に行くため身なりを整えると、抱き潰され起き上がれないスルトをシーツの上から抱きしめ、そして頬に口づけを落としてから、部屋を出ていった。
結局この夜は、寝室へ移動したあとも、サーシャに求められるまま夜通し激しく睦み合い、ゆっくり話すことはできなかった。
しかし何かにつけ聡いサーシャが街の噂を知らないとは思えず、自分に何も言わないというこは、心配するなということなのだろうと、スルトは解釈した。
例え、もしここでスルトが男娼であったことが公になり、これまでの歓迎ムードが一転、反発をくらいサーシャ自身の立場が危うくなったとしても、おそらくサーシャはスルトを離さないだろう。
……自意識過剰かと思われるかもしれないが、昨晩これだけの執着を見せられると、さすがにそう思うしかない。
(まさか、サーシャがレラに嫉妬するとはね)
おそらく書斎でレラからあの夜のことを聞いたのだろう。
レラがどんなことをサーシャに言ったのかはよくわからないが、誤解を与えるような言い方だったんだろうということは想像がつく。
だがあのサーシャがレラの言葉を信じるとは思えない。……それでも嫉妬心に火がついたことは確かだ。
「ひぇ」
スルトは少し起き上がり、あらためて自身の体に残るサーシャからつけられた痕の凄まじさを目にし、思わず小さな悲鳴が口から漏れた。
(いつもより痕がすごいな。ここなんか歯型までくっきり)
散々嬲られ、体中に俺のものだと言わんばかりに、吸い付き噛みついた痕が所有印として黒く散らばっている。
とくに下腹部からうち太腿に痕が集中していて、その執着と独占欲の強さに苦笑する。
「こんなにされたのは、さすがにはじめてだな」
これだけされると、鬱血痕にもやや痛みが残る。腰も限界だし、今日は寝台の上でのんびりするかと、スルトはパタンと寝台に倒れた。
△△△
「スルト様! スルト様、大変です!」
これで今日何度目のうたた寝か、昼食のあと、気がつくと眠ってしまっていたスルトは、家来の慌てた声で目が覚めた。
「起きてるよ、どうしたの」
慌ててガウンを纏い、寝室の扉を開けると、青ざめた表情の家来が立っていた。
「スルト様、たった今、旦那様のお役目放棄が議会で否認となりました。それで今……」
「今?」
「子を成すため、正妻を娶るようにとお達しが」
「え」
このサーシャが放棄するはずだったその“お役目”というのは、次期皇子の父親役として子を成す役目のことだ。
サーシャの実父が皇子アンブリーテスを成したように、サーシャもまた皇子の父親となるため子種を蒔くことを期待されていた。
しかしサーシャ自身が“種馬”と揶揄するその役目を、スルトという伴侶を得たことで、ようやく放棄することができるはずだった。——だがそれは叶わぬ願いだったようだ。
子を成せぬスルトではなく、正妻を娶り子を成せと。
そしてそれでも足りぬなら種を撒き散らしてでも、あわよくば星を持つ皇子を成せと、そういうことだ。
「…………なんで? お役目は放棄できたんじゃ……」
「それが、その、申し上げにくいのですが……………………。スルト様の噂を聞いた者が、お役目を担いたくない旦那様が、男娼を利用し偽の伴侶をでっちあげて、役目を放棄したのではないかと、そう訴えたと……」
スルトは愕然とした。
「あ……………………サーシャは……サーシャはなんて?」
「……旦那様からはまだ何も…………しかしスルト様、スルト様が偽者の伴侶などと誰も思ってはおりません。ですからこれについてお気になさる必要はございません。これはあくまで旦那様個人の問題でございます。皇子を身内に持つ者の宿命のようなものなのです。それに旦那様のことです。きっとどうにかなさいます」
「………………うん。…………今日サーシャは?」
「…………それが、本日はまだ、お戻りにについて連絡がきておりません」
「…………そっか」
今忙しいと言っている仕事というのも、もしかするとこのことで、何かしら矢面に立たされているのかもしれない。
昨日の閨での激しさも、これで納得がいく。
(いろいろ大変だったのに、帰ったらレラのことまで……。サーシャ……)
「スルト様……今日はお部屋でお体をお休めになっていてください。あとでお茶をお持ちします」
顔を青褪めさせ、ガウンを握りしめるスルトの体調を慮り、家来が部屋へ戻るよう促したときだった。
「ね、それってさ、旦那さんが兄さんを本当に利用したってことも考えられるんじゃないの? 自分に好意をもつ男娼ならさ、簡単に騙せるじゃん」
家来の背後に、いつのまにかレラが立っていた。
「レラ様! なんてことを! 旦那様への侮辱はいくらスルト様の客人であっても許しませんよ」
「——サーシャに限ってそれはないよ。レラ。彼はそんなことで人を利用したりはしない」
「ふん、なんでそう言えるのさ」
スルトは黙ってガウンの紐を解き、鬱血痕だらけの自分の体を曝け出した。
「…………スルト様! 素肌を他人に見せてはいけません!」
家来が慌ててガウンの前を整え、レラに見えないよう体を覆い隠した。
「レラ、これ、全部サーシャにつけられた痕だよ。昨日レラが煽ったせいさ。おかげで今日は腰が立たなくて散々だよ。……心のない相手に普通ここまですると思う?」
「……なにそれ、兄さん。それが愛されてる証拠だって言いたいの? バカみたい」
憎々しげに顔をしかめると、スルトから目をそらし、自分に与えられた部屋のほうではなく、玄関に向かって足早に去っていった。
「…………レラ…………」
「スルト様、旦那様からの連絡があればすぐにお伝え致しますので、お部屋でお休みください」
「家来さん、俺は大丈夫だから」
「いえ、お顔が真っ青です。あとで気を落ち着かせる飲み物をお持ちしますので、寝台にお上がりください」
「分かったよ、ありがとう」
家来に促されるまま部屋に戻り、寝台に横になった。
たった数日の間で、これだけ事態が急変するとはなぁと、スルトはため息まじりで呟いた。
まあこれまでさすがに順調に行き過ぎた気もするし、——誰にも言えないが、密かにサーシャの赤ちゃんも見たいと思う自分もいる。
(サーシャの赤ちゃん、きっとかわいいだろうなぁ)
正妻になる女性が良い方であれば、うまく関係を築く努力ができるはずだ。
運が良ければ、産まれた赤子をこの手で抱くこともできるだろう。
(はぁー、複雑な悩みだな)
サーシャが自分以外の者を抱くことについては、考えるだけでも胸が痛む。だが、それは覚悟していたことでもある。
しかしサーシャもあれで案外一途なのだ。スルトに想いを寄せてからは、誰とも寝ていないと聞く。
もしかすると、スルト以上に他者を抱くことが苦痛に思うようになっているのかもしれない。
(家来さんの言うとおり、これはサーシャ自身の問題で、俺はサーシャが決めたことに従うのみ)
噂の出所はレラの可能性が高い。
とにかく噂をなんとかしないとこの問題は片付かない。しかし噂を封じることなどできるのだろうか。
スルトは眉間にシワを寄せ、目を閉じた。
「ん、いってらっしゃい」
サーシャは仕事に行くため身なりを整えると、抱き潰され起き上がれないスルトをシーツの上から抱きしめ、そして頬に口づけを落としてから、部屋を出ていった。
結局この夜は、寝室へ移動したあとも、サーシャに求められるまま夜通し激しく睦み合い、ゆっくり話すことはできなかった。
しかし何かにつけ聡いサーシャが街の噂を知らないとは思えず、自分に何も言わないというこは、心配するなということなのだろうと、スルトは解釈した。
例え、もしここでスルトが男娼であったことが公になり、これまでの歓迎ムードが一転、反発をくらいサーシャ自身の立場が危うくなったとしても、おそらくサーシャはスルトを離さないだろう。
……自意識過剰かと思われるかもしれないが、昨晩これだけの執着を見せられると、さすがにそう思うしかない。
(まさか、サーシャがレラに嫉妬するとはね)
おそらく書斎でレラからあの夜のことを聞いたのだろう。
レラがどんなことをサーシャに言ったのかはよくわからないが、誤解を与えるような言い方だったんだろうということは想像がつく。
だがあのサーシャがレラの言葉を信じるとは思えない。……それでも嫉妬心に火がついたことは確かだ。
「ひぇ」
スルトは少し起き上がり、あらためて自身の体に残るサーシャからつけられた痕の凄まじさを目にし、思わず小さな悲鳴が口から漏れた。
(いつもより痕がすごいな。ここなんか歯型までくっきり)
散々嬲られ、体中に俺のものだと言わんばかりに、吸い付き噛みついた痕が所有印として黒く散らばっている。
とくに下腹部からうち太腿に痕が集中していて、その執着と独占欲の強さに苦笑する。
「こんなにされたのは、さすがにはじめてだな」
これだけされると、鬱血痕にもやや痛みが残る。腰も限界だし、今日は寝台の上でのんびりするかと、スルトはパタンと寝台に倒れた。
△△△
「スルト様! スルト様、大変です!」
これで今日何度目のうたた寝か、昼食のあと、気がつくと眠ってしまっていたスルトは、家来の慌てた声で目が覚めた。
「起きてるよ、どうしたの」
慌ててガウンを纏い、寝室の扉を開けると、青ざめた表情の家来が立っていた。
「スルト様、たった今、旦那様のお役目放棄が議会で否認となりました。それで今……」
「今?」
「子を成すため、正妻を娶るようにとお達しが」
「え」
このサーシャが放棄するはずだったその“お役目”というのは、次期皇子の父親役として子を成す役目のことだ。
サーシャの実父が皇子アンブリーテスを成したように、サーシャもまた皇子の父親となるため子種を蒔くことを期待されていた。
しかしサーシャ自身が“種馬”と揶揄するその役目を、スルトという伴侶を得たことで、ようやく放棄することができるはずだった。——だがそれは叶わぬ願いだったようだ。
子を成せぬスルトではなく、正妻を娶り子を成せと。
そしてそれでも足りぬなら種を撒き散らしてでも、あわよくば星を持つ皇子を成せと、そういうことだ。
「…………なんで? お役目は放棄できたんじゃ……」
「それが、その、申し上げにくいのですが……………………。スルト様の噂を聞いた者が、お役目を担いたくない旦那様が、男娼を利用し偽の伴侶をでっちあげて、役目を放棄したのではないかと、そう訴えたと……」
スルトは愕然とした。
「あ……………………サーシャは……サーシャはなんて?」
「……旦那様からはまだ何も…………しかしスルト様、スルト様が偽者の伴侶などと誰も思ってはおりません。ですからこれについてお気になさる必要はございません。これはあくまで旦那様個人の問題でございます。皇子を身内に持つ者の宿命のようなものなのです。それに旦那様のことです。きっとどうにかなさいます」
「………………うん。…………今日サーシャは?」
「…………それが、本日はまだ、お戻りにについて連絡がきておりません」
「…………そっか」
今忙しいと言っている仕事というのも、もしかするとこのことで、何かしら矢面に立たされているのかもしれない。
昨日の閨での激しさも、これで納得がいく。
(いろいろ大変だったのに、帰ったらレラのことまで……。サーシャ……)
「スルト様……今日はお部屋でお体をお休めになっていてください。あとでお茶をお持ちします」
顔を青褪めさせ、ガウンを握りしめるスルトの体調を慮り、家来が部屋へ戻るよう促したときだった。
「ね、それってさ、旦那さんが兄さんを本当に利用したってことも考えられるんじゃないの? 自分に好意をもつ男娼ならさ、簡単に騙せるじゃん」
家来の背後に、いつのまにかレラが立っていた。
「レラ様! なんてことを! 旦那様への侮辱はいくらスルト様の客人であっても許しませんよ」
「——サーシャに限ってそれはないよ。レラ。彼はそんなことで人を利用したりはしない」
「ふん、なんでそう言えるのさ」
スルトは黙ってガウンの紐を解き、鬱血痕だらけの自分の体を曝け出した。
「…………スルト様! 素肌を他人に見せてはいけません!」
家来が慌ててガウンの前を整え、レラに見えないよう体を覆い隠した。
「レラ、これ、全部サーシャにつけられた痕だよ。昨日レラが煽ったせいさ。おかげで今日は腰が立たなくて散々だよ。……心のない相手に普通ここまですると思う?」
「……なにそれ、兄さん。それが愛されてる証拠だって言いたいの? バカみたい」
憎々しげに顔をしかめると、スルトから目をそらし、自分に与えられた部屋のほうではなく、玄関に向かって足早に去っていった。
「…………レラ…………」
「スルト様、旦那様からの連絡があればすぐにお伝え致しますので、お部屋でお休みください」
「家来さん、俺は大丈夫だから」
「いえ、お顔が真っ青です。あとで気を落ち着かせる飲み物をお持ちしますので、寝台にお上がりください」
「分かったよ、ありがとう」
家来に促されるまま部屋に戻り、寝台に横になった。
たった数日の間で、これだけ事態が急変するとはなぁと、スルトはため息まじりで呟いた。
まあこれまでさすがに順調に行き過ぎた気もするし、——誰にも言えないが、密かにサーシャの赤ちゃんも見たいと思う自分もいる。
(サーシャの赤ちゃん、きっとかわいいだろうなぁ)
正妻になる女性が良い方であれば、うまく関係を築く努力ができるはずだ。
運が良ければ、産まれた赤子をこの手で抱くこともできるだろう。
(はぁー、複雑な悩みだな)
サーシャが自分以外の者を抱くことについては、考えるだけでも胸が痛む。だが、それは覚悟していたことでもある。
しかしサーシャもあれで案外一途なのだ。スルトに想いを寄せてからは、誰とも寝ていないと聞く。
もしかすると、スルト以上に他者を抱くことが苦痛に思うようになっているのかもしれない。
(家来さんの言うとおり、これはサーシャ自身の問題で、俺はサーシャが決めたことに従うのみ)
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