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41 キャラバンが来る
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「そういえば、今日先触れが届いたんだが、もうすぐここへキャラバンが来る」
その夜の激しい行為の後始末を終えたガーディアスは、ベッドへ横になりながら、何気なくそんな話をした。
ローレントは行為の後だからクタクタで、ガーディアスが戻ってきたときにはすでに微睡んでいたが、キャラバンという言葉に反応し、パチッと目を開けた。
「え? キャラバン? ここに商隊が来るのかい?」
「ああ。この大陸中を巡り、各国々で商売をしている奴らだ。毎年隣国に行く途中、ここに立ち寄るんだ」
「へえ! でもこのあたりの国境付近は魔獣が出る瘴気の森だろ? 隣国へ行くのに、わざわざここを通るのかい」
「実は、瘴気の影響の少ない経路が一部あるんだ。彼らは俺達にその国境までの案内と護衛を頼むついでに、この城でも市を開く」
「市だって!?」
すっかりと目が覚めたローレントは色めきだち、目を輝かせて体を起こした。
どうやら市に興味があるらしい。
まあそれはそうだろう。王都のような大都市に住んでいても、世界各国の珍しい品々を一度に見ることができるのは稀なことで、大きな領地では祭を盛り上げるために、領主がわざわざ招致したりするくらいだ。
「ああ。まずは、城で市を開いて必要なものを俺たちが買い、その後領民のために下の町でも市を開いてくれるんだ。ここでは常に物資が不足しているからな。ここから一番近い町でも馬で1日はかかる。だから定期的にこうして来てくれて、とても助かっている」
「結構大きな商隊なのかい?」
「そうだな、かなり大規模な商隊だ。ここで商売をするときは、ここの庭一帯を使う。かなりたくさんの品が並ぶぞ! 生活用品の他に、各国各地域で仕入れた雑貨や衣服を買うこともできる。当日は、ここの使用人も私的な買い物をするんだ。だからちょっとしたお祭り騒ぎだな」
「へぇ! 僕、そういうの行ったことがないんだよな! とても楽しみだ!」
ローレントは薄暗い寝室にぱっと明るい光が灯るような笑みを、その美しい顔に浮かべた。
ツンケンしていると思ったら、こんなふうに笑ったりクルクルと表情を変える。見ていて飽きない。しかもどんな表情でも、その輝くような美しさが崩れることはないのだ。
だがこんな美しい男を、不特定多数の前にさらすわけにはいかない。
「ローレント。言っておくが、お前は絶対に城から出るな」
「え」
「当たり前だ。何かあってはかなわん。向こうは世界各国を渡り歩く奴らだ。商隊長は信頼できる男だが、隊全体の統率ができているかは別問題だ。かなりの大所帯だからな。どこかで怪しい奴が紛れ込んでいないとも限らない」
「じゃあ誰かを護衛につけてくれよ」
「城の衛兵は、当日警備で忙しい」
「軍部に誰か、手が空く者はいないのかい」
「いないことはない。が、もしもだ。俺の見ていないところでお前になにかあったら、護衛した奴の首が飛ぶがいいか」
「…………分かったよ」
ローレントが渋々納得した。
別に軍部の者が、警護もできない無能だということではない。内郭にいる衛兵と軍部の兵士では質が違うのだ。衛兵はそれなりに身元がしっかりし、職務に忠実な者らで構成してある。逆に軍部の者らは傭兵上がりが多く、とにかく短気で荒っぽい。
ただでさえ忙しいのに、商隊の者らと揉め事でも起こされたら大変だ。それに、廃太子であるローレントに注目が向くようなことだけは避けなくてはならない。
「当日俺は、サシたちとともに城の備品の買い付けをしなけりゃならん。午後からなら余裕ができるから、手が空いたら迎えに行く。それまでは絶対に部屋から出るな」
「何度も言わなくても、理解したよ」
ローレントはもう興味を失ったかのように、ゴロリとガーディアスに背を向けて寝転んだ。
「そう拗ねるな。窓から覗くのは大丈夫だ。上から眺めているだけでも楽しいはずだ」
「……拗ねてなんかない」
そう呟く声が拗ねている。
「僕だって分かってるさ。どうせ僕は人前に出ちゃいけない立場だもんな」
ガーディアスはうまい言葉が浮かばず、髭を掻く。
歴史的な大事件を引き起こし、廃太子となった挙げ句、男の身で臣下に降嫁させられた王子。
それでも高位貴族の辺境伯と王族との結婚だ。本来ならば多くの貴族を招待し派手にお披露目をするはずが、それすら許されることなく、ひっそりとこの辺境の地へと身を寄せることになった。
彼が起こした事件は様々な所で波紋を描き、迷惑を被った王都民から王族への反発も大きかった。処分が下されたとはいえ、堂々とできる立場ではないのだ。
王からもなるべく人前に出すなと言われている。ここにいることは貴族の間では周知の事実ではあるが、注目されることは避けるようにとのお達しだった。
国を巡行するキャラバンの者らの前に出せば、ローレントがここでどんなふうに暮らしているかという話が、あっという間に国中に広まってしまうだろう。
だがしかし。ガーディアスがローレントを人前に出したくない理由は、それだけではなかった。
ただ単に、自分がローレントを誰にも会わせたくないのだ。
危険がとか王からのお達しがとかはもはや言い訳であり、正直いえば多少のことならなんとでもなる。
だが、自分以外の者がローレントに興味を向けるかもしれないと、そう考えるだけで無性に苛立つ。
これが束縛であることは分かっている。自分でもあり得ないくらいひどい執着心だと思う。しかしことローレントに関してだけは、どうしてもこの感情が抑えきれない。
「……君は僕を妻だと言ってはくれるけど、でも結局は夜こうして体を重ねるだけの関係だろ? それ以外なにもない。誰にも会わないし、誰にも会えない。……なんだか僕はここに存在しているようで、本当は誰にも見えていない透明な存在なんじゃないかって、ちょっとそんなふうに思ってしまっただけだ」
そうしてローレントは、ガーディアスに背中を向けたまま深いため息を吐いた。
服越しでも分かるほど形よくラインを描く背中が、なんだか物憂げだ。
だがそのわかりやすい哀愁がなんとも大げさで、芝居がかっている。
どうやらローレントは、ガーディアスの痛いところをついて、同情させようという魂胆らしい。
確かに妻とはいえ現段階では放置しているも同然で、体だけの関係であると言われてしまえばぐうの音も出ない。
しかも外に出したくない真の理由がアレなものだから、うまくやれば罪悪感から絆されて許可を出しただろう。
だが、こんな下手な演技で自分が絆されるはずないだろうと、ガーディアスは笑いそうになった。
「午後からなら見て回れる。だからそんな声を出すな」
ガーディアスが強引にローレントの体を引き寄せると、演技に気づいていないふりをして笑いをこらえながら、柔らかい金の髪がかかった首筋に上から口づける。
「自由に市を見せてはやれないが、その代わりお前にいい話がある」
首に唇を触れさせたままそう囁くと、ローレントがチラッとこちらを見たのが分かる。
「……いい話?」
「そうだ。お前はさっき、俺とは体の関係しかないと嘆いたな。ならばちゃんと、このガーディアスの妻としての役割を与えてやろう」
「え?」
ローレントは、ツンと澄ましたような切れ長の目をまん丸くして、ガーディアスを肩越しに振り返って見た。
「……それって僕に、なにか仕事をくれるってことかい?」
「ああ。通常貴族の妻は家政管理をやるらしいが、ここではそれは必要ない。だからお前には俺の補佐として、領地運営を手伝ってもらおうと考えている」
ローレントはガバッと起き上がると、肘をついて横たわるガーディアスを、信じられないといった表情でまじまじと見た。
「僕が手伝っても、その……、いいのかい?」
「いいに決まっている。なんでそんなに驚く」
「え、だって、君、僕をお飾り程度にしか思っていなかっただろ。これまで領地のことを何も話してくれなかったし、僕をそういうことに関わらせる気がないんだと思っていた」
「…………」
ガーディアスはきまり悪く顎髭を指で掻いた。ラミネットに言われるまでそのつもりだったのだから、なんとも答えに窮する。
「ま、まあ、お前も俺と前向きに夫婦をやっていくと決めたことだし、そろそろいいだろうと思ってな」
「ガーディアス!」
「おっ……と」
ローレントが急に、ガーディアスの上に覆いかぶさるようにして抱きついた。
「僕はずっともうこの先何の役にも立たず、この城でぼんやりとして暮らすだけかと思っていたよ! どうしたら君に認めてもらえるか、ずっと考えてた。それにラミネットまでが君の部下になって、僕だけ仲間外れにされたような気分だったんだ」
「そうか。それは悪かったな」
はしゃぐように抱きつくローレントを、ガーディアスは下から抱きしめて、頬にキスをした。そして今度は、嬉しそうに笑うローレントの唇に口付ける。
「明日、お前にどう任せていくか、サシと話し合う予定だ。仕事の割り振りや調整が必要になるから、また決まり次第伝える」
「分かった。こうみえて僕は優秀だからな。君よりもうまく領地を運営してみせるよ」
ガーディアスの体の上に起きがあり、ローレントが胸を張る。それを見たガーディアスは、ははっと大きく笑った。
「それは楽しみだ。……それで話は変わるが、ローレント。気づいてはいると思うが……」
「ん? ……あー――……」
ガーディアスはローレントの柔らかい尻を鷲掴みにし、下からゴリゴリと存在感を増したペニスを擦り付けた。
ついさっき行為を終えたばかりだというのに、ガーディアスのペニスはすっかりと硬さを取り戻していた。
「……さっき済ませたばかりだろ。君、元気よすぎじゃないのか」
ローレントが呆れ、さも嫌そうに眉根を寄せた。
「かわいいことばかり言うお前が悪い。詫びに口でしてくれ」
「口? ……く、口!? 嫌に決まってるだろ! 絶対に嫌だ!」
「じゃあ、しょうがないな。もう1回だ」
「さっき終えたばかりじゃないか!」
「じゃあどうしろというんだ。お前はさっき5回はイッたのに、俺は2回だけだ。不公平だろう」
「ご、5回もいってない! 出したのは2回だけだ! 君と一緒だろ!?」
ローレントが顔を真っ赤にして反論する。
たしかに射精したのは2回だが、ローレントは中で3回イッている。中にペニスを突っ込んでいたのだから、ガーディアスが気づかないはずがないのに、気づいていないと思っているのだ。
「分かったわかった。同じでいい。だからもう1回だ」
「だからってなん…………ん…………」
上からローレントの頭を押さえつけるようにして唇を重ね、ローレントの唇を塞ぐ。
舌で歯列をなぞりながら、指でズボン越しに後ろの穴を刺激すると、ローレントの腰が逃げるように動く。あっと吐息をした隙に舌を滑り込ませると、口蓋を撫であげ、舌を絡ませた。
さんざん舌をなぶり、会陰と後穴を指で焦らすように撫でながら、わざといやらしく音をたてて唇を離すと、もう一度問いかける。
「……だめか?」
「…………し、仕方がないな……。1回だけだぞ」
思惑どおりにローレントのお許しが出た。
なんども後ろを指で刺激し、前を腹で擦り上げたから、ガーディアスの下腹部には、ローレントの少し硬くなったものが当たっている。
本当はこの体制のまま突っ込みたいのを我慢し、ガーディアスはローレントを抱えたまま転がると仰向けにし、彼の気が変わらないうちに正常位での行為に取りかかった。
その夜の激しい行為の後始末を終えたガーディアスは、ベッドへ横になりながら、何気なくそんな話をした。
ローレントは行為の後だからクタクタで、ガーディアスが戻ってきたときにはすでに微睡んでいたが、キャラバンという言葉に反応し、パチッと目を開けた。
「え? キャラバン? ここに商隊が来るのかい?」
「ああ。この大陸中を巡り、各国々で商売をしている奴らだ。毎年隣国に行く途中、ここに立ち寄るんだ」
「へえ! でもこのあたりの国境付近は魔獣が出る瘴気の森だろ? 隣国へ行くのに、わざわざここを通るのかい」
「実は、瘴気の影響の少ない経路が一部あるんだ。彼らは俺達にその国境までの案内と護衛を頼むついでに、この城でも市を開く」
「市だって!?」
すっかりと目が覚めたローレントは色めきだち、目を輝かせて体を起こした。
どうやら市に興味があるらしい。
まあそれはそうだろう。王都のような大都市に住んでいても、世界各国の珍しい品々を一度に見ることができるのは稀なことで、大きな領地では祭を盛り上げるために、領主がわざわざ招致したりするくらいだ。
「ああ。まずは、城で市を開いて必要なものを俺たちが買い、その後領民のために下の町でも市を開いてくれるんだ。ここでは常に物資が不足しているからな。ここから一番近い町でも馬で1日はかかる。だから定期的にこうして来てくれて、とても助かっている」
「結構大きな商隊なのかい?」
「そうだな、かなり大規模な商隊だ。ここで商売をするときは、ここの庭一帯を使う。かなりたくさんの品が並ぶぞ! 生活用品の他に、各国各地域で仕入れた雑貨や衣服を買うこともできる。当日は、ここの使用人も私的な買い物をするんだ。だからちょっとしたお祭り騒ぎだな」
「へぇ! 僕、そういうの行ったことがないんだよな! とても楽しみだ!」
ローレントは薄暗い寝室にぱっと明るい光が灯るような笑みを、その美しい顔に浮かべた。
ツンケンしていると思ったら、こんなふうに笑ったりクルクルと表情を変える。見ていて飽きない。しかもどんな表情でも、その輝くような美しさが崩れることはないのだ。
だがこんな美しい男を、不特定多数の前にさらすわけにはいかない。
「ローレント。言っておくが、お前は絶対に城から出るな」
「え」
「当たり前だ。何かあってはかなわん。向こうは世界各国を渡り歩く奴らだ。商隊長は信頼できる男だが、隊全体の統率ができているかは別問題だ。かなりの大所帯だからな。どこかで怪しい奴が紛れ込んでいないとも限らない」
「じゃあ誰かを護衛につけてくれよ」
「城の衛兵は、当日警備で忙しい」
「軍部に誰か、手が空く者はいないのかい」
「いないことはない。が、もしもだ。俺の見ていないところでお前になにかあったら、護衛した奴の首が飛ぶがいいか」
「…………分かったよ」
ローレントが渋々納得した。
別に軍部の者が、警護もできない無能だということではない。内郭にいる衛兵と軍部の兵士では質が違うのだ。衛兵はそれなりに身元がしっかりし、職務に忠実な者らで構成してある。逆に軍部の者らは傭兵上がりが多く、とにかく短気で荒っぽい。
ただでさえ忙しいのに、商隊の者らと揉め事でも起こされたら大変だ。それに、廃太子であるローレントに注目が向くようなことだけは避けなくてはならない。
「当日俺は、サシたちとともに城の備品の買い付けをしなけりゃならん。午後からなら余裕ができるから、手が空いたら迎えに行く。それまでは絶対に部屋から出るな」
「何度も言わなくても、理解したよ」
ローレントはもう興味を失ったかのように、ゴロリとガーディアスに背を向けて寝転んだ。
「そう拗ねるな。窓から覗くのは大丈夫だ。上から眺めているだけでも楽しいはずだ」
「……拗ねてなんかない」
そう呟く声が拗ねている。
「僕だって分かってるさ。どうせ僕は人前に出ちゃいけない立場だもんな」
ガーディアスはうまい言葉が浮かばず、髭を掻く。
歴史的な大事件を引き起こし、廃太子となった挙げ句、男の身で臣下に降嫁させられた王子。
それでも高位貴族の辺境伯と王族との結婚だ。本来ならば多くの貴族を招待し派手にお披露目をするはずが、それすら許されることなく、ひっそりとこの辺境の地へと身を寄せることになった。
彼が起こした事件は様々な所で波紋を描き、迷惑を被った王都民から王族への反発も大きかった。処分が下されたとはいえ、堂々とできる立場ではないのだ。
王からもなるべく人前に出すなと言われている。ここにいることは貴族の間では周知の事実ではあるが、注目されることは避けるようにとのお達しだった。
国を巡行するキャラバンの者らの前に出せば、ローレントがここでどんなふうに暮らしているかという話が、あっという間に国中に広まってしまうだろう。
だがしかし。ガーディアスがローレントを人前に出したくない理由は、それだけではなかった。
ただ単に、自分がローレントを誰にも会わせたくないのだ。
危険がとか王からのお達しがとかはもはや言い訳であり、正直いえば多少のことならなんとでもなる。
だが、自分以外の者がローレントに興味を向けるかもしれないと、そう考えるだけで無性に苛立つ。
これが束縛であることは分かっている。自分でもあり得ないくらいひどい執着心だと思う。しかしことローレントに関してだけは、どうしてもこの感情が抑えきれない。
「……君は僕を妻だと言ってはくれるけど、でも結局は夜こうして体を重ねるだけの関係だろ? それ以外なにもない。誰にも会わないし、誰にも会えない。……なんだか僕はここに存在しているようで、本当は誰にも見えていない透明な存在なんじゃないかって、ちょっとそんなふうに思ってしまっただけだ」
そうしてローレントは、ガーディアスに背中を向けたまま深いため息を吐いた。
服越しでも分かるほど形よくラインを描く背中が、なんだか物憂げだ。
だがそのわかりやすい哀愁がなんとも大げさで、芝居がかっている。
どうやらローレントは、ガーディアスの痛いところをついて、同情させようという魂胆らしい。
確かに妻とはいえ現段階では放置しているも同然で、体だけの関係であると言われてしまえばぐうの音も出ない。
しかも外に出したくない真の理由がアレなものだから、うまくやれば罪悪感から絆されて許可を出しただろう。
だが、こんな下手な演技で自分が絆されるはずないだろうと、ガーディアスは笑いそうになった。
「午後からなら見て回れる。だからそんな声を出すな」
ガーディアスが強引にローレントの体を引き寄せると、演技に気づいていないふりをして笑いをこらえながら、柔らかい金の髪がかかった首筋に上から口づける。
「自由に市を見せてはやれないが、その代わりお前にいい話がある」
首に唇を触れさせたままそう囁くと、ローレントがチラッとこちらを見たのが分かる。
「……いい話?」
「そうだ。お前はさっき、俺とは体の関係しかないと嘆いたな。ならばちゃんと、このガーディアスの妻としての役割を与えてやろう」
「え?」
ローレントは、ツンと澄ましたような切れ長の目をまん丸くして、ガーディアスを肩越しに振り返って見た。
「……それって僕に、なにか仕事をくれるってことかい?」
「ああ。通常貴族の妻は家政管理をやるらしいが、ここではそれは必要ない。だからお前には俺の補佐として、領地運営を手伝ってもらおうと考えている」
ローレントはガバッと起き上がると、肘をついて横たわるガーディアスを、信じられないといった表情でまじまじと見た。
「僕が手伝っても、その……、いいのかい?」
「いいに決まっている。なんでそんなに驚く」
「え、だって、君、僕をお飾り程度にしか思っていなかっただろ。これまで領地のことを何も話してくれなかったし、僕をそういうことに関わらせる気がないんだと思っていた」
「…………」
ガーディアスはきまり悪く顎髭を指で掻いた。ラミネットに言われるまでそのつもりだったのだから、なんとも答えに窮する。
「ま、まあ、お前も俺と前向きに夫婦をやっていくと決めたことだし、そろそろいいだろうと思ってな」
「ガーディアス!」
「おっ……と」
ローレントが急に、ガーディアスの上に覆いかぶさるようにして抱きついた。
「僕はずっともうこの先何の役にも立たず、この城でぼんやりとして暮らすだけかと思っていたよ! どうしたら君に認めてもらえるか、ずっと考えてた。それにラミネットまでが君の部下になって、僕だけ仲間外れにされたような気分だったんだ」
「そうか。それは悪かったな」
はしゃぐように抱きつくローレントを、ガーディアスは下から抱きしめて、頬にキスをした。そして今度は、嬉しそうに笑うローレントの唇に口付ける。
「明日、お前にどう任せていくか、サシと話し合う予定だ。仕事の割り振りや調整が必要になるから、また決まり次第伝える」
「分かった。こうみえて僕は優秀だからな。君よりもうまく領地を運営してみせるよ」
ガーディアスの体の上に起きがあり、ローレントが胸を張る。それを見たガーディアスは、ははっと大きく笑った。
「それは楽しみだ。……それで話は変わるが、ローレント。気づいてはいると思うが……」
「ん? ……あー――……」
ガーディアスはローレントの柔らかい尻を鷲掴みにし、下からゴリゴリと存在感を増したペニスを擦り付けた。
ついさっき行為を終えたばかりだというのに、ガーディアスのペニスはすっかりと硬さを取り戻していた。
「……さっき済ませたばかりだろ。君、元気よすぎじゃないのか」
ローレントが呆れ、さも嫌そうに眉根を寄せた。
「かわいいことばかり言うお前が悪い。詫びに口でしてくれ」
「口? ……く、口!? 嫌に決まってるだろ! 絶対に嫌だ!」
「じゃあ、しょうがないな。もう1回だ」
「さっき終えたばかりじゃないか!」
「じゃあどうしろというんだ。お前はさっき5回はイッたのに、俺は2回だけだ。不公平だろう」
「ご、5回もいってない! 出したのは2回だけだ! 君と一緒だろ!?」
ローレントが顔を真っ赤にして反論する。
たしかに射精したのは2回だが、ローレントは中で3回イッている。中にペニスを突っ込んでいたのだから、ガーディアスが気づかないはずがないのに、気づいていないと思っているのだ。
「分かったわかった。同じでいい。だからもう1回だ」
「だからってなん…………ん…………」
上からローレントの頭を押さえつけるようにして唇を重ね、ローレントの唇を塞ぐ。
舌で歯列をなぞりながら、指でズボン越しに後ろの穴を刺激すると、ローレントの腰が逃げるように動く。あっと吐息をした隙に舌を滑り込ませると、口蓋を撫であげ、舌を絡ませた。
さんざん舌をなぶり、会陰と後穴を指で焦らすように撫でながら、わざといやらしく音をたてて唇を離すと、もう一度問いかける。
「……だめか?」
「…………し、仕方がないな……。1回だけだぞ」
思惑どおりにローレントのお許しが出た。
なんども後ろを指で刺激し、前を腹で擦り上げたから、ガーディアスの下腹部には、ローレントの少し硬くなったものが当たっている。
本当はこの体制のまま突っ込みたいのを我慢し、ガーディアスはローレントを抱えたまま転がると仰向けにし、彼の気が変わらないうちに正常位での行為に取りかかった。
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