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2回目のリープ
16.絵画破壊事件2
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「なあ、鏑木。何があったんだ」
「……」
早足で廊下を歩く鏑木を追いかけるが、何を言っても鏑木は俺を無視して返事をしない。
ペタペタと平たい靴音を響かせ、夕日が差す廊下を無言で歩く鏑木。
さっきまでのブチギレ状態はおさまったようだが、不機嫌なことに変わりはなく、俺と話をしたくないないらしい。
だが走って逃げない様子を見ると、完全に嫌われたわけではないようだ。
(……これ以上怒らせないようにしないとな……)
俺は鏑木を呼び止めることを諦め、黙って後ろをついて歩いた。このまま別れると、もう二度と口をきいてもらえなくなる気がした。だから鏑木の怒りが鎮まるまで、声をかけないことにした。
お互い黙ったまま長い廊下を歩き、玄関から外に出ようかといったとき、外に出る手前で急に鏑木が振り返った。
「……足」
「……は?」
ブスくれた顔で、俺の足元を顎でしゃくった。
「おめー絵の具踏んだろ」
「はぁ? ……って、げっ」
廊下の床には、カラフルな色と泥汚れがミックスされた、汚い靴跡が点々と残されていた。
おそらくさっき美術準備室で踏んだのだ。鏑木を追いかけようと慌てていたから、絵の具を避けて歩く頭がなかった。
「あ~……まずったな」
シューズの裏は、踏んだ絵の具のせいで、スタンプのようにソールの柄がくっきりと浮かび上がっている。ソールと足跡を照合されたら、廊下を汚した犯人が俺だってすぐ分かるだろう。
「掃除しないと怒られっかな」
「別にいんじゃね? 松永が掃除すっだろ」
鏑木がそうヒヒッと意地悪そうに笑う。
「いやー大変だろこれ掃除すんの」
「いーんだよ。あいつのじごーじとく!」
やっと怒りがおさまったのか、そこにはいつもの鏑木がいた。
夕日が傾き、薄暗くなった階段で屈託なく笑う鏑木。
「——なあ、鏑木。今日さ、うち来ねー?」
そんな言葉が思わず口をつく。
「マジで。木嶋んち行っていいの?」
「おーマジマジ。夕飯作ってやんよ」
「マジかー。メシ何作ってくれんの?」
「何がいい? 簡単なもんしかつくれねーけど」
「簡単なものってなんだよ。おにぎりとか?」
「おにぎりはあれで難しいんだよ。チャーハンとか、オムライスとか……?」
「チャーハン作れんの!? スッゲーじゃん」
「市販のチャーハンの素使うし、ちょっとベチャッてすっけどな」
「ギョーザも食いたい」
「焼くだけのでもいいか」
「なんでもいい」
「おし! ちょっと遠回りだけど激安タナカマート行ってウチに帰ろーぜ。……なんだったら泊まってくか」
「おー泊まる泊まる!」
うちに泊まるかなんて冗談も、鏑木は素直に受け止め、嬉しげに俺の左肩にぶら下がるようにして肩を組んで歩き出す。
「おい、ぶら下がんなって」
「いーじゃん、おめーのほうが力持ちだし、背が高いんだからよー」
ヒャハハと笑いながらわざとぶら下がる鏑木に、さきほどまでの緊張感は感じられない。松永に対するあのブチギレはなんだったのか。
(今日どうせ泊まるんだし、それとなく聞いてみっかな)
心の中で今頃教室を一人で掃除しているだろう松永にすまんと謝りつつ、俺は鏑木と冗談を言い合いながら汚れた靴のまま玄関の扉をくぐり、鏑木と裏門のほうに向かって歩いて行った。
「……」
早足で廊下を歩く鏑木を追いかけるが、何を言っても鏑木は俺を無視して返事をしない。
ペタペタと平たい靴音を響かせ、夕日が差す廊下を無言で歩く鏑木。
さっきまでのブチギレ状態はおさまったようだが、不機嫌なことに変わりはなく、俺と話をしたくないないらしい。
だが走って逃げない様子を見ると、完全に嫌われたわけではないようだ。
(……これ以上怒らせないようにしないとな……)
俺は鏑木を呼び止めることを諦め、黙って後ろをついて歩いた。このまま別れると、もう二度と口をきいてもらえなくなる気がした。だから鏑木の怒りが鎮まるまで、声をかけないことにした。
お互い黙ったまま長い廊下を歩き、玄関から外に出ようかといったとき、外に出る手前で急に鏑木が振り返った。
「……足」
「……は?」
ブスくれた顔で、俺の足元を顎でしゃくった。
「おめー絵の具踏んだろ」
「はぁ? ……って、げっ」
廊下の床には、カラフルな色と泥汚れがミックスされた、汚い靴跡が点々と残されていた。
おそらくさっき美術準備室で踏んだのだ。鏑木を追いかけようと慌てていたから、絵の具を避けて歩く頭がなかった。
「あ~……まずったな」
シューズの裏は、踏んだ絵の具のせいで、スタンプのようにソールの柄がくっきりと浮かび上がっている。ソールと足跡を照合されたら、廊下を汚した犯人が俺だってすぐ分かるだろう。
「掃除しないと怒られっかな」
「別にいんじゃね? 松永が掃除すっだろ」
鏑木がそうヒヒッと意地悪そうに笑う。
「いやー大変だろこれ掃除すんの」
「いーんだよ。あいつのじごーじとく!」
やっと怒りがおさまったのか、そこにはいつもの鏑木がいた。
夕日が傾き、薄暗くなった階段で屈託なく笑う鏑木。
「——なあ、鏑木。今日さ、うち来ねー?」
そんな言葉が思わず口をつく。
「マジで。木嶋んち行っていいの?」
「おーマジマジ。夕飯作ってやんよ」
「マジかー。メシ何作ってくれんの?」
「何がいい? 簡単なもんしかつくれねーけど」
「簡単なものってなんだよ。おにぎりとか?」
「おにぎりはあれで難しいんだよ。チャーハンとか、オムライスとか……?」
「チャーハン作れんの!? スッゲーじゃん」
「市販のチャーハンの素使うし、ちょっとベチャッてすっけどな」
「ギョーザも食いたい」
「焼くだけのでもいいか」
「なんでもいい」
「おし! ちょっと遠回りだけど激安タナカマート行ってウチに帰ろーぜ。……なんだったら泊まってくか」
「おー泊まる泊まる!」
うちに泊まるかなんて冗談も、鏑木は素直に受け止め、嬉しげに俺の左肩にぶら下がるようにして肩を組んで歩き出す。
「おい、ぶら下がんなって」
「いーじゃん、おめーのほうが力持ちだし、背が高いんだからよー」
ヒャハハと笑いながらわざとぶら下がる鏑木に、さきほどまでの緊張感は感じられない。松永に対するあのブチギレはなんだったのか。
(今日どうせ泊まるんだし、それとなく聞いてみっかな)
心の中で今頃教室を一人で掃除しているだろう松永にすまんと謝りつつ、俺は鏑木と冗談を言い合いながら汚れた靴のまま玄関の扉をくぐり、鏑木と裏門のほうに向かって歩いて行った。
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