29 / 69
3回目のリープ
29.絶交2
しおりを挟む
「鏑木…………」
――さよならって、なんだよ。
ウリやってんのかって疑われて怒るのなら分かるけど、ただちょっと松永とのこと聞いただけで、それはねーだろ。
言いたくねーなら、いつもみてーに誤魔化せばいいのに、なんでキレて行っちまうんだよ。
マジでさよならってなんなんだよ。話しかけてくんなって、絶交ってことかよ。
……あー……くそっ、俺は何やってんだ。
あんなに前回の時間軸と同じルートを辿るって決めてたのに、自分からデカいイベントぶち壊して、挙げ句肝心の鏑木に嫌われるなんて。
鏑木の代わりに俺が絵を壊したら、話の流れが変わるかもしれないなんて、ちょっと考えたら分かるだろ。ほんと、マジで何にやってんだよ。
……せっかく鏑木との仲も順調だったのに。
今度はこれまで以上に、重要な手がかりを聞くことができたかもしれなかったのに。
鼻がツンとして、ジワッと目の前が歪む。
なんで涙が出るんだろ。
イベントをしくじったからか? もしかするとまたループになるかもしれないからなのか?
(わけ分かんねー)
とっくに見えなくなった鏑木の背中をしばらく見つめ、それから グスッと滲む涙を拳で拭うと、俺はリュックを背負い直して、足取り重くアパートへと帰った。
真っ暗な家に帰りつき、いつものようにパチンと電灯のコードを引っ張ると、明るくなった台所でやる気なくその場に立ち尽くす。
(……飯、作るのだりーな)
今日はバイトもないし、鏑木と一緒に激安タナカマートで、何か買って食べようかと思っていた。だから夕飯を作る気はそもそもなく、そしてやる元気もない。
(そんな腹も減ってねーから、いっかな……)
〝ご飯は三食ちゃんと食べること〟
頭に母親との約束が頭をよぎる。だが俺は、とにかく風呂に入ってさっぱりしたかった。
今日はかなり暴れた上、泣きながら帰ってきたから、顔も体もさっぱりさせたい。 ゆっくり風呂に入って、今心の中でモヤモヤしているものを洗い流したい気分だった。
(風呂からあがって、腹が減ったら何か食おう)
無心で浴槽を磨き、湯をためる。
どうにも落ち着かず素っ裸のまま、浴槽の前で湯がたまるのを待ち、早々と体を洗って、ようやく温かい湯に浸かると、強張っていた体が緩んで、やっとふーっと一息つけた。
湯気の立つ狭い風呂場の天井を見ながら、学校であったことを反芻した。
松永との一件、そして鏑木とのこと。
もう鏑木との関係修復は難しいかもしれない。あんなふうに怒った鏑木は初めてだった。
(鏑木と接触せず、周囲を調べあげて、なんとか行方不明になるまでのルートを突き止めるしかないのか)
学校を休んで、ずっとスナック周辺を見張るか?
いやそんなことをしたら、無断欠席が親にバレてしまう。学校から連絡なんか来たら、すぐにでもうちの母親は飛んでくるだろう。
そうなってしまえば、バイトの終わる時間まで管理され、鏑木の家に近づくことすら難しくなる。
(……もうあのスナックの二階の部屋へ行くことはなくなるのか)
また涙が出そうになって、ザブンと頭まで湯に浸かる。
あんなふうに、正面切って友達にさよならを言われたのが初めてだったからだろうか。
風呂に入ってさっぱりした気分になりたいのに、心の中にモヤモヤだけが残る。
(友達か……)
「ぷは」と湯から顔を出した。
(やっぱ俺、鏑木と離れたくねー)
明日鏑木に謝ろう。また無視されても何度も何度も謝って、いつか許してもらおう。
それしかないと、俺は心に決めた。
長湯のしすぎでのぼせて重い頭をタオルで拭きながら、俺は服も着ず冷蔵庫の麦茶を出した。冷たいものでも飲まないと倒れそうだ。
洗って伏せておいたコップに麦茶を注いでいると、かすかにアパートの階段を誰かが上がってくる音が聞こえた。
二階建てで六戸しかないうちのアパートは、木造でかなり古いこともあって、階段の上り下りの音すらアパート中に響いて聞こえる。なんというかカンカンという靴音のほかに、ドンドンという振動が伝わるというか。
だから夜に出入りする時は、結構気を遣う。
(お隣さん、仕事から帰ってきたのか)
そう思って麦茶を飲んでいると、廊下を歩く靴音は隣を通り過ぎ、俺の部屋の前で止まった。
俺の部屋に誰かが来ることなんかほぼないから、誰かよその部屋でも間違えてんのかと思った。
様子を見ていると、廊下に面した窓の曇りガラスにチラチラと人の影が覗く。
室内からぼんやり見える、廊下の外灯に照らされた金髪っぽい頭のシルエット。
「か、鏑木………!?」
違うかもしれない。でもあんな派手な金髪はこのアパートの住人にはいないし、この辺じゃ俺は鏑木以外知らない。
俺は慌ててコップを流しに置き、部屋着のズボンを履くと、すぐに玄関に向かった。
――さよならって、なんだよ。
ウリやってんのかって疑われて怒るのなら分かるけど、ただちょっと松永とのこと聞いただけで、それはねーだろ。
言いたくねーなら、いつもみてーに誤魔化せばいいのに、なんでキレて行っちまうんだよ。
マジでさよならってなんなんだよ。話しかけてくんなって、絶交ってことかよ。
……あー……くそっ、俺は何やってんだ。
あんなに前回の時間軸と同じルートを辿るって決めてたのに、自分からデカいイベントぶち壊して、挙げ句肝心の鏑木に嫌われるなんて。
鏑木の代わりに俺が絵を壊したら、話の流れが変わるかもしれないなんて、ちょっと考えたら分かるだろ。ほんと、マジで何にやってんだよ。
……せっかく鏑木との仲も順調だったのに。
今度はこれまで以上に、重要な手がかりを聞くことができたかもしれなかったのに。
鼻がツンとして、ジワッと目の前が歪む。
なんで涙が出るんだろ。
イベントをしくじったからか? もしかするとまたループになるかもしれないからなのか?
(わけ分かんねー)
とっくに見えなくなった鏑木の背中をしばらく見つめ、それから グスッと滲む涙を拳で拭うと、俺はリュックを背負い直して、足取り重くアパートへと帰った。
真っ暗な家に帰りつき、いつものようにパチンと電灯のコードを引っ張ると、明るくなった台所でやる気なくその場に立ち尽くす。
(……飯、作るのだりーな)
今日はバイトもないし、鏑木と一緒に激安タナカマートで、何か買って食べようかと思っていた。だから夕飯を作る気はそもそもなく、そしてやる元気もない。
(そんな腹も減ってねーから、いっかな……)
〝ご飯は三食ちゃんと食べること〟
頭に母親との約束が頭をよぎる。だが俺は、とにかく風呂に入ってさっぱりしたかった。
今日はかなり暴れた上、泣きながら帰ってきたから、顔も体もさっぱりさせたい。 ゆっくり風呂に入って、今心の中でモヤモヤしているものを洗い流したい気分だった。
(風呂からあがって、腹が減ったら何か食おう)
無心で浴槽を磨き、湯をためる。
どうにも落ち着かず素っ裸のまま、浴槽の前で湯がたまるのを待ち、早々と体を洗って、ようやく温かい湯に浸かると、強張っていた体が緩んで、やっとふーっと一息つけた。
湯気の立つ狭い風呂場の天井を見ながら、学校であったことを反芻した。
松永との一件、そして鏑木とのこと。
もう鏑木との関係修復は難しいかもしれない。あんなふうに怒った鏑木は初めてだった。
(鏑木と接触せず、周囲を調べあげて、なんとか行方不明になるまでのルートを突き止めるしかないのか)
学校を休んで、ずっとスナック周辺を見張るか?
いやそんなことをしたら、無断欠席が親にバレてしまう。学校から連絡なんか来たら、すぐにでもうちの母親は飛んでくるだろう。
そうなってしまえば、バイトの終わる時間まで管理され、鏑木の家に近づくことすら難しくなる。
(……もうあのスナックの二階の部屋へ行くことはなくなるのか)
また涙が出そうになって、ザブンと頭まで湯に浸かる。
あんなふうに、正面切って友達にさよならを言われたのが初めてだったからだろうか。
風呂に入ってさっぱりした気分になりたいのに、心の中にモヤモヤだけが残る。
(友達か……)
「ぷは」と湯から顔を出した。
(やっぱ俺、鏑木と離れたくねー)
明日鏑木に謝ろう。また無視されても何度も何度も謝って、いつか許してもらおう。
それしかないと、俺は心に決めた。
長湯のしすぎでのぼせて重い頭をタオルで拭きながら、俺は服も着ず冷蔵庫の麦茶を出した。冷たいものでも飲まないと倒れそうだ。
洗って伏せておいたコップに麦茶を注いでいると、かすかにアパートの階段を誰かが上がってくる音が聞こえた。
二階建てで六戸しかないうちのアパートは、木造でかなり古いこともあって、階段の上り下りの音すらアパート中に響いて聞こえる。なんというかカンカンという靴音のほかに、ドンドンという振動が伝わるというか。
だから夜に出入りする時は、結構気を遣う。
(お隣さん、仕事から帰ってきたのか)
そう思って麦茶を飲んでいると、廊下を歩く靴音は隣を通り過ぎ、俺の部屋の前で止まった。
俺の部屋に誰かが来ることなんかほぼないから、誰かよその部屋でも間違えてんのかと思った。
様子を見ていると、廊下に面した窓の曇りガラスにチラチラと人の影が覗く。
室内からぼんやり見える、廊下の外灯に照らされた金髪っぽい頭のシルエット。
「か、鏑木………!?」
違うかもしれない。でもあんな派手な金髪はこのアパートの住人にはいないし、この辺じゃ俺は鏑木以外知らない。
俺は慌ててコップを流しに置き、部屋着のズボンを履くと、すぐに玄関に向かった。
30
あなたにおすすめの小説
経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!
中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。
無表情・無駄のない所作・隙のない資料――
完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。
けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。
イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。
毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、
凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。
「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」
戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。
けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、
どこか“計算”を感じ始めていて……?
狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ
業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※表紙をAI君に描いてもらいました。(2026.2.21)
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
僕の恋人は、超イケメン!!
八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる