お見合い、そちらから断ってください!【完結】

Lynx🐈‍⬛

文字の大きさ
6 / 45

父の策は

しおりを挟む

 月曜の朝。亜里沙は出勤に外面良くして、車に乗り込むと、会社の加工工場へと向かった。
 父、太輔に朝から家では会いたくなくて、こっそり出て来ていたが、太輔は食品加工会社に来ていた。

「げっ!お父さん……」
「会社では社長と呼びなさい、間野君」
「はい……
「全く………こうまでしないと、娘に会えんのか、私は」
「今はの立場じゃないんですかね?」

 PCを起動し、経理の仕事を太輔を無視して始める亜里沙にメモを渡して来る太輔。

「何、これ」
「小山内さんの連絡先だ」
「…………は?何でそんなの持ってるの!」
「お前の見合い相手だからだ」
「え?亜里沙さんお見合いしたんですか?」
「お相手どんな人なんですか?」

 社員達も出勤している為、社員達の前で話したくない亜里沙。

「ああ!煩い!お父さん、何でここで渡すの!」
「お前が家でお父さんを避けるからだろ」
「…………万里紗に渡せば!」

 航の連絡先を握り潰し、ゴミ箱に捨てる亜里沙。

「万里紗にはもう渡してある」
「ならいいじゃないの」
「亜里沙!」
「私は結婚する気ないもん」
「ほぉ……それならば将太の為に、離れを明け渡しなさい、今週中にだ!」
「横暴よ!」

 亜里沙は、自分の自由を奪われそうで、不服極まりなく、仕事の手を止める。

「嫌だったら先日の詫びの連絡を入れろ!今日中にな…………夜は店の営業があるから、夕方迄に連絡しなさい」
「………何で詫びなんて……」
「するんだ!確認するからな、したかしてないか」
「は?………そもそも結婚する気無い私を無理矢理連れてった横暴さに、私への詫びは無い訳?」
 
 太輔がゴミ箱から亜里沙が握り潰したメモを出し広げ伸ばすと、太輔は言い放つ。

「お前が結婚したら詫び等要らん。寧ろ感謝してもらいたいぐらいだ………いいな!連絡しろ!」
「…………嫌なこった」
「連絡しなかったら今週中に、将太が離れに入るからな、お前は母屋か引越して貰うぞ!あと、将太の結婚式迄に、結婚相手を決めてもらうからな!」
「横暴親父!」

 太輔は言いたい事を言って、工場の事務所に入って仕事をしに行ってしまった。

「亜里沙さん、どんな相手でした?」
「紹介して下さいよ、亜里沙さん」
「皆仕事してよ!工場職の人達は仕事してんのよ!」
「は、はい!」

 実質、工場内でトップである亜里沙の指示に逆らう者は居らず、午前中の仕事を終えると、企画担当の社員から試作品が出来た、と連絡があり、仕事を中断せざる得ず、試食も亜里沙はしなければならない。
 コスト面での判断が亜里沙は厳しくチェックしなければならないのだ。

「………単価高くない?メーカー小売価格は如何するの?」
「そ、それが少しばかり採算度外視にして欲しい、かな………と……目玉商品となれる見込みもありまして」
「…………美味しいけど、経理的には却下」
「もう少しコスト下げれないのか?」
「努力したんですが………」
「経理も言っているが、この材料費だとな……何より物価も高くなっている今年、コストも掛かってる……量を減らすか、小さくするか改善点も要る」

 亜里沙や太輔だけではない。商品企画担当者と営業担当、数人の社員で決められる新商品会議は頻繁に行われているのだ。

「新商品会議は頭疲れる………」
「姉ちゃん」
「…………何、将太」
「連絡した?」
「…………アンタ迄言うの!?」
「そりゃ、気になるもん」

 工場での新商品会議は、将太も来ていた。

「アンタは私なんて気にせず結婚しなよ」
「気にしてるのは父さんじゃん」
「だね………」
「でも、離れは早く明け渡してよね」
「は?何でよ」
「父さん、離れ取り壊して俺と彼女との新居建ててくれるってさ」
「何!私を追い出す気満々じゃない!アンタと入れ替わるだけじゃない訳?」
「俺ヤダよ、あんなボロい家」
「アンタねぇ…………子供の頃はあの家だったじゃないか!何をそんな簡単に……」
「だって、彼女が嫌だって言うからさ」
「………何もう、尻に敷かれてんのよ」

 男らしさも無い様な弟に、軟弱さを感じる亜里沙。

 ―――これだから、2次元男は……

 亜里沙だって、恋愛をして来なかった訳ではない。自分の意思が無く、周りに影響されて動く男しか亜里沙は見て来なかった。
 そんな中で、アニメや漫画、ゲーム内で見られる2次元の男キャラに、夢を見てしまった亜里沙は、3次元の男に全く興味を示せなくなったのだ。
 仕事場でも、言われる事さえしっかりやれば、後は社会性に順応さえしていれば、工場内で特に問題視はしておらず、亜里沙も仕事上の付き合いしかしないので、特に社員に興味を示してはいないのだが、時折弟や、他の社員でをしない社員を見るとウンザリして、2次元の男キャラに逃げて慰めて貰っていたのだ。

「アンタ、大丈夫なの?結婚して」
「何?賛成してくれてたじゃん、今更反対とか言う訳?」
「………反対じゃないけど、彼女の言いなりになるのだけはやめなさいよ、て言いたい」
「俺だって意見ぐらい言うよ」
「如何だかね………離れを建て替え云々言ってたけど、間取りやらインテリアやら、アンタの意見全く通らなかったら、アンタいい気しないんじゃないかな、て心配になってね」
「…………ま、まだそんな話迄詰めれる訳ないじゃないか!姉ちゃんがまだ離れに居るのに!」
「…………アンタ、ちゃんと自分の意見通したい時は絶対に折れちゃ駄目だよ?………お父さんの後継ぐんでしょ?社員の生活掛かってんだからね?」
「分かってるよ!言われなくても!」

 ―――怪しいなぁ……

 亜里沙は父の仕事を手伝う事に誇りを持っている。小さな食品加工会社から始まり、少しずつ大きくして来た太輔を見てきている。大学迄進学させて貰い、何不自由無く生活出来たのも、真っ当に仕事に向き合って来た太輔が居たからだと思っているからだ。だが、将太や万里紗は、長女の亜里沙とは少し違う気がしてならなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

寵愛の花嫁は毒を愛でる~いじわる義母の陰謀を華麗にスルーして、最愛の公爵様と幸せになります~

紅葉山参
恋愛
アエナは貧しい子爵家から、国の英雄と名高いルーカス公爵の元へと嫁いだ。彼との政略結婚は、彼の底なしの優しさと、情熱的な寵愛によって、アエナにとってかけがえのない幸福となった。しかし、その幸福を妬み、毎日のように粘着質ないじめを繰り返す者が一人、それは夫の継母であるユーカ夫人である。 「たかが子爵の娘が、公爵家の奥様面など」 ユーカ様はそう言って、私に次から次へと理不尽な嫌がらせを仕掛けてくる。大切な食器を隠したり、ルーカス様に嘘の告げ口をしたり、社交界で恥をかかせようとしたり。 だが、私は決して挫けない。愛する公爵様との穏やかな日々を守るため、そして何より、彼が大切な家族と信じているユーカ様を悲しませないためにも、私はこの毒を静かに受け流すことに決めたのだ。 誰も気づかないほど巧妙に、いじめを優雅にスルーするアエナ。公爵であるあなたに心配をかけまいと、彼女は今日も微笑みを絶やさない。しかし、毒は徐々に、確実に、その濃度を増していく。ついに義母は、アエナの命に関わるような、取り返しのつかない大罪に手を染めてしまう。 愛と策略、そして運命の結末。この溺愛系ヒロインが、華麗なるスルー術で、最愛の公爵様との未来を掴み取る、痛快でロマンティックな物語の幕開けです。

叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する

花里 美佐
恋愛
冷淡財閥御曹司VS失業中の華道家 結婚に興味のない財閥御曹司は見合いを断り続けてきた。ある日、祖母の師匠である華道家の孫娘を紹介された。面と向かって彼の失礼な態度を指摘した彼女に興味を抱いた彼は、自分の財閥で花を活ける仕事を紹介する。 愛を知った財閥御曹司は彼女のために冷淡さをかなぐり捨て、甘く変貌していく。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。

楠ノ木雫
恋愛
 蒸発した母の借金を擦り付けられた主人公瑠奈は、お見合い代行のアルバイトを受けた。だが、そのお見合い相手、矢野湊に借金の事を見破られ3ヶ月間恋人役を務めるアルバイトを提案された。瑠奈はその報酬に飛びついたが……

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「結婚したらこっちのもんだ。 絶対に離婚届に判なんて押さないからな」 既婚マウントにキレて勢いで同期の紘希と結婚した純華。 まあ、悪い人ではないし、などと脳天気にかまえていたが。 紘希が我が社の御曹司だと知って、事態は一転! 純華の誰にも言えない事情で、紘希は絶対に結婚してはいけない相手だった。 離婚を申し出るが、紘希は取り合ってくれない。 それどころか紘希に溺愛され、惹かれていく。 このままでは紘希の弱点になる。 わかっているけれど……。 瑞木純華 みずきすみか 28 イベントデザイン部係長 姉御肌で面倒見がいいのが、長所であり弱点 おかげで、いつも多数の仕事を抱えがち 後輩女子からは慕われるが、男性とは縁がない 恋に関しては夢見がち × 矢崎紘希 やざきひろき 28 営業部課長 一般社員に擬態してるが、会長は母方の祖父で次期社長 サバサバした爽やかくん 実体は押しが強くて粘着質 秘密を抱えたまま、あなたを好きになっていいですか……?

処理中です...