お見合い、そちらから断ってください!【完結】

Lynx🐈‍⬛

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甘く落とす気?

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 航が連れて来た海は、観光地だった。土曜というだけあり、混雑した商店街に、海岸ではサーフィンや波打ち際で遊ぶ子供や、犬の散歩をしている人達が見える。

「相変わらず、混んでるな」
「よく来るんですか?」
「彼女が居たら、デートコースにはしてる……1回は必ず来るかな………街中の雑踏が俺嫌いなんだよ………こっちも人混みは都会と変わらねぇが、海のニオイが好きでな」
「…………それは、料理人だから?」
「…………う~ん……そこは違う気がする……食べ歩きするのも、気に入った店とかあるからさ」
「…………何ですか?この手」
「あ?………手繋ぐに決まってんだろ」

 バイクを駐車場に停めて、街を散策しようと航はしたいのだろう。亜里沙に手を伸ばす。

「いいです………繋がなくて……」
繋ぎたいって言ってんだ!逸れるだろうが………行くぞ」
「あっ!」

 無理矢理手を取られ、指を絡める航。人にぶつかりそうになると、亜里沙を庇う様に歩かれるので、女からすれば、航のエスコートは至福の時間になるだろう。

 ―――お、推しに大事にされてる気がする!

 亜里沙は航に大事にされている。間違ってはいない。だが、亜里沙は望んでないのだ。

 ―――シュチュに萌えるんだけど!……本気なの?この人………

「あ、そうだ……水族館行かね?……彼処にあるだろ?」
「………水族館?行きたいです!」

 海沿いにある水族館が見え、亜里沙が大学生時代迄、好きな人とデートをするなら行きたいと思っていた場所だった。

「………敬語止めてくれねぇかな……」
「え?だって年上の人ですし……」
「対等でいたいんだよな………俺、専卒で学無いからよ………敬語話されるとむず痒い」
「高校卒業後に専門学校ですか?」
「料理専門な………そこ卒業して、親父の店継ぐのに、別の店で修行して、今は親父と店やってる……だから、敬語止めろ」
「…………直ぐには取れないですよ……それに私、航さんと見合い結婚する気も無いですし」
「…………俺だって、結婚の2文字なんて今考えてねぇよ………見合いなんてもんも、元よりあれは成立してねぇと思うし」
「…………確かにハチャメチャでしたね」

 考えてみれば、見合いというのは、当事者の両親が揃い、仲人が居て厳かな雰囲気で執り行われる。だから、亜里沙の両親は、亜里沙に着物を着させて見合いに合う場所だと思い向かったのだが、航側に居たのはスーツ姿の律也と、同じくスーツ姿の羽美。羽美は航の妹で、付き添って入って来たのは友人2人。身内でもない。

「合コン、て言われても行かなかっただろうしな、俺」
「何て言われて来たんでしたっけ?」
「あぁ………妹の子供達に会えると思って………可愛くてよ………羽美に似て……律也に似ない様に暗示掛けなきゃならなくてな」
「速水さんの奥さんが、航さんの妹さん……」
「そう………速水物産の秘書として働いてる」
「妹が………万里紗が、羽美さんを羨ましがってました」
「…………羽美を?何で………あぁ……玉の輿に乗ったからか……」
「…………お恥ずかしい話ですが違います」
「違う?」
「……………イケメン達に囲まれてたから……て理由で………」

 水族館に入って、魚をぼんやり見ながら、亜里沙の悩みの種の1つ、万里紗の事をぶっちゃける。隠していても、いずれバレるだろうからだ。

「…………あぁ……悪い………俺益々、亜里沙の妹に嫌悪するわ……」
「だから、付き合わない方がいいんですよ……私とは」
「…………そんな理由で付き合わない、てのは却下だな」
「っ!」
「俺が、亜里沙を好きにさせたら、そんな理由で付き合わない、とは言えないと思うぜ?」
「…………そ、そんな事は………な…」
「無いと言えるか?………結婚話が出てんなら、俺もまた何か出来る事あるかもしれん………万里紗ちゃんに俺が迷惑掛けられてるだけだが、親友や妹に対して何か仕掛けて来るなら、俺は出るとこ出るし、万里紗ちゃんが俺に興味ある間は、亜里沙がフォローするんだろ?その間、俺は亜里沙を好きにさせる自信あるからな………」
「なっ!…………ど、如何してそんな事言い切れるんですか!」

 目の前に海月がゆらゆらと浮かぶ、仄暗い水槽の前で、静寂が破れた亜里沙の声。

「静かにしようぜ、亜里沙」
「…………すいません……」
「亜里沙が好きな、恋愛ゲーム?………あの推しキャラ見てそう思っただけ………彬良……ホテルの支配人な……アイツの嫁さんが、あのゲーム知っててよ…………どうやら似てるんだって?俺が………その推しキャラに」
「っ!」

 ―――ふ、雰囲気が似てるってだけよ!航さんの中身なんてまだ知らないもん!

「…………て、事で、俺は俺のままで、亜里沙を口説いていいんだ、と思った訳だ」

 亜里沙の手が熱が篭もる。航と繋がる手が熱くて、覆いたい顔にも火照った感があるのに、隠したくても隠せない。手を離し隠したら、航に余計に知られてしまうだろう。

「ま、私………航さんが似てるなんて思ってませんから!」
「別に似てると思ってなくていいぞ。あんな2次元のキャラなんて、亜里沙抱けねぇし満足なんてさせられねぇからな………3次元が2次元に負けるかっての」

 ―――っ!………やだ!キュンキュンする!こんな事、3次元男に言われた事無い!

「…………あぁ……煽り過ぎたな………やべぇ……キスしていいか?」
「だ、駄目です!」
「チッ」

 暗い水族館の通路でも分かる亜里沙の赤い顔が、航を煽った様だ。
 同意が無いので、航は亜里沙にキスを仕掛けなかったが、航もまた亜里沙の照れが移っていた。
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