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水没

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 月龍は美佳への警戒をする様になった。

「新しく来た下女の浄化が進んでいないのか?」
「食事をすれば浄化が出来る筈なのですが」
「では、何故あの様な醜い考えがまだあるのだ………花嫁の座を狙うのは何故だ?……他の下女や侍従は、我等龍達に反発はせぬのに」

 仕事を選りすぐり、侍従や龍達を色香で誘う様になったのだ。侍従達とのまぐわいは禁止にはしてはいないが、神となる龍達とのまぐわいは良くはない。を与えなければ子は宿す事はないが、度が過ぎる程見境なくまぐわう為、注視している。

「華龍、あの下女の食事について調べよ」
「承知致しました」

 瑠珠が月龍の元に来て、神界での時は半年程になった。屋敷の暮らしも瑠珠は慣れたのと、瑠珠の望みで根負けし、月龍が仕事中で1人にされる時に結界の中は嫌だと言われ、警護付きであれば屋敷内を自由に、となった。声に関しては月龍以外聞く事を許されておらず、今も尚、身振り手振りで意思疎通を下女や侍従達にしている。

 ―――めんどくさいなぁ……

 下女の手を取り、行きたい場所を指文字で記すと、下女が他の皆に口で説明するという無駄な行動をさせられている。
 月龍は、美佳の事もあるので、瑠珠を自由にさせたくなかったが、瑠珠はそれは突っ跳ねた。

『何故、それで私が隠れなきゃならないの?下女は自由にしてるのに』
『確かにそうなのだが、浄化がされていないままの下女は何をするか分からぬ……我の花嫁になりたい、と言っていたぐらいだからな』
『私、花嫁じゃなくてもいいけど?』
『我の番いは其方だ。其方以外の花嫁は居らぬ』

 瑠珠の感情も、月龍は聞かされておらず、月龍の花嫁という座には執着はしていない瑠珠。常に自由を求め、いつか還る事を願っている。その望みを月龍以外に知られると困るから、声を奪っているのだ。
 それを瑠珠は分かってはいない。
 心が月龍に向かえば、『還りたい』とは言わない筈だと思っているので、月龍の恐怖心の表れでもある。

 ―――月龍の所に行こうかな……散策も飽きてきた……

 下女の手を取り、『月』と指文字を書くと、下女が分かったかの様に、他の者に伝える。

「月龍様の所へ移動します」

 ―――分かってくれるから助かるけど、話す相手が月龍だけなのも寂しいのよね

 しかし、月龍の居る場所に行こうとした途端、侍従達が下女達を取り押さえるという悪行に出る!

「な、何をするの!」
「!」
「放して!」

 ―――何?

 瑠珠も驚いていると、何処からか伸びて来た手により袋を被せられ腕を引っ張られていく。抵抗しようにも、恐らく侍従もいるのだろうか、身体を持ち上げられた。

「!」

 バシャッ!

「んんっ!」

 屋敷の敷地との境界線は直ぐ海。その海に頭を突っ込まれた瑠珠。

「ははははははっ!アンタが死ねば、私が月龍の花嫁になってあげる!下女なんてアンタ達の世話なんてしたくないのよ!」
「!」

 ―――まさか、最近来た下女?……月龍!

 瑠珠は、着物に忍ばせていた鈴を取り出そうと、手を胸元に入れて鈴を持ったが、苦しくて落としてしまう。それで鳴るなら良かったが、何故か鳴らない。

 コツン、コロコロ、と地面に転がり、美佳の足元に落ちる。

「鈴?………鳴らない鈴なんて何の必要があるのよ」
「ゴボッゴボッ!」
「早く力尽きて死んでよ!月龍にアンタは自殺した、て言っておいてあげるから」

 顔に被された袋が瑠珠から吐かれた空気で浮き上がり、美佳の顔が分かる。手元には月龍から貰った鈴。その鈴が鳴れば助けに来てくれる、と思って手を伸ばそうと必死で藻掻く。

「!」

 ―――私……子供の頃、キャンプ場で溺れかかった!………誰かに助けて貰った様な……

「ゴボッゴボッゴボッ!」

 ―――月龍!月龍!助け………お願い!届いて!

「った!何すんのよ!」

 チリン……チリン……。

 美佳の手から鈴を奪う事に成功し、鈴を鳴らせた瑠珠。

「もう、コイツそのまま海に投げ入れちゃってよ!」
「!」

 ―――止めて!思い出したのに!夢だと思ってたあの事を思い出せたのに!

 何故、侍従達が美佳の言葉に従うか分からなかったが、今はそれどころではない。死にたくないのだ。

「止めぬか!」
「「「!」」

 括が飛ぶと同時に、神力で美佳や侍従達が吹っ飛ぶ。瑠珠は力が加わらなくなった為、その場で倒れ込んだ。

「瑠珠!しっかりしろ!瑠珠!」
「ゴフッッ!」

 大量に水を飲み込み、咳き込む瑠珠を抱き締め、所在を確認する月龍。

「許さぬぞ、其方達………」
「私はその女が死にたい、て言って入水自殺していたのを助けようとしただけよ!」
「この者達を閉じ込めよ!調べて詰問し処罰を考える!」
「はぁ………はぁ………」
「瑠珠!」

 瑠珠が力無く、月龍の腕を掴み、涙を浮かべた。

 ―――あの下女……私を殺そうとした……

「落ち着いたらまた聞く……今は休んだ方がいい」

 ―――月龍……思い出せた……よ……私……

 眠らせようとしたのか、遠退く意識の中で、瑠珠は月龍にそれだけ伝えた。
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