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お先に失礼
しおりを挟む櫻子が桜也からプロポーズを受けて、1ヶ月後。櫻子達でサプライズ結婚式を計画した。挙式会場ではなくレストランウエディングだ。普段からレストランウエディングをする様なレストランでは無い為、貸し切りでパーティー形式にお願いした簡素なもの。蒼太には事前に話しており、『レストランで食事を』と連れ出してもらっていた。
「このレストラン、て銃撃事件があった………」
「そう、普段ウエディングレストランはしていないとは言っていたが、パーティー形式の食事で良ければ、と快諾してくれたんだ。弁護士としての依頼は結局無くて、保険で賄えたから良かったらしいが、気にはなっていたから、時々連絡してた」
「それで、この話をしたの?」
「そう……叔父夫婦が、結婚式挙げてないまま30年近くなるんで、子供達がサプライズで貸し切りでパーティーしたい、て言っただけ」
日頃から懇意にしていれば、少しの我儘も受けていいか、と思ってくれたらしい。それに、弁護士を付けるとなると費用負担も掛かると躊躇したオーナーからの詫びも入っているように見える。店内の飾り付けは、櫻子と菫の手作りで、花屋でブーケとテーブルにセッティングする花を置かして貰っただけのもの。終わったら直ぐに撤去し、店内スタッフを手伝う事にしている。蓮は送迎担当だ。
「まさか、従業員の更衣室迄貸してくれるとは思わなかったなぁ……」
「それだけ、金落としたからな」
「そんな事迄しなくても良かったんじゃ………沙也加さんも呼んでるのにはびっくりよ」
「俺はウエディングドレスを持って来い、と言っただけ………親父……俺の父親はやっぱり雪お嬢好きだったからな………親父の代わりに見届ける」
高嶺の祖父母宛に書いた桜太からの手紙には、極道から足を洗えない事への謝罪と、好きになった女が子持ちでも好きだと言ってくれていて、その女が組長の娘だから、許さなくも良くなったから、一生恨んで欲しい。そしてその女が高校、もしくは大学に行く迄、この気持ちは隠し通す、と書いてあった。
「親父も馬鹿だよなぁ……雪お嬢への気持ちを断ち切れず、他の女に手を出して妊娠させた子供が俺なんて……産ませただけでそりゃ女も逃げるよな………」
「でも、そうしたから私が産まれて、こうしてるのなら、良かったんじゃない?」
隣に居る桜也の手を握る櫻子。人前式で誓う蒼太と雪を見て、しみじみしている桜也の横で笑顔を見せた。桜也も握り返す。
「そうだよな………雪お嬢の息子には、どの道なれるしな……」
「…………娘婿という息子ね」
「次は俺達の番だな」
「…………うん……」
雪は終始笑顔でいてくれて幸せそうだ。レストランに着いた時は驚き過ぎて戸惑っていたが、人前式や祝いに集まった高嶺の祖父母や雪の父親の高徳と、亡くなった母紅子の写真、蓮や菫に囲まれ、直ぐ嬉し涙を流した。
「櫻………」
「お母さん……」
「ありがとうね……母親として何もしてあげれなかったのに、蓮と菫と桜也とここまでしてくれて……」
「そんな事ない……私をずっと探してくれてただけで、待っててくれただけで充分……」
「…………はい……ブーケトス……あなた達も結婚するんだから………桜也……娘を宜しくね」
「勿論、お義母さん」
「……………桜……也……ったら、本当にいい男になっちゃって……桜太も喜んでるわね、きっと」
「…………そうだと良いですけど」
「喜んでるわよ、きっと………私をフッて、蒼太と巡り合わせてくれたんだもの………自分じゃ、幸せにさせられなかったんだしね、私を……」
「お母さん、写真撮ろ!」
「また?…………もう……菫ってば写真ばっかり……」
雪はそのまま菫の方へ行ってしまった。意味深な言葉を残して。
「知ってたな……」
「………みたいね……」
雪は、桜太の気持ちに気が付いていた。2人だけでどんな話をしていたのかは知らない。ただ、お互いプラトニックな関係だったのだろう。
「櫻…………この後、墓参り付き合ってくれ」
「お墓参り?桜太さんの?」
「そう」
しかし、その後桜也が仕事で呼び出されてしまい、櫻子は菫と高嶺の家に帰る羽目になってしまった。レストランの片付けを手伝い、辺りは暗くなってネオン街を駅に向かって歩く櫻子と菫。
「残念だったね、お姉ちゃん」
「何が?」
「桜也さんとのデート」
「よくある事だもの………弁護士だけじゃないし、仕事」
「…………そっか………でも、お姉ちゃん折角帰ってこれたのに、もうすぐお嫁入りかぁ……いろいろしたかったな」
「まだまだ出来るわよ………ショッピングとかカフェ巡りとか………職探ししながらだけど」
「え?しなくても、桜也さんの収入で食べていけるじゃん!」
「保育士まだしたいもの」
「桜也さんは何て言ってるの?」
「…………聞いてない」
「何で!!重要なとこだよ、それ!」
菫は声を荒げ、街中で注目されてしまった。
「菫…………うるさいよ」
「あ……すいませ~ん」
ペコペコと、見知らぬ人達に驚かせた事を詫びる。
「でも、聞いた方がいいよ、保育士の仕事と桜也さんの仕事、て時間もすれ違ったりしない?」
「そういえばそうねぇ………今迄、ちょっと違う生活してたから考えてなかった……」
「…………それは仕方ないね……」
歩いていると、櫻子のスマホが鳴る。バイブにしていて、なかなか気が付かず、着信履歴が凄かった。
「…………あ、桜也からだ……凄い着信履歴……」
「うわぁ……1分毎に1回……」
これが嬉しいのか、しつこいと思うのか、人それぞれだが、桜也の場合は心配だから、が正解だろう。取ろうとして、切れてしまった為、櫻子が掛け直す。
「もしもし、ごめんなさいマナーにしてて、気が付かなかった」
『今何処だ?』
「駅に向かってる。菫と一緒」
『駅前で菫と待ってろ、迎えに行く』
「おぉ………またリムジンに乗れる」
「菫………」
しかし、駅前に停まったのは、セダンタイプの車。
「何で!!」
菫はリムジンを期待していたのは知っていたが、桜也が運転して迎えに来た時は菫は幻滅の色が隠せなかった。
「あのな、こんな繁華街で駅前にあんな車停めれるか、早く乗れ、家まで送る」
「リムジンが良かったのに……」
「また今度な」
菫は降りる迄ブツブツとぼやくが、桜也が迎えに来たのは嬉しかった櫻子だった。
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