放浪の花嫁【完結】

Lynx🐈‍⬛

文字の大きさ
20 / 85

キレるヘルン

しおりを挟む

「コレじゃないわよ!これより濃い色のストールあるでしょ!」

 バシッ!

 ヘルンは王城の客間の一室で荒れていた。
 思い通りにならないヘルンの苛々は、侍女達への八つ当たりとして、怒りの矛先になっていた。

「も、申し訳ありません、ヘルン姫様。」

 ヘルンが求める色のストールでなかった物を持って来た侍女の腕を叩き、力任せだったのか、ヘルンの手形が付いている。

「ヘルン姫様、このストールより色濃い物は、こちらには持って来てはおりません。」
「じゃ、持って来い、今すぐ!!」
「…………そ、それは……。」
「出来なきゃ、私の望む物を持って来ないお前の腕を切り落とそうか………ふふふ……。」

 ヘルンは合図を兵士に出し、侍女を拘束させる。

「お、お許し下さい!ヘルン様!」
「やれ!」
「ヘルン姫様!ここはレングストン、王城の客間でございます!ここで罰を与えては、何を言われるか!只でさえ、部屋から出るな、と皇太子から言われているのです!問題が起きたら、また何を言われるか………ここは鞭打ち程度に……。」

 流石に客間に血が流れては、客人としての扱い迄してくれなくなるかもしれない。
 ボルゾイの兵士でさえ、それを懸念しヘルンに意見を述べた。

「ええい!煩い!だから何だと言うの!私は、レングストンの皇妃になる立場なのよ!私の言う事が聞けないなら、お前もここで自害しな!」
「ヘルン姫様!!」

 だが、あまりにも無謀な無茶振りのヘルンに誰もが怖気づく。
 
 コンコン。

 ヘルンの使う客間の扉がノックされた。
 客間から漏れる怒鳴り声に気が付いて、レングストンの衛兵が駆け付けたのか、と空気が変わる。

「…………白けた………後日、お前達には罰を与える。誰が来たか見ておいで。」
「は、はい。」

 1人の侍女が客間の扉を開ける。

「どちら様でしょうか?」
「皇帝陛下と皇太子殿下より、ヘルン姫に通達がございます。名代として、皇太子殿下側近のセシル・ウィンストンが参りました。入室許可を頂けますか?」
「お待ち下さい。」

 侍女は怯えながら一度扉を締め、客間の奥に戻る。
 手は震え、セシルとも顔を合わせない。
 どちらに怯えているのかは分からない。

 ガシャーン!!

 室内から何かが割れる音。

「ちっ!…………開けます!失礼する!!」

 セシルは舌打ちし、許可なく扉を開ける。

「失礼します!何かありましたか?」
「……………何でもない、出て行け。」

 ヘルンが肩で大きく息をし、着崩した装いで荒れていた。
 セシルは、先程扉を開けた侍女を見ると、顔に切り傷が付き、泣きながら血を流している。

「怪我人も居るようで………手当をさせて頂き、後程参ります。」
「必要ない。」
「いいえ、ここはレングストン。ボルゾイであったなら私も見逃します。レングストンで起きた事は、の怪我であろうと、見逃せません。」
「必要ないと言っている!」
「では…………本日中に王宮からお帰り下さい。怪我人の手当も出来ない、皇帝陛下と殿の通達を確認もしない、と仰るのなら、私からお伝えする事はこれ以上ありません。になりたくて、レングストンに来られたのであれば、義父と夫のも聞けない様では、レングストンには必要ありませんから。」
「…………!!」
「まぁ、我が殿の心を離しませんから、何があろうともヘルン姫にはにはなれませんがね。」
「失礼であろう!!」
「レングストンにで来られただけの方が我儘放題の行いは、レングストンで働く者達には失礼ではないのですか?国は国民あって成り立つもの…………あぁ、そうですね、あなたは王位継承権はボルゾイには無いのでしたね、そのような教育は受けてらっしゃらないでしたか………これはこれは……失礼しました。」
「………………出て行け………。」
「それは、あなたでは?…………こちらの手紙は皇帝から、ボルゾイ国王サマーン様との密約は破棄を申立てた手紙でございます。国交は今迄通りではなく、破棄した手前謝罪の意思もレングストンにあるので、国交については新たな契約書を作り直します…………あぁ、国交や契約書等と言っても分からないですかね?」

 セシルは、テーブルの上に手紙を置き、扉へ向うと、何かを思い出した様に立ち止まる。

「そうそう、侍女の失敗に腹立て、腕を落とす前で良かったですよ、ヘルン姫。この部屋は客間。血で穢れたら、この部屋を使いたがる来賓は居ませんからね。」
「!!な、何故知っている!!」
「丸聞こえでしたよ。他国の来賓やこの客間の近くの部屋は使用してませんから、まだ良かったですが、レングストンの警備兵が聞いてましたからね。王家の方々は見送りは致しませんので、荷物をまとめ次第、ボルゾイへご帰国を。」

 最後に一礼したセシル。
 それさえも、綺麗な手本となる一礼をするが、本心はしたくなかっただろう。
 素直に帰るかは分からなかったが、素直に帰るように、セシルはヘルンに話したのだが、タダでは帰らなかった。
 その後のヘルンは客間にあったレングストンの調度品さえも奪うように荷造りさせ、翌日に帰国したヘルン。
 盗まれた調度品や壊された調度品等は後日計算され、ボルゾイとの国交条件に、弁償と買取をさせる為に上積みされた事は、後日の事。
 だが、ボルゾイは国婚を諦める事はなかった………。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

寵愛の花嫁は毒を愛でる~いじわる義母の陰謀を華麗にスルーして、最愛の公爵様と幸せになります~

紅葉山参
恋愛
アエナは貧しい子爵家から、国の英雄と名高いルーカス公爵の元へと嫁いだ。彼との政略結婚は、彼の底なしの優しさと、情熱的な寵愛によって、アエナにとってかけがえのない幸福となった。しかし、その幸福を妬み、毎日のように粘着質ないじめを繰り返す者が一人、それは夫の継母であるユーカ夫人である。 「たかが子爵の娘が、公爵家の奥様面など」 ユーカ様はそう言って、私に次から次へと理不尽な嫌がらせを仕掛けてくる。大切な食器を隠したり、ルーカス様に嘘の告げ口をしたり、社交界で恥をかかせようとしたり。 だが、私は決して挫けない。愛する公爵様との穏やかな日々を守るため、そして何より、彼が大切な家族と信じているユーカ様を悲しませないためにも、私はこの毒を静かに受け流すことに決めたのだ。 誰も気づかないほど巧妙に、いじめを優雅にスルーするアエナ。公爵であるあなたに心配をかけまいと、彼女は今日も微笑みを絶やさない。しかし、毒は徐々に、確実に、その濃度を増していく。ついに義母は、アエナの命に関わるような、取り返しのつかない大罪に手を染めてしまう。 愛と策略、そして運命の結末。この溺愛系ヒロインが、華麗なるスルー術で、最愛の公爵様との未来を掴み取る、痛快でロマンティックな物語の幕開けです。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

処理中です...