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キレるヘルン
しおりを挟む「コレじゃないわよ!これより濃い色のストールあるでしょ!」
バシッ!
ヘルンは王城の客間の一室で荒れていた。
思い通りにならないヘルンの苛々は、侍女達への八つ当たりとして、怒りの矛先になっていた。
「も、申し訳ありません、ヘルン姫様。」
ヘルンが求める色のストールでなかった物を持って来た侍女の腕を叩き、力任せだったのか、ヘルンの手形が付いている。
「ヘルン姫様、このストールより色濃い物は、こちらには持って来てはおりません。」
「じゃ、持って来い、今すぐ!!」
「…………そ、それは……。」
「出来なきゃ、私の望む物を持って来ないお前の腕を切り落とそうか………ふふふ……。」
ヘルンは合図を兵士に出し、侍女を拘束させる。
「お、お許し下さい!ヘルン様!」
「やれ!」
「ヘルン姫様!ここはレングストン、王城の客間でございます!ここで罰を与えては、何を言われるか!只でさえ、部屋から出るな、と皇太子から言われているのです!問題が起きたら、また何を言われるか………ここは鞭打ち程度に……。」
流石に客間に血が流れては、客人としての扱い迄してくれなくなるかもしれない。
ボルゾイの兵士でさえ、それを懸念しヘルンに意見を述べた。
「ええい!煩い!だから何だと言うの!私は、レングストンの皇妃になる立場なのよ!私の言う事が聞けないなら、お前もここで自害しな!」
「ヘルン姫様!!」
だが、あまりにも無謀な無茶振りのヘルンに誰もが怖気づく。
コンコン。
ヘルンの使う客間の扉がノックされた。
客間から漏れる怒鳴り声に気が付いて、レングストンの衛兵が駆け付けたのか、と空気が変わる。
「…………白けた………後日、お前達には罰を与える。誰が来たか見ておいで。」
「は、はい。」
1人の侍女が客間の扉を開ける。
「どちら様でしょうか?」
「皇帝陛下と皇太子殿下より、ヘルン姫に通達がございます。名代として、皇太子殿下側近のセシル・ウィンストンが参りました。入室許可を頂けますか?」
「お待ち下さい。」
侍女は怯えながら一度扉を締め、客間の奥に戻る。
手は震え、セシルとも顔を合わせない。
どちらに怯えているのかは分からない。
ガシャーン!!
室内から何かが割れる音。
「ちっ!…………開けます!失礼する!!」
セシルは舌打ちし、許可なく扉を開ける。
「失礼します!何かありましたか?」
「……………何でもない、出て行け。」
ヘルンが肩で大きく息をし、着崩した装いで荒れていた。
セシルは、先程扉を開けた侍女を見ると、顔に切り傷が付き、泣きながら血を流している。
「怪我人も居るようで………手当をさせて頂き、後程参ります。」
「必要ない。」
「いいえ、ここはレングストン。ボルゾイであったなら私も見逃します。レングストンで起きた事は、客人の怪我であろうと、見逃せません。」
「必要ないと言っている!」
「では…………本日中に王宮からお帰り下さい。怪我人の手当も出来ない、皇帝陛下とリュカ殿下の通達を確認もしない、と仰るのなら、私からお伝えする事はこれ以上ありません。皇太子妃になりたくて、レングストンに来られたのであれば、義父と夫の話も聞けない様では、レングストンには必要ありませんから。」
「…………!!」
「まぁ、皇太子妃は既に我が妹がリュカ殿下の心を離しませんから、何があろうともヘルン姫には皇太子妃にはなれませんがね。」
「失礼であろう!!」
「レングストンに客人で来られただけの方が我儘放題の行いは、レングストンで働く者達には失礼ではないのですか?国は国民あって成り立つもの…………あぁ、そうですね、あなたは王位継承権はボルゾイには無いのでしたね、そのような教育は受けてらっしゃらないでしたか………これはこれは……この言葉だけは失礼しました。」
「………………出て行け………。」
「それは、あなたでは?…………こちらの手紙は皇帝から、ボルゾイ国王サマーン様との密約は破棄を申立てた手紙でございます。国交は今迄通りではなく、破棄した手前謝罪の意思もレングストンにあるので、国交については新たな契約書を作り直します…………あぁ、国交や契約書等と言っても分からないですかね?」
セシルは、テーブルの上に手紙を置き、扉へ向うと、何かを思い出した様に立ち止まる。
「そうそう、侍女の失敗に腹立て、腕を落とす前で良かったですよ、ヘルン姫。この部屋は客間。血で穢れたら、この部屋を使いたがる来賓は居ませんからね。」
「!!な、何故知っている!!」
「丸聞こえでしたよ。他国の来賓やこの客間の近くの部屋は使用してませんから、まだ良かったですが、レングストンの警備兵が聞いてましたからね。王家の方々は見送りは致しませんので、荷物をまとめ次第、ボルゾイへご帰国を。」
最後に一礼したセシル。
それさえも、綺麗な手本となる一礼をするが、本心はしたくなかっただろう。
素直に帰るかは分からなかったが、素直に帰るように、セシルはヘルンに話したのだが、タダでは帰らなかった。
その後のヘルンは客間にあったレングストンの調度品さえも奪うように荷造りさせ、翌日に帰国したヘルン。
盗まれた調度品や壊された調度品等は後日計算され、ボルゾイとの国交条件に、弁償と買取をさせる為に上積みされた事は、後日の事。
だが、ボルゾイは国婚を諦める事はなかった………。
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