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アニースの休暇
しおりを挟むヘルンがボルゾイへ帰ってから1ヶ月程経った頃、久々に勉強が無い日となり、王宮内を散策したいと、アニースは侍女のトゥーイに告げると快諾した。
「アニース様はお一人でのんびりされた事がないのですから、たまにはごゆっくりご自分がされたい事をなさって下さい。ですが、衛兵は連れて下さいね。迷っては大変ですし。」
「そうだな、私は王城の一部と王族居住地しか知らないから迷いそうだ。」
トゥーイは、そうと決まると、慌てるように水筒に何かを入れてアニースに渡した。
「今日は気温も高いので、水筒をお持ち下さい。中はレモン水にしてあります。日差しも強いので汗も出ますから。」
「有り難い。気が利くな、トゥーイは。」
「私はボルゾイとの国境の地の出身で、砂漠から然程遠くない街の生まれなんです。父がボルゾイに行商に行く時は必ずレモン水を持って行きましたから。暑い日は必要かと。」
「そうか………だから、ボルゾイの事を知っていたりするんだな。」
ありがたく水筒を受け取り、皇女宮を出たアニースは、護衛の兵士に聞いた。
「今日は宜しく頼む。所で王宮内は何があるんだ?」
「王城、王族居住地はご存知かと思いますが、後は教会や軍事訓練施設や厩舎等の建物がありますよ。あとは森や庭園、湖や池も点在します。王宮は王都の街と同じ程の広さがあり、聞いたところによると、トリスタンやアードラの王宮より広いそうですよ。ラメイラ妃やアリシア様が仰ってました。」
「厩舎?馬が居るのか?」
「はい、厩舎に行かれますか?乗れるかどうかは確認しないといけませんが。」
「見るだけでも和むから行きたいな、連れてってもらえるか?」
「勿論です。」
衛兵達に連れて来られたアニースは、訓練中なのか、多くの騎馬隊が馬に乗っていた。
「あ、今日は軍事訓練か。」
「軍事訓練?………それは邪魔は出来ないな……見させてはもらえるのか?」
「柵の中に入らなければ大丈夫かと。」
隊列を崩さず行進や模擬戦をしている姿を楽しそうに見るアニース。
柵の中にはリュカリオンやタイタス、コリンも居た。
暫く、アニースはその光景を眺めていた。
その軍事訓練を見ているのはアニースだけではなく、レングストンの貴族令嬢も10人程見学に来ている。
兵士達の恋人か身内なのかもしれない、とも思ったアニースだったが、どうやら違うようだった。
「はぁ~、皇太子殿下凛々しくて素敵。」
「トーマス殿下がいらっしゃらないわ、どちらかしら?」
「タイタス殿下の雄々しさも捨て難いわよ。」
「コリン殿下可愛い。」
「悔しいわね………結婚されて………。」
「本当よ、皇太子殿下と結婚したかったぁ。」
「でも、近付くと平民落ちにされちゃうわよ。」
「……………。」
聞いているだけで、レングストンの男は、皇子だけなのか?とでも言っているかのようで笑えてしまうが、盗み聞きをしないように離れてしまおうとしたアニース。
「あら?誰?あの人。レングストンの服じゃないわ。」
「知らないわ、見た事ない服ね。」
(…………こっちに振らないで欲しいのだが……。)
聞こえない振りをし、厩舎の方へ行こうとするが、令嬢達はアニースに声を掛けてくる。
「失礼、そこの方。」
「…………私の事?」
「あなたはどちらの令嬢なのかしら?」
「この方は客人であられる。ボルゾイ国、第三王女、アニース姫様だ。無礼は許されませんよ、ご令嬢方。」
衛兵達は、アニースの前に立ち直し、令嬢達との間に入る。
皇太子邸、トーマス邸、皇子宮、皇女宮の衛兵達は、客人であるアリシアやアニースへの警護は、ナターシャが婚約者になってからの令嬢達からの嫉妬での一件を知っているからか、アニースの守りに入るのだ。
「ボルゾイ………やっぱり……………。」
「裸同然の衣装だったような……あの方は。」
「それは私の義姉だ。彼女は第二王女ヘルン。見苦しい物をお見せしてしまって申し訳ない。」
アニースは、令嬢達に一礼した。
「ボルゾイの服もそういうのなら素敵だと思いますよ、アニース様。申し遅れました、私はドルジェ伯爵の次女サーシャと言います。婚約者が軍事訓練に参加しているので、見に来ていたんです。彼女達も殆どが、婚約者が居る身なので、先程の皇子殿下へのお言葉は忘れて下さい。」
「私は妹のシエラです。私は婚約者は居ませんが、皇子殿下方へ憧れておりまして、少しでもお側で見れたら、と………父からは聞いておりまして、他国の王女方がレングストン王宮に居られる場合は妃候補の方だから、失礼の無いように、と言われておりました。他の令嬢達も知っておりますわ。」
「ボルゾイ第三王女、アニースと申します。妃候補として、レングストンに身を寄せておりますが、まだ私はどなたの皇子妃になるとは決まっていません。私はまだまだ未熟者なので、レングストンの事を知る為に今は勉強の日々を過ごしております。」
サーシャとシエラは顔を見合わせると、ホッとした顔をした。
「良かった…………私達の姉が以前、第一王女と第二王女に、以前泣かされたんです。目が合って、挨拶しろ、と言われ散々嫌味を言われてしまって……姉は皇太子殿下をお慕いしていたので、うっとりお顔を見つめていたら、難癖を………だから、アニース様もそうだったらどうしようか、と。」
「声が掛かる前に、失礼の無いようにお声を掛けさせてもらおうと……姉妹でもアニース様のような方なら、安心致しました。」
「ジャミーラやヘルンはあなた達の姉上に、失礼な事をしたのですね………私からの謝罪では気が済まないでしょうが、申し訳なかったです。姉上にそうお伝え下さい、サーシャ様、シエラ様。」
「お気になさらずに、アニース様。姉は去年結婚し、幸せなようですし。」
アニースに話掛けたサーシャとシエラが和気藹々とした雰囲気になった為、他の令嬢達も話に混ざりに来る。
彼女達も、アニースの事を気になっていたらしく、興味津々だった。
それを軍事訓練を終わらせた兵士達に眺められているのも気付かずに。
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