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ヘルンの屈辱
しおりを挟むヘルンがボルゾイに戻ると、母親の正妃以外冷やかな目で迎えた。
「まぁ、ヘルン!どうして戻ってきたの!皇太子があなたの魅力に靡かなかったのね!」
「お母様!!そうなの!!レングストンで私は冷たい対応されたのよ!」
母親に抱き着き慰めの言葉を貰おうとするが、同行していた侍女達は呆れている。
「かわいそうに………あなたの美しさを分からないなんて、レングストンの美的感覚はなんなのかしら。」
「そうだわ!お母様!!レングストンにアニースが居たのよ!!」
「それはアラムにも聞いたわ!」
「アニースが失踪して、王とレングストン皇帝の密約を書き直したのに、アラムからはアニースが妃候補だと言い返されたとか…………アラムもヘルンを皇子妃にする迄レングストンに留まれば良いものを、政務があるから、とノコノコ帰って来たし、ジャミーラも戻ってくるし………。」
「は?ジャミーラが居るの!?」
信じ難い言葉を聞かされたヘルン。
すると、シャラシャラと音を鳴らして歩いてくる妖艶な女がヘルンに近付いた。
「あら、負け犬ヘルンじゃない。尻尾振って出掛けて行ったのに、その尻尾が垂れ下がってるわね。」
「ジャミーラ………そっちこそ何なのよ!何で居る訳?老いぼれ爺の邸で豪遊してたんじゃなかったの?」
同じ正妃の母親を持つ姉妹だが、仲は悪い2人。
基本的に、いびる相手が居ない時は険悪なのだ。
「私?未亡人になったのよ、あの爺さんポックリ死んじゃったわ。だから、財産だけ貰って帰ってきたのよ。だって王宮以上の贅沢は出来なかったしね。そしたら何?あんた皇太子妃狙いに行った、て言うじゃない?私も行くつもりだったのに、ライバル減って張り合いないわねぇ………クスクス。」
「………あんた、未亡人になった女がレングストンに嫁げる訳ないでしょ!」
「分からないじゃない。私もまだ若いのよ、子供も居ないし、産めない訳じゃないんだから、気に入られりゃ私の結婚暦なんて関係ないわ!」
「ジャミーラ、ヘルン!レングストンにまた行きなさい!お母様はあなた達の味方よ!アニースなんかに皇子妃の座を渡してなるものか!」
正妃のアニースへの嫉妬心は衰える事はない。
サマーン王の寵愛はアニースの母とアニースから離れず、ジャミーラやヘルンには届く事が無いからだ。
「絶対に皇太子妃の座は私の手に入れてやる!」
「ジャミーラ、皇太子妃は無理無理…………私が無理だったんだから!」
「…………ふん……そんなもの既成事実作っちゃえば何とでもなるのよ!」
ジャミーラは腕を組み威張るが、ジャミーラは知らなかった。
レングストンの王宮内の王族居住地の事を。
王城にリュカリオンが寝起きしていない事を。
「皇太子は王城には住んでないわよ。しかもその建物に入る人間は限られてる。」
「じゃあ何処に居るのよ。」
「王城の近くに王族居住地があって、そこの中の一つ建物に居るわ。」
「あんたは入れた訳?」
「邪魔が入ったのよ、第二皇子妃の野蛮人に。」
「第二皇子妃~?どんな女よ。」
「変な格好でガサツな女だったわ。」
ガサツであろうが、野蛮人だろうが、ラメイラはトーマスに選ばれたのを知らない2人は、自分達はガサツでも野蛮人でもないとでも言うのだろう。
ガサツではないが、レングストン王宮で野蛮な事を繰り返していた事は忘れたらしい。
「アニースは何処に寝泊まりしてるのよ。」
「知らないわ。王城の客間には居なかったし、アニースは皇子妃と親しいようだったわ。トリスタンの公女らしいけど。」
「トリスタンですって?トリスタンの公女が良くて、何でボルゾイは駄目なのよ!」
「そう言えばもう1人連れてたわね、ガキだったけど、レングストンでもトリスタンでもボルゾイでもない貴族の女。」
「何処の誰だか分かんないの?」
「調べる前に、追い出されたのよ!あのトリスタンの女に殴られたんですからね!私は!」
「何でそれ皇太子に訴えないのよ!」
「皇太子の前で平手打ちされたのよ!だけど、私を味方するヤツなんて居なかったんだから!」
さも、自分は悪くない、と言う口振りのヘルンだが、同じ様な高飛車のジャミーラや正妃には、ヘルンが悪いとは思わなかった。
常に『自分が一番』な女達。
貶した相手が王族だろうが、自分の方が美しいと思えば、『下』なのだ。
『美しい事が一番』それが正しいと思っている。
「ヘルン…………ボルゾイに行くわよ!今回は私もね!」
「やめてよね!皇太子妃狙う気!」
「当然じゃない、皇太子妃狙い行かなきゃ~………ふふふ……あんたはもう無理そうだから、あんたは第二皇子以下の妃を狙う事ね。美しい皇子達の目に必ず止まるわよ、私は!」
「いつかの、祝賀会で失敗してるの忘れた訳?」
「…………あの頃とは違うわよ。いくら皇太子妃が居ようが、私が蹴落としてやる!」
意気込むジャミーラに若干引くヘルンだが、1人で奪いに行くより、ジャミーラと結託して皇子妃の座を狙うのも悪くない、と思ったヘルンは、再度身支度を整え、ボルゾイを旅立った。
その入れ違いに、ウィンストン公爵の部下が潜り込んだのを知らないまま………。
後に、ヘルンが奪っていった調度品の請求書が送られたのは言うまでもない。
正妃は知らぬ存ぜぬを貫くが、ヘルンの部屋からレングストンの調度品が出てきた事で、益々サマーンとレングストン皇帝との密約が不利に動く事も考えず、阿呆な姉妹は既に居ない事を知ったウィンストン公爵の部下は、急ぎ帰路についたのだった。
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