26 / 85
ラメイラの懐妊
しおりを挟むレングストン王宮、皇太子邸。
トーマスがアードラに行き、1ヶ月程経った。
ラメイラはナターシャとリュカリオンの娘ヴィオレットの遊び相手をしつつ、ナターシャと話をしたくてやって来ると、これまた暇を持て余していたアリシアとアニースも顔を出した。
「ヴィオは可愛いなぁ……。」
「早いもので、もう8ヶ月ですわ。つかまり立ちをしたくてしたくて、いろいろ触っては落とす遊びばかりしてるんですよ。」
「おちおち、目線に入る危ない物は身近に置けないな。」
「ナターシャお姉様、ヴィオちゃんは何が今お気に入りなんですか?わたくし、動物が好きなら編みぐるみ作ってさしあげたい。」
「編みぐるみ?て何だ?アリシア。」
ラメイラは知らないようで、玩具をヴィオに翳しながら、横に座るアリシアに聞いた。
「毛糸でぬいぐるみを作るんです。中に綿を入れて。」
「へぇ~、子供の玩具でそういうのが作れるんだ。」
「ラメイラ、私も編みぐるみは知らなかったから、アリシアに作り方教えて貰って、ヴィオにプレゼントしよう。」
アニースもレングストンに来て、刺繍を趣味にしていて、今はラメイラより上手い出来栄えを見せている。
「………刺繍も上手くないのに、私が上手く作れてヴィオにあげるなんて無理だよ。」
「ラメイラ、気持ちが大事ですわ。ヴィオも大好きなラメイラから貰う物なら喜んでくれると思います。」
ヴィオレットは、アリシアやアニースよりラメイラが居るとラメイラに寄る程懐いている。
「ラメイラお姉様は、ご自分のお子が出来たらとってもいいお母様になりそう。」
「…………それはどうかな……子供は好きだけど母上が亡くなって暫くはレックスの面倒を見ていたのは私なんだ。赤ちゃんの相手は出来ても、成長したらどう接していいか分からなくなりそうで………。」
「ラメイラ、母親も共に成長しますわよ。わたくし、ヴィオに教えてもらう事沢山ありますわ。」
「そうなのか?」
「はい。ヴィオが産まれ8ヶ月、お腹の中で成長する10ヶ月程………わたくし母親になって、まだ1年半ですもの。」
ワゴンにお茶と茶菓子を用意し、持って来たライアと侍女2人がナターシャ達の前に置かれた。
「ライア………ごめん私は水にしてもらえるかな。」
「ラメイラ、体調が悪いのですか?」
「味がする物のニオイを嗅ぐと目眩がするんだ。先日、馬に乗ろうとして厩舎に行ったんだが、目眩がして乗れなかったんだ。」
「…………お医者様には?」
「今はアードラに多くの医師が派遣されているだろ?だからまだ診てもらってない。」
「多くの医師達は、カイルお兄様と入れ違いに帰国しましたわよ?」
「へ?そうなのか?」
「はい。アドラード王、アリシア様のお父様の毒の心配も無くなって、後は体力を回復するのみ、とわたくしリュカ殿下から伺いましたもの。ラメイラ、懐妊の兆候かもしれませんわよ?診てもらいましょう………ライア、ヴァン子爵を呼んでもらえる?」
「はい。直ちに。」
「ま、待って!」
ナターシャは、ライアに声を掛けるのだが、ラメイラは止める。
「ラメイラ?何故です?」
「…………た、多分……懐妊なんじゃないか、て私も思っている………で、でもトーマスとその喜びを味わいたい………。」
「何を言っているんです!懐妊で無かったとしても、目眩が治まらないなら診て貰った方が良いに決まってます!もし何かの病気だったら、後悔しますわよ!トーマス殿下を悲しませるおつもり?」
「…………だ、だって…………怖くてさ……自分が子供産む、て………母上のようになったら、て……死と引き換えに、レックス産んで………レックスだけじゃないんだ………レックスは双子で、もう1人の子と共に母上が亡くなったから……。」
ラメイラの母が、弟を産んで亡くなっているのは、ナターシャ達も知っていた。
だが、レックスが双子で片割れの子が居て、共に亡くなっていたのは初めて聞いた事。
それをラメイラは母と同じ経験をするのでは、と恐怖心があるようだ。
「ラメイラ………あなたとあなたの母上は違う。産まれた時代も違うし、医療に関してはレングストンは進んでいると思う。私はボルゾイの医療しか知らなかったが、大分進んでいるんだ。トリスタンの医療とも違うんじゃないか?」
アニースは、知り得る限りの事しか言えないのだが、何か不安気なラメイラに言葉を掛けた。
「………確かに、私が骨折した時の治療法とは違って、治す為に飲み薬も飲んだ………トリスタンでは、腫れを抑える貼り薬と固定するだけだったから、痛みは常にあったけど、痛み止めの薬とか、他にも何か薬を飲用したから、痛み自体少なくて楽だったけど……。」
「懐妊の有無だけでも知っておいた方がいいですわ。懐妊で無ければ、目眩を治すお薬を渡されるでしょうし、ラメイラが今ツライなら、一度診てもらうべきです。」
「…………分かった……診てもらう。」
トーマス邸ではなく、ラメイラは皇太子邸で診察をしてもらう事にした。
応接室に場所を移し、ラメイラとヴァン子爵、助手に診て貰った。
結果的に、やはり子を宿していたラメイラ。
トーマスがアードラに居て不安になるラメイラは泣いてしまった。
「大丈夫かな………私無事に産めるのかな……。」
「ラメイラ妃、ご不安かと思いますが、今はお心を強くないと、お子が心配しますぞ?母は強くないと。」
この事は、直ぐにナターシャ達に知らされた。
ポロポロと泣くラメイラを抱き締めるナターシャは、少しでもラメイラの気持ちを落ち着かせるしかなかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
63
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる