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ボルテス
しおりを挟む2ヶ月程掛けて、アニース達はボルゾイの王都、ボルテスの入口に到着した。
この旅はアニース達にとって疲労困憊だった。
事ある毎に、ジャミーラやヘルンはタイタスを口説き落とそうと追い掛け回し、タイタスに逃げられるとその怒りからボルゾイの侍従達に八つ当たりをしていたのである。
「やっと着いた……。」
「疲れたな………セシル、王宮には連絡してあるんだろ?」
「はい、昨日先に連絡をさせました。3日後の即位式に間に合いましたね。」
「滞在日数は何日だと伝えてある?」
「私は少し部下に調べさせたい事もありますから、タイタス殿下とアニース様は5日程、私はまだボルテスに暫く残ります。」
「…………調べたい事?」
「5日程で何か出れば私も帰りますが………。」
セシルは近くにジャミーラとヘルンが居ない事を確認する。
「不審な点がありまして………。」
「不審な点?」
「………はい。ジャミーラ姫の元夫の死について調べようと……。」
「不審死なのか?」
「分かりません………ただ、時期が時期なので。」
「分かった、俺も協力する。」
「タイタス殿下やアニース様は、ジャミーラ姫やヘルン姫に狙われ兼ねません。寧ろ、他にも姫は居るんですよ?」
タイタスはアニースを見つめる。
アニースの事を思えばレングストンに早めに経つ方が良いのだとは分かるが、タイタス自身も姫達を牽制するのに疲労度もある為、長居したくないのが本音だった。
「…………滞在中だけでも付き合う。」
「タイタス殿下、宜しいのですか?」
「構わない、どうせ即位式が終わったら、国交交渉以外無いんだろ?交渉はセシルがするし、その裏で調べるなら俺がそれをやっても構わない。」
「だと良いのですがね……ジャミーラ姫とヘルン姫の狙う皇子がタイタス殿下だと知られる筈ですから、アラム王子がタイタス殿下を引き留める可能性もありますし、恐らく正妃も動くでしょう。」
「そりゃ、俺は兄上達程、ポーカーフェイスが出来る訳じゃないが、セシルの助けが要らない程度には出来ると思うぞ?」
「えぇ、リュカ殿下やトーマス殿下に引けを取らない方だと分かってますよ。ですが、念には念を入れですし、タイタス殿下が狙われてる事は肝に銘じておいて頂かなければ。」
「分かってるよ。」
王宮に入り、タイタス、セシルは新たに王となる義兄のアラムとアラムの母、サマーン王の正妃、アラムの正妃や側室達に会う。
アニースは、レングストンの兵士達に守られ、目立たないようにその光景を見ている。
自室だった後宮には入りたくなかったのだ。
「レングストン皇国第三皇子タイタスでございます。この度はご即位おめでとうございます、アラム王子。」
「ありがとうございます、タイタス皇子。まさかあなたが即位式に来られるとは思いませんでしたよ。私としては、皇太子殿下が来てくれるものと思っていましたからね。」
「レングストンは、我がボルゾイを馬鹿にしていらっしゃるのかしら?第三皇子だなんて……。」
冒頭から嫌味を言うアラムとアラムの母。
しかし、タイタスやセシルはそう言われても動じない。
「我が兄上達は、妃の出産に立ち会いたい人なので、仕方ありません。レングストンは一夫一妻制ですし、ジャミーラ姫やヘルン姫には一切靡かなかったですから、私が警護も兼ねて、ジャミーラ姫とヘルン姫を送り届けると同時に、即位式に参列をと父に願い出た次第です。そして、我が妃にボルゾイ第三王女、アニース姫を娶る事を、父上のサマーン王に了承を得ようと思いまして。」
「…………アニースですって!!」
アラムの母は激高する。
「アニースも帰って来たとは聞いたが……。」
「タイタス皇子、アニースを娶るなら、我が娘のジャミーラかヘルンを娶って頂けないかしら?」
「それはありませんね。かの姫達はレングストン王宮内を振り回してくれましたから、我が父である皇帝や兄の皇太子は、妃には相応しくないと言付けされてましたので。」
「何ですって!こちらにはサマーン王とレングストン皇帝との約束があるのよ!!それを無視すると言うの!!」
「約束はアニース姫を娶る事で成立するかと。」
「アニース等、卑しい血の産まれで王族の品位も無いわ!高貴な血を持つジャミーラとヘルンこそ妃に相応しいのよ!」
あのジャミーラとヘルンを見ているようなヒステリックなサマーン王の正妃。
そのヒステリックさを見ているアラムやアラムの正妃、側室達は驚いていた。
タイタスやセシル、アニースはジャミーラとヘルンを見慣れているからか、想像通りの反応で驚く事もない。
「母上…………落ち着かれよ。」
嫉妬に駆られた女はこうなのだ、と典型的な見本のようだった。
「落ち着いてるわ!あの女の娘なんて、王族に等させてたまるか!」
「黙れ!!あなたにお母様の事を語られたくない!死に追いやった張本人が!」
「アニース!!」
いても立っても居られず、思わず姿を表すアニース。
「イリーザ!!またお前…………サマーン様を奪う気か!!」
「イリーザ……………私は娘のアニースだ………何を見間違え………。」
「誰か!母上を別室に連れて行け!!」
アニースの母の名はイリーザだった。
アニースをイリーザを見間違える程似ているという事だろうか。
セシルがアニースの元に来ると庇う様に立つ。
「母上様とよく似ていらっしゃるんでしょう。だから、母上様が亡くなってからも冷遇されてきた、という事かと。」
「……………アニース、大丈夫か?」
タイタスもアラムの母が連れて行かれてから、様子を見に来た。
「うん、大丈夫……………アラム。」
「……アニース……何故お前迄来たんだ。」
「純粋に、アラムの即位を祝おうと思って来ただけだ。あとジャミーラとヘルンはボルゾイに還す為に。お父様に一目会えればボルゾイから出るから。」
「その方がいい………客間を用意する、即位式が終わったら、ボルゾイから出ろ。」
「分かってる。」
アラムもアニースを冷遇してきた1人。
だが、自身も妃を娶り、妃同士の嫉妬を見てきている。
自分の母の醜さを知り、今更アニースを気遣う義兄だった。
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