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しおりを挟む暫く無言でルティアはリアンと抱き合っていた。
楽器店の店裏は路地裏で幅も狭く、人1人が通るぐらいですれ違う事もままならない程の空間しかない。
だからこそ、触れ合ってる方が自然だった。
「リアン………この前の事で、私………1人で街に出られなくなって………」
「うん………その方が絡まれなくて済むなら、そっちの方が安全だ」
「…………良くない!」
「ティア?」
「だって………リアンと会いづらくなる……」
「そんな事か」
ルティアは、リアンから出た言葉が信じられない様で、リアンの胸に埋めた顔を上げてリアンを見上げた。
「そんな事?………酷いわ……だって………会えなくなるのよ?………わ、私だけ………リアンが好きで堪らない様に聞こえるわ……」
「あ………そ、そう………だよな……うん………そうだよ…………」
まだ立場を隠すリアンなのを、失念してしまった事に気が付いて、1人悶々とするリアン。
ルティアがリアンの素性を知らないのも少し困ってきているかもしれない。
「…………リアン……私………もう時間が無いの……結婚させられちゃう……毎日毎日……お相手の方から、教師を派遣されて勉強させられて………勉強が嫌いな訳じゃないけど………自由が奪われていく………まだ………何も世間を知らないのに………」
「ティア………俺と結婚していいと思うか?」
「…………うん!………好きだもの!」
「…………好きだからって、楽しい事ばかりじゃない………苦難も絶対にある」
「…………そ、そうだよね………逃げなきゃだし……」
恐らく、リアンの言葉にルティアは勘違いしているだろう。
「苦難から逃げちゃ駄目だろ」
「でも………多分………私がお相手との婚姻を断ればきっと罰が降るわ………首都から逃げないと……」
「……………あぁ、なる程………そっちか」
別人だと思っているから致し方ないのだろう。
それならば、考え様によってはルティアにリアンをどっぷりと惚れさせる仕方が無い訳ではないし、リアンから逃せられない方法もある。
「良い方法なんて………私、1つしか思い当たらないわ………でもそうすると絶対にリアンが罰を受けるのは私が嫌なの!」
「因みにそれ聞きたいけど、何?」
「…………ま、前言ったでしょ?………純潔を……って……」
「…………ったく……参ったな……」
リアンは、顔を横に向け、口元を隠してしまう。
ほんのり、耳が赤く想像したのだろうか。
「お相手との結婚は………未経験じゃなきゃ、って聞いた……から………お相手が知ったら、破断させてくれると思うの!」
「…………」
ポソッと、リアンは呟いた様だが、近くにいてもルティアには聞こえなかった。
「何て言ったの?リアン」
「あ、いや…………」
リアンは『いや、【破断なんて】しないって』と呟いていた。
寧ろ、その方法なら、ルティアは益々リアンを好きになってくれる可能性もあるからだ。
リアンも皇族という立場から、閨事の知識は必要なので、知識だけは入っているが、リアンもまだ経験は無い。
それでも、将来的に妃になる令嬢に恥をかかせない様に、脳内では何度も女を抱く想像をしていた。
ルティアと出会ってからは、その想像はルティアただ1人にはなったが。
「ティア…………お望みとあらば、今から如何だ?」
「…………え?………あ、あの……でも………連れが居て………」
「何とかしてやれるから、安心しろよ」
「出来るの?」
「あぁ………行くぞ、ティア」
「っ!…………え………リアンっ!」
「…………ごめん、俺もうその気………」
抱き合う腕を放し、手を繋がれたリアンの手が、熱を帯びているのか汗ばんでいた。
スタスタとリアンに引っ張られる様に歩く事しか出来ないルティアは、連れて行かれた場所を見て、緊張していく。
「入るぞ」
「っ!…………う、うん……」
其処は質素な宿屋で、ルティアの住む邸の様な豪華さも無い。
「両隣空室の部屋を利用したい。その両隣の分の金も払う」
「…………3階の奥3部屋空いてるよ」
「ありがとう」
「っ!」
「行くよ」
「う、うん………」
宿屋の店主に教えられた部屋の真ん中の扉を開けるリアンに、ルティアはただついて行くしか出来なかった。
「俺、汗を隣の部屋で流してくるから、ティアは待ってて」
「あ…………わ、私も汗かいたから、お風呂はいるね」
「うん」
ルティアを部屋に押し込むと、リアンは隣の部屋には入らず、宿屋の外に出た。
「…………」
街でリアンを警護していた変装した騎士と目線を合わせたリアンに近付いて来る。
「楽器店周辺で、ルティア嬢を探す3人が居る筈だ。彼等を警備隊駐屯地に連れて行け」
「何と説明をされるのです?」
「皇太子の権限で、ルティア嬢に面会を申し出た為、暫くお預かりする、とな」
「分かりました」
「夕方には駐屯地に送り届ける」
「はっ」
リアンはそう言うと、ルティアの待つ宿屋の3階へと戻るのだった。
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