皇太子と結婚したくないので、他を探して下さい【完結】

Lynx🐈‍⬛

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 ルティアはスヴェンの部屋の前に居た。

 ---もし、お兄様に今日の事が耳に入ったら、何方を信じるのかしら……

 言うつもりではいるルティアだが、スヴェンがどれだけシスリーへ想いを寄せているかは、ルティアには測れない。
 言葉を選んでいると、スヴェンの部屋の扉が開いた。

「え?」
「ルティア、帰ったんだね」
「あ、はい………ただいま帰りました、お兄様」

 中から開いたので、ルティアは驚いている。

「良かった、相談したかった事があるんだよ、中に入って貰えるかな」
「相談、ですか?………私もお話があったので、お邪魔でなければ」
「邪魔だなんて言う訳ないだろう?」

 スヴェンの部屋はいつも整理整頓された、几帳面な部屋だ。
 使い込まれた楽譜ばかり並ぶ、ルティアの部屋の本棚とは違い、スヴェンの本棚は文学書が綺麗に並んでいる。

「お茶でも飲むかい?」
「いえ、大丈夫です」
「そう?……所で、ルティアの話は何だろう」

 ルティアが座る椅子の前に座るスヴェンは、手に手紙らしき物を持っていた。

「お兄様、それは?」
「あ………あぁ……僕の相談はコレなんだけど、話が出たから、先に僕から良いかな?」
「はい、構いません」

 スヴェンが封筒から手紙を出した時、微かに香る、お香が匂う。

「まさか………」
「ん?思い当たるのかい?」
「そのお手紙、ベルゼウス伯爵令嬢のシスリー様では?」
「よく分かったね、やっぱりシスリー嬢と親しくしてたんじゃないの?ルティア」
「いえ!全く!」
「そ、そんなに強く否定しなくても………」

 この香は忘れもしないだろう。ルティアを牽制した態度と、あの見下す言葉の主だ。

「親しくありませんし、今後も無いと思います」
「ルティア………皇太子妃になるんだから、でも取り繕う術は持つべきだよ………ルティアがシスリー嬢と親しくない、と聞いているから、シスリー嬢のという言葉は社交辞令だと思っているから」

 貴族界では、親しくなくても仲が良い、という素振りも必要になるが、果たしてそれを全ての貴族がしているか、と言えばしてはいないだろう。
 上辺だけで、顔見知りでさえも交流がある、と振る舞う者も多い。
 スヴェンも、そう思ってくれたのかもしれない。

「でも、私と親しくしている、とシスリー様は言っているのでしょう?」
「…………う~ん……この手紙には仲直りしたい、なんて書かれてないるけど、何かあったの?」
「…………礼節を知らなかった様なので、その話をシスリー様にしただけです」

 妹のルティアから見ても、シスリーに惚れているスヴェンを見たら、濁らす言葉しか言えない。

「分け隔て無く話をする人だからなぁ………ルティアと気が合うとは思ってたけど、何か誤解でもお互いあったんだろう………親しくなるのはこれからでも出来るだろうし、僕からもルティアも悪かったんじゃないか、と話しておくよ」
「お会いになってるんですか?」
「あ………いや……今度観劇に誘われていてね………着ていく服選びをルティアに相談したかったんだ」
「…………あぁ………なる程……」

 ルティアが今、スヴェンに会いに来て正解だった。
 数々のシスリーの口車に乗った男達の、被害に遭って行く手順を、ライナスとベルイマンから、帰る前に聞いていたからだ。
 観劇に誘い、まだ時間があるなら、行きたい場所がある、とシスリーは男を誘うらしい。
 その場所こそ、ベルゼウス伯爵が経営するカジノなのだ。

「その観劇は、夜からですか?」
「…………ん?……えっと……昼の部だね」

 昼の上演であるなら、夕方迄には終わる。
 その後、食事を誘いたい男も居るだろう。
 だが、シスリーは空腹ではない、とぐらい言って、その前にカジノに誘い、金を散財させているかもしれない。
 シスリーとデート後、デートした男は度々そのカジノに1人で行くなり、友人を誘って行くのも調べられていた。
 勝てば、シスリーに貢ぎ、負ければ徐々に身なりがずさんになっていく男達も増えてきているらしいのだ。

「お兄様………その日、着ていく服、私も選ぶのを手伝います。その代わり、金銭は少なめでシスリー様と会って下さいね」
「え?何故?………誘って頂いたんだから、お礼に食事やお茶、何か贈り物を、と考えてるんだけど………流石に何も返せないでは、シスリー嬢に失礼だ」
「良いんです!お礼は、とでも言っておけば!何も当日に返さなくても良いじゃありませんか、ならまた会える日が作れるでしょう?」
「あ………そ、そうだね!そうするよ………でも、花束を少し持って会うぐらい良いだろう?」
「そ、それぐらいなら………我が家の綺麗な花を、花束にしてお持ち下さい」

 募った想いは、根強く見えるスヴェンの恋心。
 今迄、恋愛のの字の気配も無かったスヴェンだ。初恋に心躍る純粋さが見える。

 ---私もだけど……駆け引きは出来ないみたい………ライナス卿なら、もっと上手くお兄様を誘導出来そうなんだけどなぁ……あ………

「お兄様」
「何だい?」
「王城で、ベル兄様に会いました」
「ベルに?……久し振りに名を聞いたなぁ……同じ城に居ても、ベルは皇太子殿下に仕えているから、全然会ってないよ。元気だった?」
「はい、お元気でした。近々、会いに行く、と伝言です」
「忙しいだろう、アイツ………そんな事言って、絶対に僕の方が会いに行くんだろうな」
「…………そうとは限りませんよ?お兄様も文官として、王城に勤務するのでしょう?」
「その予定だけどね………領地の事もあるから、領地に帰る予定も入れなきゃならないんだ。父上がなかなか帰れないから」
「そうでしたね」

 領地の管理は、フェリエ侯爵家の家令に任せていて、月に数日はフェリエ侯爵が帰ってはいるが、スヴェンもこれからは、領地管理もしなければならない。

「でも、ルティアのデビュタントの夜会迄は此方に居るからね」
「はい…………私も、お兄様が一緒に参加して頂けると心強いです」
「エスコートはしないよ?」
「え?お父様は嫌なんですけど」
「何を言ってるんだ。婚約発表も兼ねてるんだから、ルティアをエスコートするのは、皇太子殿下以外居ないだろ」
「…………」

 恋愛を知らず下手なのに、そういう常識的な事はしっかり知っているスヴェンに、もう少しだけシスリーに利用されるという直感が養えば良いのに、とルティアは思った。
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