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しおりを挟む翌週の月曜日。由真は編集長や上層部に呼び出され、写真展の事を聞かれた。同僚も由真の擁護に、と一緒に呼び出された部屋へと来たものの、入室許可は出なかった。
「何故、桐生夫人にお茶を掛けたんだね?」
「私は掛けていません。奥様がご自分で私の方に置いてあるお茶を掛けられたんです」
「…………自分からお茶等被る人間が何処に居る!」
「防犯カメラは確認されたんですか?」
「防犯カメラ?」
恐らく、清華が先にクレームを入れ、由真が悪いと一方的に話たのだろう。
「はい、あるかと思うのですが」
「会場に確認を」
「はい、直ぐに」
そうだとしても、由真を信用して良いのか決断しきれないのは致し方ない。
方や有名写真家とただのルポライター。由真の代わりは幾らでも居る。
「板倉」
「はい」
「如何して、桐生氏の控室に夫人と2人きりになったんだ」
「先日の私の企画の事で、夫人が会いたい、と仰るので、写真展担当の栄生と一緒に伺ったんです。そこで私の企画の内容は、人前では話し難い内容なので、控室にと案内されて」
「板倉の企画?………ってアレか………SMの……」
「はい、アレです」
企画内容については、上層部達も小声でコソコソと話ている。
「な、何故夫人がその企画を!」
「そうだ!無縁そうな人じゃないか!」
「…………個人のプライバシーなので、夫人の趣向は控えますが、あの企画を撮られた写真家の方は、桐生朱雀氏の息子さんなんです。そればかりか、息子の翼希氏の大学の先輩だと伺いました。桐生朱雀氏と翼希氏の仲はよろしくありませんので、仲を取り持って欲しい、との内容かと思い、控室でお話をと私は察したんです」
「それで、何故問題が起きたんだ!」
「これもプライバシーの問題で、あまり本人が居ない場で話していいかは分かりません。ですが、夫人は翼希氏を返せ、と………」
「返せ?」
「はい………それは互いの考えの元で話合う方が良いとも思いましたし、人は物ではありませんから、私には力は無いと思いました。それに、夫人は、私が邪魔だと仰るので、話す事は無い、と控室を出ようとした時に、夫人がお茶を…………嘘は吐いていません」
「それを信用しろと言われても、防犯カメラに写っているか、だな」
上層部から、もっと怒られるかとは思った由真だが、圧力は掛かっていたのだろう。由真に対して、清華から解雇しろ、と言われているという話を聞かされた。
不当な訴えだ、と由真は思ったが、防犯カメラを調べれば分かる事と思い、由真は上層部に口を開いた。
「先ず、防犯カメラを確認して下さい。もし、それで信じて頂けるのならそれでいいです」
信じられない、と言われたらまた考えればいい。
「分かった………後は此方で調べる」
「下がっていい」
「失礼します」
感情的にならなかったのが、良かったのかもしれない。泣きついたり惚けたりしていたら、清華の方に擁護する可能性もあった。
「由真………私、必要無かったかな」
「そんな事ないよ、心強かった。いつでも助けてくれる同僚が後ろに居る、て思ってたから」
「防犯カメラ、あるといいね………あって、音声も撮れてたら言う事ないのか」
「そうだね」
後日、由真の潔白が防犯カメラで証明された。
会社側は特に謝罪は求めなかったが、由真や同僚の栄生はそれは納得がいかない。
「何で謝罪させないんだろうね、上」
「仕方ないんじゃない?資産家でもある人だし」
「そうなんだ」
それで終わりになるなら、由真は静かに暮らせると思っていたが、その頃から会社だけでなく、由真が住むマンションへの嫌がらせが始まった。
由真に対する誹謗中傷、マンションに立て続けて配送される、注文をした覚えのない荷物。しかも置き配で幾つも毎日積み重ねられ、同じ階に住む住人からのクレームも度重なってきたのだ。
「板倉、警察に被害届出して来い」
「会社は何もしてくれなさそうですね、編集長」
「会社はなぁ………板倉1人に対しての物だし、て事で動かんかもな」
「…………そうですか」
たった、数日でこの有様で由真は疲れきっている。由真の住居迄調べられての嫌がらせに疲労困憊なのだ。玄関前に積み上げられた中身が分からない荷物に、住人や管理会社から入る苦情。受け取りたくないのに、配送会社はただ依頼されたから持って来ただけ、と受取拒否。中身を確認しない方が良い気がして、中身がもし食べ物だったら、と思うと、早く解決しなければ、と警察にも相談したが、とりあえず保管しておいて下さい、と無しの礫。
「おい、板倉大丈夫か?顔色悪いぞ」
「家にも嫌がらせされてるんです………苦情も来ていて、そっちの対応も………」
「今日はもう帰れ、それでは仕事にならんぞ」
「…………いえ、帰っても玄関先に置かれた、身に覚え無い荷物の山積みで、玄関にさえも入れない時もあって………」
「おいおい………マジか……」
それが1週間もせずにこの嫌がらせなのだ。嫌がらせしている主も相当な根気も居るだろう。
結局、帰らされてしまった由真は、自宅マンションへと帰る。
「ちょっと!お宅の荷物いい加減如何にかしてくれよ!邪魔なんだよ!」
「…………ウチのじゃ……ないです……」
「てめぇんとこの名前だろうが!」
「早く退かせ!」
「…………警察や配送会社には連絡………してますが………大量に来て……」
とりあえず預かるにしても、軽い物ばかりではないし、重い物が軽い物の上に乗せられている事もあり、中身が飛び出ていたりもしているのだ。弁償なりする事も考える余裕も無かった。
「すいません、板倉さん宅に荷物………」
「あ?家じゃねぇ!この女のだよ!」
「おい!受け取れよ!」
「…………ウチじゃ………」
「え?」
「お、おい!倒れたぞ!」
「救急車!」
由真は直ぐに救急搬送された。
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