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極楽
しおりを挟む「何故ですの!」
「何故って何がだ?」
食事を終え、就寝準備をするというので、侍女達に手伝って貰いながら、ナイトドレスに着替えたメイリーンが部屋に戻った第一声である。
目の前にガウンを着たヒューマが先にベッドの背凭れに枕を立て凭れて本を読んでいた。
「何故一緒の部屋なのですか!」
「俺の部屋は此処」
「…………ほ、他のお部屋で寝させては頂けませんか?」
「準備がされてないから却下………先程も言ったが今夜は抱かん」
「…………信用出来ませんわ」
「…………はぁ………それならコレならいいか?」
「………………え!…………えぇ!」
ヒューマはベッドから出るとガウンを脱ぎ、獣人から黒豹の姿に変わる。
「猫!おっきな猫~!!」
「おい!態度が違い過ぎないか!」
「きゃ~!もふもふさせて下さいませ!」
大きな黒豹に変わるヒューマに駆け寄って行くメイリーン。人型の姿より黒豹の姿の方がメイリーンには好みの様だ。
「…………この姿では抱けん………だが……少しだけだぞ……触るのは」
「うわぁ~~っ、大きな猫です!」
「っ!こ、こら!撫で回すな!………俺は毛に覆われていても裸なんだぞ!」
「…………触りたいですわ」
「生殺しではないか!………もうやらんぞ!」
人型のヒューマより、好感度が上がったのも癪に障り、人型に戻ってしまったヒューマ。身体中触られまくったからか、巨根も反応している。
「…………あ!……き、着て下さいませ!」
「だから、獣姿になったのであろう!房事したくなるのを我慢したのだぞ!」
「も、もうしませんから………黒豹のお姿で抱き締めさせて下さいませ」
メイリーンの気の強さでは考えられないぐらいの破壊力を見せた照れた顔。
「…………ゔっ………分かったから、ベッドに入れ………黒豹になってやる」
「本当ですか!?」
「その代わり、俺の名を呼べ」
「…………ヒューマ様」
「っ!………ベッドの中でも伯爵様等と呼ばれたくないからな」
房事中でもないのに、名前呼びを要求して直ぐに後悔したヒューマだが、言い訳して誤魔化した。
「ヒューマ様!早く抱き締めさせて下さいませ!」
「……………しまった……これはかなりクルな……」
『冷酷令嬢』と言われたメイリーンが可愛い仕草を見せてきたのが、ヒューマには辛い。気に入っているから、別の感情が湧き起こりつつあるのを感じ取りながら、黒豹の姿でベッドに上がる。
「………き、今日だけだからな……」
「残念ですわ………でも明日からベッドは別にして頂けるなら仕方ありませんわね」
「誰が別にすると言った?」
「してくれませんの!?」
「他の女を抱く時間を割いてメイリーンと居るのだ、その代わり俺の性欲も満たして貰わねば困る………時々、黒豹の姿になってやるから許せ」
「……………考えますわ………」
「…………今、天秤に掛けただろ!」
「いけませんか?………一夜限りと言って、一夜では無くなったではないですか!わたくしは人間の方の中から伴侶を探しま………っ!………はぅ………もふもふ………」
ヒューマはメイリーンからその言葉を聞きなくない、と咄嗟に手が出てしまい、メイリーンを腹に納めた。すると直ぐに至福を味わうメイリーンがヒューマの腕の中で顔を摺り寄せ、抱き着いてしまう。
―――何て幸せなのかしら……大きな猫よ……嬉しい!
―――生殺しだな、寝れそうにない………
思う存分抱いてないヒューマには辛いだろう我慢と、極楽浄土に居るかの如く、いつの間にか寝息を立てていたメイリーン。
この後、ヒューマによって更なる鬱血痕が着いていたのだが、メイリーンに朝から怒られても、ヒューマは気にも留めてはいなかった。
「一夜限りの房事等、あの時から状況が変わったので却下だ………医者に見せて大丈夫ならまた抱かせて貰う」
「お部屋別にして下さいませ!」
「それなら、俺は二度と君の前で黒豹にはならん」
「ズルいですわ!」
「ズルくはない………交換条件と思ってくれ」
お互い強情の性格だと知ったのは早かった。
♠♠♠♠♠♠
起床すると、ヒューマは登城せずメイリーンと共にバインベルク男爵家に来ていた。ヒューマとは交流があるのか、バインベルク男爵も戸惑う事なくヒューマを受け入れてくれている。
「お預かりした夜、お疲れになったのでしょう……メイリーン嬢が翌朝熱を出された時は、しっかり休んで貰おうと、更なるお預かりした所、運命だったのでしょうか、メイリーン嬢に好意を抱く自分が居たのです………これは逃すものか、と男爵には急な事で申し訳ありませんでしたが……」
「いやいや、ラビアン伯爵に感謝致します……娘の看病も、看病から芽生えた気持ちも感謝致します!娘は幸せ者ですわ!」
―――誰?この紳士……
猫被りなのは黒豹だからなのか分からないが、メイリーンの前で見せるヒューマとは違い、喉が鳴り媚びる様な雰囲気で話すのを見て、鳥肌が立つメイリーン。
バインベルク男爵との挨拶でここ迄媚びる必要はあるのだろうか。
「いえ、私こそ幸せですよ………マーキングもさせてくれない辺り、まだ私を信用してはくれていませんが、メイリーン嬢の唯一の人となれればと思い、努力致します」
「いやぁ、将軍で血の気が多い貴方が、ここ迄娘にベタ惚れとは参りましたな」
「っ!………お父様!………ヒューマ様!わたくしの部屋へ行きましょう!荷を取りに来ただけですから!………まだ婚約もしておりませんし、結婚の承諾もわたくししてませんからね!」
メイリーンがヒューマの腕を取り、バインベルク男爵と引き離すと、部屋へと連れて行く。
「プッ…………」
「何ですの?…………ヒューマ様!猫被りし過ぎではありません?嘘ばかり!」
「嘘ではない………疲れさせた俺が、体調崩させてしまったのは確かだし、気に入っているというのも好意的意見だ、何が違う」
「っ!」
嘘は真実に紛れ込ませるから真実味がある。強ち間違った事を言っていないヒューマ。
「……………メイリーンの匂いが強いな……」
「く、臭いなんて言わないで下さいませ!」
「そうではない………落ち着く」
「…………っ!」
獣人の五感は鋭く、人間よりその点は優れているので、部屋に染み付くメイリーンの匂いが漂っているのだろう。
『落ち着く』と言われ、悪い気は全くしないメイリーンだった。
「メイリーン……ラノックからの贈り物はどれだ?」
「!………そ、そうですわ………少しお待ち下さい」
メイリーンはキャビネットから箱を出して、ローテーブルに置いた物と、ベッド脇に置いてあったオルゴールを持ってくる。
「此方ですわ」
「……………このオルゴールか」
「はい」
「……………見ても?」
「えぇ、壊さなければ」
「余程気に入っているのだな」
「素敵ですもの」
オルゴールの蓋を開けると、何やら中蓋には地図が描いてあり、一見何て事のないオルゴール。
「……………これは地図だな……この地図は何処か分かるか?」
「いいえ……其処に描いてある地図の場所で作られた、とかではないのですか?」
「…………いや、俺がオルゴール職人ならそんな地図を描かず、花や柄を描くな」
「……………それはそれで綺麗ですものね」
「壊さない様に大事に扱う………これ等は預かるぞ?」
「…………はい」
持ち出す荷物はコレだけだった。他にも持って行くか如何かメイリーンはヒューマに聞かれたが、帰って来る気ではあるので、それしか持って行かなかったメイリーンだった。
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