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竿師の仕事

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 カッカッカッ……。

「お帰りなさいませ」
「父上は?」
「書斎に………」
「分かった」

 別の洋館。広い敷地には日本庭園と、西洋風の庭がある日本家屋と洋館が並ぶ屋敷。その洋館に背広を着た、長身の背中が父を探していた。

 コンコン。

『誰だ』
「…………私です……父上」
『入れ』

 青年が書斎に入ると、書類に囲まれた机で仕事をしていた、青年の父親。

「…………潜入、無事終わりました」
「お前自ら動かぬとも良かったではないか?」
「私の許婚です………当然の事かと」
「お前には仕事があるだろう」

 父はペンを置き、腕を組むと青年を見据えた。

には手を抜きません……」
「…………はぁ……それ程大事か……」
に任せておけ……」
「無理です……私もを率いてますから」
「……………報告は聞いている……あわやに奪われそうになった、と」
「あいつ達には非はありません………他を今更回す等……」
「……………に、から調べさせている……それ迄時間を稼げ」
「………………お願いします……では、私はに……」
「気を付けよ」
「はい……」

 青年は車に乗ると、運転手に指示を出した。

「時雨………権藤家の別邸へ」
「御意」

        ❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈

 蝶子が、権藤の屋敷で監禁されて1週間。常に裸でいさせられている為、体温調整が出来ないからか体調を崩す。

「すまないな………裸だったから」

 新月が、薬草を煎じ横になる蝶子を起こして飲ませようとしている。

「大丈夫です………服……着れる様にして頂けましたし………」
「ホント、目のやり場に困ったから助かった………」
「…………え?」

 今は浴衣を着ていて、薬を湯呑みから飲んでいたのに集中していたからか、新月のボヤキを聞き逃した蝶子。

「あ、いや……こっちの事………旦那様が四六時中、調教しろって言うから裸じゃなきゃ、てなったんだけど、流石に病気になれば、服着させて貰えるぐらいの優しさなんてあるんだな、と」
「…………でも、目隠しはそのままなんですね……」
「…………それは………俺でも取れない」
「ありがとうございました、薬」
「…………あぁ……でも嫌がらずに飲めたな、これ……光月なんてすげ~顔して逃げるのに」

 新月に湯呑みを渡し、蝶子は膝に手を置くと、新月に言った。

「…………鬼龍院の……隼人様のお屋敷に、薬草に詳しい庭師さんがいらっしゃるんです……」
「……………っ」
「……私が体調悪くなった時、隼人様がその庭師さんに薬を作らせて持ってきて下さって…………その味に似てました……何でも漢方薬に精通してるとか………鬼龍院家にある蘭の温室の管理も私にご指導して下さって………新之助さん、ていう兄の様な方です…………私には兄は居ませんが……」
「…………そ、そっか……余程、鬼龍院家に出入りしていたんだな………まだ婚姻前なのに……」
「……………そうかもしれません……私の部屋も用意されてましたし……隼人様はいつも快く迎えて下さった………」
「……………く、薬飲んだら暫く休め……熱がある内は調教はしない筈だ」

 新月の介助により、蝶子は横になる。

「新月さん、ありがとうございます」
「…………部屋の隅に居るから、何かあったら呼べ」
「はい」

 まだ蝶子は熱が高く、そのまままた眠ってしまう。

 カチャ。

「!!」
「…………はぁ……はぁ……如何だ?蝶子は」
「今、薬を飲んでお休みに」
「………そうか………」

 部屋に入ってきたのは月夜だ。寝入る蝶子の寝顔を見て、少し安堵の様子を見せた月夜。

「…………全裸で過ごさせるなんて、何考えてるんでしょうね、権藤は」
「…………さぁな……何着か蝶子が好む服を持ってきた………だが、急にこの部屋に訪れては、何を言われるか分からん………目隠しだけは、我儘に騙されてくれたが………」
「…………顔、見られたくないですしね」
「…………見せたら、蝶子は俺を恨むさ……今度こそ覚悟しなきゃならん………」
「駄目ですよ、諦めたら」
「………………蝶子……」

 月夜は額に手を添え、熱を確認する。

「絶対に、出入りさせるなよ……こんな弱っているのを見たら、手を出そうとするだろうからな………」
「御意」
「…………お前も休め……後は俺が見る」
「少しはお休みになって下さいよ、貴方迄俺……薬作りたくないっす」
「………新之助………そう言うな……俺はお前の作る薬しか投与はしんぞ?」
「………………はぁ……どんだけ、俺を信用しちゃってるんですか、坊っちゃん」
「…………坊っちゃんは止めろ………」
「名前、今呼べませんからね……仕方ないでしょ」

 新月は、部屋を静かに出て行った。
 そう、新月は今、蝶子が話していた『新之助』、鬼龍院家の庭師だ。そして、月夜こそ蝶子の許婚、隼人だった。



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