貴方は私を虐げてきたのではないのですか?【完結】

Lynx🐈‍⬛

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「ぐえっ!」
「しっかり立ちなさい!」

 未央理が藤枝家に来て3日。
 学校にも行けず、正妻のスパルタ教育が食事と睡眠以外、みっちり躾られていた未央理。
 今は、和室で着物の着付けを覚えさせられている。お手伝いだという、初日会った老婆、光恵が未央理の帯を締めていた。

「自分で着れる様になって貰うのよ!上手く補正した着方も出来ない様じゃ、藤枝家の恥!」

 何かに付けて、と豪語する正妻、雛子は生粋のお嬢様らしく、所作全てが美しいのだが、未央理は正妻は勿論、父親や義理兄や義理妹が嫌いだから、それについて余計な事は言わないでいた。

「………苦しいんだって!」
「多少の苦しさは致し方ないのよ、慣れます。光恵が着せたら、また脱いで貴方自身で着てみなさい。しっかり覚えるのです……その後、今日一日、着物で過ごしてもらいますからね!」
「………うげっ……」
「品が無い!」

 暴力的な事はされてはいないのだが、言葉はキツイ。
 それでも言い返せないのが、未央理は弱い所だ。言われている事が分からないのだから。
 何故、茶道や華道、着付け、日本舞踊を覚えなければならないのか等、教えられていない。ただ、は出来て当たり前、と言い返されるだけで、外にも出られない未央理にはやれる事も無くなったから、付き合わせられている、と言ってもいい。
 スマートフォンは取り上げられて、友人達との連絡は取れなくなったのだ。

 ---逃げ出したいよ……

 それでも、週末迄という期限付の教育だから、と我慢していた。

「………うわぁ、似合わない……」
「そうね、貴女には似合わない着物ね、着物に負けてるからかしら?ホホホ……さぁ、脱いでやり直しなさい」
「………じ、自分で着れないってば……」
「着るのです、光恵……しっかり教えるのですよ」
「はい、奥様」
「………」

 未央理が自分で着るのは、長襦袢の上からだ。
 着物を脱ぎ、畳み方さえも教えられ、一から着る。

「それでは死人ではないの!前が何方かも覚えてないの!貴女は!」
「っ!ま、間違えただけじゃん!」
「間違えも許しません!」

 怒られながら、なんとか自分で着た未央理だが、雛子には不評だった。

「40点ね………直ぐに着崩れる仕上がりだわ。それはそれで勉強になるからいいわ……では、次。今日は華道よ」
「………また嫌いな事………」
「玄関に飾る華を生けなさい」
「………はぁ……」

 だからといって、上手く生けれる筈もなく、殆どやり直しされるのが目に見えている。
 案の定、未央理が生けた華は、9割方手直しされた。

「全く……品が何一つ無い娘は、作品にも着付けにも品が無いわね」
「………うぐっ……」

 華道が終わる頃には、もう未央理の着物は、着崩れまくりで、昼食後にまた着直しをしたのだが、午後は日本舞踊だと言われ、またボロボロの着崩れにより、夜義理兄の崇や義理妹の陽葵に馬鹿にされて一日は終わるという、屈辱を未央理は味わった。

「何、その着崩れ!面白いなぁ、君」
「やだぁ、そんな着付けで、アンタをお姉ちゃんなんて言いたくな~い!」
「陽葵、姉なんて思ってないだろ?元々」
「うん、全く」
「………クソッ……」
「悔しかったら、早く身に着ける事ね。明日朝から、部屋で着物を着て、朝食後和室に来なさい。分かりましたか?」
「………分かったよ」
だろ?本当にお父さんの娘?」
「母親の血のが濃いんじゃない?」
「間違いないな、でなきゃ馬鹿で産まれて来ないって!」
「ははははははっ!」

 義理兄妹に馬鹿にされる事が、未央理の一日の終了だ。
 言い返していた事もあったが、藤枝家に来てから慣れない事が多過ぎて、言い返す気力も無くなってくる。

「………ご馳走様でした」

 お腹が空いていても、味わう気にも無い。ただ胃に詰め込むだけだ。

「………うっ……お母さん……」

 無造作に着物を脱ぎ捨て、ベッドに突っ伏す未央理は、声を殺し泣いた。
 普段、泣く様な事が無かった未央理が、藤枝家に来てから、泣く事が増えた様に思われる。
 気が強く、母親思いの未央理が、理子に会えなくなるだけで、気が弱くなってしまったのだ。せめて、友達に連絡が取れれば、気が紛れていたのだろうが、初日の夜にスマートフォンを取り上げられたのだ。

『スマートフォンを預かる』
『なんでよ!』
『お前の交友関係を調べ、役に立つ者でなければ、縁を切らせる。それを判断したら返す』
『勝手に持って行くな!返せ!』
『…………顔認証か……ロック解除して、そのままオフにしておかなければな』
『やだ!返して!』

 部下に取り押さえられて如何にもならず、父親に奪われたままのスマートフォン。

「スマホ……あれば………」
『未央理様、入って宜しいですか?』
「………光恵さん?何?」
『未央理様のスマートフォンを、旦那様から預かっておりますので、お返しに参りました』
「!…………スマホ!」

 しかし、手渡されたのは未央理のスマートフォンとは違った。

「………私のじゃないんだけど……」
「GPS付で、藤枝家の番号、旦那様や奥様、崇様や陽葵様、そして、学校やご婚約者の三条 秀平様の番号しか入っておりません」
「………は?」
「未央理様が今迄持っていらしたスマートフォンは、悪影響が及びますから、同機種でご用意させて頂きました。旦那様がその様に、未央理様にお伝えせよ、と」
「要らないわよ!こんなスマホ!私が藤枝の人間に連絡すると思ってんの!」
「………お渡し致しましたので、おやすみなさいませ……お着物、ちゃんと衣紋掛に掛けておいて下さいませね」
「………くっ!」

 光恵も、藤枝家の言いなりだと分かる。
 渡されたスマートフォンを投げ捨てたが、光恵は拾う事もなく、一礼して下がって行った。
 未央理が欲しかったスマートフォンでは無い、床に落ちたスマートフォンは、設定してあったアプリからのメッセージが入っていて、現実を未央理に突き付けていた。
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