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しおりを挟む週末、未央理は久し振りに外に出れる。
外出といっても、見合いという名のその後は政略結婚が決まっていて、そのまま引き渡されるという、図式に出来上っていた。
「………もっと上手く着れないのかしら?仕方ないわね、光恵手伝って頂戴。帯締め直さいといけないしね」
「馬子にも衣装だな」
「餞別よね、これ」
「っ!」
藤枝家から三条家に、未央理は居住地を変えるが、未央理は引っ越す荷造りもさせてくれなかった。用意された振り袖を、出掛ける1時間前に見せに来い、と雛子に言われ、手直しさせられてしまった未央理。
言うなれば、この着ている振り袖しか持って行けない、という事。
「帯はこれでいいわ……ピアスぐらい外したら如何なの?」
「………外さない」
「………そう、勝手にしなさい……髪もどうにかしないとね、結直しして頂戴、光恵」
「はい、奥様」
肩下迄伸びた未央理の髪は、コサージュで染めて傷んでいた箇所を隠す様に結ってくれた光恵。
「………あ、ありがとう……光恵さん……」
「奥様のご指示ですから」
「………まぁ、いいわ……やっと見られるわね」
「おい、雛子……準備は出来たのか?」
「出来ましたよ……如何かしら?」
「………悪くない。待たせる訳にはいかん、行くぞ」
「はい………さぁ、行きますよ」
「………はぁ……」
和室に、崇と陽葵が未央理を見送るが、何も言葉は無いままの別れとなった。
最初から最後迄、兄とも妹とも思えず、妹とも姉とも思って貰えなかった未央理だが、それは仕方ない事だろう。
「お兄ちゃん、学校一緒なんだよね?」
「そう、来週一年に転入してくる」
「如何するの?」
「如何する、て何が?」
「妹として接する訳?」
「するかよ……三条で通学するんだぞ?」
「藤枝じゃないのか……なら、他人だね」
「そういう事」
未央理を認めてない二人にすればそうなのだろう。学校で再会しても話掛けたりはしないと思われる。
未央理自身も、話掛けたりしないだろう。
「今日は、食事会の後、お前は三条の車に乗れ」
「………良かったね、お払い箱出来てさ」
「…………」
父親が車の中で、未央理を睨む様に口を開いたが、雛子は押し黙ったままだ。
「母親の見舞いに行けるかは如何かは、秀平君次第だ。入院中のサナトリウムの場所は伝えてある」
「………会いに行ってもいいの?」
「お前が素直に、秀平君と結婚したならな……婚姻届は、三条家の弁護士が代理人として出しに行く事になってはいるがな」
「………結婚しなきゃ駄目なの?」
「当たり前だ」
会話が続けられる話題も無く、二言、三言交わしては、無言になっていた。
---せめて、夫婦間で話せばいいのに……
未央理がその場に居ると話せない話題もあるのかもしれない。
暫くすると、車が停車し、車を降りる。
如何にも一見さんお断りらしそうな料亭で、スタッフが出迎えに立っていた。
「いらっしゃいませ、藤枝様」
「いらっしゃいませ」
「三条はおみえか?女将」
「いえ、まだいらっしゃってはおりません。先にお部屋へご案内致します」
日本庭園が見える和室に、席は5つ。
三条家の人間は二人来るという事になるのだろう。上座に2つある席を避け、下座に座って待つ事になった未央理。
『お連れ様おみえでございます』
女将の声と共に、スーツ姿の男が3入って来る。
老人と中年と若い男だ。
「………」
この若い男が、未央理の結婚相手だろう。
「久し振りだな、央」
「学校行事以外、最近会ってないからな」
「大叔父さん、ご無沙汰してます」
「秀平君には、学校以外の事ばかりで会っているのにな……」
「全くです……未央理さん、初めまして」
「………は、初め……まして……」
父親と三条家の2人は親しい様で、朗らかなな雰囲気で始まる見合い。
「大叔父さん、早速ですが……婚姻届を」
「………あぁ……」
父親がスーツの中から封筒を出すと、若い男は確認し、サラサラと婚姻届に書き出して行く。
「秀平は気が早いな」
「………書きました……承認欄にお願いしますよ、お爺さん」
「………ここだな」
---め、目の前で書かれてる!
婚姻届を会席の席でスラスラと躊躇無く書かれて、未央理があれ程躊躇していた事がおかしいのかとさえ思えてしまう。
「先生、確認お願いします」
「はい………確かに……ではこのまま、お預かりして役所に提出して参ります。本日はおめでとうございます」
「ありがとうございます」
代理人だという弁護士なのだろうか、秀平という若い男は、中年の男に婚姻届を手渡すと、スーツにペンを収めた。
「い、いいんですか……そんな、見ず知らずの私と結婚なんてして……」
「………いいから書いて提出するんだ。君が心配する事でも無いし、決まっていた事だ。政略結婚なんてそんなものさ」
未央理の心配を他所に、秀平は気にもしていないこの状況。
秀平だけではなかった。父親も雛子は勿論、秀平の祖父だという護も、未央理の驚きに平然としている。
「お料理お願いしますね」
「………畏まりました」
そればかりか、雛子は女将に料理を進めて欲しいと頼む辺り、もう当人の未央理を無視して決められた事なのだ、と雰囲気が物語っていた。
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