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 会席の場で、父親は三条の血筋だと分かった未央理。
 秀平の祖父の護と、父親の央が従兄弟だという。
 頭脳明晰だった央が医者になり、医者の家系だった藤枝家に婿養子に入ったと、未央理は聞かされた。
 だから、秀平は央を大叔父と言い、雛子も初対面ではない2人と、和気藹々に話している。
 その為に、また未央理は蚊帳の外で、馴染める雰囲気ではなかった。

「未央理さんは、大人しいね」
「………え…話、分かんないし……」
「そりゃ、そうだよね……君は三条と藤枝の事はまだ分からないよな」
「会食が終わったら2人で話せる時間はあるだろう、お前はつまらないだろうから、終わる迄我慢しなさい」
「………」

 名前等、この場でも呼ばれない。
 呼ばれて、今更父親面されても、未央理は困るのだが、は無いだろうと思う。
 結局、未央理は何も話しに入れないまま、会食は終えた。

「では、また」
「あぁ、未央理の事は任せておけ……秀平がしっかり面倒見るだろう」
「その点は心配していない」
「………フッ……お前は相変わらず不器用な男だ、央」
「今更………」

 護と話す央の声は未央理には聞こえなかった。

「未央理さん、こっちの車に乗って」
「………や、やっぱり無理!私は……お母さんと一緒に居たい!結婚なんてしない!」

 料亭の前で、爆発する未央理だが、央や雛子は冷ややかに見ている。

「お前の我儘の為に、私はお前を引き取った訳ではない」
「っ!私が邪魔なだけでしょ!愛人だったお母さんに私が出来たから、お母さんを捨てて、未成年を野放しにするのが体裁悪くて、面倒だけど引き取ったってだけでしょ!直ぐに結婚させようとしたのも、お払い箱にしたかっただけじゃん!いいんだよ、私は元の生活に戻ったってさ!高校辞めて自立して生活して、そっちに迷惑掛けなきゃいいんでしょ!」

 未央理の言い分は尤もだ。
 頼んでもいないのに、いきなり居なかった父親が出て来て戸惑ったままなのだから。

「………プッ……」

 すると、背後から失笑が出てくる。
 それが秀平だと直ぐに分かったが、笑われる筋合いはない未央理は、秀平にも食って掛かった。

「何がおかしいのよ!アンタだってそうじゃん!今日初めて会った私と、よく結婚しようと思ったよね!」
「大叔父さん、雛子さん、後はこっちで言い聞かせますから」
「え!……ち、ちょっと!いきなり何すんの!」

 これまた急に秀平に腕を取られ、無理矢理車に押し込まれるという、最近の慣れっこになった未央理。

「秀平君、あまり此方の事情は言わないでくれ」
「………如何ですかね……未央理が知る権利もあるとは思いますけど」
「秀平さん、あの娘は私達に虐げられた記憶を残してくれていいんですよ。恨まれて当然ですからね……その分貴方が優しくしてあげて下さいな」
「………雛子さんでも、慈悲の心が未央理にあったんですね」
「………私も母親よ……あの娘には罪は無い……あるのは央さんに理子……そして私……帰りましょう、貴方」
「………あぁ……」

 雛子もまた事情を知る人物だが、央はその言葉の重厚さを噛み締めて頷くと、雛子に続き、車に乗った。

「………全く……素直になれない大人にはなりたくないもんだな…………ま、俺もか……」

 秀平も車に乗ると、未央理は発狂して秀平を詰った。

「話させなさいよ!あのクソ親父達に!」
「今更話す事があるのか?君は親に見放されたのに」
「………あんなの……親だと思ってない……」
「………ふ~ん……」
「………な、何ですか……」
「いや?落ち込むんだな、と……気が強そうなその目が、と言っただけで、傷付いて弱くなってる」
「………見透かさないでよ!絶対に離婚届書いて出てってやる!」

 未央理は発想がそれしか出てこず、逆ギレして、秀平と目を合わさない様に俯いた。

「16歳でバツ1は凄いな……やれるならな」
「学校通う途中で役所行くし」
「知ってるか?婚姻届もそうだが、離婚届も両人の署名が無いと受理出来ないんだぞ?何かしらの書けない理由が無い限りな」
「………そ、そうだった……じゃぁ書いてよ!」
「書かない」
「即答するな!」
「………君ね……一応、俺の妻になったんだが、その前に俺は君が通う高校の教員……敬語を使えない生徒という面で、注意対象になる事を覚えておくんだな」
「横暴だ!」
「横暴で結構………因みに担任でもあるからな」
「………前の高校に戻りたい」

 不本意で決められた進路に、一つも未央理の意思が組み込まれていない事に嘆く未央理。
 三流の高校だと言われた学校ではあったが、未央理はそれなりにその学校で楽しんでいたのだ。自由な校風に、校則も緩やかで、友達も多かったからだ。それが今では会えないし、連絡も取れない。心の拠り所が欲しくて堪らなかった。

「無理だな」
「っ!」

 そのナーバスになる未央理に突き付ける冷たい秀平の言葉。

「君は、として今後見られる。藤枝家は代々医者の家系だ。大叔父も雛子さんも医者。その息子の崇は三条高校で首席。医大も合格圏内に居る。君は崇の妹としても見られるからな……学校ではで通うが、藤枝との縁が切れた訳じゃない」
「………縁も何も、繋がってる訳ないじゃん……血縁なんて信じてないし、私」
「見せてもらってないのか、DNA鑑定」
「見てない……あの家での1週間、只管お華だの、お茶だの、日本舞踊だの、着付けだの、あのオバサンに扱かれてただけだし」
「………へぇ……じゃあ、見せて貰えるのか」
「何を?」
「君の所作」
「………絶対に見せない」

 この相見えない2人の夫婦生活が今、始まる。
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