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しおりを挟む未央理が、秀平の祖父、護と夕食を取っている時に秀平が帰宅した。
「ちゃんと居るじゃないか」
「………居ちゃ悪いの?」
「いや………着替えて来る」
「………仲良くやってるのかね?秀平と」
スーツから着替えて来ると言って、秀平がダイニングから離れて行くと、護が未央理に聞いてきた。
会話という会話はあまり無かったのだが、共通の話題はそんなに無いので、専ら秀平に関する事ばかりだ。
「分からないです……昨日の今日ですし」
「………秀平は余り語らん子だからな……仕方なかろう……」
「会話はありますよ?」
「会話ではない。秀平が自分の事を言う事はあるか、という意味だ」
「………確かにそれは聞いた事無いかも……ご両親と弟さんが飛行機事故で亡くなったというぐらい………」
「お茶をくれ」
「はい、旦那様」
箸を置き、湯呑みに無くなったお茶を催促する祖父は、一息着く。
お手伝いさんに、お茶を注がれるのを見つめながら、護は口を開いた。
「………秀平は、両親が死んだ時も泣くのを我慢する子だった。それ迄も自分を抑する事をしていたが、益々自分という物を隠したがる………葬式後、フラフラと家を出て時々、隠れて泣きに行きおった……そこでよく秀平は見知らぬ子供と話をしておったが、その子供と話した後は、幾分スッキリした顔して帰ってきたわ」
「…………」
「それから、秀平はその子供に執着はしていたが、いつしか会わなくなってな……」
「お爺さん、何を聞かせてるんです……子供の時の話なんて聞かせないで下さいよ」
「………老人の戯言だ……ご馳走さん」
護はお茶を飲み終わると、ダイニングから離れて行った。
秀平から小言を言われると思ったからなのかは分からない。
「………全く……」
「その子がアンタの欲しい相手だったりして」
「………俺の事はいいから食べろよ」
「………食べてるよ……食べ過ぎて太りそうで困るぐらい美味しいけど」
「そりゃ、良かったな………食べたら勉強教えるからな」
「………遠慮したい」
「もう直ぐテスト期間だぞ?」
「………もっと遠慮したい……」
「成績表、上位50人迄張り出されるからな……乗るように頑張らないと、許さないからな」
「………どう、許さない訳?」
「フィボナッチの数列でも覚えてもらおうか」
「………え……フィ……ボ……何それ……」
数学教師だけあって、数学の公式を出して来る辺り、意地が悪い。
「数学理論だが?前の学校ではやらなかったのか?」
「知らないよ!そんな理論!」
「じゃあ覚えろ。授業で出るんだから」
「素数でも危ういのに………」
「君は数学だけじゃなく、古文も成績悪そうだな」
「な、何で知って………」
「前の学校と中学の成績表を見させて貰っただけだ……食べたなら部屋に行くぞ」
「え!………アンタはまだ……え!いつの間に食べ終えた訳!」
あっという間に食べ終えた秀平に驚きにつつ、未央理は立たされて、またも連れて行かれる。
「ご、ご馳走様でしたぁ!」
「賑やかになったわね、未央理様が来られて」
「いい雰囲気になったんじゃない?」
お手伝いさん達にも、秀平が変わって行く姿が分かるらしい。
「ちょっと!歩くから引っ張んないでよ!」
「………あぁ……そういえば他教科で宿題はあるのか?」
「………確かレポートがある……漢文の訳からの感想文を書けとか……すっごい嫌なんだけど………英語もプリントあるし……」
「どっちが提出期限が早い?」
「英語」
「それなら英語をやれ」
「………さっき何とか終わらせた」
「見せろ」
「………え~っ!」
しかし、誤字や文法違いが見つかり、やり直しをさせられた未央理。
「ひ~っ………こんなに違うの!」
「これがテストなら、赤点かもな」
「英語出来なくても生きていけるもん」
「三条高校は交換留学制度もある。留学生との交流に英語は必須だ。だから覚えろ」
「………ゔ~……」
「君の得意教科は何だ?」
調べられているとは思うのだが、秀平に敢えて聞かれる未央理。
「し、強いて言えば英語……だった……」
「出来てる問題は小中レベルだ!出来て当たり前なんだぞ!」
「ゔっ……」
まだ英語なら、と思い、学校から帰ってからやった宿題の出来た結果は少し自信があったのに、なけなしのプライドが崩れた。
「これじゃ、土日返上でみっちり勉強させるぞ?」
「や、ヤダ!絶対にヤダ!土日はせめて外出したい!お母さんに会いに行きたい!」
「………はぁ……君が母親に会いたいのは分かってる……それなら、もっと頑張るんだな……明日、数学の抜き打ちテストするつもりだったが、これじゃまた明日補修になるな」
「え!テストもヤダよ!」
「ほれ、そのプリント仕上げて、数学の復習するぞ」
「え………テスト問題教えてよ」
「贔屓はしない………これだけでも贔屓なんだ」
確かに贔屓されているとは思うのだが、未央理の勉強嫌いにはその贔屓は要らない。テスト問題だけ教えて貰えるなら、問題と答えを覚えてテストに望むだけだ。カンニングしようものなら、バレそうだから怖くてカンニングする勇気は未央理には無かった。
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