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しおりを挟む隣県迄、未央理は秀平の運転する車で、理子が入院するサナトリウムに来ていた。
「此処?」
「そう………病室から海や森が見える……終の為の患者用だ」
余命幾許も無い病人だけが入院出来る病院だ。延命処置を拒否を願う患者や患者の家族の承認があれば、ゆっくりと死を待つ場所。
理子が望んだとは聞いたが、未央理は娘として今でも反対だった。
駐車場から、なかなか病室に入る勇気が出ずに、フラっと病院内の緑化スペースに入って行った未央理。
「おい、病棟に入らないのか?」
「………会って何話していいか分かんなくなった……」
「………散歩してから入るか?」
「………うん……」
海風に髪を靡かせ、顔に掛かった髪を耳に掛けて避けようとしていると、前から車椅子を押す央と車椅子に乗る理子を見つける。
「………お母さん?」
「ちょっと待て……未央理………何か話してる……」
「………」
病院で最後に会った暗かった理子の顔と、車椅子に座る窶れてはいるが理子の明るい表情に、未央理は固まる。
秀平に物陰に連れ込まれ、徐々に近付く両親の会話が聞こえた。
「央さん……未央理は如何してるのかしら」
「元気で過ごしているらしい……秀平君とも上手くいっている様だ」
「………良かった……未央理には幸せになって欲しいから」
「理子は、いつもソレだな」
「私達は別々な道を選んだから……」
央も朗らかな表情で理子との会話を楽しんでいる様だった。
「私は………いい父親ではなかったしな」
「………そう選んだのは貴方でしょう?………仕方なく雛子と結婚しなければならなかった……崇君や陽葵ちゃんにはいい父親じゃないの」
「未央理には違う……愛したお前の娘なのに……」
『っ!』
『しっ!』
どういう事だ、と詰めよりたかった。何故愛した女の娘を、蔑ろにするのか、虐げた態度を取ったのか、と。
『理由が分かる!今は邪魔するな!』
秀平に止められた未央理は、押し留まった。
「私は……央さんの愛を貰ったもの……もう思いは此処に残さないわ………ごめんなさいね、ずっと癌を隠して、余命宣告受けてから伝えて」
「………理子……何故そうした?」
「だって……抗癌剤治療で見苦しい姿を央さんに見せたくなかった……」
「生命より大切な物があると言うのか?見た目が如何だというんだ!」
抗癌剤治療で、髪が抜けていく姿で理子は央に会いたくなくて、癌の進行を止めなかった、となれば、理子はいつまでも女で居たかったからかもしれない。
「………雛子に返してあげなきゃ……親友だったのよ?藤枝家の圧力が無ければ私達の友情は途切れさせたくなかった………一途に、央さんを好きだった雛子に私は負けたの………でも縋りたかった未練ばかりの私が、央さんとの間に未央理が出来たから………もう、それで幸せを貰った…」
「だからって………」
理子は央を見上げ微笑んでいる。
「私ね………未央理が秀平さんと子供の時に会ってたなんて知らなかったの………当時は近所の人から、未央理が危険なんじゃかいか、と言われて未央理にあの公園に行くのを許さなかった……だって……幼少の未央理に性的感情を湧かれるとね……でも、未央理を探してた理由や当時の気持ちをそのまま残した秀平さんに託してみたいって親心で思っちゃったから………」
『…………なるほど……』
『あの時は無かった!性的欲求は再会する直前で絶対に無い!』
確かに、子供に性的欲求を向ける大人も居るし、年頃の性に興味が出て来る子供も居て、見兼ねた近所の人が親に言う事もあるだろう。
「まぁ、それは親ならな……」
「貴方から、大きくなった秀平君が未央理に感謝を述べたい、と聞かされたの知らされた時は驚いたわ………だって……未央理はあの公園へ行きたがっていて、お兄ちゃんに会いたいって言って大変だったの……だから覚えてた」
「………私に辿り着いた時は、秀平君は未央理にベタ惚れだったからな……」
『…………っ!』
『へぇ~……そうだったの、秀平』
感謝から恋心になった事迄知らなかった未央理は、照れた秀平を揶揄う様な顔になる。
「賭けてみて良かったのかしら……」
「さぁな………秀平君からは連絡は度々来るが、未央理からは来ない……当然だな………藤枝であの娘の居場所は無い………雛子や崇、陽葵から虐げられる生活は辛かろう。私も雛子達の手前、未央理には冷たい態度をするのも辛い」
『………え……』
央の言葉が、未央理に突き刺さる。
藤枝の家で肩身狭い身のまま、生活する苦を気にしてくれたからこそ、逃げ場を用意してくれた、と。
それには、未央理への恋心を向ける秀平に託した、という理由だと知る。
『お、おい!』
未央理が秀平の静止を振り切り、駆け出して理子と央の前へと現す。
「未央理?」
「っ!………み、未央理……」
「お父さん………お母さん……」
「「!」」
「言って欲しかったよ!今私が聞かなかったらずっと、隠し通すつもりだったの!………ずっと誤解したままにしたかったの!」
「そ、そうじゃないの………未央理……未央理を守りたかったから………」
「…………っ!」
仁王立ちした未央理が、目に涙を溜め、詰っていく。
「私はそんなに弱いかな!……秀平にずっと守られなきゃいけないの?………私だって……結婚して………まだ高校生だけど、秀平に守られるだけの存在になるつもり無いよ!全く、道理も世の中の世情も分かんないガキだけど、家族を支えたい、て………お母さんから教わってたよ!だから………だから……子供の時、秀平が両親亡くして泣いてた時、私でも人を慰められるんだ、て知ったの!ガキでも、人を癒せるんだよ!支えられるんだよ!いつまでも守られなきゃいけない私じゃない!」
「未央理………」
「大叔父さん………」
未央理の背後から現れた秀平は、未央理の肩に手を添え、央に話掛けた。
「秀平君……やっぱり君も居たか……」
「未央理には隠し通せませんよ。俺だって親子の縁は切らせたくないですし、未央理が理子さんを大切に思うのを間近で見ましたから……それに、義理の母に今の未央理を見せたかったし……余命もある人に未練なんて残したくないですから」
「………ごめんね、未央理……」
「………お母さん……」
「お母さんの独りよがりだったわ………お父さんと話合って決めた事を許してね」
「………許すも何も………私……お父さんを誤解したままでいたくないよ……今の話聞いたら……もういっか、て………辛かったよ……2週間……」
虐げられた理由が分かった事で、恨み等消えてしまった。所詮、虐げられた期間は短く、直ぐに逃げ場を確保してくれた事が、未央理の助けになったと言える。
あのまま、藤枝家で過ごしていたら、央を筆頭に、義兄妹の崇や陽葵迄恨む対象になってしまう。そう思えば、秀平の傍に居られて、居心地いい場所を手に入れる入れる事が出来たと思えた。
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