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 月曜の朝。
 未央理は始業時間に始まる前には学校に来てはいるが、決して早く来てはいない。だからだろう、かなりの人数の生徒の方が早く出校していて、視線が未央理に降り掛かる。

「あの娘?」
「そうだって……ピアス3つ付けてるし、中等部でも見た事無い」
「?」

 教室に入っても同じで、目線を感じた。

「未央理!」
「あ、おはよ」
「金曜のアレ!もう噂出てる!」
「カフェの?」
「そう!」
「箝口令出したって、話をしたって聞いたけど、土日に広まっちゃったんだ……」
「何を平然としてんのよ!私達は未央理から事情は聞いてたからいいけど、大半は生徒会長擁護派なんだよ!」

 未央理も崇が人気ある事は、同じ学校に通い始めて知っていた。

「言わせておけばいいよ……私が愛人の娘だってのは事実だもん。正妻の崇の方が立場強いし」
「それでも、勘繰る子はいろんな想像してるみたいで……」
「どんな想像?」
「未央理が三条の姓って事でまた変な噂が……」
「事情を一人一人言えないからなぁ……」

 未央理は、何故三条の姓で通っているのか、金曜のあの一件で、友人達には三条から婿養子に藤枝になった父親の姓だから、と伝えている。藤枝の家族達とは線を置きたかった事を先に伝えておいての事だ。
 未央理自身は藤枝の姓を名乗りたくない、と言い続け、母親の理子が余命宣告を受けていて、父親に引き取られたが、折り合いが良く無いので、追い出される様に遠縁の三条家に居候し、世話になっているのだ、と話している。
もし、バレた時の話で口裏を合わせも秀平や祖父の護も了承済みだ。

「親の所為なのにね……」
「仕方ないよ……崇が無視しなかったんだもん」

 だが、直ぐに噂が広がったのもあり、教員達からその話をするな、と通達も広がった。
 しかし、噂というのを面白がる者も多く、やっかみたい生徒は嫌味も未央理に掛ける事もあった。

「藤枝君が可哀想ね」
「愛人の娘が直ぐ傍に居て、落ち着いて勉強出来ないわよ」
「成績悪いらしいよ、あの娘」
「三条先生をタラシこまないでよね、愛人の娘なんて同じ様に男タラシ込みそうだし」

 と、聞えよがしに言っていく。
 それが、男子生徒達も色めき立つのだ。
 元より、未央理に時々見られるキスマーク。週末を境に場所が変わったり増えたりするのを、近くに居れば見られる時もある為、男子生徒内では、少し気になる程度で噂もあったのだ。

「………何これ……手紙?」

 未央理のロッカーや下駄箱、机の中に手紙がある時もある。鞄の中にさえある時もあり、未央理は読まずに捨てていた。

「読んであげたら?未央理……」
「読んだって、告白なら断わるだけになるし、嫌がらせだったらもっと嫌」
「確かにね~」
「………あ……」
「あ……」

 体育の授業前に更衣室に着替えに移動中、目の前の男、崇も教室移動なのか、廊下でかち合った。

「………今後、無視し続けてよ……私はもうアンタ達と関わりたくないの。お父さんだって、今迄関わって来なかったのはアンタ達が居たからなんだから」
「………それでもお前は父さんの子だろ」
「私はアンタやアンタの妹、母親とは関わる存在じゃない………藤枝の家の事は忘れたいの!分かる?今後一切無視して!」
「………そうする……碌な事にならないからな」

 一線轢かせて欲しい、本気で思っている。
 亡くなってほしくはないが、理子が亡くなったら恐らく央とも疎遠にして欲しい、と願うと思いそうだからだ。そうなれば、藤枝の事だけ央は見守ってくれればいい。
 未央理の家族は秀平と護だけで今はいい。
 崇も、恐らく央に怒られていたのだろう。月曜日なのに、疲れた顔をしていた。

「お姉さん……エロいわぁ……」
「隠せないんじゃない?首回りや手足」
「長袖長ズボンにするもん」
「暑いのに?もう直ぐ夏休みだよ?」
「熱中症になるって」
「ファンデで隠したって、汗で取れちゃうじゃん!あれ程見える場所には付けるな、てお願いしてんのに、付けまくるんだから、あのエロきょ………いや……何でもない……」
「エロ……何だって?え?言い掛けた事は最後迄いいなよ」
「………きょ…………」
「「「!………未央理!エロ過ぎ!」」」

 ---な、何とか誤魔化せた……

 思い付く言葉がしななく、それはそれで恥ずかしい。
 だが、その事がまた違う噂となり、未央理は渦中の人から抜け出せなくなってしまう。

「あ!三条先生だ!」

 着替えて校庭に出ると、授業が入ってない時間だったのか、秀平がオリバーと喋っていた。

「先生!聞いて聞いて!先生なら未央理の彼氏知ってますよね?」
「………まぁな」
「未央理の彼氏のアレ、大きいって言ってましたけど、そんな感じに見えますか?」
「あ!ちょっと!何聞いてんの!」
「プッ!」
『シュウ………そうなのか?』
『う、煩い………』
「も、もう遅れるよ!」

 未央理が、その場から立ち去りたくて、友人達を押して去っていく姿を見ると、オリバーが小声で話す。

『何が如何なってその話になったか、ミオリに聞きたいね、シュウ………ククク……』
『………大方、キスマーク指摘されて、文句言って止まらなくなったんだろ?ってよく怒鳴るから、と言い直した、て所だろ』
『………なる程……教師が生徒に手を出してイケナイ先生だよなぁ、お前』
『夫が妻に手を出すのは当たり前だ』

 それが、崇との一件を一掃し、新たなる火種となる。
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