32 / 41
31
しおりを挟む「げっ!………こっちにも入ってる!」
帰宅後、勉強部屋に通学鞄を置きに来て、翌日の授業の準備と宿題の用意をしていた未央理。
学校で全部捨てたと思っていた手紙がまだ出て来たのだ。
「執拗いなぁ………後でシュレッダーに掛けよ」
とりあえず宿題と一緒に置いて、着替えてから手洗いと嗽をしに洗面所へと勉強部屋から離れた未央理。
「ただいま」
「………あれ、今日早い」
「早いって言っても18時だぞ?未央理は今帰って来たのか?」
「うん………前の学校の友達と連絡取ったら会おうってなって………私が三条高校に転入してて驚いた友達が何人も人集めて来て大騒ぎになって、逃げる様に帰ってきた」
「何だそれ」
「中高の友達多いんだもん、皆まぁ……偏差値低い所に通ってるから勉強しないし、暇人ばっかで直ぐに集まってきた」
「全く、今の学校とは違うな」
「そう思う……皆、塾通ってるから長居しないもんね」
洗面所で手を洗いながら話す未央理と、その場にスーツのまま手を洗う秀平。
「………俺は巨根なんだって?」
「っ!」
「何話してんだ、斎藤達と」
「………ご、誤魔化したらソレが出た……」
「………サイズは変わらん……諦めろ」
「べ、別にそんな事思ってないから!」
「夕飯迄、勉強見てやろうか?」
「宿題教えて」
「着替えてくるから」
「分かった」
しかし、未央理は勉強部屋に直ぐに戻らず、喉が乾いていてキッチンへと行ってしまう。地雷がある事を忘れたままだ。
秀平と話ていてすっかり忘れてしまっていた。
部屋に戻ると、秀平がもう部屋に居て、その手紙を手に持っている。
「あ!」
「………虫付いたなぁ……」
「読んでないからね!そのままシュレッダーに掛けるつもりだったんだから!」
「これだけ?」
「………た、多分……」
「多分?」
椅子にも座らずに、手紙だけ持ち立ち尽くす秀平の手から、未央理は手紙を取ろうとするが、秀平は手紙を返さない。
「………学校でも何通か捨てた」
「モテるねぇ、奥さん………それも読まずに?」
「え?うん………嫌がらせの可能性あるし……ほら、崇の事で」
「………あぁ……だが、捨てずに俺に全部渡せ」
「え?何で?」
「そいつ等のクラスを確認するんだよ……何勉強せずに人のもんに色めき立ってんだ……弛んでるようだから、課題増やす」
「………可哀想に、その人達」
「宿題やるぞ」
「あ、うん」
だが、未央理が書いている時間、秀平はその手紙を勝手に開封し、読み始めているのに気が付いた。
「しゅ、秀平?………何で読んでるの?相手が、分かればそれでいいんじゃないの?」
「俺が英語教師なら、この文を英文にして再度送れ、と言って突っ返すのにな……古文なら漢文に作り直させるとかさ」
「うわぁ………大人気ない仕返し……」
「実際にしないって………で、出来たのか?」
「………ここ、分かんない」
「………あぁ、これは……」
数学教師でも、高校迄の知識なら他の教科も覚えている場合、教えてくれる秀平。
秀平からの期待があるかは分からないが、それがあるから、未央理は平均点以上のテスト結果となった。身について来ていると感じつつ、勉強中はスキンシップ等無く終る。
「授業について来られるようになったみたいだな」
「うん………気抜けないけどね」
宿題はまだあるが、夕飯の時間にはなるので、一旦手を休めた。
「夏休みに入ったらちょっと1泊か2泊ぐらいの旅行でもするか?」
「え!したい!海がいい!海!」
「海か………行きたい海水浴場あったらそこにでも行くか」
「うん!」
理子とふたり暮らしの頃には考えられない程の時間の余裕がある未央理。料理や掃除等の家事は理子と協力しつつの生活だったので、海にも行った事はない。
嬉しそうな顔をする未央理に、少し申し訳無さ気には話す秀平ではあるが、社会人としての仕事がある。
「俺は夏休みでも、学校には行くし、修学旅行の下見兼ねて教員達と旅行行くから、その日以外なら予定起ててやる」
「修学旅行?何処?」
「今年は北海道」
「毎年違うの?」
「積立金の予算に合わせて場所が決まるんだよ」
「中学の時、京都と奈良以外遠出もないよ、私」
「連れて行ける時期があれば連れてってやる」
「楽しみにしてるね」
だが、その余裕も未央理に無くなってしまった。数日後、サナトリウムからの連絡。
理子が危篤と連絡を受けたのだ。
「気をしっかり持て!」
「っ……んっ……」
別れが来るのだ、と考えないようにしたかった未央理。毎週末には理子に会いに来て、その都度元気が無くなっていく理子を見てきていたのだ。
「娘さんが来られましたよ!」
と看護師が理子に声を掛けるが反応は無い。
「お母さん………お母さん!………まだ逝っちゃヤダよ!もっと話したい事あるんだよ!……何で………手術も拒否なんてするの………ヤダよ……」
「理子!」
「…………」
「………大叔父さん……」
央も連絡が入ったのだろう、理子の手を握り祈るように床に膝立ちする。
「理子……」
「………ひ……ろ……し……さ……」
理子は目を開けたが、央が来るのを待っていたかの様に、そのまま静かに旅立って逝った。
本当に未央理の両親は愛し合っていたのだ、とこの時未央理は初めて理解した。
央が泣く想像等出来なかった。理子の手を通じ、濡れているのを見た時、未央理は理子から離れた。
「………未央理?」
「………2人にしてあげようかな、て……」
「………あぁ……」
それからの数日、理子の葬儀の為に、央は手配を全てした。質素ではあるものの、何も分からない未央理の為に教える様に傍についている。
父親として、出来得る限りしたかったのだろう。
「………ありがとう、お父さん……教えてくれて」
「覚えておけ………お前の家族は理子だけでは無い」
「うん」
「明日の葬儀にはまた来る……喪主をしっかり勤めろよ」
「………う、うん……」
そう央は言い残し、藤枝家の自宅へと帰って行った。
5
あなたにおすすめの小説
【完結】私は義兄に嫌われている
春野オカリナ
恋愛
私が5才の時に彼はやって来た。
十歳の義兄、アーネストはクラウディア公爵家の跡継ぎになるべく引き取られた子供。
黒曜石の髪にルビーの瞳の強力な魔力持ちの麗しい男の子。
でも、両親の前では猫を被っていて私の事は「出来損ないの公爵令嬢」と馬鹿にする。
意地悪ばかりする義兄に私は嫌われている。
冷徹義兄の密やかな熱愛
橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。
普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。
※王道ヒーローではありません
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
私は愛されていなかった幼妻だとわかっていました
ララ愛
恋愛
ミリアは両親を亡くし侯爵の祖父に育てられたが祖父の紹介で伯爵のクリオに嫁ぐことになった。
ミリアにとって彼は初恋の男性で一目惚れだったがクリオには侯爵に弱みを握られての政略結婚だった。
それを知らないミリアと知っているだろうと冷めた目で見るクリオのすれ違いの結婚生活は誤解と疑惑の
始まりでしかなかった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる