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しおりを挟む忌引の為に、未央理は学校を休まなければならないが、秀平も体調不良で葬儀の日は休みを取り、葬儀に付き添っている。
理子の生前、懇意のある理子の友人ぐらいしか参列には来ない葬儀。だが、未央理は会った事も無い人も居た。
理子の職場関係者と、理子のスマートフォンに残された履歴で連絡した人だけだと思っていると、葬儀なのに笑って遺影を見る男が居たのだ。
「けっ!………親父に似てやがる………やっと死んだか」
「………な、何?誰?」
「知らない人か?」
「う、うん………」
「あ?……お前か、理子の娘は」
「誰ですか?」
「誰?………誰ですか?だと?……お前の叔父さんだよ!挨拶しろよ!」
横柄で失礼な態度の未央理の叔父と名乗る男。
「未央理、理子さんの実家に連絡したのか?」
「い、一応………手紙で入院は知らせた……お父さんも知らせるだけ知らせておけ、て言ったし……悩んだけど、どうせ来ないと思ったから………小さい時一度会った事あった………かも……」
悲しい雰囲気から恐怖を感じる様に変えたこの叔父が何故、葬儀に来たのかは分からない。
余命宣告を受けた理子の事をただ知らせただけなのだ。葬儀場や日時等知らせてはいない。どうせ、墓にも入れない身だろう、と墓も央が用意してくれた墓地に入る予定なのだ。今更理子に別れを言いに来るのが信じられない。
「死に顔見に来ただけさ。妾腹の理子が妾になって不幸に死んだ顔をな」
「お母さんは不幸じゃない!いい加減な事言うな!私が知るお母さんはいつも幸せそうにしてたんだから!」
「フン!そうかい………で?理子の遺産、残ってんのか?」
「………は?」
不躾に言うこの叔父に虫唾が走る未央理。
「お前の叔父さんだ……ガキのお前に管理出来んのか?え?」
「ご心配には及びません……夫の俺が居ますから」
未央理の横に居る秀平が未央理の肩を抱き寄せ、割って入ってきた。
「な、何だてめぇ……」
「今言いました。理子さんの娘、未央理の夫です………ガキだと未央理に仰ったが、未央理は16歳。理子さんや未央理の父親の承諾もあり結婚出来る身なんですよ………理子さんにもし借金があればお譲りしますけど?」
「ちっ!借金なら要らねぇよ!無駄足だったぜ」
騒ぐだけ騒いで帰って行く叔父に、参列者達も肩を撫で下ろした様だ。
「………なる程……」
「何?」
「いや………後で話す……今は葬儀中だしな」
火葬も終わり、理子の遺骨は三条の家へと一緒に帰って来た未央理。
「いいの?置かせて貰っても」
「お爺さんもいい、て言ったろ?………お爺さんも理子さんを知ってるからな………事情も、大叔父が藤枝家に婿養子に入らざる得なかった事も」
「………結局、私お母さんから聞かされなかったな……それ」
「藤枝家の権力に逆らえなかったのさ……雛子さん、藤枝家が経営する病院の理事の娘で、大叔父はそこの医者として勤務していた時に、准看だった理子さんと付き合ってたのさ」
「………確か、看護師してた、て聞いた事ある……」
「付き合ってたのを知らなかった雛子さんは、権力で大叔父を手に入れた……だが、雛子さんは、理子さんとも友達だった………まぁ、そこからは想像付くだろ?」
「うん」
「三条の家も資産家だったのもあって、大叔父と理子さんの結婚も反対されていた所に舞い込んだ縁談だった……反対されていたのは理子さんの出自」
理子が妾腹で、父親から離縁されていた事もあり、結局は別れなければならなかった。
「それでも付き合ってたんだよ、ずっとな」
「そっか………それでお母さんとの間に子供が出来ない様にはしてたんだ……やっぱり私……望まれてなか………っ……」
「違う!絶対に違う!」
「何が違うの!お父さん、私に言ったの!避妊には気を付けていた、って!」
「だが、出来て中絶しなかったろ!大叔父の最近の未央理に対する接し方は、虐げてたか?見合いの時の態度と全く違うだろ!」
「…………っく……」
三条家の和室。仏壇の片隅に一旦置かせて貰っていて、その前で泣く未央理を秀平は抱き締めた。
「名前も………両親の名前から貰ってるんだ……崇や陽葵は無いだろ……確かに避妊はしていたかもしれない。避妊だって完璧じゃないんだ……未央理が産まれる前なんてもっと確率は低い………出来たら出来たで、中絶させようなんて絶対に思わなかった筈だ!」
「………わ、分かんないよ………そんな事……」
「………未央理を探していた俺が、大叔父との血縁を知って、大叔父は何と言ったか教えてやる」
「………な、何?」
「即答だった……未央理を俺に託してもいいか?て………藤枝の家に居たら未央理は壊される、と……分かってたんだ………俺が、未央理を好きだという気持ちが出てたのを……まだ再会してもいないのに、俺に預けると言った大叔父は、理子さんの病気も分かってたから、一人になる未央理を任せる、て」
サナトリウムに転院して覗き見していた事と重なる。
点と点が繋がっていく。央は未央理が知らない所で理子と会っていて、理子は余命宣告の前から病の事を分かっていて、央と秀平とで計画していた事だったのだ、と。
ただ、残される未央理の為に。
「だけどな……俺は未央理との結婚は先で良かったんだ……」
「………私を預かるだけでも良いと言えば良い、て感じる……」
「………今日来た、理子さんの義兄」
「………うん……思い出したくもない」
「未央理が産まれた頃は、理子さんの父親も健在だったんだが、亡くなってからは借金で大変だったらしい」
「………まさか、それで葬儀に来た?」
「ちょっと調べた………大叔父も知ってるから、結婚で早く手を打った」
「じゃぁ、何でお父さんは連絡しておいてもいい、て言ったの!」
「俺が居るからじゃないかな……と解釈した」
「………それで、完全に厄介払いも出来る、と」
「多分な」
「はぁ………すっごい疲れた……けど、なんか清々しい……」
あれだけ嫌っていた父親を、今はもう憎む気にもなれなくなっている未央理。
虐げられていたと思っていたのが無くなり、悲しいのに清々しい気持ちでいっぱいになった。
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