養子王女の苦悩と蜜月への道標【完結】

Lynx🐈‍⬛

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 午後になり、昼食前に国王とダーラ王妃と会い、一緒に食事を、と言う事になったレティシャ。

「準備出来たか?レティシャ」
「………」
「…………また一段と美しく着飾ったな」
『侍女達のおかげです』
「元がお綺麗だからですよ」

 シーラが、小物を片しながら言葉を掛ける。

「殿下、首元の傷は隠しますか?」
「………あぁ、如何しようかな……父上にお見せしなければならないし……」
「隠されるかと思いましたから、お化粧でうっ血痕を隠さなかったのですが、此方はお隠し致しますね」
「「!」」

 この時、リーヒルも気付く。ドレスによりうっ血痕が目立つ場所に付けては、今回ばかりはマズイだろう。アンもドレスに合うスカーフをレティシャに充てがっている。化粧で隠すか、スカーフで隠すかは、リーヒルに聞いた方が良いと思ったからだ。

「か、隠してやってくれ!他も見える場所は……」

 慌てて取り繕おうとするリーヒルの姿を見るのは初めてかもしれない侍女達は驚きを隠せない。

「………プッ……」
「レティシャ馬鹿にしただろ、今」
「………」
「レティシャ………付けてすまない……私もレティシャに付けられたから調子に乗ってしまった。私は隠せるのだがレティシャはドレスのデザインでは目立つ事もあるものな」

 ---わたくし、付けたのかしら………キスの痕…………っ!

 途切れた記憶が少しだけ思い出す。
 酔っ払って、リーヒルに迫って押し倒した記憶だ。大胆にもリーヒルの杭を愛撫し、咥えた上、熱を飲み込んだ事迄。

「如何した?突然青褪めた顔をしたが」
「っ!」

 何でもない、素振りで誤魔化す様に、手を振るレティシャ。

「そうか?なら良いが、私はお前の変化はよく分かるが、侍女達はなかなか難しいかもしれないから、なるべく筆談で意思を表さないと駄目だぞ?」
「………」

 レティシャが頷くと、準備も漸く終わり、部屋をリーヒルと共に出て行く。
 リーヒルの部下達の警護に、仰々しいとは思ったレティシャだが、レティシャを守ると豪語するリーヒルには当たり前なのだろう。

「それで?」
「?」
「本当に、青褪めた理由は教えてはくれないのか?」
「!」

 リーヒルの腕に手を掛け、エスコートされるレティシャは再び青褪めた。

「言っただろう?私はお前の表情1つで感情を読み取れる、と」
「ゔっ………」
「ほら、教えてくれ」

 手のひらをレティシャに見せるリーヒル。
 リーヒルぐらいの大きな手であれば、大きく文字は書けて伝えやすい。

『義兄様に昨夜シた事を思い出したのです』
「は?何だ、覚えてないのか?」
『お酒を初めて飲んで、記憶が曖昧だったのです』
「…………あぁ、そう……なのか……まぁ、それはそれで………やり直しが居るのか?」
『申し訳ありません』
「何故謝る?」
『義兄様を押し倒して、あの様な事を』
「………あ………アレか……謝る事はない。寧ろアレで緊張が解れたというか、受け入れて貰えそうで安心したというか」

 護衛の兵士達は、レティシャの声が聞こえないので、何を話しているのかも分かってはいなかったが、仲睦まじい事なのは分かる。

「王太子殿下」
「グレイデル公爵か」
「シュピーゲルの太陽に栄光あらん事を……レティシャ殿下もこの度は大変ご苦労されたかと存じます。ご健勝で何より……シュピーゲルの女神の様に美しくなられましたな」
「………」

 言葉が出せないレティシャは、ただ会釈するしかなかった。

「グレイデル公爵、レティシャは此度の事で声が出なくなった。言葉での返事は難しい。今後、レティシャは筆談でのやり取りになるだろう。後日その旨は発表はするが、心に留めておいて欲しい」
「………左様でしたか、レティシャ殿下………ご苦労が絶えませんな……ご自愛下さい」
「………」
「レティシャ、陛下が待っている。行こうか」
「………」
「失礼致します、王太子殿下、レティシャ殿下」

 グレイデル公爵は王妃ダーラの兄にあたる男だ。表面上はダーラ王妃の夫、国王を擁護する貴族ではあるが、リーヒルの婚約者であり義理妹のレティシャがリーヒルの妃になるのは難色を示している1人だった。ダーラ王妃はレティシャとリーヒルの結婚については賛成という立場であるので、兄と妹でその事で口論している場面を見られている事もあった程、仲は良くはない。いつグレイデル公爵が反対派に回るか分からない状態だった。
 それは、レティシャも行方不明になる前から見聞きしていたから知っている。

「レティシャ、久し振りに叔父上に会って緊張したのではないか?」
『わたくしの本当の叔父の方ではないですから』
「それはそうなんだが、私達の事だけ反対している方だから、心配でな」
『分かります。もし、本当に婚約を破棄されるなら、今の内ですよ』
「レティシャは私の心を踏み躙るのか?」
『そうではありません。わたくしのこの声、出自、後ろ盾、何もかも義兄様に相応しい物は持ち合わせていませんから』
「…………もう、遅い」
「………?」
「この様な問題が出て来る事は分かりきった上で、私はレティシャに執着と溺愛をしている。お前が居ない日は考えられん」
「………」
「暗い顔をするな、今から父上達に会うのだぞ?」

 立場さえ考えなければ、簡単に結ばれていい2人なのだ。だが、リーヒルは国を統治する立場。支える妃が誰であれ、相応しい者でなければならない。それが、リーヒルにとって、相手がレティシャであるならば、周りを納得させて行かねばならないのだ。
 幼い頃から、王女教育と王妃教育をさせられたレティシャ以外、他の令嬢達が出来たとしても、リーヒルが靡かないのだから仕方ないのだ。
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